こどもとIT
不登校でも“出席”できる! 制度の利用方法と、人一倍敏感なHSCの子との関わり方
――すららイベント「出席扱い制度説明会、HSC関わり方講座」
2021年1月6日 06:45
「HSC」もしくは「HSP」という言葉を聞いたことがあるだろうか。これらの言葉は2020年にニュースなどでも話題になったので、知っている人もいるだろう。また「三省堂 辞書を編む人が選ぶ『今年の新語2020』選考発表会」では新語の候補にも挙がり、その認知度も広がりつつある。
HSC/HSPとは、「Highly Sensitive Child/Person(ハイリー・センシティブ・チャイルド/パーソン)」の略で、人一倍敏感な特性をもつ人を意味し、日本人の5人に1人はHSC/HSPの傾向があるという。
アダプティブな対話型のデジタル教材「すらら」を提供する株式会社すららネット(以下、すららネット)は、こうしたHSCの子どもとの関わり方に関する講座を実施。併せて、不登校の生徒がIT教材を使って自宅で学習し、それが出席扱いになる制度の説明をオンラインで行なった。
制度の認知度は低いが、子どもたちの可能性を広げる「不登校生徒の出席扱い制度」
不登校生徒の出席扱い制度は、不登校の児童生徒が「すらら」などのデジタル教材を使って自宅で学習し、その学習活動を学校に出席扱いとして認めてもらうもので、平成17年度から始まった。しかし、「その認知度は低く、あまり活用されていないのが現状だ」とすららネットの「子どもの発達相談室」室長を務める佐々木章太氏は話す。
すららネットが、同制度への対応を始めたのは6年前。家庭学習にすららを活用していた子どもが、中2の時に、この制度を使って出席扱いになったことがきっかけだった。その生徒は中学では学校に復帰できなかったものの、高校入学後は登校を再開し、入学後の最初のテストでは満点をとったいう。
佐々木氏は「家庭でちゃんと勉強している努力を学校の先生も見てくれていることが子どもの背中を押してくれた、という話を保護者の方から聞き、不登校の生徒に対しては、保護者だけでなく、他の大人の存在が大きいとを感じた」と活動のきっかけを語った。
ただし、不登校での出席扱い制度を利用するには、①「文科省が定義する『不登校』に該当していること」、②「文科省の要件を満たした『状況』と『学習教材』であること」、③「学校が定義する『1日の出席条件』を満たすこと」、という3つのポイントを満たす必要がある。
1つめの文部科学省の定義は、同省のウェブサイト「不登校児童生徒への支援の在り方について」に明記されており、対象は小学生から中学生まで。「学校復帰を目的に、学習活動を応援する」制度であり、中学校では内申点対策にも活用できる可能性もある。ただし、3つめの「1日の出席条件」は学校がルールを設定するため、学校ごとに条件が異なる。
佐々木氏はこの制度について、これひとつで不登校の解決をめざすものではないと強調する。「子どもが不登校になったとき自暴自棄になったり、自己肯定感が崩れたりすることがあるが、その際、もう一度“自分を大事にする”意欲を醸成するために、この制度を使うことに大きな利点がある。プラスの感情につながる、ひとつのきっかけとして考えてほしい」と話す。
ちなみに、この制度の認知度はかなり低い。文科省のデータによると、制度利用者は平成30年度が286名。全国で16万人いると言われている不登校生の数を考えると、利用者は非常に少ないといえる。その理由のひとつは、「ITや郵送、FAXなどの通信方法を活用した学習活動」や「学習の理解の程度を踏まえた計画的な学習プログラムであること」など、出席扱いになるための要件を満たす必要があることだ。
この点について佐々木氏は、「すらら」の場合はIT教材であり、学習設計機能「ラーニングデザイナー」を使うことで計画的に学習できるため、要件を満たすことが可能だと述べた。ただ、制度を適用するにあたり、教材を始める際の子どもの心理状態に注意してほしいと補足した。「保護者は学力にフォーカスしがちだが、子どもが勉強に対して気持ちが向いているかが大切。子どもとよく向き合って始める時期を決めてほしい」と同氏は語った。
また、各学校が決める「出席カウント」の条件は、1日の学習ノルマがある場合と、ノルマがない場合があるようだ。たとえばノルマがある場合は、時間にして大体90~120分の学習量が定められており、すららでいえば、3つクリアできたら1日出席扱いになる、という具合だ。佐々木氏は「ノルマがない方を勧めたい。重要なのは子どもの自己肯定感を育むことであり、ノルマを高くして挫折しないよう注意が必要だ」と述べた。
講座の事前アンケートでは、保護者から出席扱い制度に関するたくさんの質問が寄せられた。「とにかく学校に来てと言われる」「制度を相談してみたが、前例がないという理由で認められなかった」など、学校との対応に悩んでいる家庭も少なくないようだ。佐々木氏は学校側もこの制度への理解が進んでいるわけではなく、保護者の方から丁寧に説明してほしいと訴えた。講座では、そのためのトークスクリプトも紹介された。
HSCの子どもたちが感じる不安はなに?どのように関わればいいのか?
続いては、すららネットの臨床心理士 道地真喜氏による「HSCの子の関わり方講座」についてレポートしよう。
最初に道地氏が紹介したのが、5人に1人はいると言われるHSCに関する自己診断テストだ。「周りの人の気分によく左右される」「短時間でやることがたくさんあると取り乱してしまう」「生活の変化に弱い」「一度に色々なことが起こると不快に感じる」など、全部で27項目あり、14以上あてはまるとHSCの可能性があるという。ただし、14以下の場合でも、ひとつひとつの項目が「すごくあてはまる」場合はHSCの可能性がある。
またHSCとは別に「不安症」についての自己診断テストも紹介された。不安症は、生涯を通して、どこかの時点で4人に1人が症状を満たすという。
HSCと不安症の違いは、HSCは個人の特性であることに対し、不安症は環境や遺伝によるものということだ。一番の特徴は、HSCは「生活に支障が出ていない」ことがベースラインにあるが、「学校に行けない」「罪悪感で気持ちが落ち込む」場合は、不安症の可能性が高い。また、「緊張して頭が痛い」「おなかが痛くなる」といった身体的症状が出る場合は、HSCを持ち合わせていて、環境によって不安症を発症していると考えることが妥当だという。
ほかにもHSCは、不安症と異なり精神疾患としては認められていないため、診断は不可能だ。道地氏によると、HSCは特性なので知らない専門家も多く、アメリカでは認知度も高くない。日本での認知度は上がっているが、発達障害の誤診を受けやすいようだ。ゆえに同氏は「診断をするにあたり、もっとも重要なのは成育歴」だと述べた。
一例として道地氏は、友達と問題を起こしたり、忘れ物が多い小3男子のケースを取り上げた。この子は、字が書けない、集中できないという理由で、学校の先生から発達障害を疑われていた。しかし、成育歴を確認すると、発達に関する遅れはなく、環境の変化に非常に敏感であることがわかった。家庭環境では、父がこの子の問題行動に対して叱ることもあり、宿題をしたと嘘をつくことも度々あったようだ。
すららネットでは、こうした学習障害を持つ子どもに対し、IQ(認知尺度)と基礎学力の両側面から診断するテスト「KABC-II」を行なっている。この小3男子の場合、表現語彙が2学年上に対し、漢字やカタカナを書く尺度が低い結果となった。道地氏は「数値だけ見ると学習障害とも疑えるが、直されることや間違えることを非常に嫌がる傾向が強いことがわかった。そのため曖昧に覚えている漢字やカタカナを書こうとせず、書く尺度が低い結果となった」と説明した。
さらに本人との会話を通して、「宿題はやっているけれど、間違っている不安があるときは提出していなかった」「担任の先生の口調が強く、集中できなかった」といったことも明らかになった。HSCの子の場合、相手に悪気がなくても語尾の口調が強いことが気になったり、誰かが怒られているのを見て、自分が怒られているように反応したりすることがあるのだという。道地氏は、「HSCの特性を知り、どうして不安を抱くのか、子どもだけでなく保護者も理解することが大切だ」と述べた。
HSCは悪いことではなく長所にもなりうる、「プラスの注目」で子どもと良好な関係性を築く
道地氏は「HSCも不安症も悪いことではない」と話す。普段の生活において、適度な不安はパフォーマンスを向上させ、テストの結果もよい傾向にあるという。まずは、特性を持っていること、不安を抱いてしまうのは悪いことでないと理解することが必要だ。
保護者に対しては、「周囲に繊細になれるから、他の子にもやさしくできることは長所。HSCだからこそできる長所をまず認めてあげる」ことを勧めた。ただし、HSCの子どもは周りのことを考えるばかりに、自分のことが一番下になってしまいがち。自分のことを大切にするのは苦手でストレスや鬱になりやすいので、そのための予防も大切だという。
次に、道地氏は「認知の歪み」について解説した。認知の歪みとは、認知行動心理学の用語で、先ほどの事例でいうと「宿題が間違っているかもしれない」という不安から提出を拒否した行動が該当する。認知の歪みは、HSC以外の子でも、余裕がなくなれば誰にでも現れるもので、特に思春期の子どもに発生しやすい。
たとえば、「100でないなら0と同じ」といったオールオアナッシング思考や、「~すべき」など自分自身へプレッシャーをかける行為、また自己肯定感の低い子にありがちな、「自信をもったら違う自分になってしまうかもしれない」という悩みも、認知の歪みだ。これを解消するためにカウンセリングでは、認知の歪みであることを気づかせるよう、思考の罠だと理解させるという。
また、先の事例にあった「子どもが嘘をつく」という行動には、保護者の子どもへの対応に原因があるという。その典型は「独裁的子育てスタイル」で、子どものことを大切に思っているがゆえに、しつけを強調し、悪いことに対して罰をあたえてしまうことだ。子どもを責めることで、子の自己肯定感が低くなり、将来的には挑戦をやめてしまうようになる。しかも、親から怒られるのを逃れるために嘘をつく傾向にある。これを行動心理学では「正の罰」と呼び、子どもには短期的効果しかないとしている。
大切なのは、できたことに目を向ける「プラスの注目」だ。文句を言いながらも宿題をやり遂げた場合、「文句を言ったこと」をスルーし、できたところをほめることで、「やった」という行動が強化される。減らしてほしい行動に対しては、好きなものを取り上げる「負の罰」をあたえることが効果的だという。ただし、負の罰で効果が出るのは、プラスの関係性があってこそのことなので、まずは「プラスの注目」でほめる関係づくりから始めることが重要だ。
ほめ方にもコツがあり、道地氏によると、「比べる相手は本人のみで、本人の行動に着目する。『あなたは以前できなかったのに、できるようになっているね』といった言い方がポイント」だという。
ゲーム中毒には早めの介入が大切
また、多くの保護者が悩んでいる子どものゲーム問題についても、道地氏からアドバイスがあった。「ゲーム以外は集中力が続かない」「不登校になって家でゲームばかりしている」など、ゲームとのつきあいに悩む家庭は多いだろう。
その対応策としては、「勉強を1ページしたら、ゲームを〇分していいよ」といった肯定的な声掛けから始め、ゲーム以外でできる課題をつくるとよいという。ただし、ゲームを制限することによって、ゲーム中毒やゲーム障害の症状が出る子もいる。WHOの定義では、「日常よりゲームを優先」することをゲーム障害としており、この症状が出た場合は、勉強よりも、まず症状の改善に努めることが大事だという。特に、ゲームをするとドーパミンが出て楽しいと感じ、ADHDやASD、不安症の子はゲーム中毒になりやすいため、気を付ける必要がある。
「大切なのは早めの介入。まだ新しい症状のため、何がもっともよいかは明らかではないが、認知行動療法が効果的と言われているので、認知行動療法を専門にしているクリニックを訪れるとよい」と、道地氏は話した。
一方で、学びにゲームを取り入れる例も紹介された。学校以外の環境では、子どもに合った勉強方法として、ゲーム好きな子の場合はゲームを通したアプローチも有効だ。ボードゲームを使って苦手分野を楽しく学ぶなど、大切なのは「学ぶ」ことの楽しさを知ることだという。
道地氏は「日本の教育方針が合わなくてもよい。海外では勉強方針も異なるし、現在の日本の教育方針が必ずしも正しい方法とは限らない。子どもが合わないのであれば、合う勉強法で、『楽しい』ということを学ばせてほしい」と話した。
今回の講座は、HSCに限らず、思春期の子どもとの付き合い方としても参考になるアドバイスが多く、子どもとの関係に悩む保護者にとっては有用な情報になりそうだ。HSCの講座に参加した保護者からは、「子どもだけでなく、自分もHSCの傾向があることがわかり、見直す機会になった」という感謝の声も寄せられた。この記事をきっかけに、親子の関係、そして子どもとの関わり方を今一度考え、改善につなげてほしい。