こどもとIT
応募総数2,189件!プログラミング教育元年に魅せる小学生プログラマーの自由な発想と表現力
――「Tech Kids Grand Prix 2020」決勝プレゼンテーションレポート
2020年12月16日 12:00
今年で3回目を迎える小学生のためのプログラミングコンテスト「Tech Kids Grand Prix 2020」が開催された。「21世紀を創るのは、君たちだ。」がテーマの本コンテストには、日本全国から2,189件もの作品がエントリー。2020年12月6日に開催された決勝プレゼンテーションには、3次審査を突破した10名のファイナリストが集結した。プログラミングの魅力に瞳を輝かせ、堂々とした言葉で語るファイナリストのプレゼンや受賞作品についてレポートしよう。
自治体など12団体と連携、プログラミング教育の裾野広がる
「Tech Kids Grand Prix 2020」は21世紀を創る次世代のイノベーターを育成し、全国から小学生プログラマーを発掘することを目的に、小学生のためのプログラミングスクール「Tech Kids School」が主催している。参加資格はただひとつ、「小学生であること」。募集作品にロボットや電子工作は含めず、コンピュータプログラミングを用いて開発されたアプリやゲームなどのオリジナル作品が対象。プログラミング言語の指定はない。
今年のコンテストで特筆すべきポイントは、昨年に比べて1.5倍ものエントリーが集まり、参加者が全国各地に広がったことだ。昨年までは首都圏在住の参加者が8割を占めていたが、今年は自治体を中心とする12団体と連携し、全国各地で連携プログラミングコンテストを同時開催。「プログラミング教育元年」にふさわしく、全国の小学生や教育関係者を巻き込んだ、プログラミング教育の裾野の広がりを感じさせるコンテストとなった。
プログラミングを通して、誰かを喜ばせたい。想いの詰まった作品が続出
決勝プレゼンテーションの審査基準は3つ。1つめはどんな夢や課題を抱き、何を実現したいのかという「VISION」。2つめはそれを作品にどう落とし込んだ完成度を問う「PRODUCT」だ。プログラミングの技術はもちろん、デザインやユーザビリティに至るまで制作者のこだわりが高く評価される。そして3つめは自身のビジョンやプロダクトを社会に発信する姿勢を示す「PRESENTATION」。ファイナリストの全作品を受賞結果と共にご紹介しよう。
第1位、機械学習を取り入れ10年後の未来を考えた「マークみっけ for SDGS」(小4 川口明莉さん作)
昨年に続き、2回目の決勝進出となった川口明莉さん。受賞を逃した悔しさをばねに1年間頑張ってプログラミングを勉強したと語った。そんな川口さんが作成した「マークみっけ for SDGS」は、マタニティマークやベルマークといった身の回りにある様々なマークをカメラで撮影して集めながらSDGが学べるアプリ。川口さん自身が学校でSDGsについて学び、マーク集めゲームをしたことがきっかけとなった。
マークを撮影するとAIが画像を認識し、SDGsの目標ごとにアプリ内の図鑑に登録される仕組み。一番苦労したのは、AIに画像認識させるプロセスだったようで、Googleが提供するAIの機械学習ツール「Teachable Machine」を用いて学習モデルを作りScratchに取り込むも、なかなか認識されず、マークのカラーバリエーションや角度を変えて撮影することで調整を繰り返した。
審査員からは「まさか機械学習を活用した作品が出るとは!」という感嘆の声も上がり、高い評価を集めた。
第2位とLINE賞をW受賞、離れた家族をつなぐアプリ「ぶらっしゅとーく」(小6 平川晴茄さん作)
平川晴茄さんが開発した「ぶらっしゅとーく」は、離れている人と楽しくコミュニケーションができるタブレット用アプリ。コロナ禍で入院中の祖母と会えなくなったことが開発のきっかけだったという。このアプリの優れた点は、スマホが使えない高齢者や文字が読めない幼児にも使いやすく工夫されている点だ。文字盤を用いたチャット機能や、押したメッセージを読み上げてくれるスタンプ、さらにはビデオ通話もある。
また平川さんは小学生でありながら「PDCAサイクル」の概念を取り入れて、ユーザーテストを繰り返し、入院患者が使用可能か医師にアドバイスをもらうなど、ユーザビリティとアクセシビリティを磨き上げた。実際に「ぶらっしゅとーく」を使用することで、入院中だった平川さんの祖母は親せきの結婚式にリモート出席できたという。
ほかにも小さな機能を作り、それを改善しながら大きな機能を作るという手順を取った平川さん。その手法が「アジャイル開発」と呼ばれていることを後から知ったという。プロのシステム開発でも用いられる手法を、小学生がごく自然に実践していたことに驚かされた。
第3位、宇宙の重力と運動をモチーフにした本格宇宙船ゲーム「GRAVITY TRAVEL」(小5 齋藤之理さん)
数学や化学をテーマにした作品で、3年連続でファイナリスト入りした齋藤之理さん。今年発表したのは、宇宙の重力と運動をモチーフにした本格宇宙船ゲーム。人類が宇宙に移住先を求め旅に出るというストーリーで、博物館で見た重力井戸の展示から着想を得た。星の万有引力を考えながら減速・加速を行ない、宇宙船を周回軌道にのせて目標の星を目指す。
宇宙物理学者のホーキング博士が遺した「あと100年程度の間に人類は移住先となる星を見つけなくてはならない」という警告にしたがい、タイムリミットを100年(ゲーム内では400秒)に設定。宇宙船の発射位置から目標星までの軌道を確認できるメイン画面や、宇宙船の視点で臨場感ある映像が楽しめる操作パネルをすべてマウスで操作する。
万有引力の法則や運動方程式が導きだす重力の動きを、3次元で視覚的に表現したかったと語った斎藤さん。受賞に際して、「自分の好きなことや得意なことはプログラミングと合わせると、表現しやすくなる」と発した言葉が力強かった。
Cygames賞、芸術性の高い弾幕シューティングゲーム「Parallel world」(小5 長谷部 環さん)
絵画や書道、ピアノなど芸術分野で多才ぶりを発揮する長谷部 環さん。今回発表した「Parallel world」は長谷部さんの高い芸術性が詰め込まれた、弾幕シューティングゲーム。ゲーム性はシンプルだが、難易度を4段階で設定し自機を強化するために必要なコインの獲得数などゲームバランスにも気を配った。
長谷部さんがとくにこだわったのが、弾幕の動きが作り出す幾何学模様や敵キャラの動き。それらはすべてScratchのペン機能で自作し、全20種のキャラクターだけでなくゲーム内で使われているフォントも自身で描いた。長谷部さんがScratchのペン機能を使うようになったのは1年前で、アニメーションを自在に作れる面白さに没頭したのだという。さらに本作で使われているBGMもScratchのブロックで作ったオリジナル楽曲だ。
長谷部さんが目指すクリエイター像は2018年からブレることはなく、マルチな才能を発揮して自分のアイデアを形にしたいと語る姿がとても印象的だった。
Yahoo!賞、2つの夢を掛け合わせた新感覚ゲーム「オーロラオーケストラ」(小6 安藤優那さん)
「オーロラを見たい」「指揮者になりたい」という、2つの夢を持つ安藤優那さん。コロナ禍だからこそ、みんなを楽しませたいと、オーロラの下で自分が指揮者になって演奏するという夢を表現した「オーロラオーケストラ」を開発した。アプリには2つのモードが搭載されていて、1つはオーロラの色や濃さを自由にコントロールできるモード。2つ目は作ったオーロラを背景に自分が指揮者となって演奏を楽しむモードだ。
オーロラを生成するモードでは、まずオーロラ発生のメカニズムを解説。オーロラはPhotoshopやIllustratorで作成。自然界では発生しない水色やレインボーのオーロラも登場させ、夢のある世界観を作り上げた。一方、指揮者モードでは顔認識機能を採用。顔を楽器に近づけることで、誰でも簡単に演奏できる。
プログラミング歴2年半の安藤さん。オーロラについて図書館で調べ、顔認証機能の搭載や3D空間での制御など技術的に難しい領域にも挑戦したという。プレゼンテーションの最後に語った「プログラミングで夢は叶う」という言葉から、未来への明るい希望を感じた。
東急賞、バスケットボールプレイヤーのための本格マルチアプリ「BACK TO BACK」(小2 千葉紫聞さん)
千葉紫聞さんが開発したのは、バスケットプレイヤーのためのトレーニングアプリ。自身が所属するクラブチームがコロナで活動休止となり、自主練をしていた千葉さん。スマホで別メニューをチェックしながらのトレーニングに不便さを感じ、アプリを開発した。普段から「ゲーム制作会社を運営する」というコンセプトを掲げ、ゲーム開発だけでなくhtmlやCSSを独学で学びホームページも制作。「B2B」のロゴもPhotoshopやIllustratorで自作し、洗練されたデザインを生み出した。
「B2B」は選手の習熟度に応じた解説つきのトレーニング動画や、ストップウォッチ機能、バスケのルールを学べるクイズメニューを搭載。トレーニング中でも操作しやすいようにアイコンを大きくするなど、ユーザビリティにも配慮した。
今後はパーソナルトレーナーとのマッチングができるコミュニティ機能など、さらなる改良を加えて多機能化を目指すという。
CyberAgent賞、手洗いを楽しく覚えるアプリ「てあらいマスター」(小3 中島莉衣奈さん)
普段からダンスやピアノなど、表現することが大好きな中島莉衣奈さん。Scratchで作成した「てあらいマスター」に自作のキャラクターやアニメーション、自身で作曲したBGMなど、今表現できるすべてを詰め込んだ。母親に「手洗いが甘い」と指摘されことをきっかけに、正しい手洗いについて楽しく学べるゲームを作ろうと思い立った。ポップな作風そのままに、はつらつとしたプレゼンテーションも審査員に強い印象を残した。
「てあらいマスター」はゲーム、クイズ、実験という3つのモードで構成。ゲームでは、水だけでなくせっけんをつけないとばい菌を倒せないように工夫した。小さい子どもでも楽しめるよう弟にプレイしてもらい、メニューを平仮名表記に変えポインターが触れた際にアイコンが拡大するように工夫した。実験モードでは、手で触った食パンにカビが生える過程を観察し、手洗いの程度によって細菌の量がどう変化するのかを学べる。クイズで知識を定着させるだけでなく、実体験をもとに学ぶ仕組みだ。
中島さんは今後もARや3Dプリンターを活用し、五感で楽しめる作品作りを目指したいと意欲を語った。
惜しくも受賞を逃したファイナリストらの作品も、見応えたっぷり
惜しくも受賞を逃したものの、決勝プレゼンテーションまで残った作品はどれも、子どもたちの想いにあふれている。
千葉眞白さん作の「TATA – my little buddy-」は、子ども部屋を舞台にした3Dアドベンチャーゲーム。赤ちゃんの時から大切にしているぬいぐるみTATAを操作して星を集める。自分が寝ている間に内緒で遊んでいるのでは?という想いから生まれたという。
筈谷将大さん作の「MOSQUITO PUNCH!」は、蚊を叩いて退治するゲーム。ジャイロセンサを搭載し、制限時間内にランダムに発生する蚊をタップで退治する。蚊の移動を制御する座標設定や、操作する際のスマホの傾きとカメラの動きを連動させることに苦心したそうだ。
水留駿さん作の「密Finder」は、「密レーダー」と「密距離計」、2つの機能を使って3密を避けるARを活用したスマホアプリ。距離に応じて青・赤・黄の円をスマホに表示させ、周囲と人と適切な距離が取れるよう補助してくれる。
またLINE株式会社が提供する無償のプログラミング学習プラットフォーム「LINE entry」を使った作品には、「LINE entry賞」も贈られた。
今の世の中に分かりやすい物差しはない。どれだけ感動や共感、驚きを与えられるかが大事
大会の終わりに、審査員を務めた株式会社Cygames CTO室Technical Directorの永谷真澄氏は総評として「技術力やプレゼン力だけで優劣がつくのではない。今の世の中に分かりやすい物差しはなく、皆さんがどれだけ感動や共感、驚きを与えてくれたかが順位につながった」と子どもたちを褒め称えた。本大会でファイナリストが示してくれた高い作品は「小学生とは思えない」高水準なレベルのものばかりだったが、それは同時に「小学生だから」成し得たともいえる。
住んでいる地域や年齢に関係なく、プログラミングに熱中し、自分の世界を表現する子どもたちの存在はとても頼もしい。子どもたちは自分が知りたいと思った知識や情報を積極的に吸収し、驚くほどのスピードで成長することを感じた。
コロナ禍で学校に通えない時期があり、予期せぬ困難に直面することも多かった2020年。今回の作品にはコロナ禍の経験をモチーフにしたものも多かったが、スケッチブックに絵を描くように、気軽にプログラミングに親しむ子どもたちが増えていることは素晴らしい。その柔軟で自由な発想力で、次はどんな世界を見せてくれるのか楽しみだ。