こどもとIT
米MSのエグゼクティブも称賛した、開校3年目のICT先進校の取り組みとは
――茨城県つくば市立みどりの学園義務教育学校レポート
2020年12月21日 06:45
社会とつながる学校、世界とつながる学校、ニューノーマル時代に突入し、学校の活動も変わりつつある今、テクノロジーがもたらす“つながり”は大きい。子どもたちが外から刺激を受け、また毎日の学校生活を「がんばろう」と思える、そんな活動が今、求められている。
そんな中、ICT先進校として知られる茨城県つくば市立みどりの学園義務教育学校(以下、みどりの学園義務教育学校)において、世界中の教育機関とマイクロソフト米国本社のエグゼクティブがつながるライブイベント「Microsoft Global Learning Connection 2020」が実施された。米国マイクロソフトのエグゼクティブも称賛した、同校の取り組みをレポートしよう。
開校2年で「⽂部科学⼤⾂賞」を受賞した、つくば市立みどりの学園義務教育学校
「Microsoft Global Learning Connection」は、マイクロソフトがグローバルで取り組む国際交流の教育イベント。Microsoft Teams(以下、Teams)やSkype、Flipgridを使って、世界各国の子どもたちがマイクロソフトのエグゼクティブや社員、専門家とつながり、自分たちの学校で取り組んでいるICT教育についてアピールする。6年目の今年は、2日間で世界110ヵ国の子どもたちが参加。コロナ禍で世界中の学校はさまざまな制限を強いられているが、マイクロソフトは同イベントを通して、子どもたちが海外とつながる機会を提供した。
日本から参加したみどりの学園義務教育学校は、開校1年目から全教員がICT活用に取り組み、日本教育工学協会(JAET)がICT活用推進校として評価する「学校情報化優良校」にも認定されたICT先進校だ。
同校は開校当時から恵まれたICT環境ではなかったようだが、教員らの熱心な取り組みによってICT教育で学力向上を図るとともに、コロナ禍では休校翌日からオンライン学習も実施。プログラミング教育やSTEAM教育にも積極的に取り組み、2020年11月に開催された教育分野でのICT活用を評価する「eラーニングアワード2020フォーラム」では、「文部科学大臣賞」を受賞している。
同校に一歩足を踏み入れると、180台のWindows PCをフル稼働で使う児童生徒の姿が目に飛び込んでくる。取材時点では、GIGAスクール構想の端末は整備中で、全児童生徒数1295名に対して180台の端末数ではあるものの、クラスや学年間で上手く調整して活用しているようだ。
この日取材させてもらった5年生の教室では、国語の授業でWindows PCを使い、パンフレットを作成していた。グループで決めたテーマについて、ネットでキーワード検索をしながら必要な情報を収集し、役割分担をしながら、ひとつの作品に仕上げるのだという。
体育館では、1年生が体育の授業でWindows PCのカメラを活用。動物の動きを真似て表現し、互いにその姿を撮影し合った。その後、撮った動画を見ながらグループで振り返り。「次はこうしよう!」と子どもたちがアイデアを出しながら楽しく学んでいる姿が見られた。
パソコン教室では6年生が、プレゼンテーションコンテストに向けて、スライドを作成していた。自分の興味ある職業について調べ、その魅力や仕事の大変さなどをまとめる。みどりの学園義務教育学校では、市の方針でもあるプレゼンテーションによるアウトプットに力を入れており、ICTを活用して思考力、言語力、協働力、知識理解力の向上に取り組んでいるという。
ちなみに別のパソコン教室では、同校が総務省の実証実験で取り組んでいるローカル5Gの環境も見ることができた。ローカル5Gとは、商用基地局がない地域でも、建物や教室内に自前で5Gネットワークを構築できるシステムで、Wi-Fiと比較して安定的な利用が可能。試しにインターネットの速度を測定させてもらったところ、170Mbpsの数字が出ていた。
子どもたちが英語でプレゼンテーション!課題解決にテクノロジーを活かす日常の学びをアピール
このような環境で学んでいる、みどりの学園義務教育学校の児童生徒たち。「Microsoft Global Learning Connection」では、マイクロソフトアジアのプレジデントでマイクロソフト米国本社の副社長でもあるAhmed Mazhari(アーメド・マザリ)氏と、同社アジアの文教部門責任者 Larry Nelson(ラリー・ネルソン)氏を前に、同校で取り組んでいるICT教育ついて英語でプレゼンテーションを披露してくれた。皆、本番直前までプレゼンテーションの原稿を見直したり、披露する作品をチェックしたりと、準備も一生懸命で、緊張も伝わってくる。
トップバッターは、中学3年生。彼女たちは、学校の説明や取り組んでいるICT教育について、その概要を発表してくれた。開校1年目から全学年でプログラミングの授業が行なわれていることや、低学年のロボットを使った英語教育、また学習者用デジタル教科書を使う授業やプレゼンテーションの活動など、テクノロジーを使った普段の学習を紹介。
また2年目からはマインクラフトやmicro:bit、ロボットやドローンを使ったSTEAM教育も始まり、コロナ禍ではeラーニングで学習を継続できたとアピールした。公立学校であるが、それぞれの学年でさまざまなICT教育が実施されており楽しく学んでいると、分かりやすい英語で伝えてくれた。オンラインによるプレゼンテーションは小中学生にとってハードルが高いだろうが、今回はそれに加えて、英語で伝えなければならず度胸もいる。子どもたちは、この日までに英語を練習していたようで、本番では丁寧に、伝わる英語で語ってくれた。
続いては小学4年生が登場し、コロナ禍の休校期間中に作ったScratchの作品を披露した。さまざまな楽器が音楽を奏でる作品や、SDGsの学習で学んだ飢餓問題をテーマにした作品など、自分の表現したいものをプログラミングの作品として仕上げたようだ。小学4年生にとって、英語のプレゼンテーションはかなりむずかしいが、子どもたちに話を聞くと、英語の原稿をPCに読み上げてもらい、それを聞いて練習し、音声入力で自分の発音が伝わるかどうかチェックして英語のスキルを磨いたようだ。ICTを日常的に活用していることが分かるエピソードで、その一生懸命な姿は、本番でも伝わってきた。
小学4年生の男子児童たちは、SDGsの学習で学んだ環境問題について、英語のスライドを作成し「ぼくらは地球防えい団!」と元気いっぱいに発表してくれた。浄水場や清掃工場など生活に必要な環境の設備を紹介し、地球温暖化や干ばつ、異常気象など地球が直面している環境問題などを取り上げた。そして最後に、今、自分たちができることについて、「冷蔵庫を開けっぱなしにしない」「節水する」「リユースしてごみを減らす」などのアイデアを述べ、地球を守ろうと伝えた。少し緊張した面持ちであったが、普段の授業で幅広い社会課題に触れながら学んでいる様子をアピールしてくれた。
小学5年生の2人は、教育版レゴマインドストームEV3で作った作品と、SDGsで学んだことを発表してくれた。男子児童は「2Dのプログラミングに比べて、実物を動かせるのが面白い」とレゴマインドストームの良さを語り、プログラミングを学ぶのが楽しいと伝えた。一方、女子児童は、SDGsについて発表し、モノを大切に使うメッセージを伝えるために自作のシールを作り、家中のごみ箱に張ったエピソードを紹介。このような活動を続けて、2030年までにSDGsのゴールを達成したいと述べた。2人とも非常に上手な英語で話し、日々の学習にも熱心に向き合っている様子が伝わってきた。
最後は別の小学6年生グループが、マインクラフトやmicro:bit、ドローンやロボットなどプログラミング教育について発表した。発表する児童とコンピューターを操作する児童など、それぞれ役割分担をしながら、英語の説明に合わせてデモや作品を披露した。
マインクラフトでは、災害に強くエコにも優しい街を再現し、micro:bitでは地震が起きたことを知らせるプログラムなど4つの作品を実演。さらにドローンも飛ばして、「ドローンを使えば貧困層の人に直接食べ物を届けられる」と説明した。最後はモバイル型ロボット「ロボホン」がSDGsについて音声で説明するデモを披露。低学年の子どもたちがSDGsについて理解できるように作ったという。
英語のプレゼンに合わせて、さまざまな作品を皆の前で披露するのは、上手くいかないこともあり、大人でもむずかしい。しかし、小学6年生のグループは見事にやり遂げ、テクノロジーで多様に学んでいる様子を伝えてくれた。
子どもたちの発表をうけて、Ahmed Mazhari氏は、「発表を聞いて感動しました。さまざまなテクノロジーを使って創造し、低学年のうちから科学やテクノロジーをうまく取り入れています」と取り組みを評価。「自分が子どもの頃はそのような機会に恵まれませんでしたが、今はテクノロジーが身近にあり、子どもたちはテクノロジーを学ぶことで恩恵を受けることもできます。幸せに、安全に、楽しく暮らせるよう、がんばって学んでいってください」、と児童生徒にアドバイスした。
Larry Nelson氏も、子どもたちの発表を受け、「さまざまな社会課題に向き合い、子どもたちが課題解決の手段としてテクノロジーを活用している学びが素晴らしいと思います」と褒め称える。エネルギーや環境問題など、子どもたちが現実の社会課題を知り、その解決に対してどのようにテクノロジーを活用していくか、ここに向き合えていることを高く評価した。「創造的な思考や新たなことを創造する力、さまざまな問題を解決できる力は、あなたたちを遠くの世界まで導いてくれるでしょう。がんばって学んでください」とエールを送った。
児童生徒が直接エグゼクティブに質問をするという貴重な機会も設けられ、子どもたちからは「ICT教育はどのように役立ちますか」という質問が投げかけられた。これに対してAhmed Mazhari氏は「これからの世の中は、今まで見たことがないテクノロジーが登場し、それを使ってさまざまな問題を解決しなければなりません。その時にどのようにテクノロジーを活かすのか、使う人のスキルや考え方がとても重要になります。どれだけ技術が発展しても、大切なのはそれを使いこなす人であり、今の学びは将来のテクノロジー活用を良い方向に導いていくために大切なものなのです」と説明した。
日常的にICTを活用し、教員も仕事しながらICTスキルを伸ばせる環境
こうした交流の場で尻込みせずに子どもたちが発表できるのは、普段の学習の成果に他ならない。みどりの学園義務教育学校では、まさに30年後の予測できない社会で、自分の力を発揮できるよう日々のICT活用に取り組んでおり、ICTスキルの習得ではなく活用を大切にしているという。とはいえ、開校3年目でこれほどICT活用が進んでいるケースも珍しく、その秘訣が気になるところである。
同校の大谷淳教頭は、「ICTをやり始めることが大切なのではなく、やりきることを徹底している」と語ってくれた。学習面でも数字的な効果が出るところまでICTを活用するよう、教員たちが熱心に取り組んでいるという。実際に同校の教員らはICTスキルも高く、「苦手な教員でも仕事をしながら、ICTスキルの高い教員に質問を投げかけ、知識を得るような場が日常的にある」と大谷教頭は述べた。また4月に赴任したばかりという中原卓治教頭も「先生たちのICTスキルが高いのはなぜかと思っていたが、特別なことをやっているのではなく、普段からICTを使う環境があることが大切だとわかった」と話してくれた。今は、校務でもTeamsを使うようになり、保護者アンケートに活かすなど、活用範囲も徐々に広げているようだ。
今後の取り組みについては、「GIGAスクール構想の端末が整備されると本格的な1人1台活用が始まり、どのようにその良さを引き出していくのか、どういう指導改善が必要なのか。考えていかなければいけない問題が多い」と中原教頭は語ってくれた。また大谷教頭は、同校の取り組みを他校に広げていくことが課題であると指摘。「ICT活用を広げていくには、ヒト・モノが重要になるが、それぞれの学校によって環境は異なる。与えられた環境で1人1台の学びを実践し、子どもたちに〝ICTはいいものなんだ"とどうやって伝えていくか、教師として課題に感じている」と話してくれた。ICT先進校としての役割は、1人1台が本格化するここからが重要になってくるのかもしれない。
学校のICT活用は、日常的に使えば使うほど、出来ることが広がり、子どもたちは違った一面を見せてくれる。そして、外の世界につながればつながるほど、子どもたちは未来を知ることができ、今の学びに価値を感じることもできるだろう。学び方が変わりつつある今、ICTが子どもたちにもたらすメリットは大きく、みどりの学園義務教育学校のような取り組みが全国的に広がることを願っている。
[制作協力:日本マイクロソフト株式会社]