こどもとIT
スプツニ子!氏が、テクノロジー女子学生にエールを送る「マイノリティを強みに!」
――Waffle「スプツニ子!さん女子学生向けトークイベント」レポート
2020年11月4日 08:00
近年、女子向けハッカソンや起業イベントなど、女性を対象にしたイベントが活発化している。そんな中、IT分野のジェンダーギャップの解消をめざす一般社団法人Waffle(以下、Waffle)は、テクノロジーに興味のある女子中高生および女子大学生を対象にしたオンライントークイベントを2020年9月6日に開催した。
ゲストで登壇したのは、テクノロジーアートの第一線で活躍するスプツニ子!氏。同氏は、MITメディアラボの助教や、ダボス会議のヤンググローバルリーダーなどを務め、現在は東京藝術大学のデザイン科准教授を務める。スプツニ子!氏は、自身の経験を交えながら、理系分野に進もうとしている女子中高生および女子大学生らにエールを送った。
「好きなことをどんどんやっていい」という環境で育った子ども時代
IT分野におけるジェンダーギャップの解消をめざすWaffleは、女子学生に限定したアプリコンテストからIT企業とのコラボイベント、政策提言など多岐にわたって活動している。その根底にあるのが「ものづくりは楽しい!社会を変える」という思いと、日本においては残念ながら、まだマイノリティな「テクノロジーに興味のある女子学生たちの居場所をつくりたい」という応援の気持ちだ。
Waffle代表理事の田中氏によると、「プログラミングに興味はあるけれど、輪に入りにくいと感じていた女子生徒が、Waffle Campでプログラミングの仲間を見つけたり、理系の先輩に出会ったりしながら、自分の興味・関心を広げている」と話す。
そんなWaffleのイベントに「参加できて嬉しい」と登場したのが、スプツニ子!氏。「私は中高時代はずっと孤独な女子って感じだったので、皆に会えるのを楽しみにしていました」と満面の笑顔であいさつをし、生い立ちを語りはじめた。
両親が数学者だったスプツニ子!氏は、中学時代から数学や宇宙が大好きな理系だったという。「母親は数学が好きで得意だったけれど、『女性に数学はむいてない』と当時の高校教師に止められ、反対を押し切って大学数学部に進学し、大学を首席で卒業した。家族の中では性別に関係なく『好きなことをどんどんやっていい』という空気があった」と、子ども時代をふり返った。
そんなスプツニ子!氏がプログラミングを始めたのは中学1年生のころ。最初はHTMLでウェブサイトをつくったり、VISUAL BASICでゲームをつくることから始め、高校生のときには、C++やJavaで遊んでいたという。その後、イギリスのロンドン大学インペリアル・カレッジに進学し、大好きな数学とコンピュータ・サイエンスを学ぶ。しかし、当時の大学のコンピュータ・サイエンスのクラスメイトは女性が少なく驚いたという。
「プログラミングは楽しいし、世の中の色々なことがテクノロジーで変わっているのに、私の母のように『女性には向かない』と古い考えの先生や親に反対されてしまう女の子が、残念ながら、まだ日本に存在する」とスプツニ子!氏。「メディアもよく無意識に『エンジニアは男性がなるもの』という描き方をしてしまっているし、子どものおもちゃも男女で違う色やもの(お人形、レゴ)が推奨されていることなども影響が大きいのではないか。でも女の子たちが、こんなに楽しいプログラミングをしないなんて、本当にもったいない!」と熱く語った。
マイノリティだからこそ、新しい視点を提供できる!
田中氏はWaffleの活動を通して、「親の価値観がアップデートされていないために、理系進学に苦労している女子中高生や女子大学生がいる」とスプツニ子!氏に打ち明けた。
それに対して同氏は「オンラインでもいいから仲間とつながると良い」と話し、周囲に理解者をつくる大切さを伝えた。さらに「理系は楽しいし、やりがいがあって未来をつくっていく分野。その分野に挑戦することは、すばらしいことだから応援している。もし、家族に反対されて“親ブロック”されたら、メッセージくれれば私がZoomでご両親を説得します!(笑)」とエールを送った。
またスプツニ子!氏は、アート作品をつくり始めたきっかけは、ジェンダーギャップに対する問題意識だったと話す。「テクノロジーの分野はこれまで男性が多かったこともあって、女性のニーズや健康課題がなかなかテクノロジーで解決されにくく、解決する方法があっても長い期間それが政府に認可されなかったり、メディアで広がりづらかったりするようなことが多くあった」と同氏。そして生まれたのが大きな反響を呼んだ、男性が生理を疑似体験する『生理マシーン、タカシの場合』という作品だった。
「低用量ピルは避妊目的だけでなく、生理痛を和らげたり女性の健康を整える効果があるのに、日本での承認はアメリカより30年以上遅れ、国連加盟国で最も遅かった。一方で、男性向けのバイアグラは、副作用の死亡例が100人以上いるのも関わらず半年でスピード承認されている。他にも似たような不思議な事例は科学史上多く存在し、テクノロジーの承認や発展について調べてみると、様々なジェンダーギャップがあることがわかってきます」と同氏は語った。
これまで様々な活動に取り組んできたスプツニ子!氏であるが、活動の源となったのは、「プログラムを書けるから、自分は食いっぱぐれることがないだろう」という自信だったようだ。「当時のロンドンはウェブ業界のバブル期で、21歳にして日給300ポンド(7.5万円)を2年間くらい稼いでいた。そういう経験もあって、プログラミングさえできれば、アーティストとしてもなんとか生きていけるだろうと勇気がもてた。良いエンジニアは争奪戦になるほど需要があるから、手に職があるととても心強い。そうした点も考慮して、学校の先生はアドバイスしてほしい」と話した。
また、IT分野で女性はマイノリティであるが、だからこそ、違った視点を提供できる強みもあるという。そのためには、「“新しいものさしを持つ”ことが重要だ」と語った。スプツニ子!氏は、MITメディアラボの創設者であるニコラス・ネグロポンテ氏とのエピソードを例に、「彼は『わからない』ものを、イノベーションの源としてとても大事にしていた」と話した。
「本当に新しいものは、既存の評価軸では判断できないし、ものさしガチガチな人には生み出せない。マイノリティ的なバックボーンを持っているからこそ、突拍子もないものが出て、それがイノベーションに繋がると言っていた。メディアラボは、どんな研究分野にもおさまらない分野横断的な研究者が集まる場所で、在籍した4年間はとても刺激を受けた」と、自らのエピソードを語った。
Waffle Campで自分の居場所ができた。新しい挑戦を刺激し合う仲間との出会いも
イベント第2部ではWaffleのイベントやキャンプに参加した女子中高生たちが登場。スプツニ子!氏の前でWaffleで学んだ成果を発表した。
「ビジネスプランもふまえた災害支援アプリを提案」/Team Ablaze(はるかさん/中3、Kさん/高1)
中学3年生のはるかさんと高校1年生のKさんは、Waffleが日本支部を運営する世界的な女子中高生対象のアプリコンテスト「Technovation Girls」への参加がきっかけでチームを結成した。災害時に支援者と助けを必要としている人とをつなぐサービスを提案した。
アプリの開発だけでなく、「日本中の災害問題に貢献できるNPOとして、クラウドファンディングで資金を募る」というビジネスプランまでも提案。Kさんは「参加したときは何もできなかったけれど、ビジネスプランや動画など、ひとつのものを完成できた。メンターは答を教えてくれるのではなく、考えるヒントをくれたことがとてもよかった」と、キャンプの感想を話した。スプツニ子!氏も「良いアイデアでニーズもある。子どもから年配の方まで使えるUIにすることは大切」とアドバイスを送った。
「キャンプがきっかけでRuby on Railsを勉強中」(Yさん/中3)
「生活が少しでも明るくなるように、お気に入りの本や音楽などを紹介する自作ウェブサイトに挑戦した」と話すのは、中学3年生のYさん。海外の人に見てもらえるように英語にしたり、色や写真などデザインにこだわったりと、自分のできる範囲で頑張ったという。
今まで、Scratch、Processing、Swiftなどを講義形式で学んでいたものの、大きなものをつくる経験がなかったYさんは、Waffle Campでサイト制作に挑戦。「自分の足りないものや、それを補うために何が必要なのかを意識しながら作ることができた」と、キャンプでの手ごたえを語ってくれた。
またキャンプでは、同年代との交流も大きな刺激になり、モチベーションアップにつながったようだ。この制作をきっかけにRuby on Railsの学習も始めており、今後は食品ロスをテーマにしたアプリをつくりたいと新しい目標を語ってくれた。スプツニ子!氏は、「身近にあるつくりたいもの、ほしいものをつくることが、一番早い学習方」と、Yさんの活動を評価した。
「アメリカからオンラインで参加」みかさん/中1
アメリカからオンラインで参加したのは、中学1年生のみかさん。毎年夏休みに訪れていた日本に今年は行けず、オンラインで学べるWaffle Campに参加したという。「Waffle Campは少人数で、メンターとも話しやすく、質問もすぐ答えてくれてよかった」と、みかさん。
また、「ジェンダーギャップを埋めることがゴール」であるWaffleの活動主旨にも共感を覚えたという。「女の子だから向いてないという偏見をなくし、自分たちがやりたいことを思いっきりできる環境になることを願って参加した。勇気がわいたし、想像していたものを自分のコーディングで書けることはとてもかっこいい。女の子も、新しいことに挑戦して頑張りましょう」と呼び掛けた。
「好きなことをしていいと背中を押してもらえた」あんなさん/高3
最後に登壇したのは、高校3年生のあんなさんだ。幼い頃に孤立していたあんなさんは、幼稚園で絵を描いたことで世界が大きく変わったという。自分の意思を具現化し、視覚的に相手に伝えることが得意になった。自分ならではの視点で違和感を伝えたいと考え、芸術を通して意識啓発活動に取り組んでいる。
「中学1年生のときに科学者になりたいと言ったら、先生に向いていないと言われた。本当にやりたいことをふり返ってみたら、学校では物足りなかった。けれど、親や先生、地方在住の壁があり、自分の興味のあることができなかった」と話すあんなさん。幼い頃から周囲と違うというレッテルを貼られ、自分の本質を見失いつつある時期にWaffle Campに参加した。「みんな楽しそうで、自分の見たかった世界があった。『興味のあることをやっていいんだ、楽しんでいいんだ』と背中を押してくれた」と、その時に感じた感想を話した。
「これからは、自分がそうしてもらったように、誰かの背中を押したい。そのために、一歩踏み出して、自分の道を見失わずに追求したい」と話すあんなさんに、スプツニ子!氏は「すごいエネルギーを感じた!若いのに、次の世代まで考えているなんて素敵」とコメントを送った。
女子中高生がスプツニ子!氏に聞く、SNSとの付き合い方は?親に逆らうメソッドは?
最後は、参加者からの質問にスプツニ子!氏が答えてくれた。
SNSとの関わり方に関する質問については、「私が院生時代のときは、先生から『SNSから離れてものづくりに集中した方がいい』と言われていた」と同氏。「最初はSNSから離れてしまうと、自分のことを忘れられてしまうのでは……と不安だったが、強い作品をつくって戻ってきたことで、結果的に美術館にも展示してもらえた。SNSにべったりだと自分の考えや時間が奪われることもある。集中して自分のやりたいことやり、ピンポイントでSNSから発信するなど、オン/オフをしっかりしたほうがいい」と話した。
また「親に逆らうメソッドは?」という問いには、「私がずっと自分に言い聞かせていたのは、親のいちばんの幸せは『子どもの幸せ』であるということ。親が反対しているのは、子どもに幸せになってほしいから。だから、自分が幸せになればいい。それが一番の親孝行だと思って、逆らっていた(笑)」と、スプツニ子!氏は答えた。
このイベントを通して、自分だけでなく同じように感じている仲間がいること、そしてその先駆者であるスプツニ子!氏やWaffleの活動を知ったことは、孤独を感じがちな理系女子の大きな励みになりそうだ。マイノリティを強みに、ガールズパワーからどんな新しいイノベーションが生まれるのか、これからも楽しみにしていきたい。