こどもとIT
人生を切り拓く!N高卒業生と起業部が語る、事業と社会変革のアイディア
――プレゼンテーションイベント「NED2020」レポート後編
2020年10月22日 08:05
N中等部やN高等学校(以下N高)に関わった面々が登壇するプレゼンテーションイベント「NED2020」。前編では同校在校生の情熱に溢れるプレゼンテーションを紹介してきた。後編では、N高で学んだことを活かして新しい一歩を踏み出そうとしている同校卒業生や起業部のメンバーが、世の中を変えていくことや、自分が変わっていくきっかけとなったことをアピールしたプレゼンテーションを紹介していく。
挑戦を恐れず、自らの志で人生を切り開く卒業生たち
在校生に続くN高卒業生によるプレゼンテーション。N高を巣立った卒業生は、どのような人生を歩んでいるのだろうか。
武藤 胡桃さん(2019年度卒)「多様性とともに豊かな社会へ」
2019年3月にN高を卒業した武藤 胡桃さんは現在、津田塾大学総合政策学部に在籍している。自身が不登校や障がいを抱えていた経験から、「社会的マイノリティがマジョリティと同等に活躍できる社会を作ることは、社会全体にメリットがある」と主張した。
所得格差の拡大は社会全体の経済成長を阻む、というOECDの調査結果を紹介し、「貧困層という社会的マイノリティを置き去りにしながら経済成長しようとすることが、結果的に社会全体へ悪影響を及ぼす。これは、学校で不登校児を置き去りにすることの弊害と共通する」と述べる。弱い人を思いやり、共に成長する社会へと変化していくことの必要性をアピールした。多様性に耐えられるシステムを作ることが、国、企業、組織の発展につながると、強いものだけが勝っていく社会に警鐘を鳴らした。
清水 郁実さん(2018年度卒)「5分でわかる米大入試」
現在、カリフォルニア大学サンタバーバラ校に在学中の清水 郁実さんは、自らの経験を活かして、アメリカの大学入試とはどんなものなのかを紹介した。
清水さんによると、アメリカの大学入試には「高校の成績」「共通テストの成績」「課外活動」「推薦状」「エッセイ」という5つの要素が必要だという。高校の成績は、0から4.0までの数値で評価され、「N高生なら、気を抜かなければオール4がとれる」とアドバイスする。共通テストはTOEFL、SAT、SAT Subject Testだが、合格ラインがあるわけではなく、受験者を判断する材料のひとつだという。だが、2020年に関しては「めちゃめちゃいいお知らせ」として、コロナウイルスの影響で共通テストがなくなるらしい、と清水さんは話す。
さらに課外活動として、中3以降の部活動、ボランティアの経験、大会の受賞歴などを記入する。推薦状は大学によって求められる枚数は異なるが、高校の教員からのものに加え、学校内外の評価をまとめた推薦状も対象となる点は日本の大学入試とは大きく異なる。日本の入試では馴染みがないエッセイでは、「小論文のようなもの」を決められた時間内で書くのではなく、数ヶ月かけて100ワードから650ワード程度の文章を個人的な体験を元に仕上げるのだという。
清水さんは米国大学入試を紹介する本などにも目を通し、見事にカリフォルニア大学に合格。「アメリカの大学は大変だけれど、有意義な勉強ができている。ぜひ他の人もめざしてほしい」と語った。
佐々木 雅斗さん(2018年度卒)「スマホで故人を偲ぶサービス『葬想式』」
佐々木 雅斗さんは、自ら開発したスマホで故人を偲ぶサービス「葬想式」について紹介してくれた。佐々木さんは中学生の頃からアプリ開発を始め、N高の卒業式の際にも自分の顔写真を表示したロボットで卒業証書をもらう、というパフォーマンスを行なった人物だ。
同サービスは、自分の祖父が亡くなったとき、会場で思い出の写真をスライドショーにして流したことがきっかけで生まれた。祖父の若き日の姿をスライドショーで流したことに、葬儀に訪れた人からも喜びの声があがったという。佐々木さん自身も祖父の写真を見ているうちに、孫として接していただけでは見ることがなかった祖父の表情を写真で発見したそうだ。
この経験がベースとなって、距離と時間を超えて故人を偲ぶサービス「葬想式」を着想した。利用者は基本情報を登録し、葬儀の参列者や関係者にリンクを知らせることで、懐かしい姿を見るだけでなく、亡くなった人へのメッセージや思い出などを書き込むことができる。すでに葬儀社との連携も実現しそうな見通しだという。
佐々木さんは自らの経験を踏まえ、「学生だからこそ、友達と一緒にプロジェクトをやるべき」と呼びかけた。学生のうちは時間もとりやすく、儲けを考えず好きなことに挑戦しやすい。アプリやサービスの開発だけでなく、音楽、小説など、なんでもいいから学生のうちに、同じ志を持つ仲間とプロジェクトをやるべきだと訴えた。
高校生が本気で起業に挑戦する「N高起業部」がピッチを披露
続いては、N高起業部によるビジネスプランのプレゼンテーションが行なわれた。高校生が考えるビジネスは、どれくらい通用するのか。NED2020でゲスト講演に登壇した翻訳家の関 美和氏と、SHOWROOM株式会社 代表取締役社長の前田 裕二氏が審査員を務めた。
霜田 哲之介さん(高3)「翻訳付き日英SNS『FreFre』」
トップバッターの霜田哲之介さんは、外国人と日本人が助け合ってコミュニティを作る翻訳付き日英SNS「FreFre」を紹介した。2020年は東京オリンピック開催がなくなり、コロナウイルス禍で来日外国人はすっかり姿を消した感がある。それなのに外国人向けSNSをやる意義はあるのか?と考えてしまうところあったが、霜田さんはこんな時期だからこそ、外国人向け情報が必要な場面もあると感じたという。
霜田さんは、「日本在住の外国人には、10万円の特別定額給付金が支給されるのに、『情報を知らなかった』という声があった。日本語が十分にわからない人にも必要な情報を届けるために、“助け合い”を目的にしたSNSの必要性があると感じた」とアピールした。
同サービスについて前田氏からは、「翻訳機能はFacebookなど大手SNSにも採用されている。それに対してFreFreはどんな価値を持つSNSなのか?」と意見が出た。これに霜田さんは、「コミュニティの形成に力を入れ、コミュニティの活動できる場として活用されるSNSにしていきたい」と述べた。
今後は日本にある外国人コミュニティや大学の国際交流サークルなどで宣伝活動し、テスト版から正式版のリリース、会社の設立、コロナ禍が終息した後ではフィリピンに行ってプロモーション活動を行うことも予定している。さらに霜田さんは大学でAIを学び、FreFreの機能に新しい技術を取り入れたいと抱負を語ってくれた。
三橋 龍起さん(高3)・中澤 治大さん(高2) 「若者向けキャリア教育支援事業『Unpacked』」
日本は先進国のなかでも自殺率が高く、その原因は受動型教育にあると考える三橋 龍起さんと中澤 治大さんは、若者向けキャリア教育支援事業「Unpacked」のビジネスを考案した。
日本は受動型教育の影響で、受け身で生きている人が多いが、それを変えていくために次世代の進化のきっかけを作る。「U18キャリアサミット」は、多くの高校生をターゲットとしたもので、「なんとなくから卒業だ」として高校生が何者かになることを支援する大型イベントを開催する。収益は企業からの協賛金でまかない、これまで7か月で34の企業から協賛を受けた実績がある。「みらい事業部」は、ハイエンド高校生をターゲットに、企業と高校生が一緒にイベントや事業を作っていく。こうしたイベントなどを通して、高校生に機会を提供し、進化していくことを目指す。
競合優位性については、単なるイベント屋に終始しないよう、参加した高校生には教育機関と連携し、大学受験にも利用できるような修了証を提供する。さらに高校生には、インターンや海外留学など次のステップにつながるような出口を用意し、高校生の成長を支援していく。企業ではなく、高校生が主体となって同じ高校生の成長につながるイベントを企画する団体であることが競争優位点だという。
これに対し関氏は、「高校生イベントへスポンサードする企業側にはどんなメリットがあるのか?」という質問が上がった。これに対しては「高校生への企業認知度向上とともに、ニーズ調査、U18市場への事業展開、CSR的なメリットも得られるのでは」と説明。前田氏からは、ビジネスのKPIはなにか。イベントの積み上げで収益を築くのはではなく、掛け算でビジネスをスケールできる展開を考えていく方がよいとコメントがあった。
高木 俊輔さん(高3)「個人向け助成制度提案ICTサービス『civichat』」
“必要な福祉が必要な人に届く”ことをめざした個人向け助成制度提案ICTサービス「civichat」は、高木 俊輔さんの個人的な経験から生まれた。自身が高校を中退し、N高に編入した際に必要な情報が得られず、公共リソースやコミュニティが必要になっても、「認知していないワードを検索することはむずかしく、本当に必要な人がそのサービスを知らない事態になっている」ことを経験したというのだ。助成金が用意されていても、その助成金のターゲットとなる人が存在を知ることなく終わってしまうという事態が起こってしまう。
そこで質問に答えていくだけで、その人にぴったりな制度を検索することができるサービス「civichat」を開発した。助成金の名称を全く知らない人でも、自分の状況を答えていくだけで、受けられる補助金や支援策を探し出してくれる。また面倒な申請手続きもLINEから簡単にできるようにするという。
高木さんは、必要なサービスに届いていない人がたくさん存在し、市場規模としては817億円規模があると指摘する。マネタイズは申請を代行する際のマージンによって得ることを想定している。
前田氏は同サービスについて「非常に良いビジネスモデルだと思う。ただし、civichatという名称は本当に必要な人に、自分には関係ないと思われてしまう名称では?」と指摘する。名前に作り手側の“思い”が込められすぎていて、本当に必要な人は自分に関係ないと思われてしまう。「“ニコニコ”のように肩の力が抜けたユーザー視点の名称が良いのでは」とアドバイスは、実際に事業をしている人ならではの指摘だ。
イベント後半の、N高生から関氏、前田氏、夏野氏に質問をするコーナーでは、「英語の勉強は、今後ビジネスをしていく上で必要ですか?」など率直な疑問が寄せられた。それに対しては、翻訳家である関氏はもちろん、海外で仕事をしていた時期もある前田氏も英語は堪能ながら、「英語だけでなく、ビジネスパーソンとして成長していくためには、この分野では誰にも負けないという要素が必要」と助言するシーンも。
これに応答しているN高生の様子を見ると、指摘を受けて返答していくなかで次第に合点がいくのか、回答を聞いているうちに表情が変わっていく。短い時間の応答ではあるものの、自分の疑問とそれに対する回答を聞いて、すぐに取り入れて行くN高生の意欲と前向きな姿勢を感じさせるイベントとなった。
以上のように、NED2020ではN中等部やN高生を中心に、多様なアイデアをもつ生徒たちが登壇し、自分が抱えているアイデアや想いを聞かせてくれた。どの生徒たちの発表も、自分たちの想いがベースにあり、そこから“なにかできることはないか”と行動に移せているところが印象的だ。
そうした発想を持てるのは、もちろん自分が掲げたゴールをめざす意思の強さもあるだろうが、N中等部、N高のもつ学校文化も影響を与えているだろう。自分を感化できる学びの場で、社会を変えていく人材に成長してほしい。