こどもとIT
YouTubeチャンネルを持つ現役教師が実践する、オンライン授業とは?
――青山学院中等部・高等部の安藤昇氏によるEDIX講演レポート
2020年10月12日 08:00
コロナ禍の教育現場では、オンライン授業にチャレンジしている教育者が多くいる。新しい機材を試したり、生徒がより参加しやすい授業を考えたりと、現場では試行錯誤が続いているだろう。
一方で、オンライン授業を得意とする教師は、どのような授業を実施しているのだろうか。自身もYouTubeチャンネルを持ち、教育に役立つ情報などを積極的に配信する青山学院中等部・高等部の安藤昇氏の取り組みを紹介しよう。同氏は「先生のためのオンライン教育講座」と題して、2020年9月18日に開催されたEDIXの講演に登壇。本稿は、その内容を元にレポートする。(※注:本稿で使用したスライド画像は安藤氏より提供)
本格的なオンライン授業を迅速に実施できた2つの理由
まずは、簡単に安藤氏の紹介をしよう。同氏は2019年3月まで佐野日本大学高等学校・中等教育学校に在籍。その後は東京へ移り、現在は青山学院中等部・高等部で数学と情報を受け持っている。その傍ら、自身でもYouTubeチャンネルを開設して積極的に教育に役立つ情報を配信したり、マイクロソフト認定教育イノベーター「Microsoft Innovative Educator Fellow2020-2021」に認定されるなど、多方面で活躍中だ。
安藤氏は、自身がオンライン授業を抵抗なく始められた理由として2つ挙げた。ひとつは、前任校で放送部の指導をしていたことだ。安藤氏が率いた放送部は、NHK杯全国高校放送コンテストの創作テレビドラマ部門において、県大会で14連覇し、全国大会でも2度の準優勝を経験。同校を上位進出の常連校へと育てあげた。
この前任校の放送部における20年もの指導経験が、現在のオンライン授業に大いに活かされているという。クリアな音声、明るい照明、授業スライドと人物の合成など、今では多くのオンライン授業でよく見かけるスタイルも、放送部での経験があったからこそ自然なカタチで取り入れられた。安藤氏はオンライン授業を始めた当初から、このカタチで進めていたようだ。
そして2つ目の理由は、2019年4月からBS日テレとHuluで配信されているプログラミング番組の講師を務めたことだ。放送部を指導していた時代は、撮影・編集方法を指導するだけだったが、講師としてテレビに出るようになり、見せ方のノウハウを学ぶようになったというのだ。
「放送回数を重ねるごとにカメラに向かっての話し方、目線の置き方を学びました。日テレのアナウンサーに教わったのですが、これはいい勉強になりました」と安藤氏は語る。
一方で同氏は、もともと自身の話し方には自信がなかったと本音を打ち明けた。「自分は舌足らずで、皆からもバカにされたり、教師には向いてないのではないかと思う時期もありました。しかし、そのコンプレックスがバネになり、人より劣るから、それをテクノロジーで補うという信念に変えました」と語ってくれた。
そんな安藤氏であるが、東京への引越しを機に、自分専用のスタジオを作ったという。「放送部を指導しながら、いつか自分専用のスタジオを持ちたいと常々思っていました。椅子に座ったらすぐに配信できるような自分専用のスタジオを⋯⋯」と語る。そして、そのスタジオは2019年11月に完成。もちろん、同スタジオの存在もオンライン授業に大きく貢献したようだ。
コロナ禍の休校でも、いきなりハイブリッド授業からスタート
コロナ禍の休校期間中は、多くの学校でオンライン授業が求められたが、残念ながら実現できた学校は少なかった。そんな中、安藤氏は即座にオンライン授業を実施し、しかも、いきなり同期型と非同期型を取り入れたハイブリッド形式の授業を実現した。オンライン授業については、どれも学校の授業とは思えないほどのクオリティで、生徒たちとのコミュニケーションを重視した、楽しい授業の様子が伝わってくる。
たとえば数学のオンライン授業では、安藤氏の説明に対して、生徒たちが「いいね」や「ハート」マークを送ったり、さらにはニコニコ動画のように入力したコメントが字幕で流れるなど、生徒たちが楽しく参加できるよう工夫されている。これは、ビデオ会議サポートツール「Comment Screen」を利用したもので、安藤氏は、生徒たちが書き込んだコメントを見ながら、即座に返答したり、語りかけたりする。「生徒たちが気軽に質問でき、その内容に対してすぐに返答できるのがメリットだ」と同氏は語る。
また安藤氏は、オンライン上でグループ活動も実施している。使用しているツールは、「spatial.chat」と呼ばれるオンライン交流ツールだ。これは、参加者のアイコンの位置が近いもの同士、音声が聞こえる仕組みで、たとえばグループ1にいる生徒が、自分のアイコンを動かしてグループ2に移動すると、グループ1の音声は自然に消えて、グループ2の音声が聞こえるというもの。グループ活動などで、「他のグループの様子を見に行ってくる!」といったことがオンライン上でできてしまう。
安藤氏の場合は、生徒たちをグループ1からグループ4に分けて、自由にグループ間を移動しながら、与えられたテーマについて話し合う活動などを行なっている。
生徒たちに人気の教育版マインクラフト「Minecraft: Education Edition」もプログラミング教材として、オンライン授業に活用している。安藤氏はMicrosoft Azure上に教育版マインクラフトのサーバーを立ち上げ、中等部の生徒にマインクラフトの世界で、プログラミングを用いた協働学習を実施。生徒たちはウィズコロナの世界をグループで考え、三密を意識した街づくりに挑戦。プログラミングを用いて自分たちのアイデアを、マインクラフトの世界で表現した。
オンラインで顔出しは嫌だという先生にお薦めのツールとして「FaceRig」を取り上げた。先生の表情をキャラクターにトレースしてくれるので、本当にキャラクターがしゃべっているような授業ができる。オンラインでもユーモアな場面が作れそうだ。
このような実践を行なう安藤氏は、テクノロジーを活用すれば双方向型のコミュニケーションやコラボレーションを生み出すことは可能であり、「オンラインでも『主体的・対話的で深い学び』ができる」と語った。また典型的なオンライン授業のスタイルでは、生徒たちが飽きてしまうと指摘。飽きさせないようにするためには、オンデマンド型、自己学習型、リアルタイム型を組み合わせたハイブリッド型授業が求められるだろうと語った。
これからの教員に求められること
安藤氏はオンライン授業の実践を通して感じた、これからの教員に求められることを3点をあげた。
1. 普段からオンライン授業を意識した対面授業をする
2. インストラクショナルデザイン(完全にオンラインにシフトしたときの授業設計)
3. ネオ・デジタルネイティブ世代を意識した教育設計
普段の対面授業のときから、スクリーンに資料を提示したり、教師の顔を映したりと、オンライン授業と同じような進め方を経験しておくことが大切だ。そうすることで、生徒たちの反応もつかみやすく、オンライン授業へもシフトしやすい。安藤氏は、「生徒の反応や息遣いを感じられるので、いざオンライン授業に変わっても、その先にいる生徒をイメージしやすい」と語る。
逆に生徒たちも、教師がオンライン授業をどのように進めているかが分かり、互いに空気感を読むことができるようになるというのだ。安藤氏は「このような形から始めて、オンライン環境に慣れていくことが一番重要だ」と述べた。
とはいえ、安藤氏はオンライン授業が万能だとは考えているわけではない。一斉に知識を教えるような授業スタイルであれば、今すぐオンライン授業に置き換えても何の支障もないが、実習や実験などテクノロジーで補えないものもあり、そこは見極めが大切だと話す。
また、完全にオンライン授業にシフトしたときの教育設計を常に考えておくことも大事だ。なかでも安藤氏は、「双方向性」「リアルタイム」「学習成果の評価方法」の3つに留意して教育設計を考えることが重要だと述べた。「オンライン授業で学習成果をどのように評価するか。既存のテストのような知識を問うテストをオンライン上で実施すると、生徒たちは不正をしてしまうかもしれず、AO入試のような評価方法が必要だろう。採点の手間はかかるが、オンラインではこのような評価方法が重要になってくるのではないか」と語った。
ほかにも、生徒たちはクラウドサービスを使いこなす「ネオ・デジタルネイティブ世代」であり、ネットやSNSで簡単に知識を手に入れ、簡単にシェアする世代だと認識して授業を設計することが重要だという。知識の植え付けだけではなく、いかに活用するのかを教育する。安藤氏は「AI時代を生きていく生徒たちは、ビッグデータからAIが学習したモデルを人間がいかに利用するか、そんな考え方を知っておくことが重要だ」と述べた。
かけっこが得意な人は「速く走っちゃだめ」と言われないのに、勉強はなぜ横並びにしないといけないの?と安藤氏は会場に語りかける。教育は教える方も、教わる方も横並びを好むが、これからは、優れた個に価値が生まれる時代。「これからの時代は密(集団)から散(個人)へ、組織ではなく優れた個性に人気が集まる時代で、この言葉をしっかりと心に刻むことが大切だ」と自らの考えを語った。
オンライン授業は、コロナ禍という側面だけでなく、子どもたちの学習活動を広げる手段のひとつとして、これからますます取り組みが広がっていくだろう。既存の授業をオンライン授業に置き換えるだけでなく、“楽しい”、“ワクワクする“という要素も大切にしてほしい。