こどもとIT
LINEキャラと学ぶプログラミング、「LINE entry」で4年算数の角の学習
2020年10月15日 08:00
一般財団法人LINEみらい財団が無償で提供しているプログラミング学習プラットフォーム「LINE entry」が、東京都八王子市の小学校におけるプログラミング教育導入の取り組みに採用。全市立小学校の4年生約4500人を対象に、LINE entryを用いたオンラインでの出前授業が9月から実施されている。
どのような授業が行なわれているのだろうか。2020年9月17日に八王子市立松が谷小学校で実施されたオンライン出前授業の模様をレポートしたい。
LINEのキャラ「コニー」から“お願いごと”が届く設定で、授業の導入もスムーズ
当日は1人1台のコンピューターが与えられた状態で、スクリーンに映し出された講師を見ながら授業が進められた。
この日のテーマは、「楽しくプログラミング プログラミングで角をかこう!」というもの。講師が「LINEを見たり触ったりしたことはある?」という質問を投げかけると、ほとんどの児童が「ある」と回答。キャラクターの「コニー」も見覚えがあり、名前を知っている児童も複数いた。
画面にLINEのやり取りが表示され、「コニーから4年A組にLINEがきている」という設定で授業が進められていく。
コニーはカメと南の島へ来ており、スイカ割りをするところだという。カメは橋の上にあるスイカを取りに行かねばならないが、道を間違えると橋から海に落ちてしまうというのだ。「落ちるのは怖い」というカメ。
そこでコニーから児童たちに、カメがスイカまで無事にたどり着くために、プログラミングで道を教えてほしいとお願いされた、という設定だ。講師は、プログラミングについて「コンピューターを動かすときに『こんなふうに動いて』と指示を出すこと」だと定義した。
慣れ親しんだLINEのキャラクターから児童たちにお願いごとが届くという導入。しかも実際のLINEと同じようなやり取りでストーリーが進んでいくため、興味を持ってすんなり入っていけそうだ。
紙に書いて頭を整理してから、コンピューターでの作業を行う
授業のゴールは、「カメに角のプログラムをしてスイカまでたどり着けるようにしよう」というものだ。地図によると、13メートルまっすぐ進み、90度右に曲がり、20メートル進めばスイカにたどり着く。
作業前に講師から、3つの約束があった。1つめは「こまったら、まず周りの人に声をかけよう」。2つめは「声をかけられたら、最初はヒントから」。3つめは「コンピューターやタブレットでプログラミングをするときはゆずり合って使おう」だ。すべての児童が学べることを意識した声かけだ。
プログラミングの授業だが、いきなりコンピューターを使うのではなく、紙にプログラムを書いてからコンピューターに入力するというステップを踏んでいた。選択肢があらかじめ書かれているため、初めて取り組む児童にもわかりやすい。
プリントに「○メートル」または「○度」を書き込んだ上で、「前に進む」「右回りに回転させる」のどちらかを選び、紙の上でプログラムを完成させるようになっている。
講師の解説に続いて、いよいよプリントに書いたプログラムをコンピューターで実行する作業となる。講師からは、プログラムのブロックの動かし方について、「マウスの左ボタンを一度だけクリックして長押しして移動させるとくっつく」と解説。さらに、数字の入力方法についても丁寧に説明していく。
自分が組み立てたプログラムが実行されると、その途端、児童たちから成功したことを喜ぶにぎやかな声があがった。
成功した児童の一人から、「13メートル進んで、90度だけ右に回転させて、20メートル前に進む」というプログラムの発表があった。そのとおり画面で実行すると、カメは無事スイカに到着することができた。
ここで本日の学習目標でもあったプログラミングの基本、「順次」について講師が解説。実行したい処理を順に並べて、上から順番に実行されるというプログラミングの基本を児童たちは学んだ。
コニーがプログラミングに失敗!理由と「外角」を児童に考えさせる
児童たちによって最初のプログラムが成功し、コニーから「ありがとう」というメッセージとともに新しいコースの地図が届く。ところが、今度はコニーが自分でプログラミングをするという。
コニーのプログラムは、「5メートル前に進む、右回りに115度だけ回転させる、19メートル前に進む」というもの。講師からの「これで成功すると思う?」と問いかけの後、プログラムを実行して確認することになった。すると、カメは橋から落ちてしまった。
ここで、児童たちにコニーのプログラムを直す課題が出される。講師から「どこを直すといいのか」と投げかけられると、角度がポイントと考えた児童たちからは「25度?」「75度!」「65度?」と様々な意見があがる。そこで、児童たちは自分で考えてプリントに書いたプログラムを入力し、実行して試してみることになった。
成功できた児童は、「5メートル前に進んで、右回りに65度だけ周り、19メートル進む」と発表し、65度の部分は、「180−115=65度」という計算で導き出されると説明した。講師がそのとおり実行すると、カメはうまくスイカにたどり着いた。
プログラミングのポイントは「外角」だ。そこで講師が、115度を実感するために「右手を前に出して、右回りに115度回転させてみよう」と、児童たちに実際に試してみせた。こうすることで、明らかに周りすぎになってしまうことがわかる。「カメの気持ちになって考えると、曲がりすぎということがわかるね」と声かけをした。
続いて、「180−115=65の180度とは何の大きさか」という問いかけがあった。180度とは、直線の角度の大きさのことだ。カメはまっすぐ前に進んでいる、つまり直線の状態だった。内側の角度がわかりその数字を引けば、正しい角度、つまり「外角」が見つけられたというわけだ。
その後、みんなで正しい数字を入力してプログラムを実行し、正しく動くことを確認した。
講師からは、「65度じゃなくても成功した子は? 65度じゃなくてもうまくいく。体を動かすとわかるかもしれない」という発展的な声かけもあった。児童からは、「左回りがあればいいのに」という声も上がる。
外側の角度の出し方がわかれば、複雑なコースにも挑戦できるようになる。講師からは授業で学んだことの続きがワークシートにも載っていること、児童からも声があがった左回りブロックも用意されていることを紹介。「家のタブレットやパソコンでも同じ教材にチャレンジできるので、いろんなプログラムを作って楽しんでみて」という声かけがあった。
最後にまとめとして、「プログラムは上から順番に実行される(順次)。カメの向きを考えた外側の角度(外角)のプログラミングが必要」という2点について振り返ったところでこの日の授業は終了。講師の「もっとチャレンジしたい?」という問いかけに、児童からは「はい!」という元気な声があがった。
授業でのねらいがはっきりしているLINE entry
授業の感想を児童男女1人ずつと担任教諭に聞いた。男子児童は、「角度はどうやったら成功するかなど考えなきゃいけないことがあって、難しかった。でも、成功したときに楽しかった。次はプログラミングでゲームを作ってみたい」とゲーム作りの意欲を語り、女子児童は、「プログラミングに算数が関係していると知らなかったので面白かった。プログラミングで算数を勉強すると、いつもより面白い気がした」と算数への興味関心が増したという感想を語ってくれた。
担任の男性教諭は、「LINE entryは子どもたちも『わかりやすい』『興味を持ちやすい』と言っており、熱心に取り組んでいた。算数は受け身のことが多いが、今日は自分で積極的に試していたのがよかった」と話す。失敗が怖くて試せない児童がいたので、「とりあえずやってみよう」という声かけを心がけたそうだ。LINE entryは、「ねらいがはっきりしており、ブロックも特化していたのでわかりやすく、算数の角の授業にはうってつけだった」という。
多くの子どもたちはLINEに触れたことがあり、導入としてLINEでのメッセージやキャラクターがあると親しみを感じやすくなる。また、LINE entryはプログラミング初心者の子どもにもわかりやすく、学びにつながる授業であると感じた。
教師にとっても無料で使えることや、授業で使えるスライドやワークシートも用意されているのは心強い。この春から小学校でのプログラミング教育は始まっているが、コロナ禍でなかなか手が回っていない学校もあるだろう。このようなツールでプログラミング教育をはじめてみるのも良いのではないだろうか。