こどもとIT

社会を変えたい!N中等部・N高の在校生が語る「今、自分が熱くなっているもの」とは

――プレゼンテーションイベント「NED2020」レポート前編

学校法人角川ドワンゴ学園は、小学4年生から卒業して数年経っている人まで、N中等部やN高等学校(以下N高)に関わった面々が登壇するプレゼンテーションイベント「NED2020」を実施した。同イベントは、8月16日に行われた「ニコニコネット超会議2020夏」の「N高ネット文化祭2020」の一環として開催され、N高で学んだことを活かして新しい一歩を踏み出そうとしているメンバーが、世の中を変えていくことや、自分が変わっていくきっかけとなったことをアピールした。

学校法人角川ドワンゴ学園の在校生・卒業生が登壇するプレゼンテーションイベント「NED2020」。今年はオンラインで開催

「NED2020」のNEDとは、「N(N高)」「Expression(表現)」、「Discovery(発見)」の頭文字を集めた言葉で、生徒たちがオリジナルのアイデアを見つけ、広げるために表現する“場”をコンセプトにしたプレゼンテーションイベントだ。2回目の開催となる今年はオンラインで実施、今までの学校教育にとらわれず、先進的で多様な教育を実践する同学園は、教育分野で存在感が増してきており、全国から多くの生徒が集まっている。そんな既存の学校教育とは異なる学び方に触れている子どもたちが、何を表現し、伝えようとしているのか、とても興味深い。前後編の2回にわたり、そのプレゼンテーションの中身を紹介しよう。

社会を変えていきたい。想いが伝わる在校生プレゼンテーション

最初の「在校生によるプレゼンテーション」では、N中等部、N高の在校生、N高のプログラミングメソッドを活用したプログラミング教室「N Code Labo」所属生徒が登壇。小中高生が、日頃感じている社会の課題を解決するためのアプリやアイデアを発表した。

鈴木 徳文さん(小4)「初めての自作ゲーム」

「初めての自作ゲーム」をプレゼンテーションした小学4年生の鈴木 徳文さんは、今回の最年少発表者だ。2020年4月にN Code Labo ジュニアコースに入会し、プログラミングを学んでいる。ゲーム作りをしてみたいと考えていたものの、どうすればゲーム作りができるようになるのか、方法がわからなかったことから参加を決めたという。

「初めての自作ゲーム」小学4年生 鈴木 徳文さん

「今はスクラッチを使ってゲームを作っています。リンゴキャッチゲームを作りました。自分でゲームが作れて嬉しかったです。むずかしかったのは、重力セットアップが解決できなかったところです」と自分の手でゲーム作りを作ることができた喜びを語った。現在は2作目のゲーム作りを進めているという。

七島 海希さん(中2)「まちなか防災キャンプ」

N中等部ネットコースで学ぶ中学2年生の七島 海希さんは、災害対策システム「まちなか防災キャンプ」のアイデアを発表。日常から災害対策を実現するために、ブロックチェーンを使って通貨の代わりに「優しさポイント」を流通させ、災害の際に災害地域に水や食料を寄付すればポイントがもらえる仕組みだという。「今回の新型コロナウイルスの時にも有効なのではないかと思います」という。

「まちなか防災キャンプ」N中等部2年生 七島 海希さん

さらに七島さんは、「専門の防災食は値段が高い」ことから、1年や半年単位で取り替える長寿命食品や防災食を作り、それを防災食としてはどうか?と提案する。素材として福島県で作られた食品を利用し、子ども向けやハラルフードの非常食を作るアイデアも披露。「福島の優しさを他の地域にも流通させたい」と、優しさポイントから誕生した非常食を全国流通させるという夢を語った。

園田 直樹さん(中3)「科学教育に足りないもの~科学技術で社会を変えるために~」

「小・中学校の科学は教養に固まりすぎていて、研究の世界に触れていない」と感じていたという、N中等部通学コースに通う中学3年生の園田 直樹さん。研究してこそ学ぶ意味が感じられるとし、探究型教育や研究特化型スキル学習を取り入れた新しい教育をつくりたいと主張した。

「科学教育に足りないもの~科学技術で社会を変えるために~」N中等部3年生 園田 直樹さん

「研究のプロセスでは知識を応用したり、さまざまなスキルが必要になったり、いろんなことを学ぶ」と語り、自分自身が研究を行ない、科学について理解していく中で、「科学は人を快適にさせる仕組みを作るもの。科学には知識を活用する能力が必要。すべての人が、平等に受けられる教育を」と基礎だけでない科学教育の必要性を訴えた。

広瀬 楽人さん(中3)「『夢』を追いかける楽しさ」

同じく「教育を変える」を実現すべく、様々な挑戦を行なっているのはN中等部1期生で現在中学3年生の広瀬 楽人さん。現在日本の教育現場が様々な問題を抱えていることに着目し、経済格差、環境格差、教師の多忙化など様々な問題を抱える日本の教育現場に問題意識を持つ広瀬さんは、「輝きたいけど輝けない生徒たちがいる現状を、自分の行動で変えていきたい」と主張した。

「『夢』を追いかける楽しさ」N中等部3年生 広瀬 楽人さん

そのために、日本財団主催のソーシャルイノベーションフォーラム(SIF)に参加。SNSを活用した情報発信を通じて、将来につながる人脈つくりや技術習得につながったという。広瀬さんの視野は国内にとどまらず、海外へと広がる。「世界には1日200円で生活している人が7.3億人います」と広瀬さんは訴える。しかしそうした人々も、Googleなどの無料のサービスを活用することで、自分も価値をつくることができると語った。「無料は人を試すためにある。その人がどれだけ伸びしろがあり、芯があるのかを見極めるもの。使いこなせば仕事にもできる。行動した人が勝ち」と自らの情熱を信じて行動するよう訴えかけた。

深町 優雨さん(高2)「私のマイプロジェクト~家庭菜園始めました~」

島根県在住のN高2年生である深町 優雨さんは、島根を元気にするため多くの人に島根を知ってもらう必要性を感じて、情報発信に取り組んでいた。そこで、県外研修として大分県での民泊体験を通して知った「田舎ツーリズムの実践」に取り組んでいる。

「私のマイプロジェクト~家庭菜園始めました~」N高2年生 深町 優雨さん

「私が思う地域活性化は、地域の中から盛り上げること」との観点から、両親から耕作放棄地を借りて家庭菜園をはじめ、地域の人が楽しみ、子どもたちが学べる居場所作りに取り組んでいる。2020年は新型コロナウイルスの影響で例年よりも時間があったことから、深町さんは毎日畑作りに取り組んだ。それでも人手が足りず、地域の子育てサークルの手も借りて、耕作放棄地は立派な畑に生まれ変わったそう。単なる情報発信ではなく、“実践者”として畑作りに取り組んだ深町さんは、「秋には大きなイベントを開催する準備を進めています。パーマカルチャーの勉強も進めています」という。

高木 皓介さん(高3)「Webアプリ主体のOS」

N高ネットコース3年生の高木 皓介さんは、「Webには汎用性、発展性がある一方、色々なレイヤーを重ねているため、パフォーマンスが遅い。その欠点をカバーしようと専用OSを考えた」という。

「Webアプリ主体のOS」N高3年生 高木 皓介さん

パソコン、スマートフォン、ウェアラブルデバイス、VRゴーグルなどの次に来るものは何かを考え、国際的な規格があり、マルチデバイスに対応している「Webアプリ」が主体になると推測。そこで、ブラウザを使うことに特化したOSを生成するソフト「GliderGun」を開発。このプロジェクトは2020年度の未踏ジュニアにも採択されている。今後はデジタルサイネージなどへの利用を見込み、設定の簡略化やモバイル活用、「次のデバイス」への応用など、さらなる発展を目指していくという。

伊東 愛央衣さん(高1)「『医療』×『貧困・紛争・差別・虐待』に関する私の見解とNGO設立に向けて」

N高1年生の伊東 愛央衣さんは、人種差別問題、紛争や内戦によって生まれる難民、十分な食料がないことによる栄養失調、紛争や内戦に加担していく少年少女、性暴力、教育を受けられない子どもたちなどの問題を憂慮。また、十分な医療を受けられず、ワクチン接種率が低下することによる病気の蔓延といった、全世界へのマイナス影響が起こることも指摘した。

「『医療』×『貧困・紛争・差別・虐待』に関する私の見解とNGO設立に向けて」N高1年生 伊東 愛央衣さん

そんな状況を変えるために伊東さんはNGO団体設立を目標とする。紛争地域に住む人や難民、虐待を受けている人などへ食料、医療などの支援を行うと共に、差別を受けている人も含め自立につながるような支援を行うためのNGOだ。このNGOでは医療などの支援にとどまらず、困難に直面している人の様子を報道で訴えていくことで、団体の知名度向上などを実現し、NGOに賛同する人の数を増やしてくことを目指していくという。伊東さん自身も、「医師免許を取り、国境なき医師団に加わることも考えています」と行動しながら、世界が抱える問題解決に取り組んでいく方針をアピールした。

以上がNED2020の前半に行なわれた、在校生によるプレゼンテーションだ。約3分という持ち時間に、一人ひとりの個性と信念のあふれる情熱的な発表が印象的だった。後半では、同校の卒業生と起業部によるプレゼンテーションを紹介していく。

三浦優子

日本大学芸術学部映画学科卒業。2年間同校に勤務後、1990年、株式会社コンピュータ・ニュース社(現・株式会社BCN)に記者として勤務。2003年、同社を退社し、フリーランスライターに。PC Watch、クラウド WatchをはじめIT系媒体で執筆活動を行っている。