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「プロも青ざめる作品」LEVEL-5日野氏絶賛!中高生ゲームクリエイターの志に満ちた作品が集結
ーー日本ゲーム大賞2020「U18部門」決勝大会レポート
2020年10月5日 08:00
2020年9月27日、「東京ゲームショウ2020 オンライン」の最終日に、次世代を担うゲームクリエイターの発掘をめざすゲーム制作コンテスト「日本ゲーム大賞2020 U18部門」(主催:一般社団法人コンピュータエンターテインメント協会)の決勝大会が開催された。
今年で3年目を迎えた同コンテストには、7歳から18歳まで幅広い年齢層のゲームクリエイターが挑戦。決勝大会には予選大会を勝ち抜いた6名のファイナリストが登場し、オンラインによるプレゼンテーションで熱い闘いを繰り広げた。子どもたちの想いが詰まった作品と、大会の様子をレポートしよう。
評価ポイントは「独創性」「ゲーム全体の完成度」「プレゼンでの表現力」
「日本ゲーム大賞2020 U18部門」は、18歳以下の次世代クリエイターの発掘を目的としたゲーム制作コンテスト。テーマの指定はなく、自由な発想で独創性あふれる作品を広く募集し、1名から最大5名までのチームで参加できる。
今年はコロナ禍のため、予選と決勝はオンラインで開催。決勝大会には、予選大会を通過した12作品の中から、さらにプロのクリエイターによる試遊審査と、プレゼンテーションの評価が高かった6作品が選出された。
作品の審査のポイントは2つ。ひとつは作品としての面白さはもちろん、独創性や真新しさ、ゲームを実装するうえでの無理のない構成力やアート性などの総合的な観点と、もうひとつは、作品の魅力を伝えるプレゼンの表現力となる。最終プレゼンでは、オンライン開催であったが、ファイナリストたちの静かな情熱が感じられた。決勝大会に残った各作品を見ていこう。
ゲームの世界観とこだわりを自分の言葉で伝える、最終プレゼンテーション
I want to beat SUIKA!!チーム作「Terrarium」
茨城県立竹園高等学校の伊豫 冬馬さん、園部 紘羽さん、中村 和明さんが開発した「Terrarium」は、2Dの横スクロールシューティングゲーム。家で飼われていたヘビが、縁の下の世界に出てさまざまな虫と戦いながら地上をめざすストーリーだ。プレイヤーが操作する自機(ヘビ)は頭部と胴体のそれぞれにHPがあり、胴体の一部を切り離して撃つショットで敵を攻撃できる。
作品の最大の特徴は、ユニークな自機によって多彩な戦術を楽しめることだ。昨年も「幽体離脱」というパズルゲームで決勝大会に出場した伊豫さんは、プレゼンで作品の核である戦術性についてわかりやすく解説した。また、自機が三角や四角など抽象的な図形がモチーフになっているのに対して、敵である虫はわかりやすく具体化するなど、ブラッシュアップ後の工夫もアピールした。
昨年は個人制作で応募した伊豫さん。今年はコーディング、イラスト、BGMなど、それぞれの得意分野を持つ仲間と役割を分担してチーム制作で取り組んだ。「作業効率は上がったが、個人のこだわりをどう取り入れるか、新たな難しさを感じた」と制作を振り返り、期限が迫るなかで多くの決断が求められる、チーム制作の貴重な体験を語ってくれた。
須田 隆介さん作「Stellar Steam」
“無重力空間では絶対的な上下方向が定義できない”、この着想から生まれた「Stellar Steam」は、回転のアクションが特徴的なシューティングアクションゲーム。プレイヤーはステージごとのミッションをクリアして、次のステージをめざす。
本作の魅力は「回転アクション」という斬新なテーマでありながら、レトロな雰囲気にこだわった点で、BGMを最大4音で作曲したり、主人公や敵キャラ、ステージごとのテーマソングを組み合わせて、懐かしくも重厚な世界観を表現した。また、最も重要な「回転アクション」についても、操作性を工夫。ゲームの序盤で、ひとつひとつのアクションを実践するチュートリアルステージを配置したり、プレイヤーが自分の位置を見失わないようにミニマップのUIを改善するなど、プレイヤー目線の工夫を加えた。
「この作品で遊ぶプレイヤーを、どのような感情にさせたいか?」という日野氏の質問に対して須田さんは、「回転を駆使して敵の攻撃を回避したり、敵をロックオンして次々と撃ったり、操作して気持ち良いと思ってほしい」と答えた。本作が初のオリジナル作品となる須田さんのプレゼンは、「上下」と書かれた紙を持って説明する姿が印象的だった。
夏目 駿さん作「void」
「void」はフィールド内のピースを動かし、特定の形を作るとクリアになるパズルゲーム。最大の特徴はフィールド内に生まれた余白(void)を「反転」させることで、ステージごとに提示されるお題にそって、余白を反転して生み出したパーツを組み合わせて目標となる図形を作る。
シンプルなのに思考力が問われるパズルは予選でも好評で、審査を行ったクリエイターからは「難しいけど、どんどん解きたくなる」という声が上がったようだ。それを受け、今回の決勝では難易度の低いステージを追加し、ステージ数を20個から30個まで拡張した。また、ビジュアル面もブラッシュアップされ、パズルのフィールドに表示されるアニメーションを新たに6つ追加。パズルを通して不思議な世界につながるような没入感を表現した。
今後さらに発展させたい部分について夏目さんは、スマートフォンアプリで配信し、多くの人にプレイしてもらって、フィードバックを受けたいと語った。さらに、これまではWindowsに付属しているソフトでアニメーションを作ってきたが、本格的なビジュアルソフトや3Dなど新たなツールを取り入れていきたいと意欲と向上心を見せてくれた。
合田 晴哉さん作「カラクリショウジョの涙と終」
SNS上で“好奇心の鬼”と称された合田さんが挑戦したのは、アニメーションとゲームの融合だ。「カラクリショウジョの涙と終」は、カラクリが暴走して人類が滅亡した世界を舞台に、終わりを探る少女の戦いを描くアニメーションRPG。合田さんは企画、プログラミング、グラフィック、作画のすべてを手がけた。
驚くべきはその膨大な作画量で、たとえば敵を1体追加すると作画数は100枚にもなる。しかし合田さんは、「アニメがゲームでそのまま動く」という再現にこだわり、プレイヤーがアクションを選択しても、キャラが止まることなく、滑らかな動きで戦闘を繰り広げる世界を実現した。「コマンド選択をした際にキャラが止まる違和感をなくすために、キャラクターの行動の際にのみスローをかけ、アニメ特有の臨場感を損なわないようにした」とこだわりを語ってくれた。
予選では、ゲームの容量について指摘されたという合田さん。決勝では画像を圧縮してゲーム全体の容量を1/3に抑え、最終的に1/10までの圧縮を可能にした。進行を務めていたスクウェア・エニックスの時田氏は「1/10まで容量を抑えて、さらに10倍作業できる余地ができたのがすごい。仲間を集めて分担すれば、もっと量産ができる」とエールを送った。
宇枝 礼央さん作「ROLL THE DICE」
「世の中のルールは視点を変えればみんなゲームにできる可能性がある」と語る宇枝さん。本作品のルールは明確で、5マス×5マスの盤上に3つずつ置かれた白と黒のサイコロで競う。1マスずつ交互に転がし、白と黒が隣のマスに来ると目の大きいサイコロが残り、小さいほうが消える。同じ目の場合は両方のサイコロが消え、最終的に自分のサイコロが1つでも残っていて相手のサイコロをすべて消すことができれば勝利となる。
サイコロという普遍的な題材を扱った点と、外国人にもわかりやすい簡潔なルールが高く評価された。決勝では、予選で審査員から提案されたCOM対戦モードを取り入れ、さらに中身を充実。本大会では初の試みとして、ファミ通Appスターズによるプレイ実況動画がYouTubeにアップされたのだが、宇枝さんは自分の作品をプレイしてもらうことで喜びや不安、いろんな感情を知ったと語った。
ゲームを作り始めたころ、コロナで休校になり、友達と離れたり、学校も混乱したと話す宇枝さん。それでも、「日本ゲーム大賞を目指した日から僕は気持ちが安定したし、目標ができました。ゲームを作ることで、未来を夢見ることができたし、予選大会も、今日の本選も自宅にいるのに(参加できて)本当にすごい体験をしていると思う」と語った。またいつかファイナリストになって、今度は会場に立ちたい。それを夢見てこれからもゲーム作りを頑張りたいという力強いプレゼンに、審査員を始め多くの大人たちは思わず目頭を熱くさせた。
藤澤 秀彦さん作「ラビィとナビィの大冒険」
悪の大魔王から奪われた幸せの象徴「セイクリッド・キャロット」を取り戻す、箱庭アクションゲーム。さまざまなキャラクターと会話をしながら敵と戦闘したり、ミニゲームや仕掛けを楽しむことができる。
「製品レベルの完成度をめざす」という藤澤さんの言葉の通り、3Dの広大な世界には細部まで妥協しないこだわりが詰まっていた。たとえば、ウサギのキャラクター・ナビィが前転すると、移動速度が速くなるUIアニメーションで滑らかな操作感を実現。また、地下や水中などフィールドが変わってもプレイヤーをシームレスに世界観へ引き込むBGM、FXの調整を行った。さらに着目すべきは、より多くの人に遊んでもらうための工夫で、コントローラーのすべてのボタンに何かしらのアクションを紐付けるなど、初心者から上級者まで広く楽しめるようにした。また、英語にも対応し、海外ユーザーを取り込む工夫も盛り込んだ。
質疑応答で日野氏は「ゲームの審査で大切にしていることは自分が何を表現したいか、自分の世界観をきちんと持っているかということ。この作品はプロも青ざめる内容だ」と絶賛。藤澤さんはそれに対し、「自分が幼い頃に行ってはいけない、登ってはいけないところを冒険したイメージを原点にフィールドを作成した」と語った。自分の実体験をもとにした世界観とその表現力が見事だった。
細部までこだわり、製品レベルをめざした高校生の作品が金賞
ファイナリスト6名によるプレゼンテーションと質疑応答が終わると、厳正な審査を経て、ついに受賞作品が発表された。結果は以下の通り。
<金賞>
作品名:ラビィとナビィの大冒険
制作者:藤澤 秀彦(芝浦工業大学附属高等学校)
<銀賞>
作品名: void
制作者:夏目 駿(静岡県立磐田南高等学校)
<銅賞>※今回は2作品が受賞
作品名:カラクリショウジョの涙と終
制作者:合田 晴哉(神奈川県立神奈川総合高等学校)
作品名:ROLL THE DICE
制作者:宇枝 礼央(杉並区立東原中学校)
銅賞「カラクリショウジョの涙と終」合田 晴哉さん
審査員の三代川氏は「世界観とアニメーションへの熱意が素晴らしく、プロのクリエイターと変わらない熱意と心をもって取り組んでいる点を評価した」と述べた。それを受けて合田さんは「自分がいちばん伝えたかった部分がそのまま伝わっていた。やりたいことをそのままやったという自分の行為が間違っていなかったと思えてすごくうれしいです」と喜びを語った。
銅賞「ROLL THE DICE」宇枝 礼央さん
受賞の決め手はボリュームよりも、斬新なルール。サイコロ3つで対戦するという、アナログではあるが斬新なアイデアが高く評価された。さらに三代川氏は「予選のフィードバックを受けて、COM対戦を追加した対応力も素晴らしい。コロナ禍で大変な時期に、これだけのことを実現したこと、そして熱いプレゼンにも心を打たれた」とコメントをした。宇枝さんは、「まさか僕が取れるとは思っていなかった。自分だけゲームのボリュームが少なく不安に感じていたけれど、本当にうれしいです」と驚きの表情を見せてくれた。
銀賞「void」夏目 駿さん
審査員の石戸氏は「反転というアイデアから、ここまでみんなを夢中にさせるゲームに仕上げた発想力に驚かされた。グラフィック、サウンド、トータルでの世界観をしっかり構築し、ひとつのゲームとしての完成度が極めて高い点を評価した」と述べた。夏目さんは「ゲームの世界観を認めてもらえて嬉しい。遊ぶ人が限られるゲームだと思っていたが、最終的に、みなさんに没入してもらえる作品に仕上がったのがうれしかったです」とコメントした。
金賞「ラビィとナビィの大冒険」藤澤 秀彦さん
審査員の日野氏は「NFCチップを使ってフィギュアを読み込ませるなど、あらゆる部分にこだわりが感じられた。プロの仕事の領域まで手を伸ばそうとしている精神がすごく大事で、本格的なゲームを作りたい思いや、先輩のゲームクリエイターへのリスペクトなどが作品の端々に詰まっていた点を評価し金賞に選んだ」と語った。藤澤さんは「自分が人生で最後に参加できるU18部門で、自分がいちばん大好きなラビィとナビィと一緒に金賞が受賞できたことがとてもうれしく思います」と語ってくれた。
人を笑顔にする、ゲーム制作の本質に触れた講評
結果発表を終え、激戦を見届けた審査員から講評が述べられた。
三代川氏は審査結果について、すべての作品のクオリティが高く、審査の点数は僅差だったと述べた。試遊審査でのコメントも製品版に対するレビューに近いものが多く、とてもレベルが高いと称賛。なかでも上位に入った作品は、プレイヤーのことを考え、楽しませるという視点を持った作品だったと評価した。「コロナ禍での制作でモチベーションを保つのが難しかったと思うが、作品を作り上げた子どもたちを尊敬しています。これからもゲーム作りを頑張ってください」と激励した。
石戸氏は、毎年大会のレベルが上がる子どもたちの実力を称賛。そして、その原動力に、「好きだからやっている」と子どもたちが語ったことが印象的だったと述べた。「好きを突き詰めるのは簡単なことではないけれど、好きなことをひたすら探求すると、ここまでの技術力、表現力、プレゼン力が身につくことに感銘を受けました。その結果、周りの人を笑顔にして楽しませることがゲームの力だと思います」と石戸氏。これからの活躍に期待したいとエールを送った。
日野氏は、ゲームは最終的に、プレイヤーを楽しませることが本質であり、審査の分かれ目は、どこまでその部分を追求していたかだったと思うと語った。「ゲームはみんなを笑顔にするエンターテインメント。U18ながらプレイヤーを楽しませたいという想いのこもった作品があったのが非常に喜ばしい。これからもU18をずっと見ていきたいと思います」と述べた。
最後、本大会の主催者であるCESA人材育成部会 副部会長庄司卓氏が挨拶。同氏は新たにScratchの作品を応募対象に追加したことで、小学生の応募者が激増したこと、そして再チャレンジの応募が増えたと振り返った。また、今年からの新たな試みとして、決勝大会進出の6作品をファミ通Appスターズが実況する動画を配信したことも挙げた。その影響もあってか、今年は例年以上に「プレイヤーの目線に立つ」という点が大きく注目されたように思うと語った。
筆者自身、未就学の子を持つ母だが、決勝の様子を見てライバルの作品をリスペクトし、受賞のコメントを求められた際にも謙虚さを忘れないファイナリストたちの姿に心を打たれた。また、銅賞を受賞した宇枝さんの「ゲーム大賞への応募を決めてから気持ちが安定した」という言葉に胸が熱くなった。膨大な作業量をものともせず、自分の「好き」を突き詰め、静かな情熱を燃やしたすべての参加者に最大のリスペクトを送りたいと思う。
Scratchが応募プラットフォームに加わったこともあり、これからは小学生の参加者がさらに上位に食い込んでくる展開にも期待したい。