こどもとIT
GIGAスクール構想ラストスパート!1人1台時代に突入したコロナ禍の「EDIX東京」
――第11回教育総合展「EDIX東京」展示会場レポート
2020年9月24日 08:00
2020年9月16日〜18日の3日間、第11回教育総合展「EDIX東京」(主催:リード エグジビション ジャパン株式会社)が幕張メッセで開催された。今年はコロナ禍のため出展を見合わせた企業が多く、また全国から集まる教育関係者らの来場も困難な状況下、3日間合計で10,363人が来場(主催者発表)。例年に比べてやや活気を欠いたように映った。
しかし業界の動向としては、GIGAスクール構想の実現に向けてラストスパートの時期であることや、コロナ禍のオンライン授業への対応など、ICT活用は今まで以上に求められており、関係者らの関心も高い。各ブースでは自治体や教育機関の担当者らが熱心に話を聞き、製品を試す姿も例年通り見られた。展示会場の様子をレポートしよう。
“どの端末を選ぶか”よりも“安定供給できるかどうか”
今年のEDIXで注目したい点は、GIGAスクール構想の端末調達がこの秋でラストスパートを迎える時期に開催されたことだ。EDIX開催前(9月11日付)に文部科学省が発表した端末調達の速報値によると、9月議会でほぼ全国の自治体で予算承認が完了。8月までに調達公示を実施した自治体は58%となり、また年内中に調達公示を予定している自治体が38.2%とある。つまり、約4割の自治体が機種選びの段階であり、このEDIXはそうした自治体を主なターゲットにしているといっていいだろう。
外資系ITディストリビューターのシネックスジャパンは、PCメーカー各社のGIGAスクール対応PCを展示した。Googleや日本マイクロソフト、レノボ・ジャパンなど海外勢がコロナ禍で出展を見合わせたなか、同社はWindowsとChromebookを並べ、来場者がオンラインで商談できるスペースも設置した。
同社のブース担当者に来場者の関心を聞いたところ、「どの端末が良いかといった質問よりも、端末を安定供給できるかどうかを心配する声が多い」という答えが返ってきた。全国規模で膨大な端末が導入されるGIGAスクール構想では、以前から関係者の間で端末の供給を不安視する声もあり、ブース担当者に現状を確認する来場者が多かったようだ。
同社のブースでは、Chromebookの展示がレノボ・ジャパン、日本HP、ASUS JAPAN、デル・テクノロジーズの4社。Windows PCは、日本マイクロソフトとデル・テクノロジーズ、2社の端末を見ることができた。
DynabookもGIGAスクール対応モデルとして、Windows PC「dynabook K50」を展示した。デタッチャブルでタブレットとしても使用可能であり、キーボード入力に慣れない低学年でも使える。同製品のGIGAパックでは、メモや写真、音声を記録できるオリジナルアプリ「TruNoteシリーズ」や、共有や発表に優れたICT活用ノート「dynaSchool デジタルノートクリエイターズ」など、1人1台環境ですぐに活用できるソリューションが含まれている。
コロナ禍で海外PCメーカーの出展見合わせが相次いだなか、唯一、ブースを構えたのがデル・テクノロジーズだ。同社はグローバル市場で強く、日本におけるK-12市場では後発になるが、教育現場で重視される堅牢性に優れた3つのラインナップを展示した。GIGAスクール構想では、Microsoft AzureとSINETを接続した教育ICT基盤を全国初で構築した埼玉県鴻巣市が同社の端末を採用するなど、自治体への導入も進んでいるようだ。
少し変わったGIGAスクール対応PCも紹介しよう。日本では2020年8月に発売されたばかり、組み立て式のWindows搭載2-in-1タブレット「Kano PC」だ。同製品はイギリスの新興メーカーKanoがマイクロソフトと提携して開発したもので、国内販売は株式会社リンクスインターナショナルが総代理店になる。
EDIXでは、カメラ付けてGIGAスクール対応PCとして展示。GIGAスクールの必要スペックもクリアしているという。教育目的で作られたPCであり、コンピューターの仕組みを理解しながら、自分で組み立てるのが特徴だ。
膨大な端末やIDの管理・運用を効率化するソリューションも
GIGAスクール構想では、Chromebookを導入した自治体が多いと言われているが、その理由のひとつは、管理のしやすさだろう。膨大な端末をクラウドベースの管理コンソールで一括管理できるChromebookは、現場の効率化につながり扱いやすい。しかしその一方で、Chromebookの利用に必要不可欠なG Suite for Educationは、海外の教育機関に合わせた設計になっているため、日本の学校現場では児童生徒のID管理など使いづらい部分もあるようだ。
そうした課題解決のソリューションとして注目したいのが、チエル株式会社が提供するGoogle管理コンソール運用支援ツール「InterCLASS Console Support」だ。なかでも同製品は、G Suite for Educationのアカウントで登録できない、日本独自の「ふりがな」や「出席番号」といった学習者情報をデータ化し、管理できるのが特徴。しかも、CSV形式の名簿ファイルから一括登録が可能なので、端末のキッティング作業も効率化できる。
また、キーボード入力に慣れていない低学年向けにQRコードでChromebookのログインをサポートする機能なども備えている。1人1台環境になると、入学・進学・転出・年度末処理など、児童生徒IDに絡む業務も増えるが、こうしたソリューションを予算化し、現場負担の軽減につなげてほしい。
端末管理の面においては、充電保管庫の扱いにも注意したい。エム・ティ・プランニング株式会社のブースでは、同社の充電保管庫と共に輪番方式で端末を順番に充電する機器を展示。1人1台時代、仮に1台40WのACアダプターが40台設置されていると、一般的なコンセントの供給容量1500Wを超えてしまう。長期休暇明けの授業準備のために放電されきった全端末をフル充電しようとすると、教室やフロアのブレーカーが落ちてしまい、翌日登校してみたら充電されていない、といったトラブルになる恐れがあるという。
また同社のブースにはEDIX前日にAppleの新製品発表会で発表された「第8世代iPad」に関する充電ケーブルの問い合わせも早速入っていた。第8世代iPadは充電用ケーブルが「USB Type-C端子-Lightning端子のケーブル」に変更されたため、USB-Aの給電口が多い充電保管庫は、何らかの対策が必要だ。
個別最適化学習に向けて、これから注目したいソリューション
GIGAスクール構想は、年内にも全国の自治体で調達公示が完了する予定となり、2020年度内には日本全国で1人1台環境が整備される見込みとなった。ただ言うまでもなく、1人1台環境で学習効果を高めていくためには、モノの導入だけに終わらず、学習で活用できるソリューションも必要だ。展示会場では例年通り、学習コンテンツや授業支援システムなどを手掛ける企業ブースも見られた。
アダプティブラーニング教材「すらら」や、AIオンライン学習システム「河合塾One for school」など、学習者の習熟度に合わせて学べるデジタル学習ドリルは教育関係者の関心も高い。そのほかにも、授業支援システムでは手書きに優れた「MetaMoJi Classroom」や、一体型電子黒板「xSync Board」と「xSync Classroom」のソリューション展示なども見られた。
そして、1人1台環境になると学習記録や学習プロセス、学習者のモチベーションや満足度など、さまざまな要素を数値化し、データを活かした指導ができるようになるのも注目したい。クラスの生徒がよく間違える問題は何か。学習に対するモチベーションはどうかなど、1人1台で多様なデータ収集が可能になる。展示会場では、そうしたICT活用に有効なソリューションも見ることができた。
具体的には、クラス全体の理解度を把握でき、個別最適化された学びを支援する双方向教材「interactive Study 7」や、学習に対するモチベーションや塾や学校への満足度などを可視化し、集団指導や個別指導のポイントをアドバイスしてくれる「NOCC教育検査」、教室にカメラを設置し、顔認識よって生徒の受講態度や参加度を分析するソリューション「IBASE AI教育プラットフォーム」など、教育分野におけるデータ活用の広がりを感じた。
また教師の働き方改革に有効なソリューションとして注目したいのが、自動採点だ。近年はAIを駆使したものも登場し、採点業務にかかる時間の削減につながっているようだ。またコロナ禍のオンライン授業の影響で、自宅にいる生徒に課題を出し、採点・添削・返却できるシステムの需要も増えつつあるという。1人1台が始まると学校現場ではさまざまな業務が増えることから、採点など自動化できる業務はテクノロジーに任せて、現場の負担を減らすことが大切だ。
AIを駆使したブラウザ型採点支援システム「百問繚乱」は、手作りの答案用紙をAIが読み取り、配点などを簡単に事前設定できる。またスキャンした生徒の答案は、設問単位で一気に採点し、採点時間の短縮も可能。自動採点をするかどうかは設問ごとに設定できるという。
そして、もうひとつ。デジタルシティズンシップ教育についても取り上げておこう。1人1 台が進む海外の教育現場では近年、子どもたちが安心・安全にICTを活用できるようデジタルシティズンシップ教育が広がっているが、日本でも同様の動きは広がっていくだろう。「ネットは危険だから」と禁止してしまうのではなく、子どもたちがリスクを知りながら、有効に活用できるスキルを伸ばす教育が求められる。
共生と共育ネットワーク・CyberFelixのブースでは、デジタルシティズンシップに必要なスキルを学ぶためのプラットフォーム「DQ World」が展示された。同製品は、子どもたちがゲーム感覚で学びながら、デジタル市民のアイデンティティ、スクリーン時間の扱い、プライバシーの扱いなど、8つの項目に対して数値化され、DQスコアが判定される仕組みだ。
余談ではあるが、コロナ禍で、教員のオンライン配信スキルも格段に上がっている。そんな中、ついにEDIXをビデオレポートして即日YouTube公開する教員も登場した。青山学院中等部・高等部の安藤昇教諭が作ったEDIXの動画も紹介しよう。現場の教師目線でさまざまなツールを紹介しているのが興味深い。
コロナ禍で開催された今年のEDIX。来場者は例年よりも少なかったが、それでも会場では、アフターGIGAに続く、本格的な1人1台時代の到来を感じられた。日本の教育はここから大きく変わることができるのか。GIGAスクールの行く末を追いかけていきたい。