こどもとIT

リモートワークとオンライン学習で、パソコンは家族シェアから1人1台の時代へ?

~道具として使いこなす「情報活用能力」をつける機会に

2月27日の政府による休校要請が出た直後は、突然のことに驚き、対応しつつも、4月から学校が再開されるイメージを多くの人がまだ持っていただろう。しかし、4月再開の見込みは消え、5月の連休までという目処すらも緊急事態宣言の延長によりなくなり、5月末までの休校が決まった地域も少なくない。長い地域では丸3ヶ月休校が継続し、その先の展開もまだ誰にもわからない。

学校の対応はさまざまで、いち早く4月からオンライン学習を始められている学校もあれば、少し遅れて徐々にスタートしている学校もある。また、オンライン学習を進める学校でも、ハードの整備が万端とは限らない。1人1台のPCを使って学習していた学校ばかりではないし、まずは家庭にあるデバイスを利用する前提でスタートし、用意がない家庭にのみ学校からデバイスを貸与したり、他の手段で学習教材を配布するという学校が多い印象だ。

突然のオンライン学習で起きた、家庭の「あるある」シーン

オンライン学習の形は、画面越しのライブ授業ばかりではなく、課題の提示と回収に使用するなどさまざまだ。なんらかの形で学校のオンライン学習が始まった家庭で起こりうる、「あるある」シーンをご紹介しよう。

子どもが一番いいデバイスを占有してしまう

もともと家族共用だったパソコンやタブレット端末が、子ども専用になるというのが一番多いパターンだろう。たまたま買い換えたばかりの最新パソコンが、子ども用になり複雑な気持ちの家庭もあると聞く。また、親のスマートフォンを使って対応している場合は、仕事などの都合で子どもに渡せない時間帯もあり、苦労しているようだ。

デバイスが浦島太郎状態

スマートフォンやタブレット端末をメインで使うようになって数年が経過、久々にパソコンを開いてみたらすっかり時代遅れになっていたという声もある。OSを長らく更新していなかったためセキュリティの問題を抱えていたり、カメラがついておらずビデオ通話の対話型授業が受けられないなど、この機会に買い換えてしまおうという需要も高まっているようだ。企業のリモートワーク需要もあり、4月13日~19日の週の前年同週比でパソコンが50.9%増で販売増1位という調査結果もある(独立行政法人経済産業研究所 2020年4月28日掲載「POSでみるコロナ禍の購買動向:家電量販店×地域分析編」より)。

家族の居場所もデバイスも足りない

家族全員が同じ屋根の下、集中して仕事や勉強ができる場所がないという悩みをよく聞く。ましてやビデオ通話となれば、互いの音と声が入り合わない(しかも相手に見られて恥ずかしくない背景の)場所を探して家の中をさまよう、という笑えない話もある。そして居場所も足りなければデバイスも足りなくなる。例えば、共働きの親がリモートワークで、さらに子どもがオンライン学習をしようとすると、パソコンが家庭の中で1人1台、計3台必要になる。会社のパソコンが持ち帰りできなければ、ゆるく共有していた家庭用のデバイスの数が足りなくなる事態になる。

久しぶりのプリントアウトで大あわて

オンラインで学習課題が出ているところでも、PDFなどプリントアウトして書き込む前提で課題のデータが配信されるケースが続出しているようだ。学習課題をデータで入力して返すスタイルが定着すれば事情は変わってくるだろうが、今やスマホやタブレット端末しかないという家庭も珍しくないところに、思いがけずプリンターのニーズが再浮上しているのだ。パソコンとプリンターはあっても、久々に稼働させたプリンターのインクヘッドの目詰まりに悩まされたり、コンビニのプリント出力サービスに走ったりしている家庭もある。

学校も無関係ではいられない、1人1台は大幅に前倒しに

「うちの学校はアナログなままで、そんな心配すらできる状況では……」と感じている親も多いだろう。たしかに、これらは幸いにもオンライン学習が始まっている学校に通う家庭の悩みだ。

残念ながら、新学期にかろうじて教科書とプリントを渡されたきり、追加の課題は郵送だったり保護者や児童生徒が取りに行ったりしているような、オンライン学習の実施にはほど遠い学校がまだまだ多い。文部科学省が公立小中高校および特別支援学校等の臨時休業中の取り組みを設置者に対して調査した4月16日時点の結果(文部科学省「新型コロナウイルス感染症対策のための学校の臨時休業に関連した公立学校における学習指導等の取組状況について(令和2年4月16日時点)」)によれば、「デジタル教科書やデジタル教材を活用した家庭学習」を行えているのは29%、「同時双方向型のオンライン指導を通じた家庭学習」を行えているのは5%(いずれも設置者数ベース)にとどまっている。

文部科学省「新型コロナウイルス感染症対策のための学校の臨時休業に関連した公立学校における学習指導等の取組状況について(令和2年4月16日時点)」を元に編集部にてグラフ化、nは調査時点で4月16日以降の臨時休業を実施するとしている設置者数1213

しかし、学校現場のICT化の流れは、今回の休校対策とは全く別の次元ですでに進んでいる。昨年12月に「GIGAスクール構想」が発表され、文部科学省は、小中学校の児童生徒に1人1台の端末環境を整備する方針を示していた。2019年度補正予算で2318億円が組みこまれていたところに、今回の新型コロナウィルスの対策の一環で、「GIGAスクール構想の加速による学びの保障」のため2020年度補正予算案に総額2292億円が追加で計上されたのだ。ICTの活用で、すべての子どもたちの学びを保障する環境を早急に実現する方針だ。

日本の学校現場のICT整備や活用が、世界に遅れを取っていることは度々指摘されており、オンラン学習や1人1台の端末整備はいずれにせよ進めなければいけない緊急の課題だったのだ。今回対応が間に合っていない自治体や学校においても、「コロナ騒動さえ落ち着けばしばらくパソコンは不要」などと悠長に構えている時間はもはやない。

緊急事態宣言下だからこそ、伸ばしたい子どもの「情報活用能力」

新型コロナ対策の陰に隠れてしまったが、今年度は新しい学習指導要領が小学校で全面実施される年でもある。英語教育が形を変え、プログラミングが必修となったことを知っている人は多いだろう。この新しい学習指導要領では「情報活用能力」を読み書きと同様に基礎的な力として重視しており、プログラミングもこの「情報活用能力」のひとつに位置づけらている。(文部科学省「小学校プログラミング教育の趣旨と計画的な準備の必要性について」)。

「情報活用能力」のうち、「B 情報の科学的な理解」に分類されるプログラミングが話題にのぼりやすいが、「A 情報活用の実践力」では「ICTの基本的な操作、情報の収集・整理・発信」が示されている。パソコンの基本的な操作は当然のこと、自分の考えをパソコン上でまとめたり、発表する資料を作るようなシーンが想定される。当然、キーボードからの入力や一般的なファイル操作の理解、また、インターネット上の大量な情報からいかに有益な情報を取り出し正確に読み取るかという力が必要になる。

ノートや鉛筆を使うのと同様に、パソコンを道具として選び、使える未来に向かおうとしているわけだが、これらの力は基礎的な力として定義されていて、新たな教科になるわけではない。学習のあらゆる場面で使いながら慣れていくことになる。家庭でも日常的にパソコンに親しんでおくことは、大きな助けになるだろう。

情報を消費する側から、情報を使って生み出す側になる

今、子どもたちは休校で家で過ごし、親が在宅勤務でパソコンを触っているシーンを見ることも増えたことだろう。もし、少しでも子どもが興味を持ったならば、「仕事の道具だから触っちゃダメ」と遠ざけるのではなく、ぜひ一緒に使ってみて欲しい。

例えば、子どもが好きなキャラクターの情報を検索するだけでも、信頼性の高い情報と低い情報の見分け方について教えることができる。ネット上の情報の発信者を確認する習慣は絶対に必要だし、早いうちからつけた方がいい。文字を打つことに興味を持ったら、Officeなどのビジネス系のアプリケーションで構わないから、お手伝い表や写真入りのカレンダーなど、家庭の掲示物を一緒に作って楽しむのもいいだろう。アルファベットやローマ字を習っていればキーボードも気にせずどんどん触って慣れてしまえばいい。

子どもたちのまわりには魅力的なコンテンツがあふれていて、YouTubeやゲームなど、誰かが作ったものを消費する一方になってしまいがちだ。だからこそ、この機会にパソコンが自分の側から情報を作り出したり、自分のやりたいことを実現するための手段として使えることを、各家庭で教えてあげて欲しい。必要な情報を自分で見つけ出す力や、伝えるべき情報を発信する力はこれから必ず必要となるし、仕組みを作り出したりするもっと大きな力にもつながる可能性もある。

子どもが能動的に情報と関わろうとしたときが、パソコンとのいい出会いのチャンスになる。家族でシェアすることが難しいシーンが多ければ、決して高性能である必要はないので、子ども専用のパソコンを用意するのも良いだろう。子どもにとって「自分専用」という響きはとてもうれしいようだ。

小学1年生でも、マウスとキーボードに慣れるまでに時間はかからない子も多い

オンライン学習が話題になり、パソコンと聞くと勉強と結びつけて考えてしまいがちだが、むしろ、⾝近な道具として気軽に使い、慣れるチャンスにするといいだろう。家にいる時間が増えた⼦どもたちに、パソコンでインターネット上に広がる豊かな情報の世界を見せ、何かを作る経験をぜひ親子でしてみてほしい。それは大切な「情報活用能力」に必ずつながる。

狩野さやか

株式会社Studio947のデザイナー・ライター。ウェブサイトやアプリのデザイン・制作、技術書籍の執筆に携わる。自社で「知りたい!プログラミングツール図鑑」「ICT toolbox」を運営し、子ども向けプログラミングやICT教育について情報発信している。