こどもとIT

「市販ゲームより面白いものしか出られないのでは」とプロをも唸らせる小・中・高校生の作品が集結

――「Unityインターハイ2019」プレゼン発表会レポート

統合ゲーム開発環境ソフトウェア「Unity」を使ったオリジナルゲームコンテスト「Unityインターハイ2019」のプレゼン発表会が、12月15日に秋葉原UDXシアターにて開催された。

「Unityインターハイ2019」はオリジナルゲームの独自性や完成度で競うコンテストで、今年で6回目となる。インターハイとあるが、応募資格は2001年4月2日以降に生まれた方とされており、中学生や小学生、年齢の規定を満たす高専生なども応募できる。また個人だけでなくチームでの応募もできる。

今回は全国101校からの作品応募があり、2度の審査を経て、12作品が本選に出場した。今回開かれたプレゼン発表会では、この12作品の作者が集まり、審査員らの前で作品のプレゼンテーションを実施。ゲーム開発者や研究者、Unity担当者ら6名の審査員により順位が決定された。

本選出場者と審査員ら

優勝:函館ラ・サール高校「Overturn」

今回優勝を飾ったのは、函館ラ・サール高校のチーム「Kats」が制作した「Overturn」。制作者の松田活さん(17)は、昨年も審査員特別賞を受賞している実力者だ。

壁にくっついて動く三角形のキャラクターを転がし、ゴールとなる鍵の場所まで移動させるパズルゲーム。左右に転がる移動のほかに、接しているブロックを押すことで、特定のブロックに仕込まれたギミックを発動させることもできる。ギミックは、ブロックが回転したり、壊れたり、フィールドを180度回転させたりと様々。また氷で滑るブロックなどもある。

ステージは数秒でクリアできるものから長時間かかるものまであり、時間制限はなくじっくりと考えられる。新しいギミックが徐々に出てきて、プレイヤーを飽きさせない配慮もされている。

作者のこだわりとして、タイトル画面からゲーム画面に移る時に、ブロックが崩れてステージが現れる演出を取り入れた。自作のプログラムでブロックの崩れる動き表現しているという。またプレイヤーの操作に合わせてキャラクターの目が動く演出を加えることで、生き生きした魅力的なキャラクターになっている。

左右回転とギミック操作というシンプルな操作。こだわった部分としてゲームそのものではなく演出部分を語ったのもユニーク

シンプルな操作でとっつきやすいルールのパズルに、ゲームを飽きさせない配慮や、見た目の面白さなど、随所にこだわりや作り込みが感じられる。アイデア1発でゲームを作って終わりではなく、演出面も含めて完成度を高めていったところが評価されるべき作品だ。

審査員からは、「ゲームに必要なことを全てきっちりやっている。審査という枠を超えて、夢中になって遊べるゲームができている」、「ステージの構成、シンプルなユーザーインターフェイス、全体的なゲームバランスなど、ゲームが完成されている」と評価された。

松田活さん

準優勝:戸山高校「mathmare」

準優勝となったのは、戸山高校のチーム「トロコイド」が制作した「mathmare」。制作者の阿部悠希さん(16)は、Unityには今年3月から着手。8月末の作品エントリー締切まで半年足らずという短期間ながら、見事に準優勝を勝ち取った。

弾幕ゲームと呼ばれる、画面中に広がる多数の弾を避けていくゲーム。1ステージごとに30秒間避けきればクリアとなる。

特徴は、弾幕を数学で表現している点。「アステロイド曲線やバラ曲線を見て、数式で曲線を表せるのが素晴らしい、美しいと感じ、それを他の人に伝えるための表現方法として自分が好きな弾幕ゲームを選んだ」という。一部のステージでは、数式の変数に任意の数字を入れるられるものもあり、入れた値で難易度が大幅に変わるという、数学ならではの仕掛けも取り入れている。

弾幕ゲームは表示される弾(オブジェクト)が増えて処理が重くなるため、オブジェクトを使いまわすプーリングにより軽量化したり、自機の当たり判定をUnity標準ではなく自作のものを使うなどして、ゲームの快適さを確保した。

こだわりは、やはり数式による曲線の表現。弾幕ゲームは避けるゲームなので、自機の周りばかりを見てしまい、曲線の美しさに注目しにくい。そこで弾の量を少なくして難易度を下げたり、弾幕を見せるフェイズと避けるフェイズを用意して、まず曲線を見てもらえるようにするなどの演出も考えている。

また最初は色分けすることで美しさを表現しようとしたところ、確かにビジュアル的には美しいと感じたものの、図形の美しさ自体を見て欲しいと思い、あえて黒い背景に白い弾幕というモノクロの配色にしたという。

数学で表される曲線の美しさを、弾幕ゲームという形で表現した作品。任意の数字を入力することで難易度が変わる仕掛けもある

弾幕に数学的な挙動を取り入れること自体はさほど真新しくはないのだが、変数に値を入力することで難易度を変えるという全く別軸の攻略方法を提供したのはユニーク。また数学的曲線の美しさの表現にこだわりながらも、ゲームとしての面白さもきちんと確保されているところに、ゲーム制作者としてのセンスも感じられる作品だ。

審査員からは、「数式の美しさだけでなく、センスから表現していく努力の流れが素晴らしい」、「数学はこんなに美しいのか、と他の人の見方を変えるきっかけを作れている」と評価された。

阿部悠希さん

ゴールドアワード:芝浦工業大学附属高校「虚構ノ世界」

続いてはゴールドアワードを獲得した5作品を紹介する。1作目は芝浦工業大学附属高校のチーム「Hidetyo's Apps」が制作した「虚構ノ世界」。作者の藤澤秀彦さん(17)は、2015年度から5年連続で参加し、本選出場も3度目となる常連だ。

今回はオープンワールドと呼ばれる、3Dグラフィックスで描かれた広大な世界を自由に移動できるゲームを制作。遠方のオブジェクトは軽量のものに切り替える独自手法で処理負荷を減らしたこと、フィールドに興味を引くオブジェクトを配置することで自然と行動の目標ができるようにしたこと、環境音をランダムに組み合わせることでサウンドの飽きがこないようにしたことなどが説明された。

オープンワールドは開発にかかる物量が多いだけに、学生が個人で開発すること自体が相当な苦労を要すると思われる。その上で、ビジュアルとサウンドの両面から独自の表現手法を探っている点は大いに評価されるべきだろう。

開発の物量が求められるオープンワールドタイプのゲーム。技術的にもゲームデザイン的にもよく考えて制作されている
藤澤秀彦さん

ゴールドアワード:N高校「朝を知らぬ星」

2作目はN高校のチーム「プラムベリー」による「朝を知らぬ星」。作者の梅村時空さん(16)は2度目の参加で、昨年は中学生にして審査員特別賞を受賞している。

「高校生には難しい深夜徘徊に憧れていて、ゲームで表現した」という本作は、太陽が昇らなくなった星を舞台にしたアクションRPG。2人のキャラクターを操作して街中を移動し、現れる敵と戦う。操作するキャラクターはメインの1人だけで、もう1人のキャラクターはプレイヤーの動きを考慮して自動で動いてくれる。

敵の攻撃をうまく避け、その隙に反撃するという静と動の対比を重視。攻撃のエフェクトや、ヒットストップと呼ばれる攻撃命中時の演出など、「気持ちいいアクション表現にこだわった」という。本格的なバトルを美しいビジュアルで表現するとともに、一方のキャラクターを自動で動かすというチャレンジもあり、作者のアクションゲームへのこだわりが感じられる作品だ。

2人のキャラクターが戦うアクションゲーム。ビジュアルの美しさや、アクションの気持ちよさに作者のこだわりが感じられる
梅村時空さん

ゴールドアワード:森村学園中等部「~SeaRoad~」

3作目は森村学園中等部のチーム「ideal」による「~SeaRoad~」。作者は中学3年生の井上恵太さん(15)で、本作が初めて制作したゲームだという。

竜巻で魚が陸に打ち上げられる現象から着想を得たという本作は、魚が海に帰るというシンプルなストーリーによるアクションゲーム。操作する魚は陸を跳ねて移動できるが、水に入らないと息切れして死んでしまう。建物の中や郊外の森、水位が上下する場所など様々なステージが用意されている。道中には複数のギミックがあり、炎を纏うとスピードアップするが、息切れが早くなるなどユニークなものもある。

操作は左右の移動とジャンプ、ダッシュというわかりやすさ。水がある時の安心感と、水から出た時の緊迫感がゲームを組み立てており、アイデアをゲームシステムにうまく落とし込んでいる。

打ち上げられた魚が海に帰るため奮闘するアクションゲーム。陸上では酸素ゲージを消費するという仕組みがゲームに緩急を与えている
井上恵太さん

ゴールドアワード:豊島岡女子学園高校「かえるはかえる」

4作目は豊島岡女子学園高校のチーム「cigarette」による「かえるはかえる」。作者の島田東子さん(16)は今回が初めてのゲーム制作という。

本作はカエルに変身できる人間を操作して、フィールドの謎を解いていくアクションゲーム。人間では届かない高所にも、カエルに変身すればジャンプで届いたり、水場を泳いでいけるようになる。また人間は敵と戦ったり、重いものを押せたりするなど、人間とカエルの役割を使い分けて攻略していく。

謎解き要素がわからず諦めてしまわないよう、看板や会話でヒントをあげたり、ミニマップで場所を教えたりして、直接の答えではない形でプレイヤーを導いている。また日本語に加えて英語にも対応していることや、自作のキャラクターとモーション、低ポリゴン素材の背景によるファンシーなビジュアルも注目ポイントとなっている。

人間とカエルの変身を使い分けて攻略していくアクションゲーム。ビジュアルの可愛らしさもポイント
島田東子さん

ゴールドアワード:山村国際高校「TheStackerOnline」

5作目は山村国際高校のチーム「毎日Unity」による「TheStackerOnline」。作者の田崎直哉さん(18)は、本コンテストの最終年齢で初めての参加となり、見事に入賞を果たした。

本作はフィールドの上からブロックが落ちてくるというゲーム。一見すると有名なパズルゲーム「テトリス」に似ているが、本作では落下したブロックの繋がりが崩れて下に落ちていく。またブロックにはいくつかの色があり、同じ色のブロックを上下左右に繋げて左右の壁まで横断させることでブロックを消せる。

1人でハイスコアを目指して遊べるほか、AIとの対戦や、他のプレイヤーとのオンライン対戦にも対応。ハイスコアを競うオンラインランキング機能も搭載されている。対戦においては、出現するブロックを独自のアルゴリズムで等しい割合にして公平性を保っている。またAIも作り込み、作者ですら勝てない強さになったという。ゲームのオリジナリティに加え、システム周りもしっかりと制作された完成度の高さが魅力だ。

オンライン対戦にも対応したパズルゲーム。ゲームシステムのアイデアも面白いが、AIやブロックの出現アルゴリズムなどゲームの裏側にもこだわりがある
田崎直哉さん

審査員特別賞、およびシルバーアワード

審査員特別賞:千葉市立千葉高校のチーム「チームD」による「自己防衛軍 -Immune System Simulator-」
審査員特別賞:交野市立第四中学校のチーム「ヒキガエル」による「森のじゅうみん」
シルバーアワード:広島高校のチーム「じょーほーぶ」による「コロボット」
シルバーアワード:筑波大学附属駒場高校のチーム「高三演劇班」による「Nodes」
シルバーアワード:神奈川総合産業高校のチーム「Lisa校エレ部Unity班」による「Casting Shadows」

若者がゲームの未来を見せてくれるコンテスト

コンテストを終え、審査員を務めたユニティ・テクノロジーズ・ジャパン合同会社 プロダクト・エヴァンジェリストの簗瀬洋平氏は、「(Unityインターハイは)最初の頃はゲームが完成していれば決勝に出られたものが、面白い要素があれば出られる、全体ができていて何か唸らせるものがある、となっていき、今年は完成していて面白いものしか出られなくなった。次は市販ゲームより面白いものしか出られないのではないかと思うほどレベルが上がっていて、プロのゲーム開発者も冷や汗をかいている。このコンテストが我々に未来を見せてくれていると思う」と総評を述べた。

簗瀬洋平氏

Unityはプロのゲーム開発にも使われるゲーム開発環境でありながら、「誰でもゲーム開発ができる世界を作る」という考え方のもと、プログラミング言語を学んでいない人や、絵や音楽を作れないという人でもゲームを作ることができる。無料で使用することもできるという点も、若年層がゲーム開発にチャレンジしやすい環境作りに大きく貢献しているといえるだろう。

今回の受賞者の中には、Unityを使い始めて1年足らずの人もいれば、惜しくも二次審査には進めなかったものの小学生もいる。また多くの作品は個人で制作されており、受賞者の熱意があってのこととはいえ、Unityというツールの素晴らしさもまた表しているのも事実だ。

2020年からプログラミング教育が必修化されるということで話題になっているが、教育を受けた子どもに何が起こるかというのは、本人はもとより、先生や親もよくわからないという人が多いように思う。プログラミング教育を受けた子どもたちのステップアップの1つとして、ゲームクリエイターは具体的でわかりやすい存在だ。今後も本イベントがその旗振り役となり、より面白いものになっていくことを期待したい。

石田賀津男

ゲーム等のエンターテイメントと、PC・ネットワーク等のIT分野の両方にまたがる分野を得意とするフリージャーナリスト。元GAME Watch記者で、現在はImpress Watch各誌を含むIT・ゲーム系メディアを中心に執筆。3歳男児の育児にも奮闘中。