こどもとIT
“好き”と“楽しい”は学びに向かう原動力、マイクラカップ大賞受賞校に聞く教育版マインクラフトで培われた力とは
――Minecraft カップ 2019 全国大会 大賞受賞・加藤学園暁秀初等学校インタビュー
2019年12月25日 08:00
今年初開催となった「Minecraft カップ 2019 全国大会」。本大会は、デジタルものづくりの機会創出をめざし、子どもたちが教育版マインクラフトを使い、「スポーツ施設のある街をデザインしよう」というテーマに基づいた街づくりを競った(最終審査会のレポートは「教育版マインクラフトで創造する喜びにあふれる、子どもたちのクリエイティビティに魅了された街づくり」を参照)。
その最終審査会で、見事1位の大賞を受賞したのが、加藤学園暁秀初等学校の6年生17名からなる「サンシャインWHITE6」チームだ。同校の子どもたちは、どのように教育版マインクラフトの街づくりに取り組んだのか。また本大会を通して、どのような成長や学びがあったのか。過日、同校を訪れてインタビューを行った。その様子を紹介しよう。
多様な人が暮らす社会に目を向け、教育版マインクラフトの中に豊かで元気な街を完成
加藤学園暁秀初等学校は、静岡県沼津市にある私立小学校。「21世紀に生きる 創造性豊かな たくましい人間づくり」を教育方針に掲げ、「個」を尊重した教育を重んじている。英語教育では、算数や理科にイマージョン・プログラムを取り入れるほか、コンピュータ・リテラシー教育も早くから導入し、特色ある教育を実践している学校だ。
そんな加藤学園暁秀初等学校で学ぶオープンプラン6年生17名からなるチーム「サンシャインWHITE6」が、「Minecraft カップ 2019 全国大会」に挑戦した。多様な人々がスポーツを楽しむためには、どのような街が望ましいか、チームで考えてひとつの作品に仕上げる。17名中10名がマインクラフト初心者というメンバー構成であったが、チーム一丸となって制作に取り組み、豊かさと幸せに溢れた素晴らしい街を完成させた。
その結果、見事に大賞を受賞。審査員からは、“多様な人が暮らす社会を考える”、“協働作業を活かす”、“プログラミングやレッドストーンを活用する”という3つの評価基準をクリアしていると評価された。
コンセプトは、「元気パワーがあふれる街」。老若男女、来日外国人、また障害の有無に関係なく、誰もがスポーツを楽しめるよう、日本の歴史や文化を取り入れた街を作った。街の中心には、授業で学んだ仁徳天皇陵の古墳を再現し、その周りに26のスポーツ施設と、コンビニやカフェ、ホテル、住宅エリアなどを建築。街全体をビタミンカラーで統一し、活気や賑わいが感じられる街に仕上げられている。
同チームの素晴らしい点は、多様な人がスポーツを楽しめるよう、多くのアイデアが形になっていたこと。車椅子バスケット競技場や車椅子フェンシング、パラテコンドー競技場などパラリンピックの施設を多く建築したほか、古墳のゴルフ場や必勝祈願の神社など、来日外国人が日本の歴史や文化に親しめる施設も作られている。ほかにも、英語と日本語を話すエージェントを作って街の案内役にしたり、各スポーツ施設では豆知識を解説する機能を設けたりするなど、街とスポーツを楽しんでもらう工夫を散りばめた。
さらにプログラミングにより、ジェットコースターや自動ドア、エレベーターなど街の動くものを実現。レッドストーンはもちろん、コマンドブロックも多用したという。審査員らは、「初心者も多いチームをよくまとめ、街のデザインを統一し、動きのあるものを作った完成度がすばらしい」「スポーツ選手だけでなく、街の人も施設を利用しやすく、街と人の連携を感じる」と称賛した。
子どもたち同士のコミュニケーションが圧倒的に増える教育版マインクラフト
加藤学園暁秀初等学校の子どもたちは、どのように教育版マインクラフトの街づくりに取り組んだのか。コーチを務めた、同校ICTコンピュータ専科の中原悟教諭に話を聞いた。ちなみに中原教諭自身、今回の大会で初めて教育版マインクラフトに触ったという。
応募のきっかけは、テーマの素晴らしさとアカウント貸与のサポート
そもそも、中原教諭が本大会に応募した動機はなにか。これについて同教諭は、「以前から、マインクラフトの教育利用に興味を持っており、コンピュータの授業で使いたいと思っていた」と語る。
しかし、教育版マインクラフトの利用は、専用のアカウントが必要で、その入手がネックだった。今回の大会では、参加チームに対してアカウントが貸与されたため、応募を決意したという。また加えて中原教諭は、「なによりもテーマが素晴らしいと思った。クラスの子どもたちと一緒にやることができたら、すごい経験ができると思った」という。
子どもたち自ら率先してアイデア出しを行う
大会への応募を決めたが、果たして子どもたちはどのような街を作るのか、中原教諭によると、最初のアイデア出しから子どもたちが自発的に話し合ったという。その様子を振り返り、「マインクラフトは子どもたちが大好きなツール、子どもたちの話し合いを重視することが大事だと思いました」と同教諭は語る。
実は、本大会には6年生から2チームがエントリーすることになったのだが、2チームで違うパターンがあがってきたという。いずれのチームも、大のマイクラ好きやプログラミングを得意とする児童がおり、技術力やモチベーションに大きな差はない。ひとつのチームは、大会テーマに基づいて、それぞれが自分たちの作りたい施設を作り、街を構成するというもの。もうひとつのチームは、テーマの意図を丹念に読み解き、リーダーを中心に作業を振り分け、計画的に街を作るというものだった。
今回の大会では、結果として後者のチームが大賞を受賞したが、中原教諭は「どちらのチームも、子どもの発想を活かした素晴らしい作品が出来上がりました」と語る。大会に勝ち抜くという結果だけを見れば、確かに両チームに違いはあったかもしれないが、マインクラフトの魅力は自由なものづくりにある。その世界をすでに知っている子どもたちからみれば、自分たちの作りたいものを作るこだわりを持つのは当然のこと。ここで、もう1チームの健闘も称えたい。
共同建築の進め方
子どもたちは、どのように共同建築を進めたのだろうか。17人中10人がマインクラフト初心者というスキルの異なる子どもたちが、同じゴールを描きながら共同作業を進めるのは難しかっただろう。
聞くと、初心者の子どもたちは経験者に操作方法を教えてもらい、家づくりからスタートしたという。ある程度できるようになると、経験者と初心者でスポーツ施設を作った。プログラミングが得意な子は、ジェットコースターや自動ドア、電車、エレベーターなど、街の中に動きのあるものを作った。リーダー役の子は、こうした役割分担を中心に行いつつ、街の構成を考えて予定表を作り、全員で共有して作業が進められるようリードしたとのことだった。
また、中原教諭は「子どもたち同士の教え合いが大切なので、教室でも自由に動けるようにして、コミュニケーションが取りやすい環境を作りました」と注意した点を教えてくれた。指導者の立場としては、子どもたちの主体性に任せつつも、授業の様子を動画や写真に記録して進捗を把握するとともに、万が一の時にそなえ随時作品データのバックアップを取るなど、サポートに徹したという。また、リーダーには「もっと早く進めた方がいいのでは?」とアドバイスをし、リーダーから他のメンバーに伝わるようコミュニケーションも工夫したのだそう。
子どもたちに現れたコミュニケーションの変化
今回の取り組みを通して、子どもたちはどのように変化したのか。中原教諭は「子どもたち同士のコミュニケーションが圧倒的に増えた」と語る。
授業前にすでに話し合いを済ませていたり、アイデアを出すようになったり、また自分から仲間を集めるなど、子ども同士の会話が増えた。あまりにも、マインクラフトの話ばかりするので、コンピュータの授業以外はマインクラフトの話は控えるようにと言ったこともあるそうだ。中原教諭は「子どもたちの人間関係が変わっていくのが分かった。他の授業では怒られることが多い児童がマインクラフトの世界では尊敬されるなど、それぞれの得意に気づくようになった」と話す。
“ゲーム”と決めつけてはもったいない、教育利用のメリット
現役教員は、教育版マインクラフトのどのような部分に教育的価値を感じているのだろうか。マインクラフトは、未だ“ゲーム”と見る教育関係者も多く、学校の授業で取り扱うにはハードルもあるはずだ。
それについて中原教諭は、「一番すごいなと思うのは、子どもたちが何よりもマインクラフトが大好きで、その熱量で作品づくりに取り組めること。クリエイティビティを発揮し、自分の世界観も表現できるので、思い入れも強い。子どもたちを見ていると、クリエイティブなことをやっている時が一番楽しいということがよく分かる」という。これほど子どもたちが夢中になれるコンテンツだからこそ、教育で使うメリットがあるというのだ。
さらに同教諭は、「仮想空間でのものづくりであるが、子ども同士のコミュニケーションが増え、リーダーシップの育成やチームビルディングに非常に効果的なツール。全ての教科、全学年で活かせるので、ゲームだと決めつけず、マインドチェンジをしていくことが大事だ」と語った。コミュニケーション、コラボレーション、創造性の育成や情報収集力の向上など、教育版マインクラフトの持つ教育効果は多い。単なるゲームのひとつという見方で終わっては、もったいないというのだ。
友達の違う一面を知ったことが、自分の成長にもつながった
加藤学園暁秀初等学校のインタビューでは、参加した子どもたちにもインタビューすることができた。子どもたちは本大会を通して、何を感じ、何を学んだのだろうか。
まず、これほどの協働作業を率いたチームのリーダーに、作業を進めるうえで工夫した点、苦労した点を聞いた。
「経験者と初心者、一人ひとりのスキルが違ったので、経験者が初心者に教えたり、初心者がアイデアを出して経験者が作ったりする作業を取り入れた。授業は週に1回45分しかなかったので、限られた時間でどういう風に作業を進めていけばいいかをよく考えた」と話してくれた。初心者をチームの戦力に変え、全体のパフォーマンスを上げることに注力したリーダーシップは見事としか言いようがない。
他の子どもたちには、マイクラカップを通して成長した点について質問した。子どもたちの意見でもっとも多かったのは、仲間への新たな気づきや協力することの大切さを知ったということ。「友達が頑張って作っているから私も頑張れた。協力する大切さを知った」「他の授業では騒ぐ子がマイクラは集中していてすごいと思った。その子の違う面が見られた」「みんなでやると、アイデアやユーモアが出る。一人でやるよりもみんなで作る良さがわかった」など、子どもたちの言葉からは、友達の違う一面を見たことが互いの成長に寄与したことがわかる。
ほかにも、教育版マインクラフトを通して自分の視野が広がったというコメントもあった。「マイクラをするようになってから、家で遊ぶときも工夫するようになった」「サッカー場を作っていたとき、友達と想像しているものが全く違った。人の意見を聞いて調整することができた」「どのような街の構成にしたら、障害者や海外の人が楽しめるのか。自分とは違う視点でモノを見ることができた」という意見も聞くことができた。
ちなみに、子どもたちには教育版マインクラフトが学習に役立つかどうかも聞いた。子どもたちからは「建築家になった気分で考え方が広がる」「算数の図形で裏側がどうなっているか想像できるようになった」「座標や大きさを考えるので計算が速くなった」「レッドストーンやコマンドブロックはプログラミングが始めやすい」「どうすれば答えにたどり着けるのか考える力がつく」など、教育版マインクラフトに対する思いとともに、学習でのメリット我々に教えてくれた。大人の予想以上に、子どもたちの学びが活性化されているようだ。
米国マイクロソフトのエクゼクティブにも子どもたちが英語でプレゼン
折しもインタビュー当日は、マイクロソフトのアジア教育部門のエグゼクティブと同校をTeamsでつなぎ、大賞受賞の報告会が行われた。子どもたちは、それぞれの作品について、見どころや工夫した点などを英語でプレゼン。「途中で、何度も失敗したが、頑張って最後まで仕上げた」と伝えた。
米国マイクロソフト コーポレートバイスプレジデントでマイクロソフト アジア プレジデントのRalph Haupter氏は、「これほどの世界を教育版マインクラフトで作ったのは見たことがない」と称賛。同じくマイクロソフト アジアの文教部門責任者 Larry Nelson氏も、「みんなが教育版マインクラフトを使って学んでいることが素晴らしい」と褒め称えた。ほかにも、子どもたちからの質問に答えるなど、短い時間ではあったが交流を楽しんだ。
「創造できすぎて困った」マイクラはいろんなことにつながっている
加藤学園暁秀初等学校のインタビューの締めくくりに、同チームを率いたリーダーの大月優佳さんの言葉がとても印象的だったので記しておきたい。
「マインクラフトは無限に続く世界。地球1個、渡されたような気分になって創造できすぎて困った。建築だけじゃなくて、海も山も、未来だって作れる。それが良かった。そんな空間で、みんながひとつになって、ひとつのワールドを作れることがよかった。やる気が出てきた。いろんなことにつながっていくことを学んだ」
この言葉は、子どもたちの“好き”や“楽しい”という思いほど、学びに必要なものはないことを教えてくれる。審査会を振り返っても、すべての応募作が「創造できる学びほど、楽しいものはない」という想いに溢れていた。そんなことを多くの大人に改めて気づかせてくれた、加藤学園暁秀初等学校の皆さんとすべての参加チームに感謝したい。
[制作協力:日本マイクロソフト株式会社]