こどもとIT
教育版マインクラフトで創造する喜びにあふれる、子どもたちのクリエイティビティに魅了された街づくり
――「Minecraft カップ 2019 全国大会」最終審査会・表彰式レポート
2019年12月24日 08:00
マインクラフトの教育版「Minecraft: Education Edition」を用いて、子どもたちがデジタルものづくりを競い合うコンテスト「Minecraft カップ 2019 全国大会」(主催:Minecraft カップ 2019 全国大会運営委員会)が、今年初めて開催された。
同コンテストは、教育版マインクラフトを使って、デジタルものづくりの機会創出をめざすもの。テーマに基づいた街づくりにチームで挑戦し、その出来栄えを競い合う。初開催となった今年は、学校やパソコンクラブ、特別支援団体など、133チームがエントリーし、その中から8チームが一次審査を通過した。
2019年9月23日には、8チームの中から大賞を決める「Minecraft カップ 2019 全国大会 最終審査会・表彰式」が日本マイクロソフト品川本社で開催。当日は、子どもたちが、想いを込めた作品とプレゼンテーションを披露した。子どもたちの創造性あふれる作品を紹介しよう。
テーマは「スポーツ施設のある街をデザインしよう」
今年が初開催となった「Minecraft カップ 2019 全国大会」は、子どもたちがデジタルものづくりに触れる機会創出をめざしたコンテスト。教育版のマインクラフト「Minecraft: Education Edition」を用いて、テーマに基づいた街づくりにチームで挑戦し、競い合う。
今回のテーマは、「スポーツ施設のある僕・私の街~ワクワクする『まち』をデザインしよう」というもの。ラグビーのワールドカップや、東京オリンピック・パラリンピックなど、国際的なスポーツイベントのホスト国を務める日本。子どもたちには、教育版マインクラフトによる街づくりを通し、自分事として社会を見る目を育んでほしいと、このテーマが選ばれた。
参加条件は、15歳以下の男女で構成される3名以上30名以内のチームであること。そして、16歳以上のコーチング役が付かなければならない。参加チームは、学校のクラスメイトや部活動のメンバー、プログラミングスクールの友達、また被災経験や不登校、院内教育という困難を抱えた子どもたち、海外在住の子どもたちなど、さまざまな属性の子どもたちがひとつのチームを結成し、応募した。初開催の今回は、全部で133チームがエントリー。その中から、ピア・ボーティング(参加者による相互評価)で選ばれた8チームが一次審査を通過して、最終審査会・表彰式に集結した。
評価ポイントは「多様な人々の暮らし」「コラボレーション」「プログラミング」
最終審査会・表彰会の当日は、運営委員長を務めた鈴木寛氏(東京大学教授、慶応義塾大学教授)と、運営委員の赤堀侃司氏 (日本教育情報化振興会/JAPET&CEC・ICT Connect 21会長、東京工業大学名誉教授)、2人の挨拶から始まった。両氏は、子どもたちの作品から、自分事として街づくりに取り組んだ様子が伝わってきたこと、また教室や年齢の枠を越えて、新しい教育のつながりが生まれることなど、教育版マインクラフトの教育的価値について述べた。
続いて、困難を抱える子どもたちへのプログラミング教育支援に取り組んでいる、公益社団法人ユニバーサル志縁センターを中心に編成された事務局の方から、最終審査会に至るまでの本大会の歩みが紹介された。2019年3月10日に実施されたオープニングイベントを皮切りに、約5ヶ月間の作品募集期間が設けられたが、その間、より多くの子どもたちがデジタルものづくりに参加できるよう、さまざまな取り組みが行われたのだ。具体的には、全国約3万校の小中学校に公式ハンドブックを配布したほか、被災地である釜石市や陸前高田市ではイベントやワークショップも開催。また特別支援団体に対しては、コーチ養成講座を設けて指導者の育成にも取り組み、困難を抱える子どもたちにも教育版マインクラフトに触れられる機会創出に力を入れた。
ここで、今回のテーマでもある「スポーツ施設のある街をデザインしよう」について評価ポイントを整理しておこう。子どもたちの作品に対する評価ポイントは下記の3つ。
1. どれほど多様な人々が充実した暮らしができるか
2. 協働作業の利点を生かせているか
3. プログラミングやレッドストーンが活用されているか
1つめは、子どもたちがいかに視点を広げられるかがポイントとなる。子どもたちは普段マインクラフトで遊ぶ時は、自分たちが作りたいもの作っているだろう。しかし、コンテストでは、多様な人が暮らす社会に重きを置いて作らなければならない。
2つめは、マインクラフトが持つ最大の魅力である「自由なものづくり」と、マルチプレイによる「コラボレーション」がポイントだ。立方体のブロックで作られたワールドに、子どもたちがどのような街を作るのか。一からアイデアを出し合ってゴールを設定し、そのイメージを共有しながら協働作業を進めなければならない。
最後に、プログラミングとレッドストーンの活用が評価ポイントに入っているのは、デジタルものづくりの観点を考慮したものだ。というのも、マインクラフトで遊ぶ時にプログラミングやレッドストーンを活用する子どもは少なく、手作業でやってしまう子どもが多い。もちろん、それもマインクラフトの楽しみではあるが、今回はデジタルものづくりという観点からプログラミングとレッドストーンが評価項目に入った。巨大建築物をつくるときプログラミングで自動化したり、レッドストーン回路を用いて、街に動くものを作ったりするスキルが求められる。
最終審査に残った8作品は、想いあふれる魅力的な街の数々
ここからは最終審査の結果とともに、当日、プレゼンを披露してくれたチームの作品を紹介しよう。最終審査では、3分間のワールド紹介動画が流れたあと、子どもたちは大賞を懸けて、3分間のプレゼンテーションを披露した。どの子どもたちも緊張ぎみな様子であったが、作品を見てほしいという一途な気持ちが伝わってきた。
Minecraft カップ 2019 大賞「祝!世界遺産ユニバーサル&グローバルスポーツJAPAN」
初開催の同コンテストにおいて、見事、大賞に選ばれたのが、加藤学園暁秀初等学校の6年生17名による作品だ。コンセプトは「元気パワーがあふれる街」。障害の有無、来日外国人、老若男女など、さまざまな人がスポーツを楽しみながら、日本の歴史や文化についても知ってもらえる街を作った。ワールドには26のスポーツ施設と、コンビニやカフェ、ホテル、住宅エリアも建築。レッドストーンを使ってジェットコースターや自動ドア、エレベーターなどワールド内に動くものも作成した。
加藤学園暁秀初等学校は、17名中10名がマインクラフト初心者というメンバー構成。初心者たちは家造りからはじめ、経験者はスポーツ施設を作るなど役割分担をしながら進めた。子どもたちはプロジェクトを通して、「デザインの上手い子、動画のナレーションが上手い子、マイクラ以外にもみんなの得意がわかった。失敗も多かったが、そのうち失敗を気にせず取り組めるようになり、褒め合うようになった」と成長した点を話してくれた。審査員で動画クリエイターのKazu氏は「スキルが違うとバランスが悪くなりがち。初心者もいる中で、街のデザインを統一し、動きのあるものを作った完成度がすばらしい」と称賛した。障害者スポーツの施設も多く制作し、来日外国人のために日本語と英語を話すロボットを設けるなど、さまざま人の視点に立って街の構成を考えた点が素晴らしかった。
審査員賞 / 街づくり すずかん賞「Kai’s World」
山形県の高校生チーム「Souya channel」は、地元にある大ケヤキの木を中心に街を構成した。メンバーのひとりは、「大ケヤキの神秘性が伝わるように、木の周りには太陽系の惑星を散りばめて雰囲気を出した」と説明。メンバーたちの大ケヤキに対する愛着が伝わってきた。また大ケヤキの幹の中に、アスレチックを作ったり、木の上には展望エリアを設置したりするなど、遊び心ある施設も作った。
同チームの特徴は、高校生と小学生の混合チームであること。小学生たちは、カフェと時計台を担当し、「マインクラフトのボタンやトラップドアを使って、緻密かつ精密に仕上げた」とこだわった点を話してくれた。スポーツ施設については、高校生がプログラミングを多用して効率的に制作。バスケットコートやテニスコート、サッカー場などをつくった。審査員の王立英国建築家協会名誉フェロー建築家の髙崎正治氏は、「違った視点を持ったグループだと思った。未完成の部分もあったが、何を作ろうとしているのか可能性を感じた」とコメント。教育版マインクラフトを通して異年齢がつながり、ひとつの作品を作り上げたプロセスが素晴らしい。
審査員賞 / ALL AS ONE 大西賞「私たちのスポーツアイランド」
CoderDojo 宜野湾チームのメンバーは、野球が大好き。街にはハート型の野球場を作り、野球愛を表現した。また沖縄を代表する歴史建造物「首里城」の建築にも挑戦。メンバーは「本物に近づけたかったので、Googleマップのストリートビューを見ながら、実際のサイズと教育版マインクラフトのブロックの寸法を対応させた。それでも寸法の分からないところは、他の資料を見ながら作成した」と苦労した点を述べた。
スポーツ施設は、バスケットコートやサッカースタジアム、陸上競技場などを作成。レッドストーンでエレベーターを作ったほか、外国人住宅などをプログラミングで効率的に作成した。同チームの素晴らしい部分は、メンバーが離れた場所に住み、集まる機会が少ないにもかからず、良い作品をつくろうとコミュニケーションを大事にしたところ。「ワールド内に看板を立てて、(作業の進み具合を書き込みながら)コミュニケーションを行った」と工夫した点を述べた。筆者も審査員の一人であったが、同チームは、首里城を本物に近づけようと情報収集にこだわった点が素晴らしいという感想を伝えさせてもらった。
日本マイクロソフト賞「【AI ロボットが作る】バリアフリーで全ての人が暮らしやすくなる?全ての人が暮らしやすい街を考える街」
バタフライエフェクトは、コーチを含むメンバー全員が発達障碍を抱えたチーム。スポーツとバリアフリーを題材に、主人公がいろいろなスポーツ施設で、“不自由”を経験しながら成長するストーリーに仕上げた。たとえば、「プールに入れば頭がぐわん、ぐわんする」「競技場で走ると、突然目が見えなくなる」「弓道場では足が固定されてやりづらい」など。メンバーたちは、教育版マインクラフトのブロックが持つエフェクトを上手く活用し、大人の助けなく、自分たちで完成させたという。
このチームの素晴らしい点は、なんといってもメッセージ性。単にスポーツ施設のある街を作るのではなく、困難を抱える人々が、その街でどのように成長したいのかを表現した。感動的なのはラストシーン。「障碍のある人のためにバリアフリーを作ればいい」というナビゲーターに対し、「バリアフリーですべての障碍がなくなることが楽になることではない。生きる可能性を広げることが、みんなで手を取り合うことなのだ」と信頼関係の大切さを伝えた。審査員で運営委員長の鈴木寛氏からは「メッセージが素晴らしい。世の中の矛盾に目を向けて、“助ける”ではなく“助け合い”の大切さが描かれている」と述べた。
審査員賞 / Best Coding賞「Code Tropolis(コードトロポリス)」
Code Lab Japanのチームは、日本とシンガポールに住むメンバーで構成。街は、エンターテイメント、スポーツ、住居、ビジネスの4つのエリアに分かれ、スポーツ施設やホテル、アスレチックスタジアムや発電所など、さまざまな施設を作った。街全体が近未来型のデザインに統一されて、その美しい景観には惹き込まれる。また「アクアリウムアパートメント」「ドームパーク」など、“こんなのがあったらいいな”と思える、アイデア溢れる施設もたくさん作った。
チームの凄さは、プログラミング。あらゆる建物をプログラミングで制作し、プレゼンの動画では、その過程も披露した。メンバーたちは、テストワールドで自分たちが考えたプログラムが正常に動くかを確認してから、本番のワールドで実装したという。審査員のタツナミ シュウイチ氏(Minecraft公式プロマインクラフター・マイクロソフト認定教育イノベーター)からは、「テストワールドを見て、試行錯誤を繰り返し、どうすれば上手くいくか、一生懸命考えた努力の跡が見られた」と高く評価した。メンバーたちは「来年も挑戦したい」と意欲も見せてくれた。
審査員賞 / クリエイティブ・アイデア賞「豆腐から始める理想の島計画」
UNIX研究同好会のメンバーは、“人々が住みやすい街”に重きを置き、スポーツ施設だけでなく、学校、港、灯台、ホテル、病院、スーパーマーケット、釣り堀など、生活が充実する施設をたくさん作った。美術系が得意な人は外装や内装を担当し、プログラミングが得意な人はシステムを担当するなど、それぞれの得意を活かして制作したという。
一番の見どころは、巨大スタジアム。ボタンひとつで、サッカーとラグビーのコートが切り替わる仕組みだ。たくさんのピストンとコマンドブロックを組み合わせて、システムを構築した。メンバーたちは「途中でピストンが思うように動かない、座標が合わないなどの失敗も多かったが、システム担当が協力して完成させた」と制作工程の苦労を語ってくれた。審査員でプロフェッショナルラグビーコーチの大西一平氏は「日本ではラグビーのスタジアムが不足しているが、このようなスタジアムが実現すれば夢のようだ」と同チームのアイデアを絶賛。メンバーたちは「協働作業を通して、プログラミングの基本を全員学ぶことができた。今後はもっと本格的なプログラミングを学んでいきたい」と向上心を見せてくれた。
審査員賞 / ピア・ボーティング Kazu賞「とある南の島~海の恵みと共に暮らす人々の伝統芸能とスポーツ」
CoderDojo Ishigakiは、第一次審査のピア・ボーティング(参加者による相互評価)で1位に選ばれたチーム。地元の美しい海や自然を活かして、沖縄の伝統芸能や行事も楽しめる街に仕上げた。海の神様を祭る伝統行事のハーリーや、お盆のご先祖さまを送り出すエイサー、天然の砂の上で行う沖縄角力など、沖縄ならではの伝統がスポーツとして楽しめる。メンバーたちは「沖縄には旧暦と新暦の流れがあり、これらの文化を感じてもらえるように作った。伝統行事について調べ、学びながら制作に取り組んだ」と街づくりに対する想いを語ってくれた。
ユニークだったのは、水中マラソンコース。美しい海を見ながらマラソンできるコースには、子どもたちが持つ創造力のすごさを感じた。審査員の王立英国建築家協会名誉フェロー建築家の髙崎正治氏も「創造する喜びに溢れている。子どもたちが作ることを楽しんでいることが分かる」と称賛した。メンバーたちは、このプロジェクトを通して、「豊かに暮らすことは、伝統を受け継ぐ大切さ、自然の恵みへの感謝、今の環境に感謝することではないかと感じた」と語った。ものづくりを通して、子どもたちの視野が広がったことに注目したい。
審査員賞 / 物人賞「Minecraft Sports Town」
CoderDojo久留米は、わずか3名のチーム。効率的に作業を進めるために、レッドストーン回路と建築担当、内装担当と役割分担をして街を仕上げた。こだわりのポイントは、自然を活かすこと。街にはボーリング場やサッカースタジアムなど多くのスポーツ施設を作ったが、自然に生成された土地の地形を活かして、できるだけ整地をせずに建物を作った。
同チームの素晴らしい点は、少人数ながらもプログラミングを用いて巨大な街を築いたこと。レッドストーン回路も用いて、計算された結果が掲示板に表示される加算器を作ったり、プレイヤーが実際に遊べるボーリング場なども建築するなど、動きのある街に仕上げた。メンバーは「見た目をよくするために、レッドストーンの回路を隠すようにした」と工夫した点を説明。また、このプロジェクトを通して「マインクラフトの街づくりでは、現実世界に近づけることとチームワークが大事であることを学んだ」と想いを語ってくれた。審査員で運営委員長の鈴木寛氏は、「街には目に見えるところ、目に見えないところがある。目に見えない部分にまでこだわって制作した姿勢がよかった」と評価した。
教育版マインクラフトによるデジタルものづくりは、教育的要素が多い
以上、最終審査会に残った8チームの作品を紹介したが、どの作品からも子どもたちが持つ創造力の凄さと、良い街をつくりたいという想いが伝わってきた。子どもたちの作品を見て、改めて教育版マインクラフトが持つ教育的価値に気づいた人は多いはずだ。
これについては、運営委員長の鈴木氏も「まさにマインクラフトはアクティブラーニングであり、総合学習だと思った。歴史、地理、政治経済など、ものすごい学びの広がりがある。単なるプログラミング学習ソフトでもゲームでもないということを、皆さんが証明してくれた」と総評で語っていたことだ。
子どもたちの作品については、街づくりのコンセプトに「地域への親しみ」「地元愛」の感じられるものが多かった。地域に残る自然や伝統に注目し、街を訪れた人にもそれらを楽しんでもらおうと、街づくりを第三者的に考えられた点も素晴らしい。また多様な人の暮らしにも注目し、自分とは異なる立場にいる人の暮らしにも目を向けられた。子どもたちの視野が広がるきっかけになったといえるだろう。
教育版マインクラフトの醍醐味である協働作業については、どのチームも役割分担をし、それぞれの得意を活かして取り組んでいた。スキルや得意が異なるメンバーでチームを形成し、ひとつの街をつくるときは、最終イメージの共有が重要になるが、どのチームもコミュニケーションを上手く連携させ、統一感ある街を見せてくれた。
ちなみに、ここまで教育版マインクラフトで完成度の高い街を作るためには、子どもたちの主体的な情報収集が欠かせない。伝統行事やパラリンピック、地域の自然について調べたという子どもたちの話もあったが、一方で、ビルの外観のデザインを観察したり、店の中にあるものを調べたりという細かな観察も子どもたちは行っている。大人目線では見えない部分に、学びが生まれていることを知っておきたい。
子どもたちが想い込め、本気になれるマインクラフトは、大人が思いもしないようなアウトプットを見せてくれる。もっと良いものを作りたいと思う原動力は底知れず、そこに訴えかける教育版マインクラフトは、もうとっくにゲームの域を越えている。
[制作協力:日本マイクロソフト株式会社]
[写真提供:Minecraft カップ 2019 全国大会運営委員会]