こどもとIT
「テクノロジー×好きなこと」で“未踏”の領域に挑む10代のトップクリエーターたち
――未踏ジュニア 2019年度最終成果報告会レポート
2019年11月20日 06:00
2019年10月22日、10代のトップクリエーターが集結する「未踏ジュニア」の最終成果報告会(主催:一般社団法人未踏)が開催された。4年目を迎えた今年は、応募総数127件の中から13件のプロジェクトを選出。最終報告会では、10代のトップクリエーターたちが約5ヶ月間に渡って取り組んだ開発の成果を披露した。
応募総数127件の中から、13件のプロジェクトを選出
未踏ジュニアは、17歳以下を対象にした人材発掘・育成事業。独創的なアイデアや卓越した技術を持つ若手IT人材の育成をめざす。未踏ジュニアに選出されると、トップエンジニアによるメンタリングと、最大50万円の開発資金が提供され、5ヶ月間ほど本格的なプロダクト開発に取り組むことができる。この最終成果報告会は、その成果を発表する場というわけだ。
未踏ジュニアは、すでに4年目に突入し、今年は応募総数127件の中から13件のプロジェクトが選出された。毎年、10代とは思えないほど突出した技術力と創造性を発揮するクリエーターが登場するが、より優秀な成果を残したクリエーターには「未踏ジュニアスーパークリエータ」に選ばれる。今年は、13件の中から下記8件が選ばれた。
■2019年「未踏ジュニアスーパークリエータ」に選ばれた8件
・武田和樹さん(中3)「編模様(あもーよ)」 - イラスト手編み支援アプリ
・高山尚樹さん(高2)「DetExploit」 - Windows用OSS脆弱性スキャナー
・迫田大翔さん(高2)「neulot」 - 生体信号を用いたインターフェイスの開発
・浅野啓さん(高2)「abecobe」 - シンプルかつ難しいパズルゲーム
・渡部晃久さん(高2)「リレーマスター」 - 低コストでトレーニングを改善できるIoTバトン
・國武悠人さん/森優貴さん(高2)「VirtualPresents」 - 仮想世界で用いるWebサービス
・行方光一さん(高3)「Edge-guided Anime Characters Generation」 - 一本の線から絵を生成するサービス
・松田活さん(高2)「Mallet」 - モバイル端末用簡易アプリ開発環境
では、「未踏ジュニアスーパークリエータ」に選ばれたプロジェクトを中心に、最終成果報告会の様子を紹介しよう。
武田和樹さん作「編模様(あもーよ)」 - イラスト手編み支援アプリ
武田和樹さん(中3)は、編み物の最中に、網目の数え間違いが原因で毛糸をほどく母親の姿を見て「編模様(あもーよ)」を思いついた。紙の編み図では、“今どこを編んでいるのかが分からない”などの課題があるというのだ。
「編模様(あもーよ)」では、編み図をカラーで表示し、何色を何回編むのか、今編んでいる段はどこなのかを強調して表示できる。またエディタ機能を設け、方眼紙に色を塗る形でオリジナルの編み図を作成できるほか、ドット絵の画像を読み込んで、編み図を作成することも可能。ドット絵の読み込みに関しては、「編み図に置き換える際に大きくなりすぎるため、Unityの『Texture Scale』で自動修正できるようした」と工夫した点を述べた。
武田さんは最初、「編模様(あもーよ)」のアプリをScratchで制作。その後、Unityを1から勉強して作り直し、未踏ジュニアではGoogle Playでリリースできるまでに完成させた。会場からは、“自分も編み物をやりたくなった”“イラストから編み図を簡単に興せるのが良い”など好意的な声が寄せられた。
高山尚樹さん作「DetExploit」 - Windows用OSS脆弱性スキャナー
高山尚樹さん(高2)は、Windows PCの脆弱性を自動で検知するスキャンツール「DetExploit」を開発した。未踏ジュニアにおいては、セキュリティ系のプロジェクトはめずらしく、高山さんが初採択だという。同ツールの特徴は、一般的なウイルス対策ソフトと違って、感染する原因を減らすツールであるということ。高山さん曰く「人的にやることも可能ではあるが、膨大なデータを比較する作業などを定期的に行うのは難しい。そのため自動化すれば需要があるかもと考えた」と話す。
DetExploit は、Windowsに特化しており、1クリックでスキャン作業を実行する。またオープンソースなので、誰でも好きな機能を追加できる点もメリット。さらに「DetExploit Server」を使えば、複数台の端末に対してスキャン作業を実行することも可能で、プレゼンでは5台の端末を並べてデモも披露した。高山さんは、すでにDetExploitをGitHubでリリースし、海外のメディアでも取り上げられるほど完成度を高めている。「近日中に、アドオン機能と自動アップデート機能を追加する予定です。まだまだ実装したい機能がたくさんあり、いろいろな意見を取り入れて良いものを作っていきたい」と高山さんは同ツールに対する想いを語った。
迫田大翔さん作「neulot」 - 生体信号を用いたインターフェイスの開発
迫田大翔さん(高2)は、生体信号を用いた動作推定システム「neulot」を開発した。ViveやKinectなど運動情報を読み取るデバイスは多くあれど、究極にかっこいいインターフェイスは、脳波から直接、生体信号を読み取る方法ではないかと考えたという。具体的には、未踏ジュニア期間内で、頭皮脳波を用いた運動推定デバイス「Ectorシリーズ」と、表面筋電位を用いた運動推定デバイス「Caradocシリーズ」の1つを作ったという。
迫田さんが開発した表面筋電位を用いた運動推定デバイス「Caradocシリーズ」については、低コストで製造できるのがメリット。すでに筋電義手メーカー株式会社ALTsで採用されたほどの完成度である。現在は、汗が引き起こす誤作動にも対応した新型Caradocを開発中だという。
また頭皮脳波を用いた運動推定デバイス「Ectorシリーズ」では、人間の動作の0.5秒前に現れる電位変化BPを用いて、右腕の動作推定にチャレンジした。未踏ジュニアから提供された開発資金で3Dプリンタを購入、最終形のプロトタイプに落ち着くまで4回も作り直し、ついに頭皮脳波からの運動状態の推定に成功した。迫田さんは「今後は、右腕だけでなく体全体の動作推定に挑戦していきたい」と抱負を語った。
浅野啓さん作「abecobe」- シンプルかつ難しいパズルゲーム
浅野啓さん(高2)は、上下左右、逆方向に動く2つのキューブを同時に動かして、ゴールまで到達するゲーム「abecobe」を開発した。右フリックをすれば、赤いキューブは右に、黒いキューブは左に動き、2つのキューブを同時にゴールさせるという非常にシンプルなゲームだ。すでに開発を始めてから3年目に突入しているが、このゲームをもっと面白くしたいと未踏ジュニアに応募した。abecobeは各ストア(Android用 Google Play/iOS用 App Store)ですでにリリースしている。
浅野さんがめざしたのは、“隙間時間などにゆっくり楽しめるゲーム”。「これまでもゲームを面白くしようと、レベル設定や対戦型などさまざまな要素を試みてきたが、どれも満足できず、未踏ジュニアではゲームデザインについて勉強した。そしてゲームでは、“共感”が大事であると分かった」と浅野さん。そこから、ハイスコアを達成したらプレイヤーを褒める花火を打ち上げたり、キューブに表情をつけたり、仲間を探しに行くというストーリー性などを追加した。これまでの開発で作ったモックアップは400枚以上。Twitterでテスターを巻き込みながら改良を重ねた。浅野さんのプレゼンからは、ゲームを面白くしたいという想いとともに、いかに多くの試行錯誤を経て最終形にたどり着いたのか、その努力も伝わってきた。
渡部晃久さん作「リレーマスター」 - 低コストでトレーニングを改善できるIoTバトン
陸上部に所属する渡部晃久さん(高2)は、400mリレーのバトンパスを数値化し、人間の勘に頼らないトレーニングシステム「リレーマスター」を開発した。現状の練習方法は、人間の感覚でバトンパスや走りを評価しているため、正確性に欠けることが課題であった。専用の計測器もあるが、高価なため高校生では利用することができない。そこで、低コストかつ人間の感覚に頼らずに数値化できるものを目指したという。
そこで、渡部さんは3Dプリンターでバトンを設計し、バトン中央に6軸センサーを持つ端末「M5StickC」を埋め込んで、腕振りを数値化した。その数値から、一歩あたりの時間と歩幅を算出して速度を求め、バトンがわたる前後の速度を比較できるようにした。つまり、2走者間のバトンパスで、バトンの速度が落ちなければ、そのバトンパスは最適だといえる、という具合だ。データは内蔵されたSDカードに保存され、専用のウェブアプリで統計や機械学習を用いた解析も可能。渡部さんはリレーマスターについて、「バトンパスは2人の走者のデータを取るため、解析をする際はデータの切り分けが必要。この部分でとても苦労した」と話してくれた。今後は商品化に向けてリメイクを続けていく考えだ。
國武悠人さん/森優貴さん作「VirtualPresents」- 仮想世界で用いるWebサービス
國武悠人さんと森優貴さん(いずれも高2)は、クラスで大流行だというVRのSNSアプリ「VRChat」を用いて、ウェブサイトからVR空間の中をデザイン・編集できるサービス「VirtualPresents」を開発した。VRChatでは、提供された機能を用いてユーザーがアバターやワールドを作成できるが、それらはVR空間内での表現にとどまっている。そこに疑問を持った2人は、ウェブ技術を用いれば、VR空間外と連携できるのではと考えた。
VirtualPresentsによって、クリエイターはVRChat上で画像が投稿されるワールドを登録する仕組みを、プレイヤーはVR空間内に画像を投稿したり、画像に「いいね!」をしたりといった仕組みが提供される。これを世界最大級のVRクリエーター展「バーチャルマーケット3」に出展したところ、240人ものユーザーがVR空間内に画像を投稿。ユーザーたちは、自分の写真をVR空間内に投稿して自己紹介をしたり、自作のイラストを投稿するなど、さまざまな利用方法が見られた。なかには、VR空間内に取り込んだ画像に動的表現を加えて立体的に見せるユーザーもいたという。2人は「Web技術を用いることで、VR空間の中で新しい表現ができるとわかった。今後もVirtualPresentsがVR空間と現実の架け橋となるよう発展させていきたい」と述べた。
行方光一さん作「Edge-guided Anime Characters Generation」 - 1本の線から絵を生成するサービス
行方光一さん(高3)は、ディープラーニングで注目されている技術GAN(Generative Adversarial Network/敵対的生成ネットワーク)を用いて、1本の線から自動で絵を完成できるシステム「Edge-guided Anime Characters Generation」を開発した。未踏ジュニアでは、アニメの顔画像の生成に焦点をあて、精度を高めることに取り組んだという。
本システムは、頭の輪郭などを線で描くと、それに沿った形のアニメ調の画像が自動的に生成される。生成された画像に線を描き加え、自分の思い通りの絵に近づけていく仕組みだ。たとえば、“目を垂れ目にしたい”ときは、生成された画像の目の位置に垂れ目に相当する線を描くと、その線に沿った形の画像が再生成される。同様に、“口を閉じる”、“顎の輪郭を変える”という具合に、どんどん変更点を書き足し、完成された絵を仕上げるというのだ。行方さんは「変更を加えるプロセスで、無意識に線画の絵も上手く描けるようになっている点に注目してほしい」と語り、描いた線に合わせて絵がダイナミックに変わるデモで会場を驚かせた。絵の苦手な人でも、自動生成された絵に線を加えるだけで、それなりの絵が描けるというだけでなく、無意識のうちに自身の描画力も向上させる強力なアシスタントになる、という視点はなかなかユニークだ。
松田活さん作「Mallet」- モバイル端末用簡易アプリ開発環境
松田活さん(高2)は、PCを一切使わず、スマートフォンやタブレットだけで簡単なiOSアプリを作成できる開発環境「Mallet」を発表した。現在、iOSアプリを開発する時は、開発ツールやプログラミングスキルが必要であるが、Malletでは、複雑なアプリは作れないものの、開発環境を数秒で構築し、ビジュアルプログラミング言語を用いて短時間でプログラムを書くことができる。さらには、完成したアプリもQRコードで即座に共有できるというのだ。
プレゼンで松田さんは、文化祭の模擬店で使用するレジアプリを例にあげて、その開発プロセスを紹介してくれた。プログラミングはブロックをドラッグして数値などを入力するだけで組み立てることができる。裏では、ブロックで組み立てたプログラムをテキストベースに自動で変換する。iOSの開発環境と言えばSwiftが一般的だが、松田さんはSwiftをほとんど知らないところから始めたそうだ。「Malletは、自分たちの必要な用途に特化したアプリを簡単に作ることができる」とそのメリットを語った。
いずれ劣らぬ技術力で、最終選考まで残ったプロジェクト
ここまで、「未踏ジュニアスーパークリエータ」に選ばれたプロジェクトを紹介したが、選出されなかったプロジェクトについても、簡単ではあるが取り上げたい。いずれのプロジェクトも、未踏ジュニアに選出されているだけあって、技術力も高く、将来性を感じる発表を見せてくれた。
『作りたい』という情熱、課題を乗り越える解決力、形にする技術力の結晶
未踏ジュニアにおいては、毎年、10代の中高生クリエーターがつくるプロジェクトに驚かされてきた。
すべてのプロジェクトの発表を受けて、未踏ジュニア代表の鵜飼佑氏による「みなさん特にインセンティブもなく、『これが作りたいから』と自分でアイディアを持って、時間をかけて作っている。学校で単位がもらえるわけでもないが、すごい自信をもって、自分はこんなアイディアがあって、実際作りました、というのがすごくよかった」というコメントが、端的に中高生クリエイターたちの本質を表している。
技術力はもちろん、着想から実装まで、試行錯誤を繰り返して、課題を乗り越え、ひとつのカタチに仕上げる姿勢は、申し分なく素晴らしい。その原動力は、“モノづくりが好き”、“テクノロジーが好き”といった、自分の好きなものに対する想いであろう。それを、未踏ジュニアという最前線のフィールドに身を置くことで実現できたことは、彼らにとってかけがえのない糧になることは間違いないだろう。
これからも大胆に、そして今回見せてくれたような、好きなことで際立つ点を持ち続けて、モノづくりに取り組んでほしい。
【お詫びと訂正】初出時に行方さんの作品名を「Edge - Guided Anime Characters Generation」「Edge」としていましたが、「Edge-guided Anime Characters Generation」の誤りでした。お詫びして訂正いたします。