こどもとIT
小学生プログラマーの裾野広がる、英語とネットを駆使して世界を視野に
――「Tech Kids Grand Prix 2019」決勝プレゼンテーションレポート
2019年11月1日 06:00
小学生向けのプログラミングコンテストとして、昨年に引き続き2回目を迎えた「Tech Kids Grand Prix 2019」の決勝プレゼンテーションが渋谷のヒカリエホールで開催された。昨年を上回る1422件の応募があった今回のコンテスト、ファイナリストたちの作品やその開発のポイント、受賞者たちの特徴をレポートする。
このコンテストは、21世紀を創る次世代のイノベーターとして全国から小学生プログラマーを発掘することを目的としてTech Kids Schoolの主催で開催されている。ファイナリストの子どもたちは、賞金総額100万円という本格的な舞台に挑み、巨大なスクリーンを背負い強いスポットライトを浴びながらプレゼンテーションを行った。
1422件の応募から勝ち上がった受賞作たち
第2回の今回は、プログラミング言語の指定はなく、アプリケーションやゲーム作品を広く募集した。昨年のファイナリストがさらにパワーアップした姿を見せただけでなく、昨年観客として会場にいた子どもたちがチャレンジして決勝に勝ち上がってくるなど、確実に輪が広がっている。
トップ3には、賞金として1位50万、2位30万、3位20万が贈られるほか、各協賛企業賞として、Cygames、東急、アドビ、CyberAgentの各社から賞が贈られた。ファイナリストの全作品を受賞結果と共にご紹介しよう。
第1位と東急賞をダブル受賞、日常の観察から生まれた実用アプリ「Famik」
病院の待合室で3人の熱を出した子どもを連れたお母さんを見かけた澁谷さんは、問診票を書くのが大変そうな様子に気づき、子どもたちの健康状態を記録できるアプリ「Famik」を作成した。熱、症状、関連する写真を子ども別に記録することができ、近隣の病院検索もできる。お父さんと分担して別の病院に連れて行くことを想定して、画面のスクリーンショットをLINE等で共有する機能もつけた。熱の入力は音声入力にも対応している。
将来的には情報を病院に送信して遠隔医療に活用できるような仕組みにできたらと考えているそうだ。話を聞いてみると、身近な困りごとへの気づきを、自分の両親へのインタビューを通して深め、機能を検討したそうだ。昨年同コンテストで部門2位だった渋谷さんが、新たな実用系のアプリでグランプリに輝いた。
第2位、技術を積み上げて制作したゲーム「マスメロ」
「マスメロ」は算数をモチーフにした迷路ゲーム。例えば足し算/引き算モードの場合、ステージ中央の数字と自分の数字が同じになるように、迷路を進みながらプラス/マイナスの数字ブロックにぶつかっていく。敵キャラがいるので意図せずに数字にぶつかるのを修正しながら攻略する。
今回のゲームを作るにあたって、宮城さんは自動生成と経路探索という2つのテーマを新たに習得することを課題にしたそうだ。複雑なゲームだと実現しづらいので、ゲーム自体をシンプルにしようとこのアイディアを思いついた。経路探索には、Unityのナビメッシュという技術を活用したが、自分で学んだグリッドベースの探索も別途生かしているということだ。他にも開発者らしい探求の成果が作品に生かされている。昨年同コンテストでグランプリだった宮城さんが2位につけた。
第3位、ドローンを無くしたショックがゲームに「DRONE SIMULATOR 3D」
買ってもらったばかりのドローンをあっという間に紛失してしまったことがショックだった森谷さんは、安全に操作練習ができるようにドローンのシミュレーターゲームを作り上げた。機体が遠くに行きすぎると制御不能になるので、高度や距離の値を見ながら操作する。視点は3つ切り替えられ、空撮ミッションを用意してゲーム性を持たせた。軽いプログラムでドローンらしい動きを演出する様々な工夫をしている。
小5にしてプログラミング歴5年目。話を聞いてみると、幼稚園の終わり頃にScratchを知って以来ずっと独学で続け、Unityを使い始めたのはこの1〜2年だという。わからないことは、とことん検索をしてネット上のコミュニティに質問をして解決するので、自然と英語も使えるようになったそうだ。おそれずに飛び込んで自分で情報を集めるパワーが人一倍強い印象を受けた。
Cygames賞、すべてがフラクタルで構成されたゲーム「フラクタルの森」
「フラクタル」と呼ばれる図形に魅せられているという齋藤さんは、フラクタル尽くしのゲームを作成した。フラクタルというのは全体と部分が相似の図形のことで、ゲーム内の3D世界にある構造物を全てフラクタルで構成した。もちろんフラクタル図形はプログラムで生成していて、齋藤さんが考えたオリジナルのフラクタル図形も登場する。
森の中を雪だるまのキャラクターが雪のかけらを探して歩き回るという、ゆったりとしたゲーム内容で、雪の結晶もフラクタル、進行方向を示す照準もフラクタル図形というこだわり方だ。なんと自作のBGMも、GarageBandのピアノ・ロール・エディタ上で音をフラクタル構造で配置して作曲したという徹底ぶり。昨年の同コンテストでは素数を題材にScratchで作成したゲームで企業賞を受賞したが、今年は開発環境も作品もステップアップした。
アドビ賞、タイルで街を作る開拓ゲーム「TILES」
井上さんが作成した「TILES」は、タイルでできた世界を開拓するゲーム。道を拡張し各種施設を作って村から街へと開拓レベルを上げて発展させていく。お金、食料、人口、人気のステイタスがカウントされていて、全てのタイルを開拓して人口を2000人以上に増やすのがゲームのゴールだ。コンピューターとの対戦モードがあり、領地を取り合いながら開発することもできる。コンピューター側の行動ロジックを丁寧に検討した。
ゲームを作成したScratchには、「リミックス」といって公開された作品を改変して学び合う習慣がある。井上さんもこの作品を作るにあたって、他の人が自分の世界観にリミックスして楽しめることを意識したそうだ。コミュニティを視野に入れ、再利用可能な形で提供しようとする発想がエンジニア的だ。
なお、井上さんは、今年3月に香港で行われたアジア太平洋地域のアプリ開発コンテスト「AppJamming Summit 2019」に別の作品で日本代表として参加し、小学生部門で1位を受賞している。
CyberAgent賞、珠の動かし方を教えてくれる「真・そろばん道場」
そろばんの珠の動かし方が覚えにくいと感じていた平川さんは、数字を入れるだけでそろばんの動きを見せてくれるアプリが欲しいと思い、自分で作成した。足される数、足す数を入力すると画面上で珠の動きを再現してくれるので、それを見ながら実際にそろばんを打つ練習ができる。実はこの作品、ひとつの珠が、どういう場合にどう動くかのパターンを全て調べ上げ、ひとつひとつの珠に個別にプログラムしてある。ひたすら地道に調べ上げた努力作だ。入力できる数を1〜9に限定するなど計算パターンを制限して実現させている。
話を聞いてみると、平川さんがプログラミングに出会ったのは昨年学童クラブでScratchに触れたのがきっかけ。初めて作ったオリジナル作品が「そろばん道場」の初期バージョンで、「かつ」と「もしくは」の違いもわからないところからがんばったそうだ。
惜しくも受賞を逃したファイナリスト達の作品
どのファイナリストたちも工夫とこだわりにあふれた作品を作り上げ、立派にプレゼンテーションした。受賞を逃してくやしい思いがあふれている様子も見えたが、その経験ひとつひとつが次の作品づくりにつながるだろう。
川口明莉さん作の「名古屋ここがすごいぞ」は、名古屋の観光地や名物を楽しく紹介するインタラクティブ作品。選んだ目的地に電車で移動するアニメーションなども表示され、目的地ではミニゲームやクイズが用意されていて遊べるようになっている。作者のあたたかい思いがあふれ、楽しい気持ちになる作品。
宇枝礼央さん作の「Color overlap」は、キューブを組み合わせるパズルに光の三原色の要素を取り入れたゲーム。RGBのキューブが1回ずつ適用されると加色混合で白になる法則をゲームのルールにし、課題のキューブ全てを白にできたらステージをクリアできる。シンプルなルールながらやってみるとなかなか頭を使い、面白い。
池田應治郎さん作の「隠れ鬼」は、鬼ごっことかくれんぼを合わせた3Dゲーム。学校で、鬼ごっこが怪我の続出により禁止になったことがきっかけで発想した。オンライン対戦ができ、ボイスチャット機能もある。足の悪いおばあちゃんが、ゲームの中でダイナミックに走り回れることを楽しんでくれてとてもうれしかったそうだ。
安藤優那さん作の「ホッピング竹取物語暗記ゲーム」は、宿題で竹取物語を暗記しなければいけなくなったのがきっかけで、楽しく覚えられるようにゲーム化した。うさぎが竹マークを取るたびに文字と音声で竹取物語の一説が出る。ゲームの要素が多いと話が頭に入らないことに気づき、暗記の邪魔にならないように調整したという試行錯誤が光った。
様々な層のファイナリストたちから感じる、裾野の広がり
本コンテストは昨年に引き続き2年目のため、2年連続というファイナリストも目立った。今年の受賞者のうち1位の澁谷さんと2位の宮城さんは、昨年度本コンテストでの入賞を経て、「Kids Creator's Studio」というプロジェクトのメンバーに選ばれ、デザインの知識やデザインアプリケーションの使い方を学ぶなどしている。その経験が今年の作品のUIに生かされているのを感じた。つかんだチャンスの分だけスキルアップができている。
かといって専門教育を受けたり経験豊富でなければファイナリストになれないということはない。開発環境はUnityばかりではなくScratchを使用しているメンバーも多いし、まだプログラミングを始めてから1年程度というメンバーもいる。決して高度な技術を使うことを競っているわけではなく、審査基準である(1)VISION、(2)PRODUCT、(3)PRESENTATIONのバランスのとれたモノづくりが求められていることがわかる。
また、こうしたコンテストで上位に上がるにはプログラミングスクールで学ぶことが必須かというとそうでもない。ファイナリストはスクール生ばかりではないし、プログラミングとの出会いもさまざまだ。
中でもCyberAgent賞の平川さんがScratchに出会ったのが、通っている学童クラブだったことに注目したい。平川さんは、学童クラブでScratchを触る機会があり、そこで面白いと感じ、探求するきっかけになったそうだ。こうした偶然の出会いがなければ、彼女がプログラミングの面白さに気づくのはもっとだいぶ後のことになっていただろう。
来年度から小学校でプログラミングが必修になるので、すべての小学生が何らかの形でプログラミングとの出会いを経験する。プログラミングの面白さにのめり込む子どもは一部だとしても、裾野が広がることは間違いない。
インターネットで情報をつかむ子どもたち
ファイナリストの子どもたちに共通しているのは、自分から情報を取りに行く力だ。自分の力でまず検索して調べる習慣のある子どもたちばかりだ。独学でプログラミングを続けてきたという3位の森谷さんは、1台のパソコンからインターネットのおかげで世界が開けたことを強調した。わからないことがあれば、英語でも情報を探そうとする体当たりの姿勢が印象的だ。
森谷さんはScratchを始めた頃、作品を公開した際に、「お気に入り」や「好き」を示す星マークやハートマークが全然つかないことを残念に思い、どんな作品にたくさんマークがついているのかを調べた。すると英語で作られた作品ばかりであることに気づいたそうだ。そこで、自分の作品を英語で公開してみたところ反応を得られるようになり、手ごたえを感じたという。インターネットの向こう側に広がる世界の広さが、使える言語次第で大きく変化するということを幼いうちに実感したわけだ。
なお、この日は海外のゲスト参加者によるプレゼンテーションも行われ、アジア太平洋地域のアプリ開発コンテスト「AppJamming Summit 2019」の入賞者3名が登壇した。前述の通り1位となった井上将煌さんに加え、2位のフィリピン代表Kyle Linさん(11才)、Most Creative Awardを受賞したイントネシア代表Angel Anleeさんが、それぞれ自作のアプリを紹介した。全員が英語で流暢にプレゼンテーションを行う様子を見ていると、プログラミングやもの作りへのこだわりが重要なのは当然としても、道具として英語が加わることで、さらにチャンスが広がることを実感させられた。
コンテストの結びに、主催のTech Kids Schoolを運営する株式会社CA Tech Kids代表取締役社長の上野朝大氏は、「今回印象的だったのは、プログラミングを学ぶ子どもたちの輪が広がっていることです。昨年のコンテストを見て挑戦した子どもたちがいたように、今年のコンテストや海外の子どもたちの様子を見て、多くの日本の子どもたちが刺激を受けたことと思います」と語り、来年に向けてチャレンジする子どもたちにエールを送った。
トップを走る子どもたちがさらに技術と発想に磨きをかけるのと同時に、来年度からの小学校のプログラミング必修化をきっかけに、新たにプログラミングと出会って楽しさを知り、作品作りに挑戦する子どもたちが増えることを期待している。