こどもとIT
U18部門金賞は小学5年生、「今までなかったものを生み出した工夫」を高く評価
――日本ゲーム大賞2019「U18部門」決勝大会レポート
2019年10月30日 06:00
2019年9月15日に、東京ゲームショウ2019のイベントステージにて、「日本ゲーム大賞 2019 U18部門」の受賞作品発表と表彰式が開催された。
「日本ゲーム大賞 U18部門」はコンピュータエンターテインメント協会(CESA)が主催するコンテストで、次世代のゲームクリエイターの発掘を目的とした18歳以下が対象のゲームプログラミングコンテスト。今回が2回目の大会となる。応募作品のテーマには特に指定はなく、自由な発想で独創性のあふれるゲーム作品を作ることが目的となっている。
決勝に残ったのは、58作品のエントリーの中から1次審査と予選大会で勝ち残った7作品。6月の予選大会でのアドバイスを受け、ゲームの内容などをブラッシュアップした作品で競う。
決勝大会の審査基準は、実機審査とプレゼンテーション審査の2つ。実機審査は審査員による事前試遊で、ゲームとしての面白さや独創性、ゲーム実装の工夫や構成力、プログラム、アート、サウンドなど技術的な完成度などを審査。プレゼンテーション審査では、プレゼンテーションのストーリー構成、資料の完成度や工夫、話し方や動作などのプレゼンテーションスキルを見る。
この決勝大会では、ファイナリストたちがプレゼンテーションについての意気込みを語ったあと、それぞれの作品についてのプレゼンテーションを行った。本稿ではプレゼンテーションの順に作品を紹介したい。
小学5年生から高校3年生まで、多彩な作品とプレゼンテーション
池上颯人さん作「手裏剣Jump」
前回の大会でも銀賞を受賞した池上颯人さんは、前回以上に面白いゲームを作りたくて悩み、世の中の面白いゲームについて色々と考えたという。色々なゲームを調べていくと、基本の武器と動きが楽しいのではないかと考え、題材として忍者を選んだと語った。忍者と言えば手裏剣と身軽なジャンプだが、ここに池上さんは工夫を加え、敵に手裏剣が当たると跳ね返ってきて、それが主人公に当たるとジャンプするという動きをゲームに取り入れている。このゲームの面白いポイントは3つ。1つめは敵を倒して跳ね返ってきた手裏剣に当たるとジャンプするという、いままでにない新しい操作感。2つめは基本の動きを活かすさまざまな仕掛け。巻物に手裏剣を当てたときに使える忍術など、敵を倒すバリエーションも多彩だ。3つめは笑えるショートストーリーで、ゲームの最初、中盤、終盤に面白いストーリーを入れて、ステージが進むごとに楽しめるようにしたという。
プレゼンテーション後の質疑応答で、審査委員の日野氏からの「なぜ、手裏剣を当てることとジャンプを連動させようと思ったのか?」との質問に対し、「手裏剣を投げて敵を倒すゲームでは、普通のゲームになってしまう。ゲームに独自性を持たせたいと思っていたとき、この動きを思いついた。試行錯誤の結果だった」と語った。
田染颯野さん/水上嵩大さん作「KAISENDOOOON!!!」
「狙って、釣って、盛り付けて」をコンセプトにした一風変わった釣りゲームで、産地直送感を大切に制作したという本作。家族で手巻き寿司を食べるとき「たくさん食べていいよ!」と言われるが、本音は「安い具材だったらという条件があるのでは?」と語り、「高い具材を山盛りで盛り付けて食べたい!」という欲求を満たすために作った、とウィットに富んだ動機を話してくれた。ゲームは、タイミング良く魚を釣り、釣り上げた魚からそのまま海鮮丼を作っていく、という内容だ。出来上がった海鮮丼には「ジェンガ風のサーモン丼」というような独特な名前と値段が付く。魚を釣る演出や、釣った魚を飛ばす演出など、3Dを活かしたダイナミックな演出を重視することで、ゲームに臨場感を出したという。プレイするたびに毎回違う名前と値段が付くように、丼の評価システムを開発して、作る楽しさを味わうことができるゲームだ。
質疑応答では三代川氏が「一発お笑いネタに近いインパクトを感じた、ゲームが進んでいくと潜水艦とかちょっと面白いものが出てくるが、どこまでネタを広げようと思ったのか?」と質問。それに対して、「丼に乗ってても違和感がないものと、海から釣れるかもしれないものにネタを広げるようにした」と本気かネタかわからない返しで審査員を煙に巻いてくれた。
松田活さん作「Overturn」
プレイヤーを操作してゴールにたどり着かせるパズルゲーム。プレイヤーは時計回り、反時計回りに回転して、壁に沿って移動する。ブロックには、押せるブロック、回転するブロック、壊れるブロック、マップ全体を回転させるブロックなどがあり、それらのブロックをうまく使ってゴールを目指す。ただし、ゴール地点で静止しなければいけないという条件があるため、簡単にはゴールができないのが特徴だ。ブロックなどが落下するアニメーションにもこだわっていて、ライブラリなどにあらかじめ用意されている物理エンジンなどは一切使わずに、すべて自分で作成したという。また、プレイヤーキャラの見た目にもこだわり、キャラの視線を移動方向に向けることで親しみやすさを増すようにした。未完成な部分が多いので、ギミックやマップを追加して、最終的にモバイル端末用にリリースしたいとのことだった。
質疑応答では、石戸氏の「パズル型のゲームを作ろうと思い至ったモチベーションはどこにあったのか」との質問に、「アクション系のゲームを作るのはあまり得意ではなく、パズルのようなシンプルなゲームを作りたいと思った」と答えていた。
宮崎章太さん/西岡明矢斗さん作「ふにゃごん」
「ふにゃごん」という怪獣を操作して、町にある色々なものをどんどん吸わせて大きくさせていく3Dアクションゲーム。回転、移動、火炎放射、吸い込みなどの操作をスティック1本で操作するという独特な操作性が特徴だ。ステージ内の巨大な銅像を吸い込むとステージクリアとなるが、ふにゃごんは自分より背が高いものは吸えないため、自分よりも背が低いものを吸い込んでふにゃごんを銅像よりも大きくする必要がある。敵に体当たりをされると、吸い込んだものを吐き出して少し小さくなってしまう。ハイスコアを目指すもよし、自由に遊んでストレス発散するもよし、とさまざまな楽しみ方ができるようになっている。独特の操作感以外にも、ふにゃふにゃ感を出すために物理演算を使うなど動きにもこだわりを見せる。また、巨大化したときに通れなくなる場所にはトレジャーアイテムを置くなどレベルデザインにも工夫をしたという。
質疑応答では日野氏が「独特の操作性は慣れると楽しいが、初めはストレスを感じる」と操作に慣れていない人がプレイするときのストレスについて質問、「気持ちのいい難しさであれば良いが、このゲームではちょっとイライラするという部分があり、そこが改良されれば良かったと思う」とアドバイスを与える場面もあった。
鎌谷天馬さん/池田逸水さん/改野由尚さん作「shotlix」
手軽に遊べることをテーマに開発したゲームで、銃弾と数々のアイテムを駆使してお邪魔地帯を消し、ポイントを集めていくシューティングゲーム。自機の方向を操作して、ランダムに出現する数字を集めて、高得点を狙う。方向キーで自機を移動させてスペースキーで銃弾を発射するだけという直感的な操作方法が特徴。難易度を選ぶことができ、さらに難易度ごとにランキングも用意しているので、初心者から上級者まで楽しむことができることや、平均プレイ時間が約30秒~1分と非常に手軽に遊べることなどがアピールされた。単純なゲームに一時期すごくハマってしまったことがあって、その経験が今回の作品を作った動機だったとのこと。ユーザーインターフェースにもこだわり、ユーザーのフィードバックを受けゲームの改善をすることもできたなど、より質の高い作品を作り出すことができたのではないかと締めくくった。
質疑応答では石戸氏から「ユーザーからのフィードバックにはどんな改善要望があったか?」と、制作時間も短い中で、満足のいくレベルまで作り込むことができたのかという質問があった。それに対して「難易度の意見が多かったが、人によって感じ方はまちまちなので、ある程度平均値に合わせることを目指して改善した。シングルプレイについては完成されていると思う、(今後は)対戦の機能も実装したい」と答えた。
伊豫冬馬さん作「幽体離脱」
その名の通り、幽体離脱がテーマのパズルアクションゲーム。プレゼンテーションでは、幽体離脱を「ロボット」と「操縦者」にたとえて説明。体から離れた幽体は操縦者となり、アイテムに憑依することで、そのアイテムも動かせるようになっている。また、プレイヤーは光に弱いという設定があるため、明るい場所にあるアイテムなどは幽体になってアイテムに憑依し、プレイヤーまで動かして回収する、といったテクニックが必要になる。また、氷のアイテムは光を消すことができるといったように、効果を持ったアイテムを駆使する、という工夫もされている。友人にキャラクターの絵を描いてもらったり、演劇部にキャラクターボイスを演じてもらったりする中で、ゲームが完成すると色々な人からの喜びの声がもらえたという。自分だけではなく喜びを共感できるという経験から、ゲームは技術の架け橋だと思うし、ゲームは高度な自己表現でもあると締めくくった。
質疑応答では三代川氏から、ヒントや最初のチュートリアルなどの配慮について、どのようなユーザーフィードバックがあったのかという問いに対して「パソコン部に所属していて、友人などがゲームをプレイしている様子を見て、色々な要素を組み込んでいった」と答えていた。
梅村時空さん作「朝を知らぬ星」
朝がこない世界を舞台にした3DアクションRPG。地上は敵に占拠され、人間は地下に避難していたが、地上を取り戻すため人間たちは立ち上がり、敵と戦うというストーリー。地上に置いてあるアイテムに触れることで、セーブやファストトラベルなどさまざまな効果を得ることができるようになっている。こうしたアイテムは公衆電話など、ゲームの世界観を壊さないようなものになっている。「朝が来なくなってしまってる星」というコンセプトにちなんだグラフィックを実現するため、木漏れ日の表現など工夫した。外灯や信号機などで暗い中に明かりを灯すことにより、ゲーム画面にコントラストが生まれて画面が良い雰囲気になるように工夫しているという。今後は、アクションRPGとしてゲームを再構築することや、マルチプレイの実装、完成後はSteamやコンシューマー機でリリースしたいと語った。
質疑応答では日野氏から、グラフィックも含めて全て1人で作ったことについての質問がされた。「グラフィックはほかの人にまかせてとか、そういう風な作り方をしようと思わなかったのか。1人で作ることに大きな意味があったのか?」という日野氏の問いに対して、「コミュニケーションに時間を取られてしまうのがいやなので、(すべて)1人で作った」と答えた。
受賞作品発表、金賞はゲーム作りの工夫を重視
すべてのプレゼンテーションが終わると、作品の審査が行われ、受賞作品の発表が行われた。
銅賞「名を知らぬ星」
銅賞に選ばれたのは梅村時空さんの「名を知らぬ星」。審査員の三代川氏は「1人で作ったことに非常に驚きを感じた。夜と光のコントラストなどグラフィックも美しい。今後もブラッシュアップしていくと思うが、バトルのモーション部分のテンポの良さやBGMなどを良くすれば商業レベルまでいけると思う。期待しているので頑張ってほしい」と作品を評価した。
銀賞「Overturn」
銀賞は松田活さんの「Overturn」が選ばれた。審査員の石戸氏は「この作品はとにかく完成度が高い。ありそうだけどその発想はなかったという驚きと、ちょっとした工夫でこんなにもゲームが面白くなるという発見ももらえた。ゲームを遊ぶ人が愛着を持てるような、細かい工夫がされていたのも良かった。銅賞受賞作と同じように、この作品も商品化できるレベルだと思う。最後まで詰めて、ぜひ商品化して欲しい」と作品を評価した。
金賞「手裏剣Jump」
金賞は池上颯人さんの「手裏剣Jump」が選ばれた。審査員の日野氏は「完成度という点では、銀賞、銅賞の方が上だったかもしれない。しかし、ゲームの中で使われているアイデアが良かった。普通はボタンを押したらジャンプするのが当たり前といった発想をする。このゲームでは、攻撃が当たって手裏剣が跳ね返ってきて、それによってジャンプする。それが、アクションとして気持ちよくなるのではないかと考えたのが素晴らしい。当たり前のことを、当たり前で済ませず工夫をするという、ゲームを作るうえで大切なことをしっかりやっている。ゲーム作りは発想することや工夫することの繰り返しで、工夫して今までなかったものを生み出すことがゲームを作ることの醍醐味であり、一番大切なことだと思う。この作品はそれができているので金賞になった」と評価した。
各審査員が語る、ゲーム作りに大事なこととは
結果発表の後に、各審査員から講評が述べられた。
三代川氏は「多彩なゲームが多く、楽しませてもらった。この部門では独特のアイデアを重視したいと思っている。金賞の手裏剣Jumpなど、ほかのゲームにはないアイデアが出てきたのが良かった。皆さんのプレゼン力が高くて本当に驚いたが、プレゼン力の高さゆえにフォーマット化されている部分があるように感じた。ゲームのアイデアと同じように、プレゼンの部分も独自性を出してもらえるとさらに良いものになると思う。これからも頑張ってほしい」と語った。
石戸氏は「昨年も驚くほど素晴らしかったが、さらに一段全体のレベルが上がった印象を持っている。発想力、デザイン力、技術力、プレゼン力、皆さんはすべてを持ち合わせている。今回凄いと思ったのは情熱や思いの強さ。それらをプレゼンからひしひしと感じた。思いがあるからこそ多少の困難があっても、みんな試行錯誤しながら乗り越えてきたのだと思う。皆さんはUnder-18ということで、まだまだ成長の可能性は山のようにある。思いを強く持ってこれらも活躍してほしい」と語った。
日野氏は「毎回若い人たちのパワーを感じさせられる。こちらが勉強させられているというか、忘れていたものを思いださせてくれる気がする。若い人たちが作っているものは素直で思いが強い作品ばかりだ。今日も、賞を選びながら、自分が小学生くらいの頃からコンピュータを触りはじめて、その時に一生懸命作品を作ろうとしたけれども、うまく作れなかったという記憶を思い出した。ゲーム作りは、本当に楽しくて、こうやって作っていくものだということを改めて感じることができた。ゲーム作りの楽しさを忘れずに、いい作品を作っていってほしい。それと同時に、自分たちももう少し頑張らないといけないな、と後ろから追い立てられるような思いで感動させてもらった」と語った。
閉会にあたり、CESA人材育成部会 部会長 株式会社セガゲームズ 代表取締役社長COO 松原健二氏が登壇し、本日の総評を述べた。
「日本のゲーム業界の課題は、世界で活躍できる若い人材を必要としていること。日本のゲーム市場のみならず世界でもゲーム市場がこれだけ広がっていて、日本が世界に誇る産業でありエンターテインメントでありコンテンツでもあるゲームというものをしっかり伸ばしていく必要がある」とし、「U18部門は、18歳以下の皆さんにゲーム作品を作ってもらい、切磋琢磨してさらに良い作品を作ってもらうことを目指している。予選の後でブラッシュアップの期間を設け、開発者によるプレゼンテーションといった多様なことを強化していき、18歳以下のさまざまな人が応募してくれるような機会を作っていきたい」と続けた。2回目の今回は、平均年齢が16歳弱、5歳から17歳まで、18都道府県からの応募があったという。作品数こそ去年には届かなかったが、一段とレベルが上がったと松原氏は語り、「これからも若い人たちが、ゲームを作り、発表し、のびのびとした環境の中で、ゲームを作ることに励んでもらえるように支援していきたい」と締めくくった。
最後になるが、筆者自身も高校生の時に初めてプログラミングを経験し、その後さまざまなプラットフォームとプログラミング言語でプログラムを作ってきた。ゲームメーカーに在籍していたこともあり、ゲーム開発の経験もある。もちろん、何かに突出した能力があった方が有利ではあるが、今も昔もゲーム開発には「総合力」が求められることは変わらない。
決勝大会に残ったゲームは、どのゲームも「総合力」が高く、素晴らしいものばかりだった。さらにその中で金賞を射止めた「手裏剣Jump」は、突出した「工夫」が認められた結果、と言ってよいだろう。決勝大会に残った子どもたちだけではなく、募集してきた作品を開発したすべての子どもたちの今後の活躍に期待したい。