こどもとIT
老若男女が自然石やコンデンサーでMakeする、カオスな世界を見てある記
――「Maker Faire Tokyo 2019」レポート②
2019年9月19日 06:00
前回のレポート「Maker×教育=自由! Make:ClassRoomで自分だけのMakeを体験・発表する子どもたち」では、Maker Faire Tokyo 2019のごく一部、タイムスケジュール通りに進行するいわば「お行儀の良い」イベントの様子をお届けした。では、それ以外の広い会場でいったい何が展示、開催されていたのか。8月4日、時間の許す限り会場内を見て歩いた中で、筆者の目にとまった「カオス」なものを中心にお届けしたい。
プログラミングから手仕事まで、自由に作る子どもたち
筆者が言うのもなんであるが、そろそろ言い飽きてきた「2020年4月からの小学校での必修化」もあって、会場内ではプログラミング/STEAM関連のワークショップも何カ所かで開催されていた。夏休み期間ということもあり、多くの子どもたちが熱心に取り組んでいる姿があちこちで見かけられた。
中でもにぎわいを見せていたのが「子どもプログラミング喫茶」。2016年から、各地のMaker Faireでイベントを行っており、企画/運営にも子どもたちが参画している。喫茶店でメニューを選ぶように、訪れた子どもたちがやってみたいプログラミングの題材を選び、それを店員さんに扮した運営側の子どもたち(と大人)がサポートするというシステムだ。
喫茶とは言っているが、お茶とかケーキがでてくる訳ではない。ときにはScratch界の大御所まで店員さんになっているという、なかなか面白い光景も見られた。内容もScratch以外にロボットプログラミングなど各種取りそろえていた様子。
イベント入り口には、参加した子どもたちからの感想コメントがびっしりと張り出されていた。中には「おもしろかった ぜんぜんうごいてくれない」、「プログラミングはなぜあるのか」と言ったなかなか深いコメントも。
ロボット関係のワークショップも多い中、小型で女の子達にも「カワイイ」と評判(筆者調べ)の「Sphero mini」がコロコロと床に並んでいるのは、なかなか面白い光景だった。これは、iPad miniを使って、自分たちで考えたルールで球体ロボを操作/プログラミングして動かすというアクティビティ。子どもたちはチーム対抗戦に挑戦していた。
他にも、定番のmicro:bitを使ったワークショップもちらほら。セミナー形式の親子体験ワークショップには、子どもたち以上に保護者も熱心に講師の話に耳を傾けている。
新しい手作りや体験に取り組むブースも多数
Maker Faireで面白いのは、電子やサイエンス以外の手仕事系のブースも多く出展しているところ。手仕事と言っても、幅広い。電子部品の「コンデンサー」を使った盆栽づくりといったMaker Faireらしい(?)ものから、糸を紡ぐワークショップまでと内容はさまざまだ。
他にも、ストーローワークショップ、段ボールを使った工作や遊びなど、子どもたちは実にいきいきと取り組んでいたというか、普通に遊びまくっている様子である。
Makeだけでなく身近ないろいろな機械を分解するコーナーも大人気だった様子。あいにく、時間の関係でもくもくと分解しているところは見ることができなかったのだが、結果の残骸が生々しかった。今の機械はスマホ1つとっても中身を見る機会はめったになく、好きなだけ探求して良い体験は、子どもたちにとって貴重な時間だったのではなかろうか。
自由すぎる大人たちの驚きの展示が並ぶ
広い会場には、サイエンス、電子工作の猛者たちが出展するブースも並ぶ。いずれも、立ち寄った子どもたちが手に触れたり、出展者と話を自由にすることができるのがMaker Faireの魅力だ。うろうろ覗いているだけでも楽しく、「なんですかこれは」と思わず聞いてしまう物もちらほら。「お茶の間粒子加速器」を筆頭に、先進技術を惜しげもなく使った展示も披露されていた。
IoTをからめた展示も目についた。Maker Faireらしく、なかなか一筋縄でいかない強者達が並んでいる。筆者が思わず立ち止まってしまったのが、まさに「全自動」とも言える手作り炊飯マシン。なんと、お米を研ぐところからやってくれるようだ。知り合いの大家族にはきっと喜ばれるだろうなあと思った。
モビリティもこれからの時代の重要なテーマ。たぶんこの会場でしか見られなさそうなユニークな乗り物も多数展示。中には実際に子どもが乗ることもでき、筆者ももう少し身体が小さければ乗ってみたかったものもちらほら。
前回のレポートでもお届けしたへボコンを主宰する「デイリーポータルZ」では、同社らしいユニークな展示が並んでおり、なかなか大人が飛び込みで体験できる場所がないなか、筆者も体験させてもらうことができた。「ハッカー気分を体験する」コーナーは、キーボードをガチャガチャするだけで、画面によく映画に出てくる謎のプログラミング言語的なテキストが表示されるウインドウが勝手に表示されるだけ!?見た目も、きっとハッカーっぽく見えるはずなのだが、筆者の場合「単に締め切りに追われて必死に仕事している人」にしか見えなかった。
ロボット関係もユニークな展示品が並ぶ
ロボットプログラミング体験を行っていたタミヤも別にブースを出していた。並んでいるロボット達の中に、見慣れない機体が。聞けば、中の人がいろいろなパーツを組み合わせて遊び心でつい作ってしまった何からしい。とても似たようなメカを見たことがあるような気がするが、きっと気のせいだろう。他にも一連のタミヤ工作シリーズに頭脳を搭載したカスタムタイプや新製品も並べてくれた。
今回のMaker Faireの一角には、「食品×ロボ」の展示もちらほら。中でも行列ができていたのがソフトクリームを作ってくれるコーナー。行列が長すぎてあいにく並ぶ時間がなかったのだが、ロボットアームがソフトクリームを器用に作っていく様子に興味津々の子どもたちが多かったようだ。
他にもカラフルなクレープを焼いてくれるロボット。いまやロボットといっても、お掃除ロボットのように自動機械的な見た目も多いのだ。クレープロボと聞いて、一生懸命焼いている人型を想像してしまうのは昭和世代であろうか。
石積みにMakeの原点を見た
今回は、2日にわたって行われた中からごく一部をご紹介してきた。こうして、改めて見返すと、人間の作りたいという衝動の対象はなんと広範囲なのかと改めて感心してしまう。
さて、最後にご紹介したいのは、なんと「石」である。
カメラを持って会場内をうろうろしていたところ、「これからデモンストレーションがはじまるので、是非写真撮ってください」と、なかば強引に引き留められた。そこまで熱心にお願いされることは、他ではなかったので、何だろうと思いながら足を止めた。あたりを見回すとそこには、一見Maker Faireとは思えない、なんとも不思議な光景が広がっていた。
これは、天然の石をバランスだけで積み上げていく「石花(いしはな)」というものらしい。そんな簡単に石って積めるんだろうかと、興味津々の観衆の前でデモンストレーションがはじまった。目の前で本当に石が積まれていく様子は、なんとも緊張感溢れる時間。周りで見ている方も、息をのみ。積み上がった瞬間に静かに拍手が沸き起こり、盛んに写真が撮られるというなんとも不思議な時間であった。
考えてみれば、人類が最初に手にした道具らしいものの1つが石器、つまり石である。石を使って遊んでいるうちに、なにかの衝動が初期の人類にもひょっとしたらあったのかもしれない。そう考えると、この石花は、Makeの原点に触れる体験ともいえる。気になる方は、さっそく石を探すところからやってみてはどうだろう。意外とそこからひらめく“Make”があるかもしれない。