こどもとIT

教育版マインクラフトで伝える、“自分の頭で考える”プログラミングの大切さ

――徳島県・徳島大学主催 マインクラフト プログラミング ワークショップ レポート

小学校でのプログラミング教育必修化を受けて、昨今は、子ども達がプログラミングを学べる機会や、教材の選択肢も増えてきた。なかでも、首都圏はそうした環境に恵まれているが、地方でも同様に、子ども達への魅力的なプログラミング教育は求められている。

そんな中、徳島県と徳島大学は教育版マインクラフトを活用したプログラミングのワークショプを開催した。子どもたちに絶大な人気を誇るマインクラフトは、地方でもワークショップのコンテンツとして人気が高い。どのような内容だったのか、その中身を紹介しよう。

徳島大学で開催されたプログラミングワークショップ「マインクラフト 子どもプログラミング グレートハッカーを目指せ」の様子

県と大学がタッグを組んだ、教育版マインクラフトのワークショップ

夏休み最後の日曜日となった9月1日、徳島大学にて小学生以上を対象にした「マインクラフト 子どもプログラミング グレートハッカーを目指せ」(主催:徳島県政策創造部 地方創生局 地域振興課、徳島大学情報センター、共催:ダイワボウ情報システム株式会社)と題したプログラミングのワークショップが開催された。

同イベントは、徳島県と徳島大学がタッグを組んで主催したもので、プログラミング教材に、教育版マインクラフト「Minecraft: Education Edition」(以下、教育版マインクラフト)が選ばれた。一般的に同教材を用いたプログラミング学習といえば、小中学校で利用されるケースが多いが、今回のように県と大学が主催するワークショップで利用されるのは非常に珍しい。

これについて、ワークショップの講師を務めた徳島大学 情報センター 助教でCoderDojo Tokushima 代表でもある谷岡広樹氏は、「以前、県が主催したマインクラフトのワークショップは募集と同時に定員が埋まった。今回はその好評ぶりを受けての開催となり、今回のワークショップも告知後、すぐに募集人数に達した」と説明する。子どもたちの間では依然、マインクラフトの人気は高く、その世界観の中でプログラミングが学べるとなると関心を示す子どもや保護者が多いのだ。

ワークショップの講師を務めた徳島大学 情報センター 助教、CoderDojo Tokushima 代表の谷岡広樹氏

谷岡氏は、「都市部ではマインクラフトが流行っていて、プログラミング学習に利用されていることも知っていたが、徳島の子どもたちにここまで人気があるとは思わなかった。改めて、マインクラフトの人気を感じた」と率直な感想を聞かせてくれた。

プログラミングとは、コンピュータにお願いをすること

ワークショップは最初、教育版マインクラフトの基本操作を学ぶことからスタートした。参加した子どもたちの多くは、マインクラフトで遊んだ経験があるが、そのほとんどはSwitch版やiPad版を使用しており、パソコンで操作する教育版マインクラフトは初めてだからだ。今回はダイワボウ情報システムが機材協力をして、参加者全員分の「Surface Pro」と「Surface Laptop」が用意された。

子どもたちは、教育版マインクラフトで使用するプログラミング環境「Microsoft MakeCode」(以下、MakeCode)を起動し、「エージェント」と呼ばれるロボットを呼び出した。このロボットは、プログラムで指示を与えることでマインクラフトの中で動く。講師の谷岡氏は「プログラミングとは、コンピュータにお願いをすること。マインクラフトではエージェントにお願いをすることだ」と説明し、マインクラフトでは大きな家を瞬時に作ったり、木を何本も自動的に植えたりできると、子どもたちにもわかりやすく伝えていく。

教育版マインクラフトで使用するプログラミング環境「Microsoft MakeCode」
マインクラフトの中で動くロボット「エージェント」

続いて、エージェントを前後左右に動かすプログラミングに挑戦した。これ自体は簡単なプログラムであるが、そもそも子どもたちの反応としては、マインクラフトの世界で自分が意図した通りにロボットが動くこと自体、新鮮で面白いようだ。慣れてくると、繰り返しブロックの数値を変更し、エージェントを何百歩も動かして、その様子を見ながら楽しんだ。

ある程度、エージェントを動かすことが出来るようになると、谷岡氏は変数についても説明した。参加者の中には、まだ変数を理解するのが難しい年頃の子どもたちもいたが、同氏は「プログラミングは変数を使えるようになることで、できることが増える」と実際にMakeCodeのブロックを動かしながら説明した。その後は、“エージェントを四角形に歩かせてみよう”というお題に挑戦し、最初の1時間が終わった。

変数を使うことのメリットを子どもたちに説く谷岡氏

一番大切なことは、自分で考えたことを試すこと

続いて、子どもたちはマインクラフトでブロックを置くプログラミングに挑戦した。ゲームでは、手動でブロックを置いたり、壊したりしながら遊ぶ子どもたちであるが、ここでは、どうすれば置きたい場所にブロックを置くことができるのかを考える。

熱心にプログラミングに取り組む子どもたち、パソコンは初めての子もすぐに操作に慣れて課題を進めていく

そして、まず与えられたお題は“階段を作ろう”、そして階段が出来た人には“螺旋階段を作ろう”というもの。階段や螺旋階段を作るためには、エージェントを垂直に動かすなど、ここまで学んだ内容を少し発展させて考える必要がある。子どもたちがそれをできるようになるかどうか、この辺りがプログラミング学習をステップアップさせていく上で重要な部分だ。子どもたちは、エージェントにどのような動きをさせればいいか、何度も試行錯誤しながら考える。上手くいかなくても集中して何度も取り組む姿が印象的だった。

マインクラフトで階段や螺旋階段を作るプログラムに挑戦

講師の谷岡氏は、螺旋階段のプログラムに苦戦する子どもたちに向けて、「プログラミングとは、自分の頭でイメージして、自分が考えたことをやってみること。階段が出来たかどうか、結果が重要なのではなく、自分の頭で考えたことをやってみよう」と励ます。

たとえ小学生でプログラミングが出来なかったとしても、それは大きな問題ではない。プログラミングは大人になってからでも、学ぼうと思えばいくらでも学べる。それよりも、今大事なことは“自分の頭で考えたことを試す”ことであり、上手くいかなくてもいいから、どんどん試していこう、と谷岡氏は子どもたちを後押しした。

続いて、螺旋階段のプログラムもクリアした子どもたちに対して、“3×3のキューブを作ろう”と投げかけた。といっても、子どもたちが実際にプログラミングをしている最中には、「3×3のキューブを作ろうと言われて、その通りに作る必要は全くない。言われたことを、その通りにやるのではなく、変数を使ってみるなど、自分で工夫できる方法を考えよう」と語りかけた。

“3×3のキューブを作ろう”という課題を、その通りにやる必要は全くない、変数を使って巨大な四角形を作ってもいい

プログラミングで一番大切なことは何か。言われたことを言われた通りにやるのはオペレーターにすぎない。見たとおり、言われた通りのモノを作るのではなく、自分ならどうするかというアイデアを持つことも大切だと同氏は伝えた。

エージェントに阿波おどりを踊らせよう

ワークショップの最後は、子どもたち全員による協働作業となった。テーマは、マインクラフトの中に阿波おどりの演舞場を作り、エージェントに阿波おどりを踊らせるプログラムを考えようというもの。子どもたち全員がマインクラフトの中で一か所に集まり、そこに提灯や櫓、桟敷席など、演舞場に必要なアイテムを役割分担しながら作成した。

教育版マインクラフトの教師用画面「Classroom Mode」、子どもたちが一か所に集まり作業をしている様子が一目瞭然に把握できる
阿波おどりの演舞場を手動で作る子もいれば、プログラミングで作成する子もいて、それぞれが自分なりに考えながら共同作業に取り組む

演舞場が出来上がると、今度はエージェントに阿波おどりを踊らせるためのプログラムを考えた。エージェントが手をあげたり、細かく移動しながら前進するような動きは、どのように表現できるのか、MakeCodeのブロックを組み合わせながら考えた。

最後は、全員のエージェントを並べて一斉に阿波おどりをスタート。エージェントが小刻みに動く様は、不器用ながらも阿波おどりの特徴を捉えていて、なんとも可愛らしい姿だ。子どもたちの中には、マインクラフトのブロックを使って花火を打ち上げるなど、お祭りの雰囲気を盛り上げる演出も見られた。

阿波おどりを踊るエージェントたち
お祭りの雰囲気を盛り上げるべく、花火を打ち上げてくれた子どももいた

県や大学、地域主導のプログラミング教育に期待

ワークショップに参加した子どもたちからは、「初めてのプログラミングだったけど楽しかった」「いろいろな物を作れて面白かった」「共同作業ができて楽しかった」という具合に、非常に好意的な感想が聞かれた。また保護者からも「プログラミングを学ぶ機会があれば、ぜひ参加させたい」という声が多く聞かれ、地方でも保護者のプログラミング教育に対する関心が高まっていることを実感する。

今回のワークショップで使用したSurfaceシリーズは、教育版マインクラフトを扱いやすいと谷岡氏

講師を務めた谷岡氏は今回のワークショップを振り返り、「プログラミングには正しい解答があるのではなく、いろいろな考え方があり、自分で考えることが大切だということを知ってほしかった」と述べた。プログラミングが出来たかどうかよりも、どう向き合ったかの方が重要だというのだ。

また、谷岡氏は教育版マインクラフトを活用したプログラミングついて、「ワークショップで学んだ内容を活かし、最終的なアウトプットとして、子どもたちが協力しながらものづくりに取り組める環境が良い。講師が何も言わなくても、子供たち同士が協力し合う場面を作ることができた」とメリットを語った。

しかし、一方で同氏は「子どもたちを放置をしてしまうと、他の子が作ったものを壊したりする子もいる。大人がしっかり見守りながら、マナー違反を伝えていく必要もある」と課題点を語った。今回のワークショップに限らず、マインクラフトのマルチプレイでは、子どもたちの不適切な行動やマナー違反も、よく見かけられる光景である。こうした場面に遭遇したときこそ、教育のチャンスだと捉えて適切な働きかけをしていきたい。

地方では、民間のプログラミングスクールも少なく、プログラミングを学べる機会も限られているかもしれない。しかし、今回の徳島県と徳島大学の事例は、地方であっても教育版マインクラフトのような人気コンテンツを利用してプログラミングのワークショップが開催できることを示してくれた。

教育版マインクラフトを利用するためには、Office 365 Educationのアカウントを取得し、無料試用版のダウンロード、ライセンスの購入手続きが必要である。ライセンス金額自体は決して高額ではないが、契約できるのはマイクロソフトが定めた教育機関とそのユーザーに限られ、金額や条件は取り扱いパートナーによって異なる。そうしたプログラミング教育の環境作りや周知に、地方自治体や大学が地域を主導して共に取り組む、その可能性にも期待したい。

[制作協力:ダイワボウ情報システム株式会社]

神谷加代

教育ITライター。「教育×IT」をテーマに教育分野におけるIT活用やプログラミング教育、EdTech関連の話題を多数取材。著書に『子どもにプログラミングを学ばせるべき6つの理由 「21世紀型スキル」で社会を生き抜く』(共著、インプレス)、『マインクラフトで身につく5つの力』(共著、学研プラス)など。