こどもとIT
自動化が進むAI社会に求められるのは、RPA×AIでストーリーを描けるデジタルネイティブの人材
――UiPath 代表取締役CEO長谷川康一氏インタビュー
2019年8月26日 06:00
政府は2019年6月、AI関連の政策を提言した「AI戦略2019」を発表。提言では、2025年までにAI人材25万人の育成を目標に掲げ、高校や大学にAIリテラシー教育を求めるなど教育分野への要請も大きい。そんな中、RPA(Robotic Process Automation、ロボティック・プロセス・オートメーション)のリーディングカンパニーであるUiPath(ユーアイパス)は、中高生がAIやRPAについて学ぶ教育プログラム「UiPath ネイティブズ@AI EXPO」を実施した。来るAI社会にRPAを通じてUiPathはどのような未来を子どもたち見せたいのか、代表取締役CEOの長谷川康一氏に話を聞いた。
あらゆるモノとデジタルをつなげるRPAの世界を子どもたちに知ってほしい
近年、日本の多くの企業は働き方改革や人手不足の課題に直面している。その課題解決の手段として急速に注目を集めているテクノロジーが、人間が行う定型作業をソフトウェア型のロボットで自動化するRPAだ。なかでもRPAとAIを組み合わせたソリューションで新たな価値を提供する企業として、UiPathは国内外で知名度をあげている。
そんな中UiPathは、7月30日にRPA×AIの自社イベント「UiPath AI EXPO ロボットにAI♡を込めて」を開催。2,000名を超えるビジネスパーソンが詰めかける中、RPAとAIのテクノロジーに関心を持つ中高生も招待した。これは、同社が始めた教育プログラム「UiPath ネイティブズ@AI EXPO」の取り組みで、AI社会を担うデジタルネイティブの中高生に、RPAやAIを通して新しいテクノロジーの世界を知ってもらうことが目的だ。参加した中高生たちは当日、UiPathのエクゼクティブと交流したほか、基調講演を聴講、さまざまなRPA×AIソリューションに触れた(詳細は「デジタルネイティブ世代によるRPAとAI活用の未来が始まる――「UiPath ネイティブズ @ AI Expo」レポート」を参照)。
なぜ、UiPathは中高生対象の教育プログラムを始めたのか。これについて長谷川氏は「AIが広がるデジタルの世界で、今後、一番よく使われるテクノロジーはRPAだと考えており、将来AI社会を支える中高生の皆さんには、RPAの世界をぜひ知っておいてもらいたいからです」と想いを述べた。
これからの社会はさまざまな産業でデジタル化が進み、あらゆるモノが多様なテクノロジーと“つながる”時代に突入する。長谷川氏はデジタル化の進むAI社会を人間になぞらえ、「AIは人間に例えれば、マシンラーニングやディープラーニングが脳の役割を、画像認識は目、Chatbotは耳や口の代わりのようなものです。そして、これらを高密度カメラ、センサーなどのデジタルデバイスや、会計システム、発注システムなど既存システムが、手足のように実際の処理を行う。これらをつなげる神経系の役割を担うのがRPAです」と説明。AIをデジタルデバイスやシステムと組み合わせで使える人材になるために、早いうちからRPAの世界を知っておくことが重要だと語る。
中高生が活躍する未来の社会は、AIによる自動化が広がる世界
RPA×AIのソリューションで、さまざまな企業の自動化や効率化を進めるUiPath。我々の耳にも、未来の仕事は人間が行う作業がロボットに取って代わると聞こえてくるが、ビジネスの現場では今、自動化によってどのような変化が見られるのだろうか。
長谷川氏によると、日本国内でRPA×AIのソリューションを必要とする企業のニーズは多様化しているという。海外では、コスト削減の目的でRPAを導入する企業が多いが、日本の場合は、人手不足や作業の効率化、働き方改革など、いろいろなニーズが存在するというのだ。一例として同氏は、専門知識を持つ人の業務で自動化が進んでいると語った。
「たとえば人事部を考えてみてください。人間関係学を大学で専攻した専門知識を持っている人でも、実際の業務では専門性を活かせないスプレッドシートの作業や、システムへの再入力など、手作業がたくさんあります。この手作業での業務をRPAで自動化し、人事部に限らず、専門性のある若い人にもっと働きがいのある仕事で活躍できる場を与えたいと考える経営者が増えてきています」と長谷川氏は指摘する。若い人を元気にしたい、活躍できる人材を増やしたい、そんな想いを持っている人が今、RPAに注目しているという。
一方で長谷川氏は、これまで日本人が得意としていた事務作業も、どんどん自動化を進める必要があると話す。ライフスタイルが多様化し、デジタルの世界が訪れると、いろいろなチャネルが増えて便利になる一方で、より良い品質やサービスを提供するために手作業で行ってきた仕事も多種にわたり、現場が疲弊しているという。同氏は、「今まで日本人は、顧客に対する“おもてなし”と品質に対する“こだわり”を、現場の手作業によるラストワンマイルで実現し差別化をはかってきました。現場の作業が多様化し、増大しています。更に今は人手不足の時代です。今後はこうした分野の自動化が強く求められていきます」と述べた。
そして、さらにここから一歩進んで、これからの自動化はAIがどんどん組み込まれると語る。たとえば、ある地域のとうもろこしの生産量の予測を立てたいときに、今までは何時間もかけてデータを集めて、更に自分で予測計算をしていたが、今後はRPAで自動的に検索して膨大なデータ量を収集し、AIで天気による生産量の違いを判断してアウトプットする、といったことが瞬時にできるようになる。ほかにも、金融マンが朝一で作成する金利レポートの作成も、RPAを朝に起動して、人の代わりに世界中のデータの収集を行い、金利変動のパターンを機械学習で算定して自動的に作成するなど、AIを活用した自動化が進むというのだ。
「こうした作業は今まで、専門知識を持つプロでなければできないと思われていました。しかし、今は、インターネットで情報を集めて、RPAやAIのテクノロジーを組み合わせれば簡単にできるようになります。“ロボットフォーエブリワン”、つまり一人ひとりがロボットを使いこなす時代が始まっています。RPAとAIを使いこなせるロボット人材がデジタル社会では必要になってきます。これからのAIを始めとするデジタル社会で将来活躍していく中高生は、このようなAI活用がビジネスの現場で求められることを知っておいてほしいのです」と、長谷川氏はUiPathネイティブスに込めた想いを語る。
「AI人材=Pythonを書ける人」ではない
未来の社会はAIによる自動化が進んだ世界であるとして、AI社会で求められる人材について考えてみよう。デジタルネイティブが将来活躍する社会では、いわゆる“AI人材”にどのようなスキルが求められるのだろうか。
「“AI人材”とは“Pythonを書ける人”だけを指すわけではありません」と、長谷川氏はAIの開発で最もポピュラーな言語Pythonを例に挙げてこう言った。なぜなら、AIを動かすためには、大量のデータが必要であり、データの収集や、データの中身を判断し整理できることもAI人材に必要な能力だからだ。
たとえば、“大手町で働いている人の健康状態とオフィスの室温の関係を知りたい”、“とある街の観光客を冬の時期に増やしたい”という課題に向き合ったとき、どのようなデータを収集して、AIに何を判断させるのか。さらに、複数のAIの中から、どれを使うのが最適なのかなど、AIを活用できる能力が求められる。長谷川氏は「AIを使って何をするのか、この部分を考えることが一番大事なことです。世の中で起こっていることをどういう風にアウトプットしたいのか、そのストーリーを描けることが今後は重要になってくるでしょう。これからのデジタルネイティブには、AI活用の感度を高めてほしいと思っています」と語る。
そしてもうひとつ、これからのAI人材に求められるものとして、「人間とAI、人間とRPAという具合に、人間とテクノロジーのベストミックスをデザインできる能力も必要です」と続ける。さまざまなモノを自動化する時、全てのプロセスをつなげて自動化を実現するのは大変だ。しかし、“作業はロボットにやらせるが、ここの判断だけは人間が行う”という具合に、人間が間に入って判断した方が良い場合もある。何もかも、AIを駆使して自動化できるのが良いとは限らず、人間とロボット、それぞれの特性を活かせる能力が求められるというのだ。
「人間にしかできない仕事に時間を使う」という考え方が当たり前の社会へ
一方で、教育現場はというと、未だに手書きや紙の文化が色濃く残り、デジタル化や自動化も進んでいない現場が多い。長谷川氏は、このような現場をどのように見ているのだろうか。
「今までは、人間が頑張って手作業で仕事を仕上げることが良いことだと捉えられていたと思います。しかし、今は多くの産業が人手不足の課題を抱えており、手作業よりも業務を自動化し、人間はデータの分析など人間しかできない仕事に時間を使うべきだという価値観が広がってきたと思います。こうした価値観はいずれ教育現場にも広がると考えています。なぜなら、今の若い人の多くは同じ考えを持っており、いずれデジタルネイティブが社会人になれば、こうした考えが当たり前になると信じているからです」と語る。
現に、教師の働き方改革が叫ばれるようになり、時間の使い方や、業務の内容も見直しが始まっている。教師の負担軽減を実現することで、教師たちが生徒と向き合う時間を増やせるよう意識も高まってきた。ここにRPAやAIを活用したソリューションが導入され、間接業務を自動化できれば、教師たちの熱意はもっと生徒に向けることができる。
「お話を聞いていて、教育現場の先生はモチベーションが非常に高いと感じています。そんな熱意のある先生たちをペーパーワークで縛ってしまうのではなく、エンパワーメントを高めることをサポートしたい。RPAとAIのテクノロジーは教育現場を支援できると思っています」と長谷川氏は語った。
また同氏は、学校の授業でデータを活用した学習を行う重要性についても触れた。たとえば、先ほど挙げた、とうもろこしの生産量。限られた地域の生産量を比較するのではなく、RPAを使って世界中のデータを収集することができたら、生徒たちのコミュニケーションレベルが上がる。長谷川氏は、「何かのテーマについて考えるときは情報を収集する必要がありますが、大量のデータを集めて比較し、その結果をみんなで議論するような学習も行ってほしい」と述べた。
UiPathは現在、同社のトレーニングプログラム「UiPath アカデミー」の一環として大学向けのプログラムも実施するなど、教育分野への取り組みを広げている。UiPathが提供する自動化ロボットを作成するための開発環境「UiPath Studio」を学べる講座で、来るAI社会に向けて、AIの活用に欠かせないRPAを使いこなせる人材育成がねらいだ。
インタビューの途中、長谷川氏はこんなエピソードを聞かせてくれた。「データセンターの保守を任されていたエンジニアが、新たな仕事としてUiPathを使い現場のユーザーの課題解決に取り組んだところ、とても感謝され久しぶりにやりがいを感じたそうなんです。技術力や課題解決力のある方でも、毎日データセンターでシステムの監視をし、問題が起こった時だけユーザーからクレームを受けるようでは仕事は楽しくありません。現場のユーザーに寄り添い、対話をし、問題を素早く目に見える形で解決して喜んでもらえる事で、自分の仕事にもう1度誇りを持てる様になったそうです。それを聞いて、RPAは“人と関わるテクノロジー”であると改めて思いました。UiPathで自らの課題を自動化して解決するとともに、それを人に教えることで、その人に幸せを与えられると感じます」。
世の中は否応なくAI社会にシフトしていく。デジタルネイティブに求められるスキルのひとつとして、AIに何ができるのか、どのような使い方ができるのか、をイメージできることが非常に重要になるだろう。今後、AI人材育成に向けた議論も活発になる中、UiPathをはじめとする第一線でAIを活用する企業の力を借りて、次世代を育成していく動きを教育現場にも期待したい。
また、UiPathでは今後も教育関係者向けのセミナーを予定しているという。直近では2019年9月12日に、教育機関とその関係者に向けて『教育改革の展望「2040年に向けた高等教育のグランドデザイン答申」と「初等中等教育機関の働き方改革答申」セミナー』を開催する。RPAの学校教育への活用や校務の見直しなど、興味がある教育関係者はぜひ足を運んでいただきたい。
会場 | 紀尾井カンファレンス 東京都千代田区紀尾井町1-4 |
日程 | 2019年9月12日 13:30~18:30(受付開始 13:00) |
参加費 | 無料(Webページからの事前登録が必要) |
対象者 | 大学職員と教員、自治体職員と教員、教育事業関係者 |
[制作協力:UiPath株式会社]