こどもとIT

SB C&SがSTEM教育スクール「STELABO」開講、ICT流通大手が手がける理由とは?

2019年6月6日、ソフトバンクのグループ会社であるSB C&S株式会社(以下SB C&S)がSTEM教育スクールの新規事業に関する説明会を行った。スクールの名称は「STELABO(ステラボ)」とし、6月12日に直営教室の汐留校がオープン。“世の中に貢献するSTEM教育を探求し続ける存在でありたい”という願いを込めて、「STEM」と「LABORATORY」から名付けたという。

2020年の小学校プログラミング教育必修化を来年に控えた今、ICT流通事業からコンシューマー向け商品開発まで幅広く取り扱うSB C&Sが、満を持して手がける新規事業としてのSTEM教育スクールが目指すものは何か。その内容をレポートしたい。

ICT流通事業の強みを生かしたSTEM教育スクール展開

左からSB C&S 常務執行役員 コンシューマ事業兼新規事業担当 瀧進太郎氏、同社 新規事業本部 STEM事業推進室 室長 林浩司氏

説明会では、SB C&S 常務執行役員 コンシューマ事業兼新規事業担当の瀧進太郎氏が、STEM教育を同社が手がけるに至った背景について説明した。

AIの進化に伴って社会で求められる能力が変わってきており、今後は人間ならではの感性に加えて、AI・ロボットを使いこなす能力が求められる。それにより、データ分析やIT開発などの仕事は増えるが、事務職やコールセンター、工場労働などの、AIが代替しやすい仕事は減る。外国に比べて、日本は理工系大学院修了者数がかなり少なく、2020年には37万人、2030年には79万人のIT関連人材が不足すると予測されている。

AIの進化に伴い、今後は人間ならではの感性とAI・ロボットを使いこなす能力が求められる
外国に比べ日本は理工系大学院修了者数が少なく、今後IT関連人材が不足する

アメリカやイギリス、フランスなどの諸外国は、数年前からSTEM教育に力を入れている。そもそもSTEMとは、Science(科学)、Technology(技術)、Engineering(工学)、Mathematics(数学)の頭文字をとったものだが、日本ではこのSTEMに関する取り組みが遅れている。2020年からようやく小中学校でのプログラミング教育が必修化されるが、小学校では年間2~数時限、中学校で年間12時限とその時間・内容は限られる。その一方で、子どもの親に「もうひとつ習い事をさせるなら何をやらせたいか」という調査において、2017年に3%しかなかったプログラミングは、2018年に47%まで急増しているという現状がある。

子どもにもうひとつさせたい習い事として、プログラミングが2018年に47%へと急増

STEM教育ニーズが高まる中、1981年のソフトバンク創業事業でもあるパソコンソフトのディストリビューション事業を手がけるSB C&Sは、2014年に分社化し、2016年から国内外のSTEM教材の調達・流通を開始。ROBOT LIFEブランドで売場のプロデュースなども行っているという。そのような歴史と販路を持つ同社には、販売現場やユーザーのニーズも急速に蓄積されていったであろうことは想像に難くない。

2016年度と言えば、ソフトバンクグループがARMを買収、IoT・AI・FinTech・ロボットの新領域への投資を大々的に打ち出した年だ。翌年度にはソフトバンク・ビジョン・ファンドおよびデルタ・ファンドによる、同領域への投資も加速させている。2015年度までは国内通信事業とスプリント、ヤフーが事業ポートフォリオの中心だった同社が、この年から次世代成長戦略として同領域に大きく舵を切ったことがわかる。

このように、STEM市場の伸張、STEM教材流通事業の実績、ソフトバンクグループの注力領域の3つが、SB C&SがSTEM教育事業を開始した理由だ。STEM教育スクール運営企業のヴィリングや、ラスムセン・アカデミー 校長の石原正雄氏と提携を行い、このSTELABOを立ち上げたという。

SB C&Sは、2016年から国内外のSTEM教材の調達・流通を開始し、ROBOT LIFEブランドで売り場のプロデュースも行っている

続いて、SB C&S株式会社 新規事業本部 STEM事業推進室 室長の林 浩司氏が、STELABOの方針や具体的なコース内容について説明を行った。

STELABOは、STEM、ICT、プログラミングの教育スクールとして、「理数とICTの基礎力」「自ら深く考える力」「協力して学び合う力」「創造し表現する力」という4つの力を育むことを目的としているという。そう聞くと、要するに「プログラミング教室」かと思いがちだが、「STEM教育=プログラミング教育」と短絡的には考えていないと同氏は語る。STELABOは、ものづくりで知識を学び、実際に自分の手で作り、試す、というプロセスを通じて、先に挙げた4つの力を育むとしている。STELABOはそれを「ものづくり学習法」と呼ぶ。

STELABOで育む「理数とICTの基礎力」「自ら深く考える力」「協力して学び合う力」「創造し表現する力」
まず知識を学び、実際につくり、試す、というSTELABOのものづくり学習法

また、SB C&Sが取り扱う豊富なSTEM教材を使えることが最大の強みと言えるだろう。ベーシックコース、アドバンスコース、プログラミング&ロボティクスコースの3つがあり、ベーシックは年長~小2、アドバンスは小2~小3、プログラミング&ロボティクスは小4~小6を対象とする。ベーシックとアドバンスは物理/工学/プログラミングを学び、プログラミング&ロボティクスはプログラミングに特化したコースとのことだ。

球形ロボット「Sphero」やIoT乾電池「Mabeee」、組み替えできるドローン「Airblock」、持ち運びケースや電池ボックスなどが含まれた「micro:bitはじめてセット」、超音波センサーやスピーカーなども含む「micro:bitアドバンスセット」、世界中で使われている「GIGOブロック」や「mBot」など、SB C&Sが取り扱うSTEM教材は多岐にわたる

ベーシックコースでは、主にブロック教材(台湾GIGO社のブロックなど)を用い、アドバンスコースではブロック教材+モーター類(アーテックブロックなど)、プログラミング&ロボティクスコースでは、プログラミング教材(Scratchなど)とロボット教材(アーテックロボやmicro:bit、mBotなど)を利用する。コースに合わせて既存の製品を教材として用いているが、そこでのカリキュラムは独自のものを用意したという。

STELABOの教材について

ベーシックコースの体験会で、子どもたちがブロックを使った天秤ばかり作成に挑戦

当日は、児童を対象とするSTEM教育の体験会が行われた。今回の体験会は、ベーシックコースのレッスンを凝縮したもので、GIGOのブロック教材を使って、天秤ばかりを作るというものであった。参加した児童は、未就学児から小学校低学年である。

体験会のテーマは、GIGOのブロック教材を使って、このような天秤ばかりを作ることだ

まず、講師が子どもたちに重さや軽い、重いとはどういうことかという説明を行い、次に、作成する天秤ばかりの構造について解説した。その後は、与えられた教材のブロックを使って、子どもたちが自分で天秤ばかりを組み立てていくことになる。

最初に、重さとはなんだろうか、軽い、重いとはどういうことかという説明が行われた
今回作成する天秤ばかりの構造について。腕と支点、皿、重りから構成されている

引っかかってるところがあれば、講師が随時アドバイスを与えていたが、基本的には子どもたちが自分で考えながら組み立てていく。30分ほどで、全員が天秤ばかりを完成させ、重りを皿にのせて傾くようすなどを観察していた。完成させた天秤ばかりは一つとして同じ物はなく、それぞれ自由な発想でカスタマイズされていた。最後に、参加者から数名が選ばれ、自分の作った天秤ばかりの工夫したところを発表し、子どもたちからは「ちょっと難しかったけど楽しかった」「うまくできて嬉しかった」という感想が聞かれた。

未就学児から小学校低学年が中心だったが、皆が集中して自分達で考え、天秤ばかりを組み立てた

STELABOは入会金として1万1000円、月謝はベーシックとアドバンスが9800円、プログラミング&ロボティクスが1万3800円となっている。教材は持ち帰らず、教室で借りて使うようになっているため、教材費は不要。直営教室である汐留校の開講日は水曜日または土曜日で、1回のレッスンは1時間とのこと。今後、1000教室を目標にフランチャイズの加盟教室を増やし、各種研修や販促支援ツール、STEMの教材やカリキュラム、タブレット、PCなどを提供していくという。

STELABOの最初の直営教室となる汐留校は、東京汐留ビルディングのPedi汐留B2Fにある

石井英男

PC/IT系フリーライター。ノートPCやモバイル機器などのハードウェア系記事が得意。最近は3DプリンターやVR/AR、ドローンなどに関心を持ち、取材・執筆を行っている。小中学生の子どもを持つ父親として、子どもへのプログラミング教育やSTEM教育にも興味があり、CoderDojo守谷のメンターとして子どもたちにプログラミングを教えている。