こどもとIT

「プログラミング教育事業に関する協定」の締結を、渋谷区教育委員会と東急電鉄・サイバーエージェント・DeNA・GMOインターネット・ミクシィの5社が共同発表

2019年6月17日、セルリアンタワー東急ホテルにて渋谷区教育委員会と東京急行電鉄株式会社(以下東急電鉄)、株式会社サイバーエージェント(以下サイバーエージェント)、株式会社ディー・エヌ・エー(以下DeNA)、GMOインターネット株式会社(以下GMOインターネット)、株式会社ミクシィ(以下ミクシィ)の民間企業5社が「プログラミング教育事業に関する協定」の締結を発表した。名称は「Kids VALLEY 未来の学びプロジェクト」とし、渋谷区立小・中学校におけるプログラミング教育の充実により、次世代に必要な資質と能力を持った人材を渋谷から輩出する土台作りを目的としているという。

発表会では、各社を代表して東急電鉄 沿線生活創造事業部 ウェルネス事業推進グループ 課長代理 石川あゆみ氏が登壇し、本協定の概要について説明した。

東急電鉄 沿線生活創造事業部 ウェルネス事業推進グループ 課長代理 石川あゆみ氏

東急電鉄でプロジェクトを担当する石川氏は、今回の協定を「渋谷から日本の未来を育てるプロジェクト」とし、渋谷から世界で活躍するITキッズたちの輩出を目指してプロジェクトを進めると話す。

AIやITの技術により、今後社会に必要なスキルは変化、将来的にもIT人材不足が深刻化している。IT人材育成は急務であり、次世代教育として2020年度から小学校、2021年度から中学校のプログラミング教育必修化が始まる。一方で、教育現場では指導員不足、授業時間数の確保、指導方法や教材など課題山積している状況だ。今回のプロジェクトは、ICT教育システム「渋谷区モデル」で積極的に取り組んでいる渋谷区教育委員会とIT各社に、東急電鉄から声がけをして始まったという。

IT人材の不足とプログラミング教育必修化の一方で、教育現場での実施には課題が多い

協定にあたっては、東急電鉄が行政・教育機関・ICT企業をつなぐハブとしての役割を果たし、渋谷区教育委員会はカリキュラム開発にあたって助言や学校との橋渡しを担い、IT各社は最先端のITスキルやノウハウの提供を行う。これにより、一過性で終わらない教育サステナブルモデルを構築するとしている。「官民連携による次世代教育モデルを実現することで、世界で活躍する次世代の人材を育成し、他の自治体のモデルケースとなり、日本のプログラミング教育をけん引する。それらを通じてSDGsの担い手、未来を担う人づくりに貢献する」という。

東急電鉄、渋谷区教育委員会、IT各社が役割を分担し、連携して取り組む

具体的には、社会で活躍する人材育成という視点から、プログラミング的思考やスキル習得を目的としたカリキュラムの開発、教員研修、授業支援を行う。また、子どもたちの興味関心の向上のために、ワークショップやイベントの開催、キャリア教育なども実施し、成果や内容の発信を行っていくという。

IT各社と教育委員会と教育現場の連携により、カリキュラム開発と改善を継続的に行うとし、小学校低学年向けをDeNA、同高学年向けをサイバーエージェントとGMOインターネット、中学生向けをミクシィが担当する
教員向けにプログラミングの基礎や応用の学習、教材の操作実習などの研修を行うほか、小中学校ではIT各社のスタッフが学校でプログラミング授業を実施、教員サポートのみならず、社会人との交流機会を増やすキャリア教育の役割も担う
渋谷区在住・在学の子どもを対象に、「プログラミングサマーキャンプ2019」を8月に開催、アニメーションの作成、ミニゲームの開発、エンジニアの職業体験などを実施する

さらなる発展に向けて、大学の授業カリキュラムの充実に向けた研究開発との連携も進めるとともに、成果発表の場としてコンテストの開催、人材交流機会の提供など、各社のさまざまな学びや育成機会を提供していくという。これらの取り組みを体系化して成果を発信し、日本全体のプログラミング教育の発展に寄与するとして、発表を締めくくった。

また発表会には、各組織の代表として、渋谷区教育委員会 教育長 豊岡弘敏氏、東急電鉄 取締役社長 髙橋和夫氏、サイバーエージェント 代表取締役社長 藤田晋氏、DeNA 代表取締役会長 南場智子氏、GMOインターネット 代表取締役会長兼社長・グループ代表 熊谷正寿氏も出席し、本プロジェクトにかける思いをそれぞれが語った(渋谷区 区長 長谷部健氏は公務の関係で欠席)。

渋谷区教育委員会 教育長 豊岡弘敏氏

豊岡氏は「渋谷区教育委員会は、未来を生きる子供たちが、よりよく生きるための力が身につくことができる、『未来の学校』作りを進めている。渋谷区ではICT教育の充実のため、一人一台タブレット活用に取り組んでいるが、プログラミング教育も重要だ。これから各社と連携して、プログラミング教育のカリキュラムの開発、授業支援、教師研修、渋谷区ならではのプログラミング教育を一緒になって作り上げ、その成果を広く発信していきたい。また、11月8日は『渋谷タブレットの日』として、区立小中学校全校でICT教育の公開授業を行う。その際にもこの協定で結ばれた内容を各学校で行うことが期待されている」と語り、協定を歓迎した。

東急電鉄 取締役社長 髙橋和夫氏

髙橋氏は「今回の協定の締結は、渋谷らしい多様性や創造性、つながりのキーワードの元に、官民連携、企業間連携で、次世代の人材育成、新しい取り組みだ。ICT教育で先端を行く渋谷区と日本でも有数のIT企業と、多様性のあるメンバーが集まることで、他に類のないものになると期待している。ここからプログラミング教育が認知され、広がり、渋谷にとどまらずすそ野がひろがり、日本のプログラミング教育をけん引できれば幸いだ。世界で活躍できる人材が切れ目なく輩出されることを期待してソフト面・ハード面からサポートしていきたい」とし、東急グループの街づくりの一環としての関わりを語った。

質疑応答では、渋谷以外の沿線での計画についての質問が上がったが、それに対して髙橋氏は今のところ渋谷以外の展開予定はないが、楽天株式会社のある二子玉川を例に挙げ、沿線での展開の条件について示唆するにとどまった。

サイバーエージェント 代表取締役社長 藤田晋氏「CA Tech Kidsでもびっくりするようなアプリを小学生が作っている、プログラミングの世界で新しいヒーローの誕生を待っている」

藤田氏は「CA Tech Kidsはグループの事業の中で唯一と言ってもいいほど、政治家や芸能人など子供を持っているVIP層の父母から問い合わせをもらい、子供が夢中になったと感謝されている。そういう方々が自分の子供を通わせようと考えていることからも、いかにプログラミング教育が重要かがわかる。渋谷は最もIT企業が集まっており、技術者が集まっているという事実がある。しかし、国際的にみるとシリコンバレーほどにはなっていない。そこに追いつくのは現実感もなくなってきたが、サッカーのように多額の報酬で引き抜くチームと育成型のチームがあるように、渋谷で新しい才能を育てていくという観点はあるだろう」と、自社運営事業での手応えをもとに期待を述べた。

DeNA 代表取締役会長 南場智子氏「子どもたちにはプログラミング教育を楽しもう、楽しいよと言いたい」

南場氏は「今や子どもたちは全員がデジタルネイティブだが、自分がコンピューターにやってほしいことをちゃんとお願いできるかが、将来に大きな差を及ぼす。『間違いのない答えの量産』という、昭和後期の加工貿易立国のときにはベストだった教育は時代遅れだ。プログラミング教育は、今の教育に不足しているパッションやコラボレーション、クリエイティビティを身につけられる、すばらしい教育だと思う。東急電鉄と渋谷のIT企業4社が力を合わせて、渋谷区という場でプログラミング教育を提供していく。全力で協力していきたい」とし、既存の教育に足りない部分をプログラミング教育で補うことの重要性を語った。

GMOインターネット 代表取締役会長兼社長・グループ代表 熊谷正寿氏「英語ができると世界が広がるように、プログラミングができたら世界が広がると思う。英語や中国語と並んで、プログラミングを学ぶと人生が変わる」

熊谷氏は「過去の産業革命は平均して55年間継続している。Windows 95で1995年にスタートしたインターネットは24年目、今後31年間、IT革命の主役になるのは今の子どもたちだ。今まではインターネット企業とそれ以外の企業というくくりだったが、今後はすべての企業がインターネット関連企業かインターネットテクノロジーを利用する企業になる。そのような時代に、子どもたちにIT人材になってもらうため、我々も情報サイトを通じた情報発信とIT教育の仕組みの提供を通じて、グループを挙げて貢献したい。渋谷区の人々の力を借りて成長した企業として、Kids VALLEYの取り組みがその恩返しの一つになればと考えている」と語り、渋谷のインターネット企業としての地域貢献を強調した。

ミクシィ 代表取締役社長執行役員 木村弘毅氏「小中学生と大して年の変わらないお兄さんお姉さんが活躍しているのがITの世界。わからないことを手探りで試行錯誤しながら、僕らの仲間に将来なってもらえればと思う」

木村氏は「私からはプログラミングを楽しんで習うと書いて『プログラミング楽習』ということを伝えたい。我々はIT企業の中でも、家族や友人とのコミュニケーションを楽しむ、ゲームやアニメ、スポーツの領域をやっている企業。プログラミングでモノを作ることが楽しくて、その結果、お客さんにも楽しんでもらえている。もう一つのポイントは、渋谷区という場所だ。文化と技術が交差する日本で唯一の場所だと思っている。ワクワクのクリエイティブや技術が生まれていく、そのことを子どもたちに伝えていければと思う」と、プログラミングを楽しみながら学ぶことへの抱負を述べた。

佐々木勇治