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マインクラフトを活用した英語授業に世界も注目、立命館小学校 正頭氏による模擬授業

――「Global Education & Skills Forum 2019」レポート

2019年3月22~24日、イギリスの財団「Varkey Foundation」が主催する「Global Education & Skills Forum 2019」(以下GESF 2019)が開催された(詳細はGESF 2019速報レポートパネルディスカッションレポートを参照)。

GESFでは、その年のGlobal Teacher Prize Top10に選ばれた10名の教師による模擬授業が行われる。ここでは、日本人の小学校教師として初めてGlobal Teacher Prize Top 10に選ばれた、立命館小学校 英語教師 正頭英和氏による模擬授業の様子をレポートする。

マインクラフトの教育利用に高い関心

正頭氏は、小学生対象の英語授業の中で、マイクロソフトのマインクラフトを活用したPBL(Problem Based Learning)授業を行っている。PBLは「問題基盤型学習」「問題解決型学習」などさまざまな日本語訳があるが、生徒が自ら問題を発見し解決する能力を養うための教育法である。具体的には、テーマを決め、生徒が相互に話合いながら、どうしたらそれを解決できるのかを考え、自主的に学習していくというものだ。

身振り手振りを交えながら表情豊かに授業を進める正頭氏

正頭氏はマインクラフトを用いて、英語授業でのPBLを実践してきたことで、国内外から高い評価を得ている。この模擬授業は、Global Teacher Prize Top 10に選出された10名全員が行うのだが、時間はわずか30分しか与えられない。そのため、普段の授業をそのまま参加者に対して行うというよりは、そのエッセンスを紹介する形になる。教師によって、模擬授業のスタイルはさまざまだが、いわゆるアクティブラーニング型の授業をする教師が多かった。

机の配置も、教師が模擬授業をやりやすいように自由に変えていい。正頭氏は、班活動のように机4つを田の字型にくっつけて教壇の前に配置し、それ以外の机は教壇から見てハの字になるように配置した。生徒役の4名はあらかじめ決められており、机の上には1人1台マウスコンピューターの2in1 PC(MousePro P116B)が置かれている。生徒役の4名が自分でPCを操作して、課題をこなすことになる。

正頭氏の模擬授業では、教壇の手前に4人分の机を並べて生徒役が座った
模擬授業では学校教室をイメージした部屋で、教壇に向かってハの字になるように机が配置されており、開始前にはほぼ満席となった

正頭氏の模擬授業への関心は高く、開始時に用意された席がほぼ満席になり、部屋の後ろに用意された椅子に座る人や立ち見の人もいた。正頭氏はまず、「私は京都から来ました。みなさんは京都を知っていますか? これから私の英語の授業のデモをします」という挨拶から授業を開始した。

生徒同士の自発的コミュニケーションを促す手法

正頭氏が「マインクラフトを知っていますか?」と問いかけたところ、参加者のほとんどが知っていると声をあげた。正頭氏は、生徒役の4人に家の図面が描かれた紙を見せて、「この家をみなさんで協力してマインクラフトで作ってください、制限時間は30分です」と課題を出した。

最初に家の図面が描かれた紙を見せ、協力して作成するという課題を出す

この授業で面白いのは、どうやったらマインクラフトで家が作れるかとか、マインクラフトの基本的な操作方法などは一切説明しないことだ。生徒役の4名も、マインクラフトがどんなものかは知っているが、やりこんでいるわけではない。分かる人が分からない人に教えたり、自らネットで操作方法を調べたりして、協力して課題に取り組むというのが、正頭氏の授業のキモだ。

紙を受け取ってマインクラフトでの作業を始める4人

日本でも同じように授業を行っており、そのときの会話は英語に限っている。生徒はマインクラフトで課題に取り組むことが、そのまま自然に英語の授業になるわけだ。なお、正頭氏が授業で使っているマインクラフトは、Windows 10で動作するMinecraft: Education Edition(教育版マインクラフト)と呼ばれるもので、学校などの教育機関で使うための便利な機能が追加されている。

生徒役は、話し合って、分担しながらマインクラフトで家を建築していく

教育を変えたいなら、まず見方を変える

生徒役の4名が課題に取り組んでいる間、正頭氏は「あなたの教室やコミュニティ、あるいは学校、政府、世界、そして教育を変えることは簡単だと思いますか?」と会場に問いかける。「それでは簡単なゲームを一つやってみましょう」と言って、短い動画を再生した。動画は、意識に関するテストと題して、2つのチームがバスケットボールをパスし合う中で白チームは何回パスしているか、という問いがされるというもの。

動画を見終わったあと、正解した人は多かったが、実はこのテストの本来の目的は違うところにある。この動画の中に登場する「ムーンウォークをする熊の着ぐるみ」に気付いたかどうかを試すテストなのだ。そう問われて再度流れた動画には、確かにパスをする人たちのど真ん中を堂々とムーンウォークする熊がいた。動画の最後には「あなたが探していないものは、簡単に見逃してしまう」というメッセージで、テストを受けた人に気づきを与える、というものだった。

正頭氏はこの動画を受けて、「あなたが自分の教室を変えることが難しいと思っているとしたら、あなたは影の側だけを見ているのかもしれません。見方を変えることが大切です」と語った。

さらに正頭氏は、「京都はとても美しい街で、歴史的建造物がたくさんあります。私の学校は京都の中央に位置し、30分以内に行ける場所に17の世界的遺産があります。さて、みなさんにお聞きしますが、日本はハイテクな国だと思っているでしょうか?」と問いかける。

「私の学校は、マイクロソフトのショーケースとして選ばれています。世界でショーケースに選ばれている学校は900ありますが、では日本にはいくつあるでしょう? 実は私の学校だけ、ほかにはありません」と語り、「日本の教室は120年前とほとんど変わっておらず、教室にはスマートフォンやPCといったデジタル機器はなく、生徒はノートに鉛筆、分厚い辞書を使っています」と、社会の進化から取り残された教室の現状を嘆く。また、日本は外国で学ぶ人がとても少ないという課題にも触れ、「これでも日本はハイテクな国でしょうか? 私は、この状況を自分の教室から変えたいのです」と訴えかけた。

日本の教室ではスマートフォンの使用が禁止されている
外国で学ぶ人の割合は、アメリカを除いて日本は圧倒的に少ない

30分という制限時間で見事に課題をクリア

ここで約15分が経過したので、マインクラフトで制作中の家の様子がスクリーンに映し出された。外観はかなりできており、「素晴らしい結果です4人で協力してやっているからですね」と評価した。

生徒役の4名が協力して家を作り始めて15分、大分外観はできあがっている

ここで正頭氏は立命館小学校での取り組みに触れ、「私が英語を教えている生徒たちは、京都を模した街をマインクラフトの世界の中に再現しました。また、ブロックによるプログラミングで、マインクラフトの世界の中にロボットを登場させ、そのロボットを操ることもできます」と紹介した。

京都を紹介するために、マインクラフトの世界の中に京都を作った
生徒たちはMakeCode for Minecraftを利用したプログラミングも

続けて、「私は英語によるコミュニケーション力を育成することに注力しており、英語でさまざまな目的を成し遂げさせています。その集大成が、毎年3学期に行われている小学6年生による英語プレゼンテーションコンテストです」と語り、6年生による英語プレゼンテーションコンテストの映像が映し出す。堂々とした素晴らしいプレゼンテーションを披露する姿に、会場からは感銘の声が挙がった。

立命館小学校で毎年3学期に行われている、小学6年生による英語プレゼンテーションコンテストの様子

ここでちょうど30分が経過し、生徒役の4名が協力してマインクラフトの世界の中に作った家が披露された。課題通りの外観の家ができていただけなく、家の中に階段を作ったり、内装も整えるなど、プラスアルファのクリエイティビティも発揮されていた。

見事に30分間で、課題通りの家を建築することができ、さらに自由な発想で内装まで追加されていた
課題を達成した4人に、参加者全員が拍手喝采をおくった

正頭氏は、最後に「正しいコミュニケーションとチームワークにより、見事な成果が得られました。このように私は、自分のクラスと英語の授業を変革してきました」と語り、模擬授業を終えた。

生徒役の4人は最後に記念の自撮りをしていた。とても楽しかったとのことだ

2020年の教育改革を控え、たとえ教育を変革したいという思いがあっても、できないと感じている現場の教員は多いだろう。だが、正頭氏も模擬授業で述べたように、それは「影の側だけを見ている」のかもしれない。正頭氏のように教育の変革をめざして活動している教員の集まりに参加することで、「光のあたる側を見る」こともできるはずだ。正頭氏やパネルディスカッションレポートで紹介した堀尾氏が参加している教員コミュニティ「マイクロソフト認定教育イノベーター」(MIEE)は、現在2019~2020年度の認定教員を募集している。まずはこうしたコミュニティに参加して、視点を変えることから始めることが、教育を変える第一歩になるだろう。

2019-2020年度 マイクロソフト認定教育イノベーター募集概要
対象者日本国内の初等中等教育 および 特別支援教育を行う学校にて ICT 活用の実践を行っている教育関係者
申込締切2019年7月13日(結果連絡は同8月21日)
応募方法Microsoft Educator Communityへの参加
②活動内容をSwayにまとめたものか、代用できるWebページのURL
ビデオ(動画)形式の資料(授業風景でなくとも、今まで撮った写真をつないだものなどでOK)が必要
支援内容実践機材の貸出、製品ライセンスの貸出、各種勉強会、公開授業の支援、発表登壇の機会提供など

石井英男

PC/IT系フリーライター。ノートPCやモバイル機器などのハードウェア系記事が得意。最近は3DプリンターやVR/AR、ドローンなどに関心を持ち、取材・執筆を行っている。小中学生の子どもを持つ父親として、子どもへのプログラミング教育やSTEM教育にも興味があり、CoderDojo守谷のメンターとして子どもたちにプログラミングを教えている。