こどもとIT

あらゆる年齢のScratcherが集うお祝いイベント Scratch Day in Tokyo 2019 展示&見てある記

――「Scratch Day in Tokyo 2019」レポート

昨年、Scratchの開発を率いるミッチさんことミッチェル・レズニック教授が来日講演されたカンファレンス「Scratch 2018 Tokyo」をご記憶の方も多いかもしれない(詳しくはこちらのレポート記事」を参照)。日本初開催だったこともあって、教育関係者を中心に多くの大人達が集まり、講演・ワークショップが行われていた。これに対して、今回とりあげる「Scratch Day」は、子どもたちも参加できるScratchのお祝いイベントという位置づけである。

ここ数年の通例では、5月の第2土曜日を中心に世界各国でお祝いイベントが開催され、今年はなんと1300を越えた模様だ。日本国内でも30近いScratch Dayイベントが既に実施・予定されている。今回は、その中から最も歴史のあるScratch Day in Tokyo 2019の模様をレポートしたい。

実は筆者、このイベントの展示ブース参加に手をあげており、当日まで全く取材の予定はしていなかった。ところが、現場で準備をはじめたところに某S編集長から「新妻さん、Scratch Dayいらっしゃったりしますか?」というまさかの無茶振り(?)メッセージが届いたのだ! なんだろう、最近扱いが雑になってる気が……いやいや大丈夫です、いっぱい使って下さい(笑)。というわけで、展示をしながら見て歩けた範囲で、できる限りのレポートをお届けする。

子どもからシニア世代まで幅広いScratcherが集合

会場は青山学院アスタジオの地下1階フロア。ここ数年は、同じ会場が使われており、Scratch関係者にはお馴染みの場所でもある。

Scratch Day in Tokyoは、さかのぼること2009年から開催されており、一時は東京大学の福武ホールを会場にしてスポンサーを募った大規模なイベントとなっていた。しかし、Scratch Dayが日本の各地で開催されるようになってきたこともあり、規模を少し縮小し、より参加者同士の交流を主体にする形に変わってきている。

冒頭でも述べたように、今回筆者は展示する側の立場でもあった。作品展示の募集が直近にあったので、ついつい手をあげてしまったのだ。とはいっても、自分の自慢(?)の作品や主宰しているCoderDojoひばりヶ丘の子どもたちの作品でも見せようかぐらいのつもりで会場入り。持参した機材も最低限のものに手持ちの(配り忘れていた)Scratchステッカーやバッチ類というささやかなものであった。

ところが、いざ会場で割り当てられた場所の並びを見てみると、なんだかごつい機械やパネルが並ぶわりとものものしい雰囲気なのである。

ちょうど隣で展示の準備をしていたのは、このために長野県から来ていた12才の男子Scratcher(Scratchをする人)。彼の展示作品は、長野県のプログラミングコンテストで入賞したもので、本人いわく「自転車で怪我をしてしまい、その経験を踏まえて自転車の安全運転を学習するプログラムを作った」のだとか。「自転車 あっ!!」という作品名もいい。筆者も試しにやらせてもらったが、自分視点で道路を進んでいく画面があり、そこにランダムでいろいろなものが出現する。それを見て危険を感じたら「あっ」とおおきな声を出すというインターフェース。用意されたヘッドセットを装着して体験するのである。雰囲気がとても本格的だ。ネコが突然飛び出してきたときは、叫ぶ前に吹いてしまった。

Scratch猛者たちが居並ぶ準備中の展示コーナーと、小学生の作品「自転車 あっ!」を体験する筆者

この並びには、micro:bitとScratchを連携させた愉しいスポーツアクティブティ「ねこりんぴっく」を筆頭に、Scratchと連携したデバイスを体験できる貴重な展示が並んでいる。編み物をするお母さんのためにScratchで編み図を作るプログラムを作った「takenoko」さんも、編んで貰った帽子を被っての参加。展示している作品もなんともレベルが高い。参加前は「あれ、ひょっとして自分浮いてるんじゃなかろうか?」と不安が頭をよぎったが、幸いそれは杞憂であった。

takenokoさんによる作品と、本物の編み物も展示されていた

Scratcherが交流するさまざまなしかけ

準備も一段落して開催時間になると、Scratchといえばこの人、実行委員長で青山学院大学の阿部和広先生からの開催宣言であっさりとScratch Day in Tokyo 2019がはじまった。

ここで一点、阿部先生からすごく大事な案内がされた。受付で配られたビンゴカードの使い方である。

「ビンゴカードもらってますかー?」と確認する委員長の阿部先生

このカード、9つのマスに「ネコが好きです。」「メガネをかけています。」「新幹線できました。」といった言葉が並んでいる。ただし、自分のことについて丸をつけるわけではなく、会場内で実際に誰かと話をし、もし該当したらその人の名前を書いて貰うのだ。ビンゴが揃ったら応募袋に入れ、イベントの最後に抽選で書籍やグッズなどの景品があたる、という流れだ。

Scratch Dayは一方的に話を聞く場ではなく、Scratcher同士が交流するイベントだ、ということがよくわかる仕組みである。ちなみに、このカードは本家のMITメディアラボが発祥だそうで、このあたりのアクティビティのデザインセンスはさすがである。

ホールの中央には、テーブルが配置され、大きく3つの島に分けられていたが、それぞれに掲示されているテーマごとに集まって、自由に話し合い作業をしてよい場所となっていた。中には「なんでも」というテーマがあって思わず笑ってしまった。さらに、テーブルには模造紙が広げられており、自由に寄せ書きができるという趣向だ。

中央の交流・寄せ書きコーナーに集うScratcherたち

ホール外のロビーにも同じく交流コーナーが用意され、こちらはレゴを使って高さに挑戦する、といったミニコーナーが用意されていた。当日は小さいお子さん連れの姿もあり、子どもたちの休憩場所にもなっていた。

ロビーの交流コーナーにはレゴなどが並んでいた
Scratch講師でお馴染みの倉本さんもお子さん連れで参加、緑の旗はこのイベント伝統のアイテムだとか

Scratcherも作品も、みんな対等

ホールが賑わいだす前に、前方にある大型のスクリーンを発表したい人に使ってもらおうということになった。ホワイトボードに手書きの表が書かれ、早い者勝ちで枠にScratch名を入れて行くというシステム。なんて自由なんだ!

急遽作られたホールで発表する順番表、内容もさまざまだ

まっさきに手を上げて一番枠に名前を書き込んでいたのは、この4月から高校生になったScratch名 yuki384さん。その他、小学生から大人までが次々と書き込み、なんともScratch Dayらしい様相となった。2番目は、阿部先生である。実行委員長であろうと対等なのだ。筆者の隣の小学生もいつのまにか名前を書いていて、その行動力には感心してしまった。

手作りのScratch Catフレームにご機嫌のyuki384さん
阿部先生は最新版3.0と現行のScratch利用に関する真面目な話

発表が進む中で、ホール内では展示コーナーも大賑わい。大勢の子どもたちが体験や交流を愉しんでいた。また、一画には、ワークショップコーナーも用意され、Scratch 3.0から用意された「スピーチブロック」を使ったお話作り、ミニゲームづくりが体験できるようになっていた。中には、初心者じゃないScratcherもプログラミングにいそしんでいる姿が見られたのはご愛敬である。

さまざまな展示が並ぶ
産業能率大学 北川ゼミ:小型ロボット「クムクム」
ちっちゃいものくらぶ:マイコンカーをプログラミング
秘密結社オープンフォース:ArduBlockでそうじきをプログラム
SchooMy:オリジナルマイコンボードを活用した作品
ワークショップコーナーもアットホームな雰囲気である

豪華な発表と豪華な展示が並ぶホールで筆者は結局何をしていたのか。実は拙作の「連続!応援!ねこたいほう」というScratch作品をずっと動かしっぱなしにしていたのだ。PCのマイクから音量を拾いカウントしながら、一定の数値に達すると、大砲でスタンバっているねこが飛んでいき、歩いて戻ってきてまた大砲にはいるというもの。がんばって大きな声援をおくることで、カウンターがより早く進む。ただし、発射に必要な数値は、最初の200から戻ってくる度に100ずつ増えていき、ずっと動かしているとだんだん大変になっていくというしかけである。

筆者は聞かれたら応えるものの、説明の紙などはいっさいなく、Scratcherたちがどう反応するか面白く観察させていただいた。

拙作のScratch作品に笑顔を見せてくれた通りすがりのお子さん

会場が賑やかだったため、声援を送らなくてもちょっとずつカウンターがあがっていくのが不思議だったらしく、タッチパッドやキーボードを触ってみる子が多かった中、一人の少年が声をかけてきた。

「この数字は世界中からの応援を集めているのですか?」

その発想の壮大さに思わずうなってしまったが、しかけを説明したら、すごく納得してくれて安心した。皆さんそれなりに面白がってくれて、壮絶な数字(最後の方は17000ぐらいになっていた)に達するまで、親子やグループで大声援を送り、ねこが飛び出した瞬間に拍手が起こるというなんとも愉しい時間をすごさせていただいた。ちなみに、この日ねこは170回くらい飛んでは帰ってきたようである、おつかれさまでした。

年齢や内容もさまざまであるが、この場にいるScratcherも作品も対等に扱われている空気がとても心地よかった。

作品を自ら発表する「Show & Tell」には30名以上が参加

ホールに隣接する講義室では、自ら作品を発表する「Show & Tell」が行われた。毎年人気のこのコーナー、今年はついに30を超える応募が集まり、実行委員会もその受け入れをどうするか苦慮されたようだが、最終的には全員が登壇できることになった。

このため、講義室はShow & Tell専用の会場となり、全3部に分けても計3時間を越える長丁場になった。

Show & Tell会場の様子

発表者は、下は小学生たちから上は(いわゆる)シニア層までと実に幅広い。筆者の知り合いも何名か応募されていたが、時間の都合で全部を見ることはできなかった。

Show & Tellで発表されたScratch作品は、実に多種多様。これらはScratchスタジオに整理されているので興味がある方は、関連リンクから是非のぞいてみて欲しい。
このShow & Tellでは、発表している様子を見たScratcherが、自分もやってみたいと翌年がんばって応募してくるというよいスパイラルが生まれており、来年はいったいどうなることかと実行委員メンバーも嬉しい悲鳴をあげていたとか。

ホール側の一角でも、Show & Tellの作品が体験できるようにコーナーが設けられていた

広がるScratcherの交流の場

終盤になると、ホールのテーブルに置いてあった寄せ書きもなんだかすごいことになっていた。本当に子どもたち(大きなお友達含む)はこの場を愉しんで参加しているのがよくわかる。いろいろなしかけもあるが、参加しているScratcherたち、一人ひとりが普段から主体的に参加することの楽しさや面白さを感じているからではないだろうか。

模造紙いっぱいに想いやイラストが並んできた

愉しい時間も過ぎ、クロージングの頃になるとホール会場はかなりの人でごったがえす賑わいとなった。ビンゴカードの抽選が行われ、名前が読みあげられるごとに拍手が沸き起こっていた。

賑わう会場とビンゴカードの抽選の様子

クロージングでは、毎年恒例のScratch人口の推移が発表された。日本の登録ユーザーは、ついに41万人を突破した。来年は60万人を越えそうなペースである。

阿部先生からの「皆さん、今日はたのしかったですか?」という問いかけがあり、会場から大きな声で「たのしかったー」と返ってきた。これを受けて、「じゃあ、来年もやります」という阿部先生の言葉に、会場からは歓声が沸いていた。というわけで、来年も開催されそうです。

Scratch Dayは、今年は5月11日を中心に世界各国で開催され、日本でも本稿執筆時点で30カ所以上開催または予定されているので、Scratch Dayの公式サイトから探してみるとよいだろう。Scratch Dayは、Scratchが好きで、お祝いしたい気持ちがあれば誰でもホストとして開催でき、いつ開催してよいことになっている。参加するだけでなく、企画する側に立つのも愉しいと思う。

Scratchといえば、先頃文部科学省から公開された「小学校プログラミング教育に関する研修教材」の中でもViscuitと並んで教材資料が公開されるなど、小学校の現場でも利用が進みそうだ。ただ、単なるプログラミング環境ではなく、このようなScratcherの交流やコミュニティ活動が背景にあることはもっと知られてよいだろう。

Scratchのコミュニティガイドラインには、「敬意をしめそう。建設的になろう。共有すること。個人情報を公開しないこと。誠実であること。サイトを心地よい場所にすること。」など大人が読んでも参考になることが書かれており、特に最後に書かれている次の一文はScratchらしい内容なので、紹介しておきたい。

「Scratchは、何歳であっても、どんな人種、民族であっても、能力に違いがあっても、どんな宗教を信じていても、どんな性的指向、性同一性を持っていても、すべての人々を歓迎します。」

オンラインだけでなく、小さな子どもから大人まで集まって愉しく交流ができる場所が、日本各地で広がっていって欲しいものである。

新妻正夫

ライター/ITコンサルタント、サイボウズ公認kintoneエバンジェリスト。2012年よりCoderDojoひばりヶ丘を主催。自らが運営する首都圏ベッドタウンの一軒家型コワーキングスペースを拠点として、幅広い分野で活動中。 他にコワーキング協同組合理事、ペライチ公式埼玉県代表サポーターも勤める。