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教育のノーベル賞「Global Teacher Prize 2019」決定、Global Education & Skills Forum 2019速報レポート
――トップ10ファイナリスト 立命館小学校の正頭氏によるマインクラフト模擬授業も
2019年3月25日 12:00
教育界のノーベル賞「Global Teacher Prize 2019」が決まる
2019年3月22日~24日、ドバイのアトランティスホテルにおいて、イギリスの財団「Varkey Foundation」が主催する「Global Education & Skills Forum 2019」(以下GESF 2019)が開催された。
実業家のSunny Varkey氏によって設立されたVarkey Foundationは、すべての子どもに質の高い教育を受けさせることを目的として、さまざまな活動を行っている。そのVarkey Foundationの活動の中でも大きなものが、毎年ドバイで開催されているGESFである。
GESFは、公共、民間、社会の各分野における世界的リーダーを集め、すべての人に教育、公平、雇用をもたらすためのソリューションを模索する世界最大級のフォーラムであり、世界中の有識者が集まり、講演や意見交換などが行われる。
Varkey Foundationは、世界中から優れた教師を選出する「Global Teacher Prize」と呼ばれるアワードを毎年行っており、そのトップ10に選ばれたファイナリストが、GESFでパネルディスカッションや模擬授業を行い、優勝者が決定する。Global Teacher Prizeは、教育界のノーベル賞とも称されるアワードであり、世界約150カ国、約3万人のエントリーから選出される。
まず、トップ50が選出され、その中からさらにトップ10が選ばれるのだが、このトップ10に選ばれることは大変な名誉である。ちなみに、Global Teacher Prizeの優勝者には、賞金として100万ドルが贈られる。賞金金額も、ノーベル賞なみだ。
今回、トップ10の一人に選出された正頭英和氏は、立命館小学校の英語教師であり、英語の授業の中で、マイクロソフトのマインクラフトを活用したPBL(Problem Based Learning)授業を行っている。2016年のGlobal Teacher Prizeでは、工学院大学附属中学校・高等学校の英語教師である高橋一也氏がアジア人初のトップ10に選出されたが、今回の正頭氏は高橋氏に続く快挙であり、小学校教師がトップ10に選出されたのは日本人初となる。
なお、2017年のGlobal Teacher Prizeでは、米原高等学校の英語教師、堀尾美央氏がトップ50に選出されている。Global Teacher Prizeのファイナリストは、GESFのゲストとして招かれることが多く、堀尾氏はGESF 2019のパネルディスカッションにも登壇した。
GESF 2019の会場となったアトランティスホテルは、ドバイの人工島パーム・ジュメイラにある。GESF 2019はかなり大規模なカンファレンスであり、ホテルのカンファレンスセンターだけでは足りず、特設で大きなテントが設置され、その中でもさまざまなカンファレンスやセッションなどが行われた。
本稿では速報として、イベントの概要とGlobal Teacher Prizeの最終結果をレポートする。なお、トップ10に選出された正頭英和氏が参加したパネルディスカッションと正頭氏の模擬授業、堀尾氏が登壇したパネルディスカッションの様子は、追って別の記事で詳しく紹介する予定だ。
知り合いのネットワークを広げるためのデバイスが配布される
GESF 2019では、レジスト時に名前と肩書き、写真が印刷されたネームプレートと小さなデバイスを渡される。このデバイスには、レジストした人の情報が紐付けられており、2つのデバイスを近づけ、それぞれのデバイスのボタンを同時に押すことで、その情報が交換される。交換した情報は、GESF用スマートフォンアプリのNetworkingで確認できるようになっている。会場ではそこかしこで、デバイスを近づけ合う姿が見られた。
GESFには世界のさまざまな国や人種、文化の人が集まっているが、初対面でもすぐに打ち解け、積極的に交流を行い、意見を交換している姿が印象的であった。
3月23日に行われたパネルディスカッション「A world with the very best teachers. Meet the top 10 finalists of the Global Teacher Prize 2019」では、トップ10の教師全員が参加し、意見交換を行った。
マインクラフトを使った正頭氏の模擬授業が人気
正頭英和氏は、教育版マインクラフトを使った英語の模擬授業を行い、立ち見が出るほどの人気となった。
マインクラフトの知名度はやはり高く、マインクラフトを知っているかという問いに観客のほとんどが手を挙げていた。実際の授業では、生徒一人ひとりにPCが与えられるが、模擬授業ではマウスコンピューターの2in1 PC(MousePro P116B)が4台用意され、4人の生徒役が、相談しながら協力して家を作るという課題が与えられた。正頭氏は、マインクラフトの操作方法は一切解説せず、分かる子ども達が他の子ども達を教える形で授業が進んでいくという。その詳しい内容は別の記事で紹介するが、今回は30分という短い時間にもかかわらず、きちんと課題の家を作り、さらに+αの工夫も行っていた。
Global Teacher Prize 2019の優勝者はケニアのPeter Tabichi氏に
会期最終日の24日の午後6時(現地時間)から、Global Techer Prizeの優勝者を発表するセレモニーが開催された。セレモニーでは、GESFを後援しているアラブ首長国連邦副大統領兼首相およびドバイの首長であるHH Sheikh Mohammed bin Rashid Al Maktoum氏が登場。さらに作曲家のアンドリュー・ロイド・ウェバーや俳優のヒュー・ジャックマンによるビデオメッセージが流された。
ヒュー・ジャックマンが出演している映画のシーンが次々と映し出された後、ヒュー・ジャックマン本人が舞台に登場。ダンサーたちとともに、華麗なダンスと歌を披露した。続いて、ヒュー・ジャックマンは、トップ10にノミネートされた人に、一人ずつその人にあわせた声をかけていた。
全員への声がけが終わり、いよいよ優勝者の発表である。高まる緊張の中、ヒュー・ジャックマンが「Peter!」と大声で発表。Global Teacher Prize 2019の優勝者は、ケニアのPeter Tabichi氏に決定した。HH Sheikh Mohammed bin Rashid Al Maktoum氏からトロフィーがPeter Tabichi氏に渡されたほか、ケニアのウフル・ケニヤッタ大統領からのお祝いのビデオメッセージが紹介された。
正頭英和氏の模擬授業は素晴らしく、参加者からの評判も高かったので、正頭氏がWinnerとして選ばれなかったのは残念だが、今回ケニアのPeter Tabichi氏がWinnerに選ばれたのは、世界から貧困や差別をなくし、すべての子ども達に適切な教育を与えることを目指すVarkey Foundationの意向もあるだろう。
来年以降も、また日本からトップ10にノミネートされる教師が出てくることを期待したい。