こどもとIT

Scratch関係者が一同に会した、手作り感あふれるデモ・ポスターセッション見てある記

――日本初のカンファレンス「Scratch 2018 Tokyo」レポート

子ども向けプログラミング環境として広く日本でも知られるようになった「Scratch(スクラッチ)」。その開発者であるMITメディアラボのミッチェル・レズニック教授(以下、愛称として知られるミッチさん)を招いたカンファレンスが、2018年10月20日に六本木アカデミーヒルズで賑やかに開催された。当日はミッチさんの来日・基調講演に慶応義塾大学 村井純教授の招待講演ということもあり、朝から多くの人が詰めかけていた(基調講演については「Scratch開発者ミッチェル・レズニック氏、子ども達の創造的な学びと最新のScratch 3.0を語る!」をご覧頂きたい)。

その基調講演の熱も冷めぬまま迎えた午後の部は、ここで紹介する「デモ・ポスターセッション」のほか、口頭発表や、ショート・プレゼンテーション、ワークショップで構成される。実は、筆者もショートプレゼンテーションになぜか採択されていたのだが、事前にスライドデータを送付済みであったため、心置きなく基調講演から拝聴し、午後一番の時間帯に行われたデモ・ポスターセッションを見て回ることができた。

デモ・ポスターセッションの発表者は、学校関係、企業、エンジニア、プログラミング教育のコミュニティまでと実にさまざま。加えて、当カンファレンスのスポンサー企業も同じ会場にブースを設けており、Scratchのコミュニティの広さを改めて感じる、なかなかのカオス感である。今回はその中から筆者の目に留まったものをピックアップしてご紹介していく。

2つの部屋に別れた会場では、予定の少し前の時間から発表者達がポスターを壁に貼り、デモ用の機械をセッティングしていく。筆者は、なんだかんだで6年ほどScratchをいじっていることもあり、顔見知りの方もちらほら。ちょうど準備をしていた学習院大学現役学生の宮島衣瑛氏がいたので、さっそく写真を撮らせて貰った。なんだか学園祭のような手作り感のある雰囲気だ。

セッションの準備にいそしむ宮島氏、多方面で活動する21才の現役大学生でもある

他では見られないユニークなデモが多数展示

会場を回っていて、筆者が思わずガン見してしまったのが、中学校の技術の授業で実際に利用したという、ニイムラ アキヒデ氏(中野区立第七中学校)によるScratchを使ったシステム。簡易なセンサーが接続されており、正確に金鎚が釘にあたっているかを測定できるのだとか。勧められるまま、本気で釘を打とうとしたら、「そこまで強くたたかなくて大丈夫です」と慌てて止められてしまった。ああ、恥ずかしい。

道具の使い方を判定するScratchを使ったシステム、のこぎり、金槌にセンサーをつけている

Scratchを応用した先進的な取り組みも見られた。例えば、石原淳也氏(つくる社LLC)と石原正宗氏による「ML2Scratch」は、TensorFlow.jsとScratchXを使った機械学習の例。杉浦 学氏(湘南工科大学)は、Scratch 3.0で使われている「Scratch Blocks」(ブロックなどの外観を定義する一連のライブラリー)をプログラミング言語「Processing」に利用した「Sketch Blocks」を展示していた。他にも、木村拓登氏による携帯ゲーム機でScratchを動かすデモや、Masaya Nagaoka氏によるARとScratchを連携させるデモなど、「そんなこともできるんですか!?」と驚くような展示が並んでいた。

Scratchと連携する技術的にもユニークな展示が並ぶ

開発中のScratch 3.0との連携デモも、MIDIキーボードやロボット教材などを展示

来年初頭リリース予定の次世代Scratch 3.0では、micro:bitをはじめ、さまざまなデバイスとの連携ができる拡張機能が特徴の1つ。現行のScratch 1.4/2.0やScratchXでも連携は可能だが、より簡単にできるようになるようだ。

スポンサー企業の1つであるローランドは、開発中の拡張機能のデモを展示し、多くの人が興味を寄せていた。1つはローランドのMIDIキーボードを使ったデモ、押した鍵盤を検知して動くプログラムが試せるようになっていた。もう1つは拾った音の音程を判定するという機能を紹介。こちらもリコーダーを使って試すことができるようになっていた。鼻歌から楽譜をScratchで作れるようになる日も近いかもしれない。アーテックは、未発表の教育用ロボットの新製品を展示。カンファレンス当日はあまり情報がなかったのだが、後日正式リリースとなったArtecRobo 2.0だった様子。この製品は来年2019年4月に発売される予定だ。

ローランドの参考展示
当日は未発表だったアーテックの新製品「ArtecRobo 2.0」

その他にも、お馴染みのレゴ マインドストームEV3とWeDo 2.0、シャープのロボホン、ペッパーなどのロボット教材もScratchやScratchをベースに開発されたツールとの組合せで展示され、来場者が関心を寄せていた。

LEGOマインドストームEv3、ロボホン、ペッパーとの連携や教材も展示されていた

教育現場やコミュニティの事例紹介、ミッチさんとScratch Teamメンバーの姿も

プログラミング教育の現場で広く使われているScratchだけあって、学校関係やコミュニティの取り組み事例も多数展示されていた。

「プログラミング入試」を実施したことで知られる大妻嵐山中学校・高等学校は、校長先生自らと女子生徒達が説明に立ち、自分たちの作品をデモしていた。他にも、同志社女子大学のロボホンによるダンスプログラムを使っての創造的な学習の体験や、大町市立仁科台中学校による多脚ロボット、筆者も関わっているCoderDojoの取り組み、冒頭で紹介した宮島氏の教員志望の学生向け研究サークルなど、こちらも多彩な事例紹介が並んでいた。

さまざまなプログラミング教育の取り組みも紹介されていた

ふと気がつくと、会場にはミッチさんと同行したScratch Teamメンバーのチャンピカ・フェルナンド氏、カンファレンス実行委員長の阿部和広氏も顔を見せていた。各展示を見学しながら、発表者だけでなく訪れていた日本のScratch関係者との対話を楽しんでいる様子だった。今回の来日には、MITメディアラボ博士研究員の村井裕実子氏が同行し、ミッチさんと来場者間の通訳としても活躍していた。村井氏は、基調講演でも紹介された学習サイト「ラーニング クリエイティブラーニング」のファシリテーターとしても活動されており、当サイトには日本語のコンテンツ、フォーラムも用意されているので興味がある方は覗いてみて欲しい。

発表者の話に耳を傾けるミッチさんとサポートするMITメディアラボ博士研究員の村井氏、実行委員長の阿部氏

大人向けのカンファレンスの中、保護者に伴われた女の子の姿もあった。彼女のScratch作品は、ミッチさんの基調講演でも紹介されており、カンファレンスの2日前に行われた子ども達とのMeetupイベントにも参加していたそうだ。ミッチさんに記念撮影を頼みたくても恥ずかしがって声がかけられずにいたが、気がついたミッチさん達と会話をかわし笑顔で並んでの写真撮影となった。きっとよい思い出になることだろう。

来場していた小学生Scratcherと気さくに写真撮影に応じるミッチさんとScratch Teamのフェルナンド氏

大人も参加する創造的な学びの場

筆者は、デモ・ポスターセッションの時間の後、お役目(?)のショートプレゼンテーションもなんとか終わらせ、クロージングまでの時間を堪能させてもらった。図々しくミッチさんにサインをいただき、記念撮影もしてもらったのは言うまでもない。振り返ってみると、筆者を含めたそれぞれの立場の大人達が一日を通してリアルな「創造的な学びの場」として、このカンファレンスを愉しんでいたようだ。このような素敵な場を設けていただいた、実行委員長の阿部氏ならびに実行委員の皆様、そしてミッチさんとScratch Teamに、篤くお礼を申し上げたい。

ところで、午前中の基調講演の中、ミッチさん自らがScratch 3.0のベータ版を使ってライブでプログラミングする一幕があった。micro:bitを持ったミッチさんがジャンプするたびに、それを検知して恐竜のキャラクターが大きくなり、即興で録音・加工したミッチさんの「コンニチハ」の声が再生されるという内容。ミッチさん自らが身体を張りつつ、とても愉しそうにやっていたのが筆者には印象的だった。基調講演でミッチさんが語った内容は、別に子ども達だけのものではないはずだ。ミッチさんの渾身のジャンプは、「大人の君たちもやってごらんよ」という力強いメッセージではないだろうか。

筆者も、後日micro:bitを持ってジャンプするとキャラクターもジャンプして敵をよけるミニゲームを作ってやってみたのだが、結構しんどかったことを白状しておく。

Scratchは誰でも無料で使うことができる。大人の皆さんも是非ご一緒に。

ミッチさん、渾身のジャンプ!

新妻正夫

ライター/ITコンサルタント、サイボウズ公認kintoneエバンジェリスト。2012年よりCoderDojoひばりヶ丘を主催。自らが運営する首都圏ベッドタウンの一軒家型コワーキングスペースを拠点として、幅広い分野で活動中。 他にコワーキング協同組合理事、ペライチ公式埼玉県代表サポーターも勤める。