こどもとIT

10代のトップクリエータが魅せた、“好きなものを作る” ものづくりへの情熱

――未踏ジュニア 2018年度最終成果報告会レポート

2018年10月21日、17歳以下の小中高生や高専生を対象にした人材発掘・育成事業「未踏ジュニア」の最終成果報告会(主催:一般社団法人未踏)が開催された。3年目となる今年は、応募総数105件の中から12名のクリエータが選ばれ、報告会では10代の突出したトップレベルの作品が披露された。

未踏ジュニア2018に選ばれた10代のクリエータと、メンターとして開発を支援したPMたち

メンタリングと開発資金を支援し、本気で開発できる環境を提供

未踏ジュニアは、2016年にスタートした17歳以下の人材発掘・育成事業で、独創的なアイデアや卓越した技術を持つ若手IT人材の育成をめざしている。志願者は公募形式で募り、第一次審査、第二次審査を突破したクリエータが未踏ジュニアに選出される仕組みだ。3回目となった今年は、応募総数105件の中から12名のクリエータが選ばれた。未踏ジュニアに選出された者には、本家「未踏」のOB・OGによるメンタリングと、最大50万円の開発資金が援助され、約5ヶ月間でプロダクト開発に挑む。その成果を発表するのが、最終成果報告会というわけだ。

また、最終12名に選ばれたクリエータの中から、より優秀な成果を残した下記6名は「未踏ジュニアスーパークリエータ」に認定された。本稿ではスーパークリエータに認定されたプロダクトを中心に、最終成果報告会の様子をレポートする。

2018年度「未踏ジュニアスーパークリエータ」に選ばれた6名

・三橋優希さん(中3)「UTIPS」
・平野正太郎さん(中1)「Let'sえいごパズル!」
・末神奏宙さん(高2)「Vreath」
・藤本結衣さん(高2)「メモリーカプセル」
・浪川洪作さん(高3)「Sound in the forest」
・西村 惟さん(高2)「Toubans!」

株式会社リクルートホールディングス アカデミアホールで開催された未踏ジュニア 2018年度最終成果報告会では、12名のクリエータらがプレゼンを披露し、質疑応答では会場からも多くの質問が投げかけられた

完成度の高さとこだわりが魅力、未踏ジュニアスーパークリエータに選出されたプロダクト

三橋優希さん作「UTIPS」 - 家事の情報共有サービス

中学3年生の三橋優希さんは、家事を良くするためには他人の普段の家事を知ることが大切だと考え、家事の情報共有サービス「UTIPS」を考案した。現状、家事に関する情報はウェブで調べても情報が散乱していたり、大掃除など特別なケースのものが多いと考えたからだ。

三橋さんのこだわった点は、ユーザーに使ってもらい、そのフィードアップを活かして開発したこと。たとえば、“情報が見つけにくい”と言われたらタグ機能をつけるなど必要性に応じて改善に取り組んだ。また、より多くのユーザーに使ってもらえるよう、お題提案機能を実装し、“生ゴミはどうやって捨てている?”などテーマに基づいて投稿できるようにした。今回の未踏ジュニアを通して「当たり前のことではあるが、目標を決めてプロジェクトを進める大切さを学んだ。大人のアドバイスを全部聞いていたら大変なので、自分の作りたいものは何か、その目的をしっかり持つことも大切だと思った」と語った。

三橋さん(中3)は、友達の家に遊びに行った時に家事のやり方が違うことに気づき、家事の情報を共有できる「UTIPS」を思いついたという。開発は、今回はじめてRuby on Railsに挑戦した。「もともとRubyが好きだった。Rubyという名前がかわいくて興味をもった」と三橋さん。プログラミングの技術も高く、第3回全国小中学生プログラミング大会でもグランプリを受賞した

平野正太郎さん作「Let'sえいごパズル!」 - 変化するキューブで楽しく学ぶ英単語

今回の未踏ジュニア最年少である中学1年生の平野正太郎さんは、小さな子供たちが楽しく英単語を学べるゲーム「Let’s えいごパズル」を作成した。同ゲームは、コンピュータに表示されたイラストを見ながら、アルファベットのキューブを並び替えて英単語のスペルを学ぶ。キューブのアルファベットはディスプレイで表示され、「こたえあわせ」のボタンを押せば、並び替えたスペルが正しいかどうかを判定してくれる仕組みだ。

キューブとマイコンボード「Arduino」で作られたパズル台は赤外線通信でつながっており、キューブはレーザーカッターを使って自作した。平野さんは苦労した点について、「キューブとパズル台を赤外線通信でつないだが誤受信が発生し、基礎知識がなかったので改めて赤外線について勉強した」と述べた。テレビのリモコンの通信方法を調べ、そこからインスピレーションを得て課題を解決したというのだ。

平野さん(中1)が作った、変化するキューブで楽しく英単語を学べるゲーム「Let’s えいごパズル」。試作品を小学2年生~4年生に試してもらい、改良を重ねた。平野さんは「自分は好きなものを作ってきたが、基礎知識が足りないことに気づいた」と述べ、未踏ジュニアで成長したことを楽しく語ってくれた

末神奏宙さん作「Vreath」 - 暗号通貨の入手障壁を下げるための、独自合意アルゴリズムの開発

高校2年生の末神奏宙さんは、ブロックチェーンクリエータという肩書きを名乗るほど、ブロックチェーンが持つ可能性に魅力を感じている一人だ。末神さんが発表した暗号通貨の入手障壁を下げるための独自合意アルゴリズム「Vreath」も、現在の暗号通貨の入手方法に問題意識を持ち、新しいアルゴリズムの開発に挑戦した。

末神さんが問題として感じているのは、そもそもブロックチェーンを使うためにはユーザーが暗号通貨を取得する必要があるが、その取得に時間と経費がかかってしまうことだ。この方法では、一般ユーザーの間で暗号通貨が広がりにくいと考え、アプリを起動するだけで暗号通貨が得られる「Vreath」を開発した。また、具体的なアルゴリズムとしては、勝者総取りになりがちな暗号通貨は問題があると考え、ユーザーもブロック生成者もWin-Winの関係になれる「Parallel Mining(パラレルマイニング)」を考案した。プレゼンでは、ブロックチェーンに対する豊富な専門知識と、情熱が感じられる発表を披露した。

末神さん(高2)が「Vreath」で用いたパラレルマイニングの技術。ユーザーはアプリを起動するだけで自動的に簡単な計算問題を解くことになり、ユニット代が暗号通貨で支払われる。一方、ブロック生成者は集めたユニットをブロック報酬として受ける。これらの取引が正しく行われたかどうかを検証する技術「Parallel verification」のシステムも開発した

藤本結衣さん作「メモリーカプセル」 - カプセルを通して繋がるSNS

SNSの普及によって遠くの場所の情報は手に入りやすくなったが、一方で近くの場所は、遠く感じるようになってしまったのではないか。そんな問題意識を持った高校2年生の藤本結衣さんが開発したiOSアプリが、カプセルを通してつながるSNS「メモリーカプセル」だ。

同サービスは、投稿した場所でしか投稿内容を見られないSNSで、発信する側は写真と本文を投稿してカプセルに埋め、それを見る側はカプセルから20m以内の場所で掘り起こす。投稿されたカプセルは、ジャンルごとに色分けされる仕組みで、その土地にどのようなカプセルが埋められているのか傾向も分かる。また、友達と一緒にカプセルを埋めることも可能で、その場合は、埋めた全員が揃わないと掘り起こせない仕組みにした。「地域の情報だけでなく、仲間との思い出を投稿して埋めたり、謎解きイベントに使うなど、広い用途で使ってほしい」と藤本さんはアピールした。

藤本さん(高2)が作成したのは、カプセルを通してつながるSNS「メモリーカプセル」。投稿者が埋めたカプセルを堀り出すときは、アプリに表示された距離と方向の指示に従って歩き、残り20m以内の地点でアプリ画面に盛り土のイラストが表示される。それを掘り起こせば、投稿を見ることができる仕組みだ

浪川洪作さん作「Sound in the forest」 - 複数のスマートフォンによる「動く音」の表現

コンサート会場などで、観客のスマートフォンスピーカーからも音が出ればもっと面白い演出ができるのではないか。そんな発想で数千~数万台のスマートフォンスピーカーの分散制御システムをめざしているのが高校3年生の浪川洪作さんだ。今回の未踏ジュニアでは、数十台の実機を用いて基盤となる技術の開発や検証に取り組んだ。具体的には、NTPを参考にした時刻同期のシステムと、デバイスの位置情報による音響合成に挑戦し、プレゼンでは、来場者のスマートフォンを利用して、風の音を音響合成するデモにもチャレンジした。

浪川さんが最も苦労したのは、シンプルであるが音を同期するむずかしさ。いろんな端末が混ざっていたり、遅延の発生源を特定するのが難しかったりと、開発段階ではさまざまな困難があったという。「今後はさらに台数を増やした実証と、スピーカーの個体差の調整などに取り組んでいきたい」と展望を語った。

未踏ジュニアでは実際に16台のスマートフォンを用意して実証できたことが一番よかった。そもそも複数台のスマートフォンを充電して並べ、実証するまでの時間もかかったと開発時のエピソードを語ってくれた。浪川さんが発表した同システムは、総務省が実施する研究開発をプログラム「異能vation」において、最終選考も通過した
【ヘッドフォン推奨】「動く」風の音を会場内のデバイスから鳴らすデモ、会場内を縦横無尽に風の音が動いていく様が再現されている

西村 惟さん「Toubans!」 - LINEで設定・通知できる当番お知らせサービス

クラスの掃除当番表の課題解決をめざして生まれたのが、高校2年生の西村 惟さんが開発したLINEで設定・通知ができる当番お知らせサービス「Toubans!」だ。クラスでは、“いたずらで勝手に回す”“回し忘れる”ことが問題であったが、同様の課題は世の中にも多くあると考え、プロダクトの開発に挑んだ。

西村さんがめざしたのは、LINEだけで当番の設定・通知が完結できるサービス。LINEアカウントで活用できるMessaging APIの新機能「LIFF」を用いて、友達をBotに追加してグループを作り、通知内容とタイミングを設定できる機能を盛り込んだ。実際に13歳から70歳まで75名にサービスを使ってもらい、使いやすさにこだわって改良を重ねたという。今後は「Facebookのメッセンジャーなど、他のアプリとも連携させて広げていきたい」と抱負を語った。

「未踏ジュニアに応募した当時は、サーバーやbotの知識がなくて開発では苦労した。公開されたばかりの新しいAPIを使ったのでデバッグも大変だった」と話す西村さん(高2)。また幅広い年齢層によるユーザーテストを通して、高校生とのITスキルの違いにも気づき、視野を広く持って開発する大切さにも気づいたという。西村さんはToubans!で、LINEが主催する開発コンテスト「LINE BOOT AWARDS 2018」にてグランプリを受賞した

アイデアと個性が魅力、その他の最終選考プロダクト

残念ながら、スーパークリエータに選ばれなかった小中高生らの作品も紹介しよう。言うまでもないが、未踏ジュニアは10代のトップレベルのクリエータが選出されているため、どのプロダクトもレベルは高い。10代で世の中の課題やサービスに対して問題意識を持ち、テクノロジーで改善できるのではとアクションを取ったことは、大人から見てもリスペクトできる。

佐藤 怜さん(高1)。IoTで会議室の効率的な利用を支援するシステム「Smile会議室」を披露した。人感センサで会議室の稼働状況を把握し、5分間未使用の場合はカラ予約と判断し予約を削除したり、利用の延長可否を通知する機能なども盛り込んだ。佐藤さんは既に、会社の会議室を借りて同システムの検証も行っており、実現性についても説得力をもってアピールした。会場からは「ウチの会社でも使ってみたい」と声があがった
柴原佳範さん(高2)。日頃からメモ帳に書き込むのが習慣という柴原さんは、位置的に管理するメモサービス「Corkboard」を発表した。こだわった点は、自由な文字の配置や時間経過を感じられる紙のメモ帳のメリットをデジタルで再現すること。柴原さんは実装が間に合わなかったが、プレゼンでは、森の木々が移り変わる様子でアナログな感覚を体験できる機能などを説明した。「効率化や生産性を重視される技術ばかりではなく、人間の感情に寄り添う技術を実現したい」と想いを語った
佐藤美咲さん(写真左)、末田貴一さん(写真中)、高見 優さん(写真右)は3名とも高等専門学校の3年生で、VRにおけるECの在り方を模索するプロトタイプ「TouchBuy」を発表した。さまざまな試行錯誤を繰り返した結果、VRで商品を売る時は、背景の作り込みが重要であること、リアル感のない商品の方が扱いやすいことに気づき、「VRおまもり専門店」を披露した。高校生だからこそ、収益化を気にすることなく、新しい分野に挑戦したかったと述べた
齋藤 尊さん(高2)。サッカーワールドカップ優勝チームに勝てるロボットチームを作ることは可能か。齋藤さんはそんな夢を目指していて、機械学習のひとつである強化学習を用いたロボットサッカーシミュレーションを発表した。バーチャルロボットに強化学習を行い、最終的にはその学習モデルを用いたロボットの実装に挑戦する。今回はバーチャルロボットが“サッカーをする”という動きの実現をめざした。強化学習したAgentの学習モデルを、実装予定ロボット「Plen2」のバーチャルロボットに移行する時に苦労したと述べた
河原慶太郎さん(中3)は、対象物をカメラで撮影するだけで、それが何かを翻訳してくれるアプリ「写して翻訳」を発表した。外国人が日本へ来た時、身近な物の名前を知りたいときなど、それが何かをテキストで調べづらいときがある。そんな時に役立つことを想定して開発した。ほかにも、メニューなどのテキストをカメラで写すと翻訳も可能。河原さんは「さまざまな機能を組み合わせることで、外国人にとっていろんな場面で使えるアプリになる」とアピールした
武藤熙麟さん(高1)。持病でアレルギーを抱える武藤さんは、緊急事態に陥ったときに助けを求められる警報システム「Life Watcher」を発表した。スマートウォッチで心拍数や血圧を検知し、異常事態がどうかを判断。異常の場合は、その情報をスマートフォンに転送して、家族や病院に支援を求めることができる。スマートフォンのアプリで類似サービスはあるが、緊急事態では操作ができないため、スマートウォッチと連携できるシステムを考案した。武藤さんはプレゼンで「急変する病気があることをもっと知ってほしい」と会場に訴えた

自分の作りたいものを、これからも作っていきたい。

未踏ジュニアスーパークリエータに選ばれた6名に対しては、後日、日を改めて表彰式が行われた。その際に設けられたパネルディスカッションでは、クリエータたちの素顔や、彼ら彼女らをサポートしたPMたちの話も聞くことができた。

未踏ジュニアスーパークリエータに選ばれた6名に対しては、11月4日に開催された国内最大級のエドテックカンファレンス「Edvation x Summit 2018」の中で表彰式が行われた。写真はその際に行われたパネルディスカッションの様子。クリエータ達を支援したPMも登壇した

そもそもクリエータたちが、ものづくりに興味をもったきっかけは何か。ブロックチェーンを活用したプロダクトを発表した末神さんは、「ものづくりよりも、仕組みづくりに興味を持った。モノのデザインには美しさがあり、それを追求すると社会でも適用できると考えている」と持論を述べた。英語パズルを作った平野さんは「6歳の時にレゴのマインドストームを買ってもらってプログラミングに出会った」と話し、Toubans!を作成した西村さんは「中1の時にパソコンを欲しいと親に言ったら、“自作ならいいよ”と言われてモノづくりが始まった」とそれぞれのエピソードを語ってくれた。

未踏ジュニアを振り返って、家事の情報共有サービスを開発した三橋さんは「同じことに興味を持った同年代が交流できたことがよかった。開発は平均すれば毎日2時間くらい行っていたが、PMとのメンタリングの日を締め切りと思って頑張った」と述べた。Toubans!の西村さんは「プログラミングの学習をしながら開発したので大変だった。プログラミングの知識があればもっと開発に時間を使うことができた」と語った。クリエータたちは皆、学校の試験や部活動と掛け持ちで未踏ジュニアのプロダクト開発に取り組んでおり、その大変さを垣間見ることができた。

最後、将来についてはどのように考えているのか。「自分の作りたいものを作っていきたい」(浪川さん)、「iOS以外のアプリを作ってみたい、大学に行ったら、同じことをやっている人と一緒に何かを作ってみたい」(藤本さん)、「役に立つものを作りたい」(平野さん)、「人類がまだやったことがないことを目指しつつ、自分のやりたいことをやりたい」(西村さん)、「社会に合わせるのではなく、みんなが自由に自分の幸せを追求できる社会をつくりたい」(末神さん)、「UI/UXデザイナーになりたい。人に使ってもらって笑顔になるようなものを作りたい」(三橋さん)と、それぞれに持っている夢や志を話してくれた。

今年の未踏ジュニアの特徴としては、レベルが去年よりも一段と上がったことが挙げられるだろう。技術力もさることながら、プロダクトの完成度の高さ、そしてユーザーテストを重ねるなど、実現性についても追求したものが多かった。一方で、10代のクリエータらしく、“自分の作りたいものを作っている”“自分のやりたいことをやっている”という尖った一面も見られ、そこにクリエータらのいい意味でのプライドも感じた。これからどんな大人になるか楽しみであり、世の中にインパクトを与える人材に成長してほしい。

神谷加代

教育ITライター。「教育×IT」をテーマに教育分野におけるIT活用やプログラミング教育、EdTech関連の話題を多数取材。著書に『子どもにプログラミングを学ばせるべき6つの理由 「21世紀型スキル」で社会を生き抜く』(共著、インプレス)、『マインクラフトで身につく5つの力』(共著、学研プラス)など。