こどもとIT
10代のトップクリエータが魅せた、“好きなものを作る” ものづくりへの情熱
――未踏ジュニア 2018年度最終成果報告会レポート
2018年11月19日 08:00
2018年10月21日、17歳以下の小中高生や高専生を対象にした人材発掘・育成事業「未踏ジュニア」の最終成果報告会(主催:一般社団法人未踏)が開催された。3年目となる今年は、応募総数105件の中から12名のクリエータが選ばれ、報告会では10代の突出したトップレベルの作品が披露された。
メンタリングと開発資金を支援し、本気で開発できる環境を提供
未踏ジュニアは、2016年にスタートした17歳以下の人材発掘・育成事業で、独創的なアイデアや卓越した技術を持つ若手IT人材の育成をめざしている。志願者は公募形式で募り、第一次審査、第二次審査を突破したクリエータが未踏ジュニアに選出される仕組みだ。3回目となった今年は、応募総数105件の中から12名のクリエータが選ばれた。未踏ジュニアに選出された者には、本家「未踏」のOB・OGによるメンタリングと、最大50万円の開発資金が援助され、約5ヶ月間でプロダクト開発に挑む。その成果を発表するのが、最終成果報告会というわけだ。
また、最終12名に選ばれたクリエータの中から、より優秀な成果を残した下記6名は「未踏ジュニアスーパークリエータ」に認定された。本稿ではスーパークリエータに認定されたプロダクトを中心に、最終成果報告会の様子をレポートする。
完成度の高さとこだわりが魅力、未踏ジュニアスーパークリエータに選出されたプロダクト
三橋優希さん作「UTIPS」 - 家事の情報共有サービス
中学3年生の三橋優希さんは、家事を良くするためには他人の普段の家事を知ることが大切だと考え、家事の情報共有サービス「UTIPS」を考案した。現状、家事に関する情報はウェブで調べても情報が散乱していたり、大掃除など特別なケースのものが多いと考えたからだ。
三橋さんのこだわった点は、ユーザーに使ってもらい、そのフィードアップを活かして開発したこと。たとえば、“情報が見つけにくい”と言われたらタグ機能をつけるなど必要性に応じて改善に取り組んだ。また、より多くのユーザーに使ってもらえるよう、お題提案機能を実装し、“生ゴミはどうやって捨てている?”などテーマに基づいて投稿できるようにした。今回の未踏ジュニアを通して「当たり前のことではあるが、目標を決めてプロジェクトを進める大切さを学んだ。大人のアドバイスを全部聞いていたら大変なので、自分の作りたいものは何か、その目的をしっかり持つことも大切だと思った」と語った。
平野正太郎さん作「Let'sえいごパズル!」 - 変化するキューブで楽しく学ぶ英単語
今回の未踏ジュニア最年少である中学1年生の平野正太郎さんは、小さな子供たちが楽しく英単語を学べるゲーム「Let’s えいごパズル」を作成した。同ゲームは、コンピュータに表示されたイラストを見ながら、アルファベットのキューブを並び替えて英単語のスペルを学ぶ。キューブのアルファベットはディスプレイで表示され、「こたえあわせ」のボタンを押せば、並び替えたスペルが正しいかどうかを判定してくれる仕組みだ。
キューブとマイコンボード「Arduino」で作られたパズル台は赤外線通信でつながっており、キューブはレーザーカッターを使って自作した。平野さんは苦労した点について、「キューブとパズル台を赤外線通信でつないだが誤受信が発生し、基礎知識がなかったので改めて赤外線について勉強した」と述べた。テレビのリモコンの通信方法を調べ、そこからインスピレーションを得て課題を解決したというのだ。
末神奏宙さん作「Vreath」 - 暗号通貨の入手障壁を下げるための、独自合意アルゴリズムの開発
高校2年生の末神奏宙さんは、ブロックチェーンクリエータという肩書きを名乗るほど、ブロックチェーンが持つ可能性に魅力を感じている一人だ。末神さんが発表した暗号通貨の入手障壁を下げるための独自合意アルゴリズム「Vreath」も、現在の暗号通貨の入手方法に問題意識を持ち、新しいアルゴリズムの開発に挑戦した。
末神さんが問題として感じているのは、そもそもブロックチェーンを使うためにはユーザーが暗号通貨を取得する必要があるが、その取得に時間と経費がかかってしまうことだ。この方法では、一般ユーザーの間で暗号通貨が広がりにくいと考え、アプリを起動するだけで暗号通貨が得られる「Vreath」を開発した。また、具体的なアルゴリズムとしては、勝者総取りになりがちな暗号通貨は問題があると考え、ユーザーもブロック生成者もWin-Winの関係になれる「Parallel Mining(パラレルマイニング)」を考案した。プレゼンでは、ブロックチェーンに対する豊富な専門知識と、情熱が感じられる発表を披露した。
藤本結衣さん作「メモリーカプセル」 - カプセルを通して繋がるSNS
SNSの普及によって遠くの場所の情報は手に入りやすくなったが、一方で近くの場所は、遠く感じるようになってしまったのではないか。そんな問題意識を持った高校2年生の藤本結衣さんが開発したiOSアプリが、カプセルを通してつながるSNS「メモリーカプセル」だ。
同サービスは、投稿した場所でしか投稿内容を見られないSNSで、発信する側は写真と本文を投稿してカプセルに埋め、それを見る側はカプセルから20m以内の場所で掘り起こす。投稿されたカプセルは、ジャンルごとに色分けされる仕組みで、その土地にどのようなカプセルが埋められているのか傾向も分かる。また、友達と一緒にカプセルを埋めることも可能で、その場合は、埋めた全員が揃わないと掘り起こせない仕組みにした。「地域の情報だけでなく、仲間との思い出を投稿して埋めたり、謎解きイベントに使うなど、広い用途で使ってほしい」と藤本さんはアピールした。
浪川洪作さん作「Sound in the forest」 - 複数のスマートフォンによる「動く音」の表現
コンサート会場などで、観客のスマートフォンスピーカーからも音が出ればもっと面白い演出ができるのではないか。そんな発想で数千~数万台のスマートフォンスピーカーの分散制御システムをめざしているのが高校3年生の浪川洪作さんだ。今回の未踏ジュニアでは、数十台の実機を用いて基盤となる技術の開発や検証に取り組んだ。具体的には、NTPを参考にした時刻同期のシステムと、デバイスの位置情報による音響合成に挑戦し、プレゼンでは、来場者のスマートフォンを利用して、風の音を音響合成するデモにもチャレンジした。
浪川さんが最も苦労したのは、シンプルであるが音を同期するむずかしさ。いろんな端末が混ざっていたり、遅延の発生源を特定するのが難しかったりと、開発段階ではさまざまな困難があったという。「今後はさらに台数を増やした実証と、スピーカーの個体差の調整などに取り組んでいきたい」と展望を語った。
西村 惟さん「Toubans!」 - LINEで設定・通知できる当番お知らせサービス
クラスの掃除当番表の課題解決をめざして生まれたのが、高校2年生の西村 惟さんが開発したLINEで設定・通知ができる当番お知らせサービス「Toubans!」だ。クラスでは、“いたずらで勝手に回す”“回し忘れる”ことが問題であったが、同様の課題は世の中にも多くあると考え、プロダクトの開発に挑んだ。
西村さんがめざしたのは、LINEだけで当番の設定・通知が完結できるサービス。LINEアカウントで活用できるMessaging APIの新機能「LIFF」を用いて、友達をBotに追加してグループを作り、通知内容とタイミングを設定できる機能を盛り込んだ。実際に13歳から70歳まで75名にサービスを使ってもらい、使いやすさにこだわって改良を重ねたという。今後は「Facebookのメッセンジャーなど、他のアプリとも連携させて広げていきたい」と抱負を語った。
アイデアと個性が魅力、その他の最終選考プロダクト
残念ながら、スーパークリエータに選ばれなかった小中高生らの作品も紹介しよう。言うまでもないが、未踏ジュニアは10代のトップレベルのクリエータが選出されているため、どのプロダクトもレベルは高い。10代で世の中の課題やサービスに対して問題意識を持ち、テクノロジーで改善できるのではとアクションを取ったことは、大人から見てもリスペクトできる。
自分の作りたいものを、これからも作っていきたい。
未踏ジュニアスーパークリエータに選ばれた6名に対しては、後日、日を改めて表彰式が行われた。その際に設けられたパネルディスカッションでは、クリエータたちの素顔や、彼ら彼女らをサポートしたPMたちの話も聞くことができた。
そもそもクリエータたちが、ものづくりに興味をもったきっかけは何か。ブロックチェーンを活用したプロダクトを発表した末神さんは、「ものづくりよりも、仕組みづくりに興味を持った。モノのデザインには美しさがあり、それを追求すると社会でも適用できると考えている」と持論を述べた。英語パズルを作った平野さんは「6歳の時にレゴのマインドストームを買ってもらってプログラミングに出会った」と話し、Toubans!を作成した西村さんは「中1の時にパソコンを欲しいと親に言ったら、“自作ならいいよ”と言われてモノづくりが始まった」とそれぞれのエピソードを語ってくれた。
未踏ジュニアを振り返って、家事の情報共有サービスを開発した三橋さんは「同じことに興味を持った同年代が交流できたことがよかった。開発は平均すれば毎日2時間くらい行っていたが、PMとのメンタリングの日を締め切りと思って頑張った」と述べた。Toubans!の西村さんは「プログラミングの学習をしながら開発したので大変だった。プログラミングの知識があればもっと開発に時間を使うことができた」と語った。クリエータたちは皆、学校の試験や部活動と掛け持ちで未踏ジュニアのプロダクト開発に取り組んでおり、その大変さを垣間見ることができた。
最後、将来についてはどのように考えているのか。「自分の作りたいものを作っていきたい」(浪川さん)、「iOS以外のアプリを作ってみたい、大学に行ったら、同じことをやっている人と一緒に何かを作ってみたい」(藤本さん)、「役に立つものを作りたい」(平野さん)、「人類がまだやったことがないことを目指しつつ、自分のやりたいことをやりたい」(西村さん)、「社会に合わせるのではなく、みんなが自由に自分の幸せを追求できる社会をつくりたい」(末神さん)、「UI/UXデザイナーになりたい。人に使ってもらって笑顔になるようなものを作りたい」(三橋さん)と、それぞれに持っている夢や志を話してくれた。
今年の未踏ジュニアの特徴としては、レベルが去年よりも一段と上がったことが挙げられるだろう。技術力もさることながら、プロダクトの完成度の高さ、そしてユーザーテストを重ねるなど、実現性についても追求したものが多かった。一方で、10代のクリエータらしく、“自分の作りたいものを作っている”“自分のやりたいことをやっている”という尖った一面も見られ、そこにクリエータらのいい意味でのプライドも感じた。これからどんな大人になるか楽しみであり、世の中にインパクトを与える人材に成長してほしい。