こどもとIT

未来のロボットエンジニアが集合! ルンバを子ども達とプログラミングしてみた

――「アイロボットSTEMワークショップ」レポート

首都圏に大型で強い勢力の台風24号が接近しつつあった2018年9月30日、「アイロボットSTEMワークショップ」が開催された。小学校1~3年生を対象にしたワークショップには、定員の10倍以上の申し込みから幸運にも当選した親子連れが訪れ、ロボットプログラミングを体験していった。筆者もご厚意により取材及び末席で体験させて頂くことができた。同社CEOであるコリン氏自らが、来日・登壇したワークショップの様子をお届けする。

白を基調にしたアイロボットジャパン社オフィスで開始を待つ子どもたち

家庭用掃除ロボット「ルンバ」で広く知られる米国アイロボット(iRobot)社は、社会貢献活動の一環として米国及び各国で子ども向けのSTEMワークショップを開催してきた。この9月30日に、日本でも初めてこのワークショップが開催された。

この日は“大型で非常に勢力の強い”台風24号が日本列島に接近しつつあり、多数のイベントが中止/延期になっていた。首都圏でも警戒の中、当日は天気もなんとかもってイベントは無事予定通り開催された。

ワークショップの会場は神田錦町にあるアイロボットジャパン社のオフィスだ。おしゃれなデザインのオフィスには参加者の子どもたちが揃い、用意されていた研究者用の白衣に着替え開始の時を待ち構えていた。今日はアイロボット社の特別研究員という粋な設定である。

解説ビデオかと思いきや、コリンCEO出現に驚く子どもたち

ワークショップの冒頭では、アイロボット社の創設者で現CEOのコリン・アングル氏からのビデオレターが紹介され、コリン氏からの挨拶と米国アイロボット社の様子が流された。てっきり、コリン氏は米国にいるのかと思いきや、ここで「大きな声でコリンさんを呼んでみよう」と促された子どもたちの呼び声で、ひょっこりご本人が登場。会場を沸かせていた。

映像の中のコリン氏がひょっこり登場

ここからが特別講義の本番となる。現代におけるロボットとは何なのか、リアルなロボットネイティブ世代とも言える小学校低学年の子どもたちとコリン氏の対話をかいつまんで紹介する。

今の子どもたちのロボット観は、我々世代とはかなり異なっているようだ。おじさん達にとって、ロボットといえばアトムに代表される人型である。ところが子どもたちはロボットの特徴として「目がついてない」と指摘。確かにお掃除ロボットのルンバには目らしいものが見当たらないし、そもそも形も掃除に最適化されている。

ここでコリン氏が「ロボットにしてほしいことはある?」と問いかける。子ども達からは、かわいがることができる動物のロボットや、虫を追い払うロボット、といったアイディアが出てきた。ちなみに、世界各地でコリン氏が同じ事を子ども達に聞いたところ、一番多かったのは「宿題」だそうである。

子どもたちのとやりとりを愉しそうに進めるコリン氏と、ものおじしない子どもたち

このプレゼンテーションの詳細は字幕付きの動画をご覧頂きたい。

アイロボット社CEO コリン・アングル氏のSTEM教室

まずはScratchの中でルンバを動かそう

コリン氏の特別講義が終わり、いよいよ子どもたちが楽しみにしていたプログラミングのワークショップがはじまった。ここで使うのは、お馴染みのScratch(スクラッチ)。2人1組となりテーブルに分かれた子どもたちは、用意されていた1人1台ずつのノートPCに向かう。

それぞれのノートPCには、ワークショップ用のScratchのプログラムが準備されていた。Scratchといえば、公式キャラクターである猫のScratch Catがお馴染みだが、今回はアイロボットらしく「ルンバ」のスプライト(Scratchで使うキャラクター)が用意されていた。画面の中のルンバをまずプログラミングして動かしてみようという流れなのだ。

ルンバのキャラクターの他に部屋のゴミ的なものも並び親しみやすい工夫がされていた

今回参加した子どもたちは、一部を除いてほとんが未経験者だった様子。マウスを操作して、Scratchのブロックを並べ、画面の中にいるルンバが動く様子に興味津々である。各テーブルごとに1人のアイロボット社員がサポーター役となり、初めてのプログラミングを楽しんでいるようだった。

1人1台のPCでScratchを使ったプログラミングを楽しむ子どもたち
子どもたちの様子を優しく見守るコリン氏

アイロボットならではの贅沢な環境、本物のルンバをプログラミング!

休憩時間をはさみ、いよいよ本物のルンバをプログラミングすることになる。今回用意されたのは、プログラミング可能なiRobot Create 2 Programmable Robot(以下、iRobot Create 2)だ。外見はルンバだが掃除機としての機能はなく、PCと専用ケーブルで接続して、プログラミングすることが可能になるというSTEM教材だ。

利用するプログラミング環境は、「ScratchX」と呼ばれるScratchの派生版の1つ。micro:bitやLEGO Mind Storm EV3といった様々なデバイスを制御するための拡張機能(エクステンション)が各社から提供されている。

iRobot Create 2、外見はルンバだがPCと専用のケーブルで接続する
iRobot Create 2用の制御ブロックが追加されたScratchX上のプログラム

今回のワークショップでは、2人1組ごとに、このiRobot Create 2とケーブルでつながれたPCが1セットずつ用意されていた。これだけの数を揃えられるのはさすがアイロボット社である。

追加されたScratchX上の拡張ブロックは一部を除いて英語表記であったものの、2人1組で相談しながら、恐れることもなくいろいろと試していくうちに子どもたちはあっという間に慣れてしまったようだ。

サポートを受けながら、プログラムに慣れていく様子の子どもたち

ミッションをクリアせよ! ルンバを動かして部品を回収

子どもたちがプログラミングに慣れてきたタイミングで突如警報が鳴り響いた。大事な部品がなくなってしまったので、ルンバをプログラミングしてそれを回収して欲しいというミッションが発令されたのだ。なかなか凝った演出である。

実はあらかじめ会場の床にはスタートとゴール、さらに回収して欲しい部品のマークが貼られていたのである。部品のマークを通る一定のルートを通って、プログラミングしたルンバでゴールしようという流れである。

実はミッション用のルートが床に準備されていた

子どもたちは低学年だったこともあり、角度という概念も実はそれほどピンときていないようだったが、数字を変えて実際にどうルンバが動くのかをいろいろと試行錯誤しながら、プログラミングを行っていた。何度も失敗しながらも、ほとんどのチームがゴールにたどりつかせることに成功し、拍手をあびていた。なかには、ゴールまで行ってからさらにスタート地点に戻ってくるという次の課題に自分たちで取り組んでいるチームもあり、周りで見守る大人達から暖かい声援が飛んでいた。

試行錯誤しながらプログラミングする子どもたちと作ったプログラムの例
コースに挑む子どもたち
その様子を満足げに見るコリン氏

アイロボットが広げるSTEM体験! この12月にも第2回が開催予定

愉しいロボットプログラミングの時間も終わり、最新型のルンバとスマートスピーカーによる連携デモが紹介された。スピーカーにルンバの掃除を指示すると卓上に置かれた最新型ルンバが動き出す様子に子どもたちは目を輝かせていた。この機械の中でいったいどんなプログラムが動いているのか、想像を膨らませているのだろう。

スマートスピーカーとルンバの連携に目をかがやかせる子どもたち

最後に、子どもたちはこの日の振り返りをかねてメッセージカードに思いを記入。コリン氏と握手しながら記念品を受け取り、写真撮影となった。コリン氏は終始笑顔で、子どもたちとのふれ合いを本当に楽しんでいる様子だった。

メッセージカードを記入する子どもたち
コリン氏と記念撮影する子どもたち
未来のロボットエンジニア達が集合して写真撮影

冒頭でも触れたが、米国アイロボット社はこのようなSTEMワークショップを継続して開催してきており、日本でも今回のワークショップを皮切りに、この12月に同じくアイロボットジャパンによる第2回が予定されている。これだけの贅沢な体験はとても貴重だ。小学校低学年のお子さんをお持ちの方は是非参加を検討してみてはどうだろうか。

今回のワークショップ中、実は筆者も子どもたちのテーブルから少し離れた隅っこで、iRobot Create 2と予備のPCで遊ばせて頂いたのだが、やはり本物のルンバが自分のプログラムで動くのは愉しい経験であった。ただ、途中で子どもたち用のPCの1つがトラブルを起こしてしまい、遊んでいた予備のPCが緊急出動となったため、長時間のいたずらができなかったのは残念であった。機会があれば大人も混じって参加できるワークショップも是非やってほしいものである。

新妻正夫

ライター/ITコンサルタント、サイボウズ公認kintoneエバンジェリスト。2012年よりCoderDojoひばりヶ丘を主催。自らが運営する首都圏ベッドタウンの一軒家型コワーキングスペースを拠点として、幅広い分野で活動中。 他にコワーキング協同組合理事、ペライチ公式埼玉県代表サポーターも勤める。