こどもとIT
「プログラミング教育の今後を占うような内容」と総評、第3回全国小中学生プログラミング大会表彰式レポート
――SONYのSpresenseの展示、ロボットやプログラミング体験ワークショップも
2018年11月1日 08:00
2018年10月21日、「第3回 全国小中学生プログラミング大会」の表彰式が東京・青山にあるTEPIAイベントホールにて開催された。同大会は、自らのアイデアを表現・発信する手段としてのプログラミングの普及を目的として2016年から実施。名前の通り、小・中学生を対象としている。3回目となる今回のテーマは「こんなせかいあったらいいな」。2018年7月1日から9月5日までの期間で作品を募集し、全282作品の応募があった(昨年は167作品)。この日は式の開催に合わせて、TEPIA内のエキシビジョンホールにおいて、入賞作品10作品のデモ展示が行なわれていた。
表彰式に先立って、大会実行委員長で東京大学 先端科学技術研究センター教授の稲見昌彦氏が登壇し、プログラムの持つ可能性について言及。一例として、現実世界では練習にコツがいる「けん玉」も、VR世界であれば時間をスローにすることで、より練習しやすくなることを挙げた。「徐々に時間の流れを元に戻しながら練習すると、いつの間にか現実のけん玉も上手くなっている。これが、プログラムが持っている力です。私たちは現実世界において強力な物理法則に支配されていますが、コンピューター・プログラムの世界では創造主としてふるまうことができる。『覆水盆に返す』ことができるのです」と語る稲見氏。参加者に向けては、プログラムの力を使って、コンピューターの中に自分独自の世界を創造してほしい、と結んだ。
審査基準は「発想力」「表現力」「技術力」の3つ。応募作品は一次審査で30作品、二次審査で10作品まで絞られ、入賞10作品の中からグランプリ1作品、準グランプリ2作品、中学校部門、小学校高学年部門、小学校低学年部門から優秀賞をそれぞれ1作品ずつ選出する。
グランプリ:三橋優希さん作「つながる。」
中学3年生、三橋優希さんの作品。タイルに描かれた人物と白い線をつないで遊ぶパズルゲーム。タイルをクリックすると回転し、線をつないでいく。UI、ゲームデザイン、BGM、SE、グラフィックなどすべてを三橋さん1人で製作した。使用環境はScratch。
審査委員長をつとめた東京大学名誉教授でアーティストの河口洋一郎氏は、本作を「非常に完成度の高いプログラム」と評価。平面的な見た目でありながら、三次元的な思考も求められるゲーム内容が非常に楽しい、とプレイ感覚について述べ、「三橋さんは中学3年生ですが、今すぐに雇いたいくらい。いっそ飛び級で稲見先生の研究室に入ってはどうか」とコメントした。
準グランプリ:真家彩人さん作「Magical Guitar ~あなたも今からギタリスト~」
中学3年生、真家彩人さんの作品。本物のギターのように、ボディに近いところを押さえると高い音に、ナットに近い位置を押さえると低い音を出すことができる。複数の伴奏パターンが自動的に切り替わることで、誰でもギターを演奏しているような気分が味わえる。弦はなく、フィンガーボードにあたる部分は鉛筆で塗られており。指にアルミホイルを巻いて押さえると、抵抗値の違いから押さえた位置を検出し、音程を変化させる。使用環境はARMマイコン、 JAVA、 Scratch。
審査員の1人、FabCafe LLP COOの川井敏昌氏は講評の中で、テクノロジーをツールとして使い、楽器が弾けない人でも楽しんでもらおうという発想を讃えつつ、審査の際に真家さんから聞いた「紙質へのこだわり」についても言及。「望ましい抵抗値を得るために、様々な素材の紙を使い、最終的にはカレンダーの裏を鉛筆で塗り潰したという試行錯誤のお話しが面白かったです」と話し、今後は自分オリジナルの電子楽器づくりにも挑戦してみてはどうか、と新たなチャレンジを勧めていた。
準グランプリ:越智晃瑛さん作「点字メーカー Ver1.03」
小学4年生、越智晃瑛さんの作品。点字を簡単に書くことができる2つで1セットのガジェット。傾きを検知して文字データを入力する「ふりふりウォッチ」と、入力された文字を点字に変換して書き込む「点字変換ボックス」で構成されている。使用環境はmicro:bit。
この作品について講評を述べたのは、株式会社スイッチサイエンス代表取締役の金本茂氏。応募作品に電子工作的なモノが増えてきたとの傾向について触れ、越智さんの作品については、実現したい機能に対する必要性から設計を行なっている点を評価している。「電子工作という観点からいえばシンプルな構造ではあるのですが、生活の中で感じた課題を解決するために、電子工作の部品を活用したところがすばらしいです。作品は2つのガジェットを無線で通信させていますが、それもやりたいことを実現するために通信させる必要があるから。機能から目的を考えるのではなく、目的から使える機能を選んで実装した点を評価しました。また、この作品はプログラムの分量もすごいのですが、それでも根気強くプログラムの動きをきちんと検証し、最後までやりきった点にも感心しました」と語った。
なお、越智さんは展示ドキュメントの中で、「今回点字メーカーを作ったことで、体のことで困っている人が生活しやすくなる装置やプログラムを作りたい」と述べている。
優秀賞・中学校部門:平野正太郎さん作「ロボロボパズル!」
中学1年生、平野正太郎さんの作品。15枚のタイルと3つのボタンを使って、画面に映し出された絵や数式に合った数字をはめこんで遊ぶパズルゲーム。自身も計算が苦手という平野さんは「楽しみながら計算ができたらいいな」との発想が作品制作のきっかけと話していた。
講評を担当したエンジニアの松林弘治氏は、ハードウェアの完成度を高く評価。「子どもが扱っても壊れにくい、耐久性まで考えられていることに驚いた」との印象を述べていた。
優秀賞・小学校高学年部門:菅野晄さん作「写刺繍 ~Sha-Shi-Shu~ 」
小学6年生、菅野晄さんの作品。写真から刺繍用の画像を生成するアプリ。写真を構成するピクセルの色を刺繍糸の色に置き換えている。また刺繍糸メーカーごとに対応する糸を選択可能で、対応メーカーとしては「コスモ刺しゅう糸」と「DMC」の2社を選択できる。この作品は、同時開催していた「U-22 プログラミング・コンテスト2018」で「経済産業大臣賞」も受賞している。
審査員として参加した株式会社トレタ CTOの増井雄一郎氏は、「小学生が作ったとはまず信じられない完成度。菅野さんは昨年もUnityで作った作品で賞を獲っているのですが、今年はまた違ったプログラムで賞を獲得している」とその成果を讃えつつも、今後の作品づくりに関するアドバイスとしては、より独創性の高い作品に挑戦してほしい旨を伝えている。
優秀賞・小学校低学年部門は該当作品なし
残念ながら優秀賞・小学校低学年部門は該当作品なしとなった。ほか、入選作は以下の通り。
入選:渡辺悠さん作「Planet Adventure」
中学3年生、渡辺悠さんの作品。宇宙飛行士が不時着した惑星の環境を操作しながら、物資を集めて地球への帰還を目指すという設定の2Dアクションゲーム。開発環境はVisual Studio。
入選:霜田貫太さん作「アンガーマネジメントVR ~認知行動療法に基づく怒りのコントロールVRへのバイオフィードバックの適用~」
中学1年生、霜田貫太さんの作品。「怒り」から「平静」へ移行する感情の疑似体験と、心拍数センサーの数値を表示することで、体験者に「怒り」感情のコントロール方法を伝えるVRコンテンツ。開発環境はUnity。
入選:佐藤空汰さん作「子供のはじめての自動販売機(改良型)」
小学6年生、佐藤空汰さんの作品。自動販売機での買い物を体験できる子ども向けガジェット。販売機の前方50cm以内に近づくと買い方の説明が流れ、お金を入れるとチョコレートが買える。また、一定確率でもう一個もらえるギミックもある。
入選:澁谷知希さん作「今日の洋服何着てく?」
小学5年生、澁谷知希さんの作品。その日の天気や気温をもとに、当日の服装を提案してくれるアプリ。無料気象情報API「OpenWheatherMap」から情報を取得し、2Dアバターで服装を表現している。
入選:伊藤直輝さん作「魚の国」
小学3年生、伊藤直輝さんの作品。海の生き物を表現したグラフィックを自動生成して描画する。開発環境はScratch。
審査委員長の河口洋一郎氏による総評では、本大会の応募作品について「もうすぐ始まるプログラミング教育の今後を占うような内容だった」と振り返る。「プログラミングは、子どもたちに将来の夢と希望を与えるものと確信しています。今回の受賞者は去年までの流れとはまた違った作品を出してきましたが、小学校低学年の応募は少なかった。この層の子どもたちには、完成度よりも新鮮なアイデアを期待したい。みなさんが将来、サイエンス、テクノロジー、創造性を持っていただければ、日本の未来は明るいと思いますので、期待しています」と語った。
プログラミングイベントや識者によるパネルディスカッションも併催
この日は併催イベントとして「ヤングプログラマーズ・デイ」および「U-22プログラミング・コンテスト」のプレゼンテーションおよび表彰式も実施しており、このうちヤングプログラマーズ・デイについては、全国小中学生プログラミング大会入選作品のデモ展示と同じ会場で開催。様々なプラットフォームでのプログラミングを体験できるワークショップやVRなど、体験型の催しも多かった。
また、全国小中学生プログラミング大会とU-22プログラミング・コンテストの関連イベントとして、両大会の実行委員によるパネルディスカッション「IT×教育 質問・相談室」などのイベントも実施され、事前に一般公募した「プログラマー35歳定年説の是非」、「事業部門が修めるべきプログラミングのレベル」、「今からプログラミングを学ぶならどうしたい?」などの質問に登壇者が答えていた。