こどもとIT

マイクラでプログラミングに親しみ、自作パソコンでコンピューターの仕組みを知る

――「Minecraftと2in1パソコンで体験!親子はじめてプログラミング」レポート

2020年の小学校におけるプログラミング教育必修化を受け、週末になると各地で様々なワークショップが開かれ、毎月のようにプログラミング教室が増え続けている。一方で、“プログラムの作り方”は教えるものの、それを作り・動かすプラットフォームである“パソコンの作り方”を教えられることは、ほぼないだろう。

2018年9月30日、日本マイクロソフト品川本社において、「Minecraftと2in1パソコンで体験!親子はじめてプログラミング」(主催:Digital DIY、協力:日本マイクロソフト株式会社)が開催された。子ども達の興味を引きつけ、またプログラミングの入門として定番感のある、Hour of Code(アワーオブコード)の「Minecraft アドベンチャー」を用いたプログラミング体験イベントだが、本イベントがユニークなのはプログラミングの体験とともにパソコンの組み立ても体験できるところだ。

当日は台風24号も接近するなか、9組の親子21名が参加した
1人に1台、マウスコンピューター製の2-in-1パソコン「MT-WN1201E」を用意

パソコンの組み立てが体験できるイベントは、パソコンメーカーが主催する夏休みのパソコン組み立て体験教室などがある。実際の工場を目の当たりにし、技術者から直接組み立ての手ほどきを受けられるというのは、何物にも代えがたい体験だ。しかし、参加者は地方の組み立て工場に赴く必要があり、また工場もラインを止めて技術者が対応をするなど、双方が学ぶことも多い反面、負担もまた少なくない。最近では、パソコンショップでもパソコンの組み立てとプログラミング体験を兼ねたイベントを見かけるが、こちらも売り場を圧縮してスペースを設けたり、協力企業や識者の調整など、定常的に開催するにはハードルが高い。

会場にはデスクトップパソコンとNUCがパーツに分解された状態で用意された

本イベントは、すべて秋葉原のパーツショップやインターネットで購入可能なパーツをあらかじめ用意し、ある程度組まれた(マザーボードや電源はケースに固定済みの)状態で、安全かつ手軽にパソコンの組み立てを体験してもらえるよう工夫されている。プログラミング教室もインターン生などの若い力を起用、教材もHour of Codeを使い、参加者が独学可能なように丁寧なマニュアルを用意して、スタッフはあくまでも補助をするというスタンスだ。参加者と提供者、双方の負担をできるだけなくし、フットワークを軽く、より多くの人にプログラミングとパソコン組み立てを体験してもらえるようにするため、ゆくゆくはカリキュラムをパッケージとして提供していきたいという。

インターン生を中心とした、若いDigital DIYのスタッフ
Digital DIYは、初めてモノ作りをする人をサポートする団体で、日本マイクロソフトも協力している

最初に、今回のイベントに会場を提供した、日本マイクロソフトの毛利健氏が登壇。「マイクロソフトは、すべての人がより多くのことを達成できるようにする、というミッションを掲げ、子ども達も先生も同様に活躍するための手伝いをしている。グローバルに活躍できる人になるためには、STEM教育や理数系教育を通じ、論理的思考を身につける必要がある。協働学習、デジタルクリエーション、2Dや3Dのスキルを身につけるツールをマイクロソフトは提供しており、その中でもマインクラフトは子ども達に楽しみながら学べるゲーム。マインクラフト自体をプログラミングで操ったり、化学を学んだりと、STEM教育やデジタルクリエーションのスキルセットを、マインクラフトを通じて学べるようになっている」と、マイクロソフトのプログラミング教育とマインクラフトへの取り組みについて語った。

日本マイクロソフトの毛利健氏
STEM教育、協働学習、デジタルクリエーションの各分野にマッチしたマイクロソフトのツール
教育用のMinecraft: Education Edition

Windows 10版のマインクラフトで協働作業

プログラミングに入る前に、Windows 10版のマインクラフトで遊ぶところから始まった。マインクラフトは知っていても、パソコンで遊ぶのは初めての子ども達も多かったようで、用意された操作説明書を食い入るように見ながら操作を始める。だが、そこは吸収の早い小学生、ものの数分で全員がキーボードも見ずに自由自在にワールドの中を駆け回っていた。

初めてパソコンでのマインクラフトに、説明書を見ながら操作をする子ども達

今回の体験会は年齢層別に2~4人の班に分けられている。マインクラフトの操作に慣れたら、各班が協働して取り組む課題が与えられた。あらかじめ用意されたワールドの中で、10分の制限時間内に「作業台を作る」「食べ物を6個集める」など8つの課題をクリアしてビンゴを完成させ、班対抗でその数を競うというものだ。

班で協力してビンゴを完成させる

チューターのかけ声とともに一斉に課題に取り組む子ども達。最初は脇で見守っていた保護者も、子どもと一緒になって画面に食い入るようにアイテム探しに夢中になっていった。あっという間に10分が経過し、結果は各班ともにビンゴが4つ完成して引き分けとなった。

どのグループも松明が作れなかった

おもしろいのは2人班も4人班もビンゴの数に差がなかったが、いずれも「松明を作る」という課題ができていなかったことだ。マニュアルもあり、作業台は作れていることから、作り方がわからなかったということではなさそうだ。つまり、ほとんどの課題は1人でもクリアできるが、松明は情報集めなどでみんなが協力し合わないとできないようにワールドが作ってあったのだろう。そんな結果を見て、子ども達はみな悔しそうに「もう一度やりたい!」と口々にリベンジを叫ぶ。このモチベーションを自然に引き出す力、これもマインクラフトというゲームの魅力の一つだろう。

大人も子どもも一緒になって課題をクリアするために没頭

Hour of Codeでプログラミング入門

全員まだまだマインクラフトの課題に再チャレンジしたいようだったが、ここからが本題のプログラミング体験に入る。会場にプログラミングを知っているか聞くと、レゴ(おそらくマインドストーム)でやったことがある、という子がいた程度のレベル感だ。チューターは、プログラミングとは「人がしたいことをコンピューターがわかる言葉に翻訳して、指示を与えること」とだけ説明し、今回はコードを書かずにコンピューターに指示を与えることだけに注目して、日本語でプログラミングしてみよう、と呼びかける。

プログラミングとはコンピューターに指示を与えること、その目的さえわかれば十分だ
Hour of Codeならコードを書かずに、日本語でプログラミング体験ができる

今回のプログラミング体験で利用するのは、Hour of Codeの「Minecraft アドベンチャー」。Hour of Codeは、Code.orgというアメリカの非営利団体が世界的に提唱するプログラミング教育活動で、元々はコードへの理解を深めることを目的に、1時間のコンピューターサイエンスの入門コースとして始まったムーブメントだ。ブロック式のプログラミング環境で、「前方に移動する」、「右に回転」などのブロックを組み合わせて、ゲームの世界のキャラクターをプログラムして動かすことで、プログラミングの基本的な考え方を身につけられるようになっている。

ブロックを重ねてプログラミングしていく
自分が作ったプログラムをJavaScriptのコードで確認することもできる

最初にキャラクターを選び、チュートリアルビデオを見たらプログラミング開始だ。最初のパズルは、キャラクターの前方にいる羊のところまで進む、というもの。まず、羊までの距離は何マスかを確認し、どの命令が追加すればよいかを考え、命令ブロックを追加する。プログラミングをするワークスペースには「前にすすむ」という命令ブロックが1つだけある。ここでは羊まで2マス進む必要があるため、ワークスペースにもう1つ「前にすすむ」の命令ブロックをドラッグして追加して、実行をクリックする。すると、キャラクターがプログラムの通りに2マス進み、無事羊の前まで進んでパズルは無事クリア。たったこれだけのことだが、子ども達からは「できた!」「やったー!」と歓声があがる。

ここまで来れば、あとは子ども達一人ひとりのペースで進んでいく。チューターは、「迷ったら画面の指示に従って自分も動いてみよう」というアドバイスだけ与え、わからなくなった時に一緒に考える、という形で進んでいった。

課題をクリアして、思わず拍手が湧き上がる
終わった子が隣の子にアドバイスする「学び合い」も自然に行われていた
実際に自分の向きを変えたり、歩いたりして、プログラムが正しいかを確かめる姿も

パズルが進むと子どもだけでは理解しきれない課題も出てくるが、親子で一緒に考えて乗り越える姿があちこちで見られた。早い子はミッション13まで進んだあたりで、いったん休憩となる。ここまで約40分、なるほど約1時間でクリアできる、ちょうどいい難易度であることがうかがえる。

自作パソコン体験でコンピューターの仕組みに触れる

ここまではマインクラフトというソフトウェアを体験したわけだが、それを動かすハードウェアを知る、ということで自作パソコン体験タイムとなる。普段なかなか見る機会のないパソコンの中身に、子ども達のみならず保護者も興味深そうにのぞき込む。主要パーツを外した状態のデスクトップパソコンを見せながら、パソコンがどうやってできあがっているかを、実際に見せながら、組み立て体験が始まった。

ノートパソコンと見比べて「なんでこんなに小さくなるの?」という素朴な疑問に「簡単に言うとね……がんばったんだよ!」とスタッフが答える場面も

CPUは頭脳で、これがあることでパソコンが動く。マインクラフトを動かすときも、CPUが考えて動かす。ただ、CPUが動くためには、作業するスペースがないといけない。その作業机の役目をするのがメモリーだ。CPUが考え、メモリーで作業したものを保管する場所がいる。それが保存装置で、SSDやハードディスクがそれにあたる。これらがあることではじめてパソコンになる。で、一生懸命頑張って勉強すると知恵熱が出るように、パソコンも一生懸命動くと熱が出て100℃を越えてしまう。そこで、冷やすためにファンを取り付ける。もっと快適に動かしたいときは、もっといいファンを付ける。そのようなことを、一つひとつパーツを手に取りながらスタッフが説明していく。

最初にCPUだけはスタッフが取り付けて、そこからは子ども達が1人ずつパーツを順番に取り付けていく。ちなみに、実際は静電手袋をしないと静電気でパーツが壊れてしまう場合があるが、今日は壊してもいいから(?)ということで、子ども達は素手でパーツを組んでいった。これもまた貴重な体験かもしれない。

初めて見るパソコンのパーツに、子ども達から怒濤の質問攻めに遭うスタッフ
スタッフがCPUを装着するところを、興味津々にのぞき込む子ども達
CPUファンを載せる
メモリーを装着、左右逆に差し込もうとするお約束のハプニングも
SSDを装着、これも裏表逆に差し込もうとしてしまった
グラフィックボードもマインクラフトを快適に動かすにはぜひとも欲しいパーツだ

この日は、もう一つのデスクトップパソコンとしてNUC(Next Unit of Computing)の組み立ても体験できた。NUCの場合、CPUはすでに取り付けられているので、メモリーとSSDを取り付けるだけだ。子どもの手のひらに載るような大きさでありながら、3Dゲームが快適に動作するデスクトップパソコン並みの性能を持っており、自作パソコンの入門機としてもおすすめだという。

NUCはメモリーとSSDを取り付けるだけで完成

一通り終わった後も、子ども達からは「もっとマイクラしたい!」の声が絶えず、会場の時間が許す限り続きをやることになったほど、マインクラフトとプログラミングに夢中になっていた。マインクラフトに始まり、Hour of Codeでプログラミングを学び、普段なかなか見られないパソコンの中身を見て組み立てる、という体験に、子ども達からも口々に楽しかったという声が聞かれた。

イベントの最後に、MCを務めたDigital DIYの粕谷恵里佳氏は「イベントを通じて、プログラミングや自作パソコンなど、自分で作るって楽しいということを、感じてもらえたら嬉しい。そういった情報をこれからもDIGITAL DIYで発信していく」と語り、イベントを締めくくった。

最後は全員にHour of Codeの修了証が授与された

佐々木勇治