こどもとIT

プログラミングだけでなく、分解ワークショップやボルダリング体験など新企画も人気

――Maker Faire Tokyo 2018レポート

2018年8月4日~5日、東京ビッグサイトで「Maker Faire Tokyo 2018」(以下、MFT2018)が開催された。Maker Faireは、世界各地で開催されているものづくりを趣味とする個人やサークル「Maker」たちのお祭りで、東京での開催はその前身であった「Make: Tokyo Meeting」から数えると10回を超える。ここでは、MFT2018で見つけた展示やワークショップの中から、特に子供へのプログラミング教育に関連の深いものや、主に子どもを対象にしたワークショップを中心に紹介する。

昨年のMFT2017は新設された東7ホールと東8ホールで開催されたが、MFT2018は西1ホールと西2ホールで開催されたことでスペースは去年よりもさらに広くなり、ゆっくり見ることができた
入口にはMaker Faireのマスコット「Makey」の巨大バルーンが設置されていた。背景は富士山だ

アフレルがマインドストーム20周年を記念して大規模なブースを展開

アフレルのブースでは、レゴマインドストーム20周年を記念して、歴代のマインドストーム関連製品やレゴマインドストームを使う国際的なロボット大会「WRO」(World Robot Olympiad)に関する展示を行っていた。レゴマインドストームを活用した作品も多数展示されており、ルービックキューブを自動的に完成させる装置やボーリングロボットなど、高度な作品に注目が集まっていた。また、白色のレゴを使って自由にものを作れるコーナーもあり、子ども達が楽しそうにブロックで遊んでいた。

アフレルのブースでは、マインドストーム20周年を記念した展示が行われていた
1989年に発売された「LEGO CONTROL LAB Building Set」。右の青いのは、1998年に発売された「ロボティクスディスカバリーセット スカウト」のインテリジェントブロック
歴代のマインドストーム関連製品が展示されていた
左が初代の「レゴマインドストームRCX」、中央が2代目の「レゴマインドストーNXT」、右が3代目の「レゴマインドストームEV3」
レゴマインドストームEV3で作られたルービックキューブを完成させる装置
WROのデモやマインドストームの作品の展示も行われていた
白色のレゴで自由にものを作れるコーナーもあった

IchigoJamの新OS「IchigonQuest」や子ども達が作ったゲームのデモを行っていたPCN

PCNは、独自のこどもパソコン「IchigoJam」用の新OS「IchigonQuest」のデモを行っていた。IchigonQuestは、名前からも想像できるようにドラクエ風のUIで、矢印キーとEnterキー、ESCキーだけの簡単操作でプログラミングできることが特徴だ。IchigoJam本体や拡張基板、ソフトなども販売されていたほか、各地のPCNに通う子ども達がIchigoJamで作ったゲームのデモも行われていた。

PCNブースでは、こどもパソコン「IchigoJam」用の新OS「IchigonQuest」のデモを行っていた
IchigoJam本体や拡張基板、ソフトなども売られていた
IchigoJamの作例。LEDやサーボモーターの制御も可能
PCNに通う子ども達がIchigoJamで作ったゲームがいくつか展示されていた

また、PCNやスイッチ・エデュケーション、TENTO、インプレス、OtOMO、DFRobotなど多くの企業の協力による、「子どもプログラミング喫茶」も人気を集めていた。子どもプログラミング喫茶では、さまざまな子ども向けのプログラミング体験メニューが用意されており、喫茶店のようにメニューを見ながらやりたいプログラミングを注文できるようになっており、子ども達は、Scratchやマインクラフト、mBotなど、さまざまなプログラミング体験に取り組んでいた。

OtOMOやit is IT、E Coder's、PCN、スイッチ・エデュケーション、TENTO、翔泳社、インプレス、DFRobot、Makeblockなどが協力して運営されていた「子どもプログラミング喫茶」
子どもプログラミング喫茶では、子ども向けのプログラミング体験メニューを喫茶店のように注文できる
子どもプログラミング喫茶では、mBotを使ったプログラミング体験もやっていた

未踏ジュニアのプロジェクトやこどもエンジニアコンテストの結果が展示

未踏ジュニアのブースでは、2017年度の未踏ジュニアに選ばれた、矢野礼伊さんと中筋絢香さんのプロジェクトが展示されており、本人達が説明を行っていた。未踏ジュニアとは、独創的なアイデア、卓越した技術を持つ17歳以下の小中高生及び高専生を対象とした、人材発掘・育成を目的としたプログラムであり、2017年度は、11プロジェクト17人が採択された。矢野礼伊さんの「見守りフォトスタンド」は、カメラや各種センサーを搭載しており、老人宅などに設置することで、サーバーを介して随時様子を知ることができるというものだ。液晶はフォトスタンドとしても利用できるようになっていることが特徴だ。中筋絢香さんの「暗記クッキー」は、スマホアプリの漢字クイズで覚えた漢字をクッキーにレーザーカッターで焼き、暗記のモチベーションを高めるというシステムだ。

未踏ジュニアのブース。「見守りフォトスタンド」と「暗記クッキー」が展示されていた
矢野礼伊さんの「見守りフォトスタンド」。老人宅などに設置することで、サーバーを介して随時様子を知ることができる。カメラだけでなく、焦電センサーや超音波測距センサーなども搭載している
見守りフォトスタンドの内部。Raspberry Piを採用している
中筋絢香さんの「暗記クッキー」の実装について
スマホアプリのテストで覚えた漢字を画像に変換し、レーザーカッターでクッキーにその文字を焼き付ける

また、ヴィリングとオライリー・ジャパンが主催した「こどもエンジニアもんだいかいけつアイデアコンテスト」の優秀作品の展示も行われていた。このコンテストは、家族など身近な人や学校、地域から、世界の問題への関心を高め、自分たちでも解決できるという視点と自信を子どもたちに身につけてもらうことを目的として行われたものだ。小学生の柔軟な発想は、とても素晴らしかった。

「こどもエンジニアもんだいかいけつアイデアコンテスト」の優秀作品が壁に貼られていた
小学1年生の神山さんのアイデア「げんきになるつえ」。すぐに会えないおばあちゃんの健康を教えてくれるだけでなく、3Dペンでいろんなものを作ると楽しくなって人が集まり、寂しくなくなるというものだ
小学5年生の塩田さんのアイデア「教えて!イリシウム」。知りたいコースを見せてくれて、道案内をしてくれるというものだ

micro:bitを使ったロボットサッカーワークショップが人気

「Make: Classroom」では、さまざまなワークショップやセミナーが行われていたが、中でも人気を集めていたのだが、スイッチ・エデュケーションによるワークショップ「micro:bitでロボットサッカーをしよう」である。micro:bitは、最近注目が集まっている教育向けのマイコンボードだが、Bluetoothに対応しており、micro:bitを2台使うことで、1台をリモコン、1台を受信機として利用できる。このワークショップは、micro:bitベースのロボットカーを組み立て、プログラムを転送し、外装を作って、2台1組でチームを作り、サッカーの試合を行うというものだ。ボールをうまくキープしてドリブルできるように、外装を作ることがポイントだ。参加者は12名であり、6チームに分かれて試合を行ったが、試合はなかなか白熱した勝負になり、盛り上がった。優勝チームやデザインが優れていたチームには賞品が贈られた。

Make: Classroomで開催されたスイッチ・エデュケーションによるワークショップ「micro:bitでロボットサッカーをしよう」の様子
まず、micro:bitをパソコンに繋いでプログラムを転送し、LEDを好きなパターンで点灯させる
次にmicro:bitをロボットカーのフレームに取り付ける
ロボットカーを制御するためのプログラムをパソコンからmicro:bitに転送する
もう1台のmicro:bitをリモコンとして使い、ロボットカーを操縦する
ロボットカーができたら、用意された紙や針金、紙コップなどを使って、ロボットカーの外装を作る。サイズは20cm×20cm以内に制限されているが、ここが工夫のしどころだ
ロボットサッカーの試合ルール。2vs2で試合を行う。1試合は3分間である
サッカーの試合中の様子。ボールが黒い線を越えれば得点である
ゴールギリギリのところで、4台のロボットカーが激しい押し合いに
前方に装着したブルドーザーのような部分でうまくボールをドリブルしている
ロボットサッカーワークショップ参加者の集合写真。子どもだけでなく大人チームの参加もあった
ロボットサッカーの試合の様子。試合を重ねるごとに、操縦も上手くなっていった

恒例のNerdy Derbyに加え、分解ワークショップやナイフワークショップも

ホール外のアトリウム特設会場では、毎年恒例のミニチュアカーレース大会「Nerdy Derby」が行われており、子ども達が列をなしていた。Nerdy Derbyは、ワッシャーをタイヤに使ったミニチュアカーを自分達で作り、車体に思い思いの装飾を施して、さまざまなコースで走らせるというものだ。今回は、遅くゴールしたほうが勝ち(途中で止まったらダメ)というルールの大会も行われ、子ども達が歓声を上げていた。

毎年恒例の「Nerdy Derby」は、今年も子ども達に大人気だった
Nerdy Derbyの基本パーツ。これらのパーツで車体を組み立てる
車体を組み立てているところ
車体を飾るパーツも自由に使うことができる
1日に何回か競技レースも行われていた

今年初めて行われたのが、家電製品を分解するワークショップとアウトドアナイフの使い方を学ぶワークショップだ。分解ワークショップは親子連れに人気で、自分達で選んだプリンターやラジカセなどを、用意された工具でどんどん分解していた。分解されたパーツは、スピーカーや基板など、種類毎に分類され、自由に持ち帰れるようになっていた。ブッシュクラフトスペシャリスト川口拓氏による、ナイフワークショップは、伐採した木の枝を二つに切り、表面の皮を剥いで先端をとがらせ、ペグを作るというもので、こちらは子どもから大人までさまざまな年齢の方が参加していた。講師の川口氏は、本格的なナイフを用いるので、正しいナイフの使い方を丁寧に指導していた。

今年初めて開催された「分解ワークショップ」も大人気であった
分解ワークショップでは、ラジカセやビデオデッキなど、ジャンク家電製品を一つ選んで、自由に分解していける
プリンターを分解しているところ。できるだけ割ったりせずに、分解していくことが推奨されている
分解したパーツは、種類毎に整理され、自由に持って帰れるようになっていた
ブッシュクラフトスペシャリスト川口拓氏による、ナイフワークショップ。左の木の枝から、ナイフを使って右にあるペグを作る
ナイフワークショップには、子どもから大人まで幅広い年齢層の方が参加していた
川口拓氏によるナイフの使い方の実演
1時間のワークショップで完成したペグ

また、ボルダリング体験も今年初めて行われた。こちらも子どもに人気で、参加者にはMaker Faireオリジナル絆創膏が配られていた。今回は、ナイフワークショップやボルダリングなど、より身体をアクティブに使うワークショップが増えた印象だ。

その他、例年通り、ハンダ付け体験やストロークラフトなども行われており、子ども達が喜んでものづくりに挑戦していた。

アトリウムの特設会場では、ボルダリング体験も行われていた
ボルダリングのコースは色で分けられており、4種類用意されていた
毎年恒例の「Strawbees ストローで遊ぼう!作ろう!」。ストローとコネクタを使って、プロペラ付きの帽子や自動で開く傘、マジックハンドなどを作ることができる
マクニカがアトリウムの特設会場で行っていた「Learn to Solder ~ハンダづけ体験コーナー~」。Maker Faireのマスコットキャラクター 「Makeyくん」のLEDバッジを作る

micro:bitコンテストの優秀作品の展示やmicro:bitを使った教材など

micro:bit関連では、スイッチサイエンスが主催していた「micro:bitでつくってみよう!コンテスト」の優秀作品が展示されていた。グランプリを獲得した「マイクロビット・メイズ」は、迷路を傾けてビー玉を脱出させるゲームで、ロボットサッカーと同じように2台のmicro:bitを活用していた。micro:bitに搭載されている加速度センサーを利用して、コントローラーの傾きを検知し、コントローラーを傾けた方向に迷路が傾くというものだ。優秀賞の「Kaze-Con 綿毛の旅立ち」は、Scratchとmicro:bitを連携させており、風車型コントローラーのKaze-Conに息を吹きかけると、パソコンの画面の綿毛が飛ぶというものである。他にも、「自動組紐製造機」など、素晴らしい作品が多数展示されており、実際に触って遊ぶこともできた。

スイッチサイエンスのブースでは、「micro:bitでつくってみよう!コンテスト」の優秀作品が展示されていた。これは、グランプリを獲得した「マイクロビット・メイズ」(泉保宗也氏作)
micro:bitが搭載されたコントローラーを傾けると、メイズもその方向に傾くので、うまくビー玉を操ってゴールまで運べばよい
こちらは、優秀賞の「Kaze-Con 綿毛の旅立ち」(こうき&ひろ氏作)。Scratchとmicro:bitを連携させており、風車型コントローラーのKaze-Conに息を吹きかけると、パソコンの画面の綿毛が飛ぶ
こちらは、特別賞の「自動組紐製造機」(MakeLuna氏作)。micro:bitで、モーターを制御し、組紐を自動的に製造する

また、磁力で壁に貼り付いて動く「うおーるぼっと」シリーズを開発している“じぇーけーそふとのこーなー”のブースでは、新型の「うおーるぼっとG」のデモが行われていた。うおーるぼっとは、micro:bitを搭載できることが特徴であり、もう1台のmicro:bitからの操縦やプログラミングでの動作が可能だ。Seeedのブースでは、micro:bitに対応した「Car Shield for micro:bit」や日本未発売のSTEM教材「Grove Zeroスターターキット」などが展示されていた。

“じぇーけーそふとのこーなー”のブースでは、新型の「うおーるぼっとG」のデモが行われていた。うおーるぼっとは、磁力でホワイトボードなどの壁に貼り付いて動くロボットで、新型のGは、micro:bitを搭載できることが特徴だ
Seeedのブースに展示されていたGrove Zeroスターターキット
こちらは、micro:bit対応のCar Shield for micro:bit

ハリー・ポッターの世界観のほうき型モビリティや自動クレープ生地焼きロボットなど

その他、筆者が興味を持った展示をいくつか紹介する。MONO Creator's Labの「ext-broom」は、ハリー・ポッターに出てくる架空の競技「クィディッチ」を実現するために作られたほうき型モビリティであり、インラインスケートを履いて、腰掛けることで自由に移動が可能だ。MFT2018の会場では動かしていなかったが、ドローンを使って空を飛び回る「スニッチ」も実現した。

MONO Creator's Labの「ext-broom」。ハリー・ポッターのクィディッチを実現するほうき型モビリティである
ext-broomに乗って動き回っているところ。足にはインラインスケートまたは専用の補助輪を装着する

モリロボのブースでは、自動クレープ生地焼きロボット「クレプ」のデモを行っており、多くの来場者を集めていた。今年は3色の生地を使ってクレープを焼いており、焼けたクレープは希望者に振る舞われていた。

モリロボのブースでデモが行われていた自動クレープ生地焼きロボット「クレプ」。今年は3色の生地を使っていた
焼けたクレープを取り外すのも自動で行われる
完成したクレープ。生クリームをトッピングして希望者に切り分けていた

Scratch界の大御所である阿部和広氏が個人で出展しているブースでは、ニンテンドーラボのToy-ConガレージとScratchをいぬボード経由で連携させるデモを行っていた。Toy-Conの釣り竿を動かして、Scratchの画面の中の魚を釣り上げるというデモだが、アイデア次第でいろんなことができそうだ。

阿部和広氏は、いぬボードを使ってニンテンドーラボのToy-ConガレージとScratchを連携させるデモを行っていた

e-worksが展示していた「ぴらめきパズル」は、六角形のピースの中にLEDや電池が入っており、正しく組み合わせることで回路が繋がり、LEDが点灯するというものだ。ルールはシンプルだが、使うピースの数によって難易度が変わるので、子どもから大人まで楽しめる。

e-worksが展示していた「ぴらめきパズル」。六角形のピースの中にLEDや電池が入っており、正しく組み合わせると回路が繋がりLEDが点灯する
パズルを正しく組み合わせたところ。使うピースの数によって、パズルの難易度を何種類から選べる

石井英男

PC/IT系フリーライター。ノートPCやモバイル機器などのハードウェア系記事が得意。最近は3DプリンターやVR/AR、ドローンなどに関心を持ち、取材・執筆を行っている。小中学生の子どもを持つ父親として、子どもへのプログラミング教育やSTEM教育にも興味があり、CoderDojo守谷のメンターとして子どもたちにプログラミングを教えている。