こどもとIT
U18部門金賞にレベルファイブ日野氏も「プロに近い作品」と絶賛
――日本ゲーム大賞2018「U18部門」決勝大会レポート
2018年9月25日 08:00
2018年9月23日、東京ゲームショウ2018のイベントステージにて、日本ゲーム大賞2018「U18部門」(以下、U18部門)の決勝大会が開催された。
日本ゲーム大賞は一般社団法人コンピュータエンターテインメント協会(以下、CESA)が1996年から主催する、その年に最も優れたコンシューマーゲームに与えられる賞だ。今年度から次世代を担うゲームクリエイターの発掘を目的として、18歳以下の小中学生と高校生などを対象としたU18部門が新たに設けられた。本稿ではその決勝大会の様子をレポートする。
初開催にもかかわらず、全国から100件を超える応募作品が集まり、1次審査で12作品を選抜、プレゼンテーション審査と試遊プレイによる実機審査が行われ、6作品が決勝大会に進出した。
実機審査とプレゼンテーション審査で総合力を競う決勝大会
決勝大会は、ゲームそのものの作品性・独創性・構成力・技術点を問う実機審査に加え、プレゼンテーションの構成や資料の完成度、プレゼンスキルなど、総合力が問われる審査基準になっている。以下、決勝大会でのプレゼンテーション順に6作品を紹介しよう。
池上颯人さん作「なんで僕だけこんな目に」
「なんで僕だけこんな目に」は、4コマ漫画に着想を得たという坂から転げ落ちてくる様々な障害物を壊して得点を競うWindows用アクションゲーム。新聞の4コマ漫画とゲームを組み合わせたら面白いと思いつき、4コマの要素である「笑い」「手軽」「爽快」をコンセプトに制作を進めた。笑えるあらすじを用意し、手軽にできる操作性にこだわり、無敵モードや迫力のあるデザインで爽快感を演出したという。
渡邉大誠さん作「モチ上ガール(もちあがーる)」
「モチ上ガール」は、伸びる“餅”を鉤縄のように駆使して寿司を集めながらステージを進めるWindows用アクションゲーム。操作を単純化するため、あらゆる操作をスティックとボタン1つでできるようにしたという。鉤縄ではなく“餅”を使った理由は、視認性が上がり、餅ならではの特性を生かしたアクション(焼くと風船になる、凍ると固まる、モノを引っ付けて運ぶなど)ができ、引っ付くことが理解しやすい、などを挙げた。
原先亮介さん/薄井大輔さん/大本義貴さん/坂口智哉さん作「RunGirl」
「RunGirl」は、女子大生がチューブ状の不思議な海岸を走り抜けるAndroid用アクションゲーム。シンプルさを生かしつつオシャレにするため先生に助言を求めたところ「オシャレなのは原宿の女子大生」と言われ、夏の女子大生といえば海、そこから海岸を走る女子大生のゲームになったという。端末を傾け操作するという、小さな子でも遊べる操作性にし、画面をタッチすると上下が反転して衝撃波で障害物を壊すことができる。
古堅武琉さん作「THE REALITY」
「THE REALITY」は、人類が衰退した未来を舞台にワープとブーストを駆使して敵と戦うWindows用アクションゲーム。ワーブシステムとブーストシステムのあるゲームを作りたいというコンセプトが最初にあり、そこにストーリーやアートワークを加えていったという。古堅さんは「今はとても素晴らしい時代だと思う。初めてのゲーム制作でわからないことがあっても、ある程度知識がつくとすぐに実装できる」と語り、プレゼンを締めくくった。
浅野啓さん/田村来希さん作「PERVERSE(パーヴァース)」
「PERVERSE」は、逆方向に動く2つのキューブを同時にゴールさせるAndroid用パズルゲーム。2つのことを同時に考えさせるゲームを作ろう、というところから始まった。マップは深さ優先探索アルゴリズムを使って自動生成され、サーバーに対戦記録を保存し同じマップにあたらないようにするほか、ランキングを作り競技性を高めている。また、SNSで共有するマップコード機能を独自に用意するなど、技術的な工夫が随所にみられる。
審査結果発表、金賞作品に「プレゼンはもう少し頑張って(笑)」のコメントも
銅賞「THE REALITY」
銅賞には古堅武琉さん(高3)の「THE REALITY」が選ばれた。審査員の目黒氏は「独特な世界観を一人で作り上げたという作家性がすごい。プレゼンもアクシデントがありながら、どこかのIT社長を彷彿とさせるくらい(笑)堂々としており、将来大物になるなと感じた。作品をもっとブラッシュアップして、世界観を作り上げたものを触って見たいと思った。引き続き開発してほしい」と評価した。
銀賞「なんで僕だけこんな目に」
銀賞には池上颯人さん(小4)「なんで僕だけこんな目に」が選ばれた。審査員の石戸氏からは「プレゼンでおもしろいゲームって何かをしっかり分析して、確実に形にして、わかりやすく皆を楽しませる形に磨いていく、全ての力において優れていたと思う。実機審査では小学生と知らずに審査していたが、よくできたゲームで楽しませてもらった、小学生だからという理由ではなく、総合力で判断した。この経験を元にさらに活躍してほしい」と最年少の入賞者にエールを送った。
金賞「モチ上ガール」
金賞は渡邉大誠さん(高3)作「モチ上ガール」に贈られた。審査員の日野氏は「どの作品もすばらしかったが、モチ上ガールの作品クオリティが圧倒的によかった。あえて言わせてもらうと、プレゼンはもう少し頑張ってもらいたい(笑)、今後に期待する。“くっついて離れる系”のゲームは他にもあるが、この作品に関しては1ボタンでダッシュ・ジャンプ・くっつくなどいろいろな操作ができたり、振り子のように重力を使ったり、他の作品にないアイディアがたくさん盛り込まれており、プロの作品に近いと感じた。非常に内容がよかった。モノ作りは工夫あってこそだと思う、この作品の中に入っている工夫はすばらしかった」と語り、プレゼンに苦言を呈したものの、それを補ってあまりある作品のクオリティを賞賛した。
結果発表の最後に、審査員各氏が総評を述べた。
目黒氏は「作品を作ってプレゼンも評価されるという、大人でも厳しい評価基準だなと思ったが、高校生・小学生と思えない堂々とした発表にびっくりするとともに、新しいクリエイターが後々出てくると思うと、すごく期待が膨らむ。金賞のモチ上ガールは完成度が段違いで、全てのステージを一気にクリアするほど遊んだ。ブラッシュアップすれば、コンシューマーのダウンロードタイトルとしてリリースできるクオリティと思ったほどの衝撃を受けた。自分の小学生の子どもにもプログラミングをさせたいと思った」と、若いクリエイター達の実力に驚きを隠さない様子で語った。
石戸氏は「保護者の方も、ここまで来る過程の中でたくさんの苦労や挑戦があったと思う。全ての作品がとてもレベルが高くて驚いた。構想力、デザイン力、技術力、実装力、プレゼン力、全てが揃っていないと勝てない、総合力を問われるコンテストはなかなかないんじゃないかと思う。ここにいる皆さんが将来を担い、新しいエンターテイメントや新しい文化を創っていって欲しいと期待している」と、若いクリエイター達の未来への期待と、それを支える家族の支援にも労いの言葉を贈った。
日野氏は「自分も小学校のときにプログラムを始めて、当時エニックスのコンテストに応募しようと頑張って作っていた記憶がある。皆さんの姿を見て、昔の自分を思い出し、今の人はレベルがすごく上がったことを実感。皆さんの将来はまだまだ長い、今の時点で賞を受けられるレベルがあるということは、今後のゲーム業界を支えてくれる人達に何かしらなったと思っている。どれも賞をもらってもおかしくないクオリティだったが、金賞を受賞した作品はプロが考えるべきことをしっかり考えて作られているレベルにあったので、最初の審査の時から最高得点だった。非常にクオリティが高くて、今後とも頑張ってもらいたいと思った。皆さんはまだまだスタートラインだが、ゲーム業界でさらに面白い作品を作ってもらいたい」と、未来のゲームクリエイターの活躍に期待を込めて語った。
閉会にあたり、CESA人材育成部会 部会長 松原健二氏が登壇、「残念ながら賞を逃した作品も、受賞にふさわしいくらいすばらしいものだった。多くのタイトルから予選、決勝に残ったことを誇りに思ってほしい。U18部門は、日本の文化であり大事なビジネスであるゲームをもっと世界に広めるために活躍する人材が必要だということで始めた。エントリーとしては100件を超える数の応募があり感激している。高校生が多いものの小学生まで、9歳からも応募があった。全国25都道府県から応募があり、今後も広げていきたい。第2回も来年の東京ゲームショーでまた決勝大会を行いたいと考えている。11月に公式サイトおよび公式アカウントで発表を予定している。大勢の若い方々の応募を待っている。」と第1回のU18部門を締めくくった。