こどもとIT
マインクラフトはゲームではなく、学びのプラットフォーム!
教育者らが教育版マインクラフトの実践を公開──「マラカン2018」レポート
2018年9月20日 08:00
2016年11月にリリースされた教育版マインクラフト「Minecraft:Education Edition(以下マインクラフトEE)」の活用が、日本の教育現場でも広がっている。中心となって取り組んでいるのは、「MIEE(Microsoft Innovative Educator Experts、以下MIEE)」と呼ばれるマイクロソフト認定教育イノベーターたちだ。
2018月8月4日、日本マイクロソフト品川本社に全国のMIEEが集結し、100%体験型 教員による教員のためのマインクラフト学習活用カンファレンス「マラカン2018」(主催:マイクロソフト認定教育イノベーター、協力:日本マイクロソフト株式会社)を開催した。マラカンとは、“マインクラフトでラーニングするカンファレンス”の略で、MIEEが教育版マインクラフトを活用した実践内容を報告したり、マインクラフトを使った学習を参加者が体験できるワークショップが用意された。
日本の教育分野においては未だに、“マインクラフト=ゲーム”というイメージが先行しがちであるが、近年はその認識も変わりつつあるようだ。日本の学校現場ではどのような実践が繰り広げられているのか。カンファレンスの内容から探っていこう。
学校・街づくり、歴史建造物など共同建築の実践が多数
マラカンでは、MIEEの教育者たちによるマインクラフトEEを活用したワークショップが27講座も用意された。内容も実に多彩で、マルチプレイによる共同建築、プログラミング、レッドストーン回路、音符ブロックを使った作曲、「Chemistry Resource Pack」を活用した化学の学習、ストーリー制作など、マインクラフトのあらゆる教育事例が体験できる充実ぶりだ。筆者は2014年あたりから、「教育×マインクラフト」をテーマに取材しているが、いつの間にこれほどマインクラフトに理解のある教育者が増えたのかと驚いた。
マラカンの内容から全体的な傾向として言えることは、マインクラフトの共同建築を教育に活かしている教育者が多いということだ。具体的には、「自分たちの学校を作る」「未来の街を作る」「歴史建造物を作る」といった具合で、1つのワールドに皆でアクセスし、仲間で協力しながら建造物を作りあげる取り組みが多い。もちろん、学習のねらいや授業デザインなどは教育者によって異なるが、共同建築は、“自由なものづくり”というマインクラフトが持つオリジナルの魅力を損なうことなく、子供同士の新たなコミュニケーションやコラボレーションを生み出せることがメリットだ。そこに教育との親和性を感じる教育者が多いようだ。
マインクラフトを活用した未来の街づくり
佐賀県多久市立中央小学校の福島学教諭と、北海道星置養護学校ほしみ高等学園の小林義安教諭は共同で取り組んだ「『島義勇』に挑戦!未来の街づくりプロジェクトin北海道」の取り組みを発表した。同プロジェクトは、佐賀藩士「島義勇」が北海道に渡って札幌の街の都市開発に携わったことから、北海道と佐賀県の子供たちが交流して島義勇や都市計画の歴史を学ぶというもの。佐賀県の交流事業として実施され、公募で選ばれた子供たちが参加した。子供たちは偉人がどのように街を開発したのか調べ学習で学んだ後、佐賀の子供たちが北海道を訪れて、現地の子供たちと交流しながらマインクラフトEEを用いた未来の街づくりに挑戦した。
マラカンのワークショップでは参加者らが、子供たちがマインクラフトEEで作った未来の街にアクセスし、中を探索することができた。学校や病院、市役所、美術館、ホテルなど、街を形成する建物がきれいな街並みをつくり、子供たちが夢中になって制作した様子が伝わってきた。最終的なアウトプットがマインクラフトEEで未来の街をつくるという活動であれば、そこに至るまでの歴史学習も楽しいに違いない。知識を覚える歴史学習と異なり、子供たちは意欲的に歴史を学ぶことができたはずだ。
茨城県立竜ヶ崎第二高等学校の髙山雅子教諭は、SDGs(持続可能な開発目標)をテーマにした街づくりのワークショップを行った。参加者たちは地域の未来を考えるポイントとしてSDGsを学び、どのような街が理想的なのかマインクラフトで表現した。同教諭は「マインクラフトEEは、未来の街づくりなど課題解決型学習をしやすい。子供たちの試行錯誤が活発になるとともに、アイデアも形にしやすいのがメリットだ」と語る。
学校の校舎を再現する共同建築
東京都立三鷹中等教育学校の能代茂雄教諭は、パソコンクラブの部活動でマインクラフトEEを活用した。同クラブでは、マインクラフトEEでプログラミングができる「MakeCode for Minecraft」を用いて校舎を再現し、ワークショップでは再現した校舎を使って参加者全員でケイドロを楽しんだ。生徒のひとりは、「校舎を作ったときは縮尺が合わずにとても苦労した」と制作時を振り返った。
ちなみに、同生徒のような発言は、マインクラフトの共同建築でよく聞く話だ。子供たちは最初、勢いで建築物を作り始めるが、やがてチーム全員が同じゴールを描いていないことや、頭に描いたイメージを実装する難しさにぶつかってしまう。その時に初めて設計図の大切さや仲間とイメージを共有する必要性を実感するというのだ。建築物の完成形だけを見てしまうと、子供たちはゲームが得意だからできると思ってしまいがちであるが、そうではない。試行錯誤の賜物なのだ。
現役中学生もマインクラフトEEを活用したプログラミングのワークショップを開催
マインクラフトEEの教育活用としては、プログラミングも実践も増えている。マラカンでもプログラミングツールの「MakeCode for Minecraft」を用いたプログラミングのワークショップが多く開催された。
徳島県三好市でCoderDojo Miyoshiを運営する代表の下川宏武氏は、現役の中学3年生。同氏は、自身がマラカンのために作成したワールドを使ってプログラミングを学べるワークショップを開催した。会場には、プログラミングもさることながら、中学生が作成したワールドがどのようなものかに関心を示す参加者らも詰めかけた。
下川氏は、ダンゴムシがジグザグに動く性質を利用して、マインクラフトEEの中の「エージェント」と呼ばれるロボットがジグザグに動いてゴールをめざす迷路や、エージェントが耕運機のように畑を耕すミッションなどを盛り込んだプログラミング体験ワールドを作った。下川氏は「ワールドを仕上げるのに1ヶ月ほどかかりました。マイクラの初心者でも楽しめることや、生活科や理科でプログラミングが使えるように考えて作りました」と工夫した点を話してくれた。
作曲活動、ストーリー制作、マインクラフトで多様な学びを実現
ここからは、少し変わったマインクラフトEEの活用事例&ワークショップを紹介しよう。教育者がマインクラフトを教科に合わせて使ったり、児童生徒の実態に合わせて用いることで、教育者目線の面白い実践が多く生まれている。
つくば市立学園の森義務教育学校の山口禎恵教諭が開催したワークショップは、「音符ブロックで協働的作曲活動」と題し、マインクラフトEEを活用して音楽を楽しむ学習活動を紹介した。マインクラフトには、レッドストーン信号が入力された際にサウンドを発する「音符ブロック」と呼ばれるブロックがあり、これを組み合わせると音楽を奏でることができる。ワークショップでは、キラキラ星の曲を作ったり、その上に和音を重ねたりしながら、マインクラフトの中で音楽を作った。音符ブロックを活用した教育実践は大変珍しいが、同教諭は「マインクラフトは音楽との親和性も高い。特別支援以外でも十分活用できる」と述べた。
埼玉県立特別支援学校さいたま桜高等学園の関口あさか教諭と、埼玉県立熊谷特別支援学校の大島啓輔教諭は、マインクラフト使って昔話「三びきのこぶた」の再現映像を作った表現活動を紹介した。この取り組みは、生徒が3人でひとつのチームとなり、それぞれが与えられた役のこぶたの場面をマインクラフトの中で再現するというもの。例えば、「レンガの家を作る」というシーンであれば、マインクラフトの中でこぶたがレンガブロックを使って家を建て、その後にセリフを録音するという具合だ。
生徒たちに苦労した点を聞いたところ、「森から狼が出るシーンがむずかしかった」「家の形と大きさを考えた」「地下通路を作って移動できるようにしたこと」など、さまざまな意見が聞かれた。関口教諭は「制作時間を十分取ることはできなかったが、みんなで一緒に作らなくても、来られる生徒だけで作業を進めることも可能。そうした取り組み方ができたのも良かった」と述べた。
愛知県江南市立西部中学校の岩田智文教諭は、2018年1月に新機能で追加された「Chemistry Resource Pack」を活用した化学のワークショップを実施した。同機能はマインクラフトの世界で、水素や酸素などのさまざまな物質ブロックを使い、化学化合物を作れるのが特徴だ。同教諭は自身が作成した化学ワールドを用いて、マインクラフトの中で、食塩と鉄、活性炭を組み合わせて作る「化学カイロ」の化学学習を行った。岩田教諭は「化学ワールドでは現実の世界ではむずかしい実験も行うことができる。マインクラフトはもはやゲームではなくて、ラーニングプラットフォームだと思う」と語った。
学校でマインクラフトを使って学ぶ意味は何か
以上のように、教育現場ではマインクラフトを活用した学習が広がりつつある。マラカンではほかにも、さまざまな事例紹介やワークショップを見ることができ、改めてマインクラフトのもつ教育的価値を認識することができた。
また多くの教育者の実践から、学校でマインクラフトを使って学ぶ意味を知ることもできた。教育者の多くは「学校や教育でやるならマルチプレイじゃないと意味がない」と話しており、マインクラフトを通じて今までの学習活動では見られないコミュニケーションやコラボレーションが生まれていることに、新たな教育的価値を見出していることが分かった。
ちなみにワークショップにはマインクラフトの学習を体験した児童生徒たちも来ていたが、彼ら彼女らからよく聞かれた発言としては、「チーム全員でゴールを共有することがむずかしい」「相手にイメージを伝えるのがむずかしい」ということだった。マインクラフトの世界では、“自由なものづくり”と“決まった答えがない”ことが最大の魅力であるが、この空間で、何をどう達成するのか、チーム内のコミュニケーションがむずかしいというのだ。とはいえ、そもそもマインクラフトにはモチベーションが高い子供たち。このチャレンジングなコミュニケーションにも挑むところが良い。
ある高校生は、「子供の頃から遊んでいたゲームをまさか学校の勉強で使うとは思っていなかった。いい意味で、自分が持っていたマインクラフトのイメージを壊された」と話しており、子供たちの中でも教育的利用の面白さが伝わっていることを感じ取れた。