こどもとIT

小学生向け「ロボット工作プログラミングワークショップ」で大人もタミヤのカムロボを組み立ててみた

3月に取材した「タミヤロボットスクール」の体験イベントは、筆者にとって実に楽しい時間だった(詳細は「全国ではじまる「タミヤロボットスクール」で、小学生と一緒にロボットプログラミングを体験してきた」を参照)。ただ、少しばかり心残りだったのは、プログラミング中心の短時間のイベントだったため、ロボットがあらかじめ組み立て済みだったことである。

ベースとして使われたタミヤの「カムプログラムロボット(以下、カムロボ)」は、通販サイトでも簡単に入手可能で、標準小売価格が3456円(税込)と比較的お手軽なこともあり、つい興味本位で購入してしまった。しかし、届いたパッケージを開けて、呻き声が漏れた。完成した物から想像していたよりはるかに部品が細かいのである。

つい買ってしまったカムロボのパッケージの中身

プラモデルなどここ数十年作っていなかった筆者、正直1人で完成させる自信が全くなかったため、とある集まりに持ち込んで工学部出身の工作大好きな人達にほとんど組み立てて貰うという情けないありさま。

こうして完成したカムロボ君は、いわば標準仕様。「カムバー」という部品を使ってコンピューターなしでプログラミングが体験できるもの。例えば右に30度ずつ曲がって1周させるといったことが可能。これはこれで楽しいのだが、体験イベントで使ったような、こども用プログラミング専用パソコン「IchigoJam(イチゴジャム)」を搭載するにはどうしたらいいのか、その当時は、残念ながら具体的な手順など詳しいことがわからなかった。

そんなとき、今回レポートするロボット工作とプログラミングのワークショップのご案内をいただいた。1日をかけて、IchigoJamの組み込みを含むカムロボの組み立てと、自律式走行を行うプログラミングまで体験できるという。カムロボ本体とIchigoJamと追加のパーツ類、さらに必要な道具類一式まで用意され、組み立てた物は持って帰れる、という完璧な内容だ。参加料は9500円(税込)、ほぼ実費という良心価格である。

こんな素敵なワークショップを定期的に開催しているのが、「KidsVenture」という団体。さくらインターネット、ビットスター株式会社、株式会社ナチュラルスタイル、株式会社jig.jp、アイティーエム株式会社の5社が運営するプログラミング教育を推進する非営利団体である。今回はKidsVentureの協力団体でもあるPCN(プログラミングクラブネットワーク)のPCN仙台との共同主催、さらに応援にPCN東京も駆けつけるという手厚い体制である。

今回、このKidsVentureのご厚意で、大人の身でありながら小学生向けのワークショップに参加させていただいた。IchigoJam搭載カムロボが欲しいという子どものような動機だが、大人なのでもちろん自腹である。

カムロボの組み立てに挑戦する小学生達

前置きが長くなった。それでは5月26日に行われたイベント当日の様子に移ろう。会場は西新宿にある、さくらインターネット東京支社。朝10:00の開始にあわせて、余裕をもって到着したつもりだったが、すでに子ども達と保護者の方々は集合済み。かなり気合いが入って、イベントの開始を待ちわびている様子であった。今回の参加者は小学4年生から6年生の6名の子ども達。保護者は、子ども達とは離れて見学するスタイルである。

そこに、自分以外にも子ども達に混ざってちょっと恥ずかしそうな男性の姿があった。聞けば、「子どもが熱を出してしまい、キャンセルしようと思ったところ、頼むからロボットを持って帰ってきて欲しいと懇願された」というお父さんであった。お疲れさまです。

まずは、KidsVenture創設者の高橋氏(取材当時は代表)による手短な挨拶から。高橋氏は、KidsVenture主催企業の1つ「さくらインターネット」の所属。ワークショップには、主催企業に所属するメンバーが参加してサポートしてくださる。

創設者の高橋氏による挨拶、ロボットや物作りへの思いが語られる

そして、いよいよPCN仙台代表の通称「親方(おやかた)」こと荒木氏によるワークショップがはじまった。今回のワークショップは、まず2時間半の予定で、カムロボの組み立てを行うスケジュール。果たして子ども達はどのくらいのスピードでできるのだろう。そして、ひょっとして自分だけ出来上がらなかったら嫌だなあと不安がよぎる。

幸いなことに、一部のパーツは事前に組み立てられている状態だった。だが、「ここは絶対やってほしい」という部分もしっかりと残してあるという。ちなみに、本当にまっさらの状態からはじめると、大人でも慣れていないと4~5時間はかかるそうなので、家庭で挑戦する方は心してかかった方がよさそうである。

カムロボ工作にあたって大切なのは道具の使い方だ。まず、荒木氏からニッパーとドライバーの使い方が伝授される。カムロボは、接着剤を使わずに細かいパーツのはめ込みとネジ止めで組み立てられるようになっている。ニッパーはこのパーツを切り取るのにかかせない道具だ。特に歯の向きを間違えると、余分な「バリ」というでっぱりが残ってしまい、組み立ての際に邪魔になったり見栄えもよくない。また、ドライバーでネジを固定する場合も「てこ」の原理で正しい持ち方をすればスムーズに使えるといった説明を実演交じりでしっかりと伝授されていた。

ニッパーとドライバーの使い方が伝授されるも、まだ緊張気味の子ども達と「親方」こと荒木氏

道具の使い方を理解した子ども達は、さっそくカムロボ作りに挑戦する。説明図に従って必要な部品をニッパーで切り分け、組み立てていく様子は実に生き生きとしている。筆者も遅れてはならじと取り組むのだが、図面に指示されているパーツがどこにあるのか探すところからまず苦戦してしまった。こんなこともあろうかと、タミヤ製ルーペを用意しておいたのだが、哀しいかな微妙に老眼がこたえる。

カムロボ工作に熱心取り組む子ども達と工作に苦戦する筆者

スタッフの皆さんのアドバイスと温かい励ましのおかげで、なんとか心折れずに最初の数ステップが完了し、いよいよ「ここは絶対やってほしい」部分に突入。なんとカムロボの重要パーツ「ギアボックス」を組み立るのだ。

ギアボックスとは、複数の歯車と軸から構成される、モーターの回転を車軸に伝達する大切な部分だ。まさか、これを自分で組み立てることになるとは思っていなかった。子ども達は、見事なまでに集中して、このギアボックスを組み立てている。

集中して複雑なギアボックスを組み立てている

今回参加した子ども達は、どうやら日頃から工作が大好きだったようで、早い子は、1時間程度でカムロボのボディがほぼ完成してしまった。筆者も、なんとかそれほど遅れずに組み立てが終わった。やれやれである。

なんとかほぼ組み立て終わった筆者のカムロボ君

カムロボにいよいよIchigoJamを搭載へ

ボディがほぼ完成したところで、ここにIchigoJamとモータードライバーという基板を搭載して接続していく。それぞれのテーブルに必要な基板が配られた。片方は完成済みのIchigoJam、そしてもう1つは「メープルシロップ」という甘そうな名前のIchigoJam専用のモータードライバーだ。この2つは上下に重ねて配線無しで合体させることができ、ここに電池とモーターの線を簡単に接続できるようにあらかじめ準備されていた。

カムロボにIchigoJamとメープルシロップを搭載して接続する

早々と完成させた子ども達は、動作確認を行うために別室に自分のカムロボを持っていく。電池を搭載し、キーボードとモニターを接続して、確認用にBASICのコマンドを入力するのだ。検証を行ってくれたのは、東京からかけつけたPCN東京代表の森谷氏。時に組み立ての不具合もあったようだが、要領よく対処されている。

完成したカムロボの動作確認を行っていく森谷氏と子ども達

筆者も少し遅れて、動作確認の列に。しかし、なぜか電源を入れたとたんにカムロボが暴走してしまった。まだ、コマンドも入力していないのに、なんで!? と若干涙目モード。

どうやら、使っていたIchigoJamにトラブルがあったらしく、別のものに交換したところ無事正常に動作確認ができた。このあたりのトラブル対応も皆さん慣れたもので、頭が下がる。

こうして、参加した子ども達全員が無事にカムロボの組み立てを予定の時間内に完了。子ども達は荒木氏と並んで記念撮影を行った。

完成したカムロボを持って記念撮影、一緒に参加した大きなお友達はさすがに遠慮した

BASICの基本からリモコン操作プログラムへ

お昼休憩を挟んで、午後からはロボットプログラミングへとワークショップは進む。

コンピューターの役割やプログラムの概論を荒木氏から学んだ子ども達は、待ちきれない様子で、各自のロボットに、モニターとキーボードを接続して、カムロボを動作させる簡単な命令を試しはじめていた。中には、すでにIchigoJamのプログラミング経験があるお子さんもいたようで、ついさっき、動作確認で打ち込んだだけなのに、すらすらと「OUT ○○(数字)」と打ち込んで確かめている。

午後からはカムロボ+IchigoJamのプログラミング

続いて、つないでいるキーボードを使ってカムロボを遠隔操作するというプログラムに挑戦する。詳細なコードは省くが、プログラムの中身としては、カーソルキーの上下左右が押されたら、それに合わせて直進、後退、左回転、右回転を行うといった内容になる。

こうして、カムロボは有線ながらリモコンロボットに生まれ変わった。プログラムを変更することで、ロボットにいろいろな機能をもたせることができ、入れ替えることもできる。子ども達は、今目の前でそれを体験しているわけだ。

リモコン操作は思った以上に楽しいらしく、「鬼ごっこしよう!」という1人の呼びかけで、カムロボ鬼ごっこ大会がはじまってしまった。さすが、子ども達の発想は柔軟である。

リモコン・カムロボ君を使って鬼ごっこがはじまった

カムロボにセンサーが追加! お掃除ロボットもどきへと進化する

子ども達は、さらに次のステップに進む。カムロボにセンサーを取り付けて、お掃除ロボットのような動きを再現しようというのだ。

今回使うセンサーは、「測距センサー」と呼ばれるもの。赤外線を使って、目の前にある物体との距離を測ることができる。お値段たったの「450円」。

このセンサーを、IchigoJamとメープルシロップに接続することで、プログラムからセンサーの情報を読み取ることができるのだ。これで、カムロボの前にある障害物との距離がわかるようになり、ぶつかりそうになったら、それを回避して進むというプログラムを作れる。今回は親方開発のシンプルながら実にそれっぽく動くBASICのプログラムが提示され、子ども達は一生懸命入力、卓上で動作確認を進めていた。

測距センサーを取り付けたカムロボで、お掃除ロボもどきプログラムの動作確認をする

確認ができた子ども達から、モニターとキーボードを外して動作させてみる。IchigoJamに用意されている、電源投入時にプログラムを実行する仕組みを使って、カムロボ君を自律式のロボットとして動かすのだ。

急遽用意された特設会場に、子ども達は自分のカムロボを持って移動。細長いトナーの箱を仕切りとして並べ、その中にカムロボを入れて動かしてみる。

カムロボは、まず直進し、仕切りに近づくと左右のどちらかに旋回し、また直進する、を繰り返す。この動きが、お掃除ロボに似ていて、見ているだけでもなかなか面白い。しかもカムロボ同士が近づくと、お互いにいい感じに避けて進む様子が、まるで協調しているかのようだ。たまに接触して片方がひっくり返り、じたばたするハプニングもあり、いつのまにか集まっていた保護者の方からも歓声があがっていた。

「迷路を作ろう」という子ども達のアイデアで、仕切りの組合せが入り組んだものになり、カムロボ君達の「わらわら感」はますますヒートアップ。

即席の迷路で自律式のカムロボ君達がわらわら

まだまだ遊び足りない様子の子ども達だったが、気がつくと夕方になってしまった。クロージングとして、1日のワークショップを通して、楽しかったことやこれからやってみたいことが発表された。全員が無事完成させ、プログラムを体験することまでできたことで、子ども達の満足感は高かったようだ。持ち帰ってからも、家庭で是非いろいろなプログラムを作ってほしいものである。

完成したカムロボ君は、ピッタリ収まるCD/DVDケースにしまわれて大切に持ち帰られていった。

CD/DVDケースにしまわれたカムロボ君、奇跡のピッタリ感

保護者にも楽しい勉強会が提供されていた

ところで、子ども達が朝から楽しい時間をすごしている間、保護者の皆さんはいったい何をしていたのだろう。

実は、別室で保護者向けにIchigoJamを使った勉強会が行われていたのだ。IchigoJamやBASICの基礎に加えて、なんとアイロンビーズで作品を作ってそこにLED をつけて光らせてみるという電子工作的なものまでやっていたらしい。

中には手先が器用なお父さんもいて、迫真のブルーインパルスまでできあがっていた。長い子ども向けのワークショップでは、しばしば居場所のない保護者の過ごし方が問題になるのだが、これはよいやり方だと思った。家に帰ってから、親子でやったことを話し合って、継続して興味を持ち続けるきっかけになるかもしれない。

和気あいあいと勉強会を楽しむ保護者の皆さん、アイロンビーズ製のブルーインパルスまで

全ての子ども達にプログラミングを!KidsVentureとPCNの取り組み

KidsVentureの取り組みについて、高橋氏にお話を伺った。今、国内では多くの団体が子ども向けのプログラミング教育の活動を行っているが、ハードウェアを含んだ物作りとプログラミング体験を重視しているのがKidsVentureとPCNの活動の特徴の1つだ。

プログラミング教育用のハードウェアは「micro:bit」を筆頭に種類も増えてきているが、KidsVentureの活動開始当初は、現在も使われている「IchigoJam」ぐらいしか現実的な選択肢がなかったとのこと。今でも電源を入れてすぐに起動するIchigoJamは、消費電力の少なさもあってIoTの基礎に親しむには持ってこいなのだとか。実際、今回のカムロボでも乾電池4本だけで動作しているのだから驚きだ。

KidsVentureは、当初さくらインターネットの国内の拠点を会場として活動することを想定していたものの、現在ではその枠を越え小学校への出張授業や、アジア・アフリカでの出張ワークショップまで開催されている。

KidsVentureが行っているのは子ども達への「きっかけ」作りだという。行われているワークショップもIchigoJamプログラミング教室の他に、IchigoJamを使った自動水やり器や、気球に載せて宇宙を目指すといった好奇心をかきたてるものが少なくない。

そして、きっかけからその後の継続的な活動は、協力団体である各地のPCNが受け皿になる。これにより、日本全国の子ども達がプログラミングに親しむ環境作りを進めているわけだ。

さらに、ワークショップを通しての子ども達との関わりは、実は運営する側にもメリットがあるという。なにしろ、相手は大人と違って、わからないときはわからない、つまらなければ飽きてしまう子どもたちである。主催企業のメンバーでもあるスタッフの皆さんにとって、コミュニケーションの取り方やプレゼン内容、ワークショップのデザインなどから得るところは大きいに違いない。

取材当日、高橋氏は運営自体もより若い世代にまかせたいともお話されており、実際この7月にKidsVentureの運営委員会も一新された様子、今後の活動が楽しみだ。引き続き注目していきたいと思う。

挑戦したい人のための「カムロボ部」もおすすめ

1日に及んだワークショップの内容をお届けしてきたが、季節は夏休みシーズン。今回のロボット工作やプログラミングに興味をもったご家庭もあるだろう。とりあえず親子でやってみたければ、まずカムロボ組み立てに挑戦がお薦めだ。市販されているカムロボ本体は、時間をかけて慎重に組み立てていけば、カムバーを使って家庭でも手軽に遊ぶことができる。友達同士のグループや親戚の集まりなどでやってみるのも愉しそうだ。

さらに、IchigoJam搭載カムロボに挑戦したい方には、標準仕様のカムロボにIchigoJamを搭載するまでの手順をKidsVentureの主催企業の一つでもあり、タミヤロボットスクールの運営事務局も担当されているナチュラルスタイル社が、「カムロボ部」というWebサイトで公開している。この改造は、タミヤの保証外になる可能性はあるものの、IchigoJamとメープルシロップ他、必要な部品の情報もまとめられているので、興味がある方は是非関連リンクから覗いてみて欲しい。

KidsVentureと日本各地のPCNは、この夏休み期間、さらには秋以降もプログラミングやIchigoJamのワークショップを予定しており、近くの会場へ足を運んでみてはいかがだろうか。

新妻正夫

ライター/ITコンサルタント、サイボウズ公認kintoneエバンジェリスト。2012年よりCoderDojoひばりヶ丘を主催。自らが運営する首都圏ベッドタウンの一軒家型コワーキングスペースを拠点として、幅広い分野で活動中。 他にコワーキング協同組合理事、ペライチ公式埼玉県代表サポーターも勤める。