こどもとIT
kintoneを使った国語の授業「新聞作りのアンケートに挑戦」──サイボウズと小山市立小山城北小学校の取り組み
2018年8月14日 12:00
サイボウズ株式会社とNPO法人「みんなのコード」は、サイボウズのクラウドサービス「kintone(以下キントーン)」を使った理科と国語の新しいカリキュラムの実証授業を実施。7月24日から、その指導案とキントーンのライセンス提供を開始した。これに先立ち、小山市立小山城北小学校で行われた「国語」の実証授業を取材させていただくことができた。一見、プログラミング教育とは関係が薄そうな国語でキントーンがどう使われたのか、2時限にわたる授業の様子を中心にお届けする。
今回お邪魔したのは、前回の立川市立上砂川小学校(詳細は「kintoneを利用した理科の「生き物の観察」授業──サイボウズと立川市立上砂川小学校の取り組み」)から場所を変え、栃木県小山市にある小山城北小学校。余談だが筆者は、小山と言えば「おっやま、あっれま、おやまゆうえんちー」という楽しげな「おやま遊園地」のCMを思い出す。残念ながら現在はアウトレットモールになっているそうである。
ちなみに、最寄り駅の小山は首都圏からも交通の便がよく、新幹線でも、湘南新宿ライナーでも行くことができる。何歳になっても学びはあるものだ。
新聞づくりがテーマの国語の授業
当日の様子に入る前に、今回の授業の全体像をまず整理しておきたい。
小学4年生では、国語の授業で「新聞を作る」という学習内容がある。新聞作りを通して、グループでその内容検討して、わかりやすく伝えわるように自分たちで文章を考え、新聞というアウトプットに実際にまとめていくという、10時限以上を使う長丁場な内容だ。筆者の小学生時代にも、模造紙で壁新聞を作ったような記憶がかすかにある。
取材当日の前段階で、児童達はすでにグループ分けをし、それぞれが担当するテーマを決めている。さらに、新聞の構成としてどのような内容が必要かというところまで準備と理解が進んでいた。
新聞の内容の1つが、テーマにもとづく「アンケートのまとめ」である。アンケートの内容を考えて、クラスの同級生にそのアンケートをとり、結果を見やすいグラフにして、分析した結果を文章としてまとめる、という活動が必要になる。
今回は、アンケート作り、アンケートを実際に行う、アンケートの結果を分析するという3点でキントーンを活用する指導案になっている。アンケートの内容はグループごとのテーマによって異なり、児童達は自分たちでキントーンを利用したアンケートのシステムを作ることになっている。上砂川小学校の授業では、あらかじめ用意されたキントーンのアプリを使ったが、そこからさらに進んだ内容になっているわけだ。
先生手作りのキントーンのアンケートをまず体験する児童達
それでは、筆者が訪問した6月14日と15日、それぞれの授業の様子を見ていこう。
小山城北小学校の4年生は2クラスで、学校のICT環境としてはパソコン専用の教室が用意されている。この場所にデスクトップ及びノートパソコン、約40台が設置され、集中管理のシステムが導入されている。各パソコンへの画面の配信や遠隔操作が教師卓のPCから可能になっている。小山市内でパソコン教室のある学校では、ほぼ同じような構成になっているそうだ。
この日は、筆者を含めた取材陣と、サイボウズの中村龍太氏ほか数名に加え、NPO法人みんなのコード代表の利根川氏が見学に訪れていた。授業の開始時間となり、4年1組の児童達が入室してくるのだが、見知らぬ大人達にもきちんと大きな声で挨拶していく。授業が始まる前からなんとも清々しい気持ちになる。
授業を進めるのは、担任であり同校のシステム担当でもある小島先生だ。もともとコンピューターに関心が高く、さらに昨年度は半年間、先生のまま国内留学という形で最新のIT教育についての知見を深めてきたという、なんとも頼もしい先生である。
先生はまず、いま児童達が取り組んでいる新聞作りの大まかな流れを再確認し、これから行う授業の目的を簡潔に提示する。この目的の部分を「めあて」と呼んでいる。今回の「めあて」は「新聞にまとめることを考えながら答えやすいアンケートを作ろう」である。
児童達は、まずそれぞれのPCでキントーンにログインする。「ログインってなんだっけ」「パスワードなんだっけ」となる児童もいたが、以前キントーンを使った理科の授業を経験しているため、おおむね問題なくログインができていた。
小島先生は、キントーン上のアンケートに回答するまでの一連の流れのデモをあらかじめ用意し、児童達のPCに配信してイメージをつかませる。アンケートの内容は「好きな教科」で項目は3つ。すぐに要領をつかんだ児童達は、目の前のPCを操作してアンケートに回答していくが、中には手順やキーボードの入力にとまどう姿もちらほら。
ちょうど4年生ぐらいになると、民間のプログラミング教室やパソコン教室に通ったり、自宅でマインクラフトなどを楽しんだりする児童が出始める。そんな“パソコン慣れ”している児童達は、困っている別の児童達のサポートにぱっと足を運んでいる。
小島先生によれば、1人でクラス全員の面倒はとても見切れないので、できる児童にはどんどんサポート役として活動してもらっているそうだ。サポートチームの活躍もあり、アンケートの回答は一通り終わった。
肝心なのはここから。小島先生は全員が回答したアンケートの結果を一覧画面で見せ、続いてキントーンで簡単に回答結果をまとめたグラフができる様子を見せる。児童達からは感心するどよめきが起きた。
児童達は、ここでアンケートをキントーンという「プログラム」を使って行う意味について考え理解を深める。日頃、保護者の書類のやりとりや生活の中で、紙によるアンケートはよく見ている児童達。その結果を集めてまとめることの面倒くささは、おぼろげながらも理解している様子。コンピューターとプログラムを活用することで、どういう効果が期待できるのか、先生の問いかけに児童達は手を挙げて次々と答えていく。このような気づきは、「小学校におけるプログラミング教育」のねらいの一つでもある。
キントーンでアンケート作りに挑戦する児童達
続いて今日の授業のハイライトに突入する。1人ずつがキントーンを使ってアンケートを実際に作ってみるのだ。
具体的なPCでの操作に入るその前に、どんなアンケートを作るか最低限の質問を決めておいた方がスムーズだ。児童達は、配布されたワークシートを使ってアンケートの内容を検討していく。続いて、児童達は1人ずつキントーンの「アプリ」を作成し、入力画面を作っていく。キントーンの特徴的なところなのだが、画面上にパーツ(フィールドと呼んでいる)をドラッグ&ドロップして配置していく。今回使うフィールドは、ラジオボタン、チェックボックス、文字列(1行)の3種類だ。
ラジオボタンは選択肢の中から1つだけ選ぶ場合、チェックボックスは複数選択していい場合、文字列(1行)は意見などを入力してもらうために利用する。
続いて、アンケートを完成させるために、フィールドごとに必要な設定を行っていく。例えば、ラジオボタンを使った質問の場合、ドラッグ&ドロップしただけでは、「ラジオボタン」と表示されている。これを質問の内容にあわせて変更しなければいけない。変更の操作自体はきわめて簡単で歯車のアイコンをクリックして設定画面を開き、変更していけばよい。
ここまでの一連の流れは、大人向けのキントーンの講習でもよくやる内容で、小学生にはどうなのかと筆者も興味津々だった。結論から言うと、児童達はいやになるくらい簡単にこの操作を行っていく。キントーンの使いやすさが小学生にも有効だったということだろう。
ただ、キーボード操作については、個人差が出るようだった。しかし、これは単に慣れの問題で、入力する機会が増えれば児童達はどんどん習熟していくはずだ。
この日の授業は、キントーンの操作方法をマスターすることが目的ではない。あくまで、アンケート作成の大まかな練習と作るときに何を考えなければいけないかを学ぶことだ。とはいえ、児童達はアンケート作りが気に入った様子で、最後の振り返りの発表では、もっとアンケート作りをやってみたい、家に帰ってから続きをやりたいという声も聞かれた。
グループで主体的にアンケート作りに取り組む児童達
翌15日の授業は、いよいよグループに分かれて新聞作りのためのアンケートを作成する。作業手順は前日でわかっている児童達、この日の授業はグループワークを円滑に行い、わかりやすく答えやすいアンケートを作っていくことがポイントとなる。
小島先生は冒頭の説明で、エンジニア、開発者にはおなじみの「ペアプログラミング」(2人で協力し合いながら進めるプログラミングの方法の一つ)という言葉をさりげなく紹介してグループワークについて説明。先生の方針として、普段から社会で使われている言葉、考え方を積極的に話しているそうだ。
児童達はグループに分かれて、どういうアンケートの内容にするか、テーマに従って考えていく。グループ内でどう進めるかについて、先生からはあまり具体的な指示は飛ばない。中には、話し合いに参加できず傍観してしまう子や、グループのメンバーがバラバラにアンケートを作り出してしまうなど、ちょっとしたトラブルはあったが、小島先生の巧みな声がけもあり、結果、思った以上に児童達は主体的にグループ活動に取り組んでいるように見えた。アクティブラーニングにおいて、先生の役割はファシリテーター的になるという話はよく耳にするが、目の前でそれを見せて頂いたのは筆者にとっても貴重であった。
アンケートの設問について、どういう質問文にするか、どういう回答の選択肢をあげるのか、考えながら実際にキントーン上で画面を作っていく。グループで見せ合い、文章の内容や、自分たちの質問の意図がなんなのか、そしてそれがきちん伝わるか、相談し合いながらキントーンの作業を進める様子は実に楽しそうだった。筆者は大人向けのキントーンの講習を行うこともあるが、グループワークでやる方法は大人にも有効ではないかと思った。
こうして、若干の積み残しは見られたが、ほぼ全てのグループがアンケート作りを終わらせることができた。中には小島先生が特に説明していなかったキントーンの機能を見つけて自分たちのアンケート作りに生かしているグループも見られた。小学生侮りがたしである。
振り返りの発表でも、アンケート作りを通じて物事を進める手順の大切さの気づきや、もっと素早くアンケートを作れるようになりたいという熱意、簡単だったのですぐにでも他のアンケートを作ってみたいという意欲など、実に頼もしい言葉が並んでいた。
児童達はこの授業で何を学んでいたのか
キントーンを利用した国語の授業のうち、2日にわたった2時限の授業の様子をお届けしてきた。児童達はその後に行われた複数回の授業を経て、アンケートの実施、まとめの分析を行ったうえで、テーマに応じたインタビューや取材を行い、無事に新聞作りは完了したそうである。
ちなみに、最終的なアウトプットの作成は「コラボノート」という複数ユーザーの同時編集でレイアウトが可能なツールで行われたとのこと。てっきり壁新聞的なものを作るのか思っていたのだが、ITツールの活用を徹底したことに感心してしまった。一連の取り組みは、小島先生にとっても一つのチャレンジだったようだが、子供達の様子を見る限り、非常によい結果を残したのではないかと思う。
今回の実証授業の指導案は、決してキントーンを使えるようにすることが目的ではない。あくまでアンケートを作り、分析するためのツールとして通常の国語の授業で活用されたのである。多くの児童達にも十分に使いこなすことができる、ちょうどよいツールだったのではないだろうか。一連の活動は、キントーンを活用しながらの楽しい言語活動、すなわち「国語」の学習となったのだと感じた。
キントーンを使った授業はこれで一区切りだが、小島先生は、学校全体でプログラミングやパソコンを使うことをあたりまえのこととして定着させるべく、授業以外にも取り組まれている。例えば、校内放送などを行う放送委員会を、パソコンの利活用まで含む「情報委員会」という活動に広げたこともその一つ。お昼休みにパソコン室を公開し、利用の受付やサポートを行っており、キーボードのタイピングソフトを使って入力スピードを競ったり、Scratch(スクラッチ)を使ったプログラミング体験を行ったりと、小学生達が親しみやすい内容で活動しているそうだ。
授業におけるキントーンの可能性
今回の一連の授業を目にして、筆者は素直に感動を禁じ得なかった。小山城北小学校は、ICT基盤の整備状況だけを見れば、1人1台を実現している先進校に比べれて、不十分な点も少なくない。それでも、一定の環境と、適切なツール、指導案、そして何より現場の先生の手腕が組み合わさって実現できることは大きいのだ。
そもそもキントーンは、専門的なスキルがない人でも簡単に今回のアンケートのような情報共有の仕組みを作ることができるサービスだ。実際、使い方の基本を提示するだけで、児童達は試行錯誤しながらアンケートを自分たちで作ることができたのだ。作る過程の中でも学びは多いといえるだろう。今回の国語の他にも、現場の先生方のアイデアで、社会や総合などの他の科目単元でも応用できる範囲は広いのではないだろうか。
サイボウズとみんなのコードは、一連の実証授業の結果を受けて、理科と国語の指導案とキントーンのライセンス提供を開始した。ライセンスは、30日間無償で利用できる試用版での提供となるが、試用期間は相談によって延長ができるとのこと。
キントーンを使うための準備は実際にやってみると実は比較的容易であり、その気にさえなれば、多くの小学校で利用できるはずだ。また全国各地で、キントーンの勉強会である「kintone Café」も開催されており、キントーンに興味を持たれた小学校の先生方も是非参加して交流を深めて頂ければと思う。