こどもとIT
静かに熱いセンサーと回路系ツール群にみる、今年のSTEAM教材傾向
第9回 教育ITソリューション EXPO(EDIX)レポート
2018年8月7日 11:04
教育関連のITソリューションが東京に集結する展示会「第9回 教育ITソリューションEXPO」(以下、EDIX)が2018年5月16日〜18日まで、東京ビックサイトで開催された。この数年で大いに盛り上がっているプログラミング教育に関するツールやサービスを中心に、筆者がブースを回って感じた今年のEDIXならではの空気を、見つけた傾向やツール群と共にご紹介したい。
静かに熱いジャンル、センサー・回路系ツール群
子ども向けプログラミングというと、教育版レゴ マインドストーム EV3などのロボット系を見聞きすることが多いかもしれないが、今回、静かな傾向として見えたのが、センサー・回路系ツールの広がり方だ。ここで「センサー・回路系ツール」として紹介するのは筆者なりの分類だが、センサーや回路をハンダ付けや配線などをすることなく手軽に扱えてしまう非常に面白いツール群だ。
例えばこの分野で先駆的だった「MESH」(出展:ソニー株式会社 MESHプロジェクト)は、各種センサーなど入力系の機能をもったブロック類と、LEDなど出力系の機能をもったブロック類を、プログラミングで簡単に連携させられる。各ブロックが無線で通信できるので、簡単にIoT的なカラクリをつくることができるのだ。
例えば、「動き」ブロックが振動を検知したら別の場所にある「LED」ブロックが点灯する、なんていうのはもちろん、自動でメールを送信するといったソフト的な出力もできる。日用品に「動き」ブロックを貼り付けるだけで、あんなことやこんなことができそう! と、ちょっと考えるだけで遊び心が刺激され、ワクワクしてくるツールだ。
同じくこの分野で先駆的な「littleBits」(出展:株式会社コルグ)は、論理回路自体もブロック化されていて、ブロックを接続するだけでプログラミングせずに様々な仕組みを作ることができるツール。スイッチ類もボタン式だけでなくダイヤル式やスライド式など豊富なので、インタラクティブな工作や自作の楽器などのアイディアがどんどんわきあがってくる。MESH同様にアイディアを簡単に実現できる楽しさが満点だ。
この「littleBits」も年々進化しており、無線通信のできるブロックや、独自のプログラミングアプリでプログラミングして機能を作れるブロックなども出ているので、できることがかなり広がっている。マグネット式で吸着するブロックは扱いやすく、種類は非常に多く50種類以上あり、プログラミングせずに気軽に楽しむこともできれば、がっちりプログラミングしてIoT的なカラクリも作れる守備範囲の広いツールに育っている。
昨年のEDIXでも既に出展されていた「SAM Labs」(出展:株式会社リンクスインターナショナル)も、この系統で注目したいツール。入力、出力系の各ブロックは“ぷにゅっ”とした正方形型のかわいらしい形に収まり、独自の制作キットに簡単にはめ込んで使える。各ブロックが無線で通信し合うのはMESHと同じだが、レゴブロックと接続できるパーツもあるので、例えば車の本体をレゴで作るなんていうこともできる。
この「SAM Labs」も進化中で、教育現場からの要望を受け、グループ学習で使う目的のTeam Kitが新たに出ていた。一括充電しやすいように、枝分かれした一括充電用コードがついてくるというのも、現場のリアルな声を受けてのことだろう。イギリス生まれで、日本での発売は今年の初夏(編注:2018年7月28日に正式な取り扱いを開始)を目指して準備が進められているところだ。
ここからは昨年は見かけなかった比較的新しいツールを2つ紹介しよう。1つめは、「PIECE」(出展:株式会社イーケイジャパン)。これはプログラミングをせずに使うタイプのツールで、入力系のブロック、機能系のブロック、電源ブロック、出力系のブロックを接続して、回路の仕組みを作る。ブロックの種類もつなぎ方も限られているので、比較的シンプルな仕組みを作るのに向いている。そのシンプルさが逆にプラスになって、入出力の関係がわかりやすく、どんどんつなぎ替えて試してみたくなる。
日用品と組み合わせることで、くすりと笑ってしまうような仕組みを手軽に作れそうで、これならうまくアプローチすれば、小学校低学年からでも十分発想が膨らむのではないだろうか。
2つめの新顔は、「Neuron」(出展:Makeblock Japan株式会社)だ。こちらは30以上のブロックがあり、できることの拡張性は高い。デザインも洗練されていて、マグネットで吸着し合い底面もマグネットなのでボードに貼り付けることもできて扱いやすそうだ。シリーズのパーツとしてウォーターポンプまであるので、温度や湿度を検知して植物に水やりをする、なんて装置も作れてしまう。
プリセットで組み込まれたプログラムによりブロックを接続するだけで作れる装置もあるということだが、ブロックを自由に組み合わせ、専用のアプリからプログラムして様々な仕組みを作る方が、確実に面白さが広がりそうだ。
ここでの紹介は割愛するが、他にも同系統のツールを少なくとも3社が新たに出しており、センサー・回路系ツールが確実にひとつのジャンルとして成立していることを強く実感させられた。
センサー・回路系ツールの最後に、ちょっと趣の違う「Circuit Scribe」(出展:Circuit Scribe)を紹介したい。これは、線を書くだけで電気を通す導線になるインクペンと、インプット、アウトプット等様々なパーツを自在に組み合わせて回路の仕組みを作ることができるツールだ。
ペンで導線を書けるというのがなんといっても楽しい。絵や工作に自分で描いた導線で電気がついたりライトが光ったりする仕組みを組み込めるなんていうのは、それだけでワクワクする。仕組みが学べるように練習用の設計見本ブックも用意されていて、学びつつ自由制作を楽しむこともできそうだ。
センサー・回路系ツールはSTEAMの「A」が刺激される!
プログラミングの教材は様々で、アイディアを形にするまでにいくつものステップを経ていかなければならないツールもあるし、問題をこなしてプログラミングの基本を学ぼうというツールもある。
こうしたセンサー・回路系のツールの一番のメリットは、「身近な何かを便利にできない?」「日常の困りごとを解決できない?」という「アイディア」や「発想」にダイレクトに飛び込めるところだ。インプットとアウトプットの関係がわかりやすく、すぐに試せる道具がそろっているので、とりあえず触って適当につないでいろいろ試してみたくなる。アイディアも試行錯誤も自然とふくらみやすい。また、工作や絵などアナログな「作る」作業との連結もスムーズだ。
いいモノ作りは技術だけでできない。日常を便利にしたいとか誰かの困りごとを解決したいとかそういう発想があって初めてモノは生まれるし、モノには使いやすいインターフェースデザインも、所有していたくなる心地よいデザインも必要だ。そうしたいわば「文系」アタマ的な発想力とか、デザインへの興味からモノ作りに入っていく入り口が、これらのツールにはあると言えるだろう。もちろんその先にプログラミングをする工程もある。
STEAMの「A(Arts)」の部分から自然と「S(Science)、T(Technology)、E(Engineering)、M(Mathematics)」に入っていく、もしくはその垣根を感じさせないようなモノ作りに取り組むというのは、ひとつの重要なアプローチだ。
もちろんこうした仕組みは、ArduinoやRaspberry Piなどを用いて本格的な電子工作とプログラミングで作ることもできるが、これらは大人の周到な準備なく子どもが気軽に手を出すのは難しい。今回紹介したセンサー・回路系ツールは、求められる発想力はそのままに、取り組む敷居をぐんと下げてくれているよさがある。
各ツールが独自に導入事例を積み上げているところだが、もっと教育現場で気軽に使って欲しいと思うツール群だ。
「手の届くハイテク教材」がすごい
小学校の教育現場のイメージとは少し離れるが、ロボット系教材の「DOBOT」(出展:Shenzhen Yuejiang Technology CO., LTD.)を紹介しよう。これは、ロボットアームのアタッチメントを替えるだけで、物の移動はもちろん、3Dプリンター、レーザー彫刻、描画などいろいろな使い方ができてしまうミニ産業ロボットのようなツールだ。
精度の指標である「繰り返し精度」が0.2mmで、実際の工場のラインのシミュレーションモデルに使われたり、タッチパネルのテストや顕微鏡用のスライドガラスの載せ外しなどといった軽作業の現場で、精度の必要な単純作業に使われている実績があるそうだ。
それでいて、ブロックプログラミングにも対応しているというお手軽さ。ベーシックキット、アドバンスキット共に10万円台で購入できる価格設定だから、「個人でも手の届くハイテク」といえるだろう。
小学校レベルでは少し早いとしても、中学校以上で学校にクリエイティブラボを作って数台導入し、技術・家庭や美術などで使用したら、かなり面白いことができるのではないだろうか。単に学校でレーザー刻印ができるなんて想像するだけでもワクワクする。もちろんプログラミングの学びにもぴったりで、よりリアルなシチュエーションを設定して試行してみる面白さがあるだろう。
教材提供から「学び方」提案にシフトし始めた各社
今回のEDIXで、もうおなじみのツール群から強く感じたのは、教材自体よりも「学び方」の提案にシフトしてきていることだ。
例えば、株式会社Z会は、教育版レゴのWeDo 2.0とマインドストーム EV3を教材にした「プログラミング講座 with LEGO Education」を大きく紹介していたし、アーテックのブースでは、株式会社学研エデュケーショナルと株式会社アーテックによる「もののしくみ研究室」というプログラミング講座の塾・教室向けカリキュラムに大きなスペースを割いていた。
ヒューマンアカデミー株式会社は、上級コースへのブリッジになるようなプログラミングの学びを充実させ始めていて、「ロボット教室」にプログラミングのステップが加わったり、「こどもプログラミング教室」というScratchから始めるカリキュラムができたりと変化を見せていた。
「Pepper」(出展:ソフトバンク株式会社)も、「Pepper 社会貢献プログラム2」がスタートしていて、Pepperの貸し出しと共に、学校現場の先生のために「学び方」を補助する教材群が提供されるという。小中の新学習指導要領に沿った「教師用指導書」に加え、「児童・生徒用ワークシート」や「指導案」、「指導用研修動画」に至るまで用意されている。また、プログラミング環境として、新たにScratchベースの「Robo Blocks」が提供されることになり、Scratchを扱ったことのある現場との親和性が高まりそうだ。
アダプティブラーニング系教材は先生の頼もしい助っ人
ここまでプログラミングを軸にご紹介したが、EDIXのテーマはもちろんそれだけではない。ここでひとつアダプティブラーニング系のサービスをひとつ紹介しよう。算数・数学専門のタブレット端末用学習教材「Qubena(キュビナ)」(出展:株式会社COMPASS)だ。
「Qubena」は、子どもの回答の仕方からつまずきポイントを判断し、自動的に苦手を克服する復習問題を出してくれる「人工知能型教材」だ。回答時間や回答内容、プロセス(途中式など)、学習履歴などを総合的に判断しているという。小学校の算数と中学校の数学の学習指導要領をカバーしているので、学年を越えて遡って必要な問題を抽出してくれる。また、自分のペースで進められるので、学年を越えてどんどん先の学習を進めることもできる。
子どもの苦手ポイントを見つけるというのは、実は熟練した先生なら自然とやっていることなのだが、大勢を相手にした一斉授業では残念ながらひとりひとりに多くの時間を割けない。そこで、熟練の先生がやるような個別サポートを全ての子どもがもれなく受けられるような環境を実現したというわけだ。塾での導入を前提に作られているサービスだが、個人向けの「Qubene wiz」というサービスも始まっている。学校での導入も十分に考えられるだろう。
より多くの子どもが同時に一定水準のサポートを受けられるとしたら、先生にも子どもにも両方にとってハッピーなことだ。これは先生の助っ人が増えるだけであって仕事を奪うことにはつながらないだろう。筆者は親として、子どもの側に寄り添う大人がいないと、どんな便利な教材も生かしきれないということを実感しているので、機能的な教材と先生の役割は共存し高め合うものだと思っている。
小規模の学習現場の事例から、校務への影響を期待
最後に、校務系からひとつ紹介しよう。校務といっても学校ではなく塾をターゲットにした業務管理アプリ「Comiru」(出展:株式会社POPER)だ。塾からの指導報告書やお便りなどを保護者向けに全て電子でやりとりでき、成績管理や入退室管理もできるサービスだ。これらを全て紙で管理することを考えたら、塾側の業務負担が軽減されるのは明らかだろう。入退室管理にはQRコードを利用してカード側も読み取り側も導入コストがかからない。
こうしたツールが、少ない管理者で大勢の利用者と確実で丁寧なコミュニケーションを取るのに役立つのは間違いない。塾だけでなく学童保育などの問い合わせもあるというのもうなずける。
学校をターゲットにした大手の校務系システムは、残念ながら「保護者との緊密なコミュニケーションツール」としての機能が組み込まれる段階にきている様子がない。一方、こうして塾向けなど小規模でサービスを提供しているシステムは、管理者と保護者の利便性を徹底的に追求することでの効果も見えやすいし、それがストレートに受け入れられる土壌があるから、どんどんシステムとしても機能が拡張され使われながら育っていく。
小さな現場から事例が積み上がっていくことが、学校のような大きな組織が動くきっかけになると期待したい。今年なりの空気を感じつつ、ここからまた変化し続けることの重要さを実感させられたEDIXだった。