こどもとIT
子どもが熱中する木製ロボット「キュベット」でのプログラミング体験をはじめ、学びを変える多数のワークショップ
未来の教育を学ぶ「Learn for Life 2018」レポート
2018年5月31日 06:00
2018年3月26日、27日の2日間、「学ぶを楽しもう」をテーマに国内外の有識者が講演やワークショップを実施した「Learn for Life 2018(第1回東京国際教育祭)」。広々としたアリーナ(体育館)を使った国内外の有識者による基調講演から、教室を使った教育系の団体や企業による多数のセッション(ワークショップ)が実施されたほか、留学や教育系団体による展示、オリジナルの名札や「Learner's Passport」を使った交流などさまざまな取り組みが行われた。会場となった東京都港区の広尾学園中学校・高等学校では、Learn for Lifeのスタッフと共に、春休み期間中だった広尾学園中学校・高等学校の学生ら約60名がボランティアとして協力。受け付けから案内、基調講演の司会まで主体的に参加していた。
本稿では、「しる」「みつめる」「たのしむ」「みつける」「つながる」の5つのカテゴリーのうち、「たのしむ」や「つながる」のカテゴリーとして実施された多数のワークショップや、イベントの様子を紹介する。
教育系の団体・企業による「LFLワークショップの森」を実施
未就学児から教育関係者まで、様々な年齢層を対象にしたワークショップが各教室を使って実施された。ワークショップは事前にWebから予約し、空きがあれば当日参加できるワークショップも多かった。無料のワークショップがほとんどだが、300円~1000円前後の材料費が別途必要なワークショップも実施があった。ここでは、木製ロボットの「キュベット」を使ったワークショップを中心に紹介する。
「キュベット」でのプログラミング体験を子ども向け、教育機関向けに2回実施
イギリスのプリモトイズ社が開発した、プログラミングが学べる木のおもちゃ「キュベット(Cubetto)」。その体験ができるワークショップ『「キュベット」ではじめてのプログラミング』が4歳以上を対象に保護者同伴で実施された。
キュベットは「ワールドマップ」と呼ばれる布製のマップの上を、キューブ型のロボットキュベットを動かすおもちゃ。キュベットとBluetoothで接続した「コントロールパネル」にコーディング用ブロックをはめ込んでいき、キュベットの動きを指定することでコーディングを体験できる。
イギリス人のプログラマー、フィリッポ・ヤコブ氏が自身の子どもにプログラミングを体験してほしいと開発したもので、2013年にKickstarterで製品化に成功。現在はプリモトイズ社が設立され、100カ国以上で2万人を超える教育関係者や保護者が利用しているという。日本国内ではプリモトイズ日本販売総代理店のキャンドルウィック株式会社が販売を行っており、「キュベット プレイセット」が29,600円(税込31,968円)で直販サイトや百貨店などで販売されている。
「キュベット プレイセット」はキュベット本体、コントロールパネル、ワールドマップ、ストーリーブックが各1つと、ブロック16個のセット。ワークショップではこのセットが3~4人の1グループにつき1つ用意。未就学児から小学校3年生までの子どもを対象としたワークショップ『「キュベット」ではじめてのプログラミング』には、事前予約で10名ほどの申し込みがあったほか、当日の飛び入り参加もあり注目度の高さを感じさせた。
ワークショップはプリモトイズ公式インストラクターによるキュベットの使い方の解説からスタート。ブロックは「緑」が「1歩進む」、「赤」が「右に90度曲がる」など役割が与えられており、コントロールパネルにセットされた順番通りにキュベットが動く。その仕組みを黒板で説明するだけでなく、「自分がキュベット君になったつもりで動いてみましょう」と体を使って動きを体験してみるなどの工夫がされていた。
キュベットは1人でも遊べるが、今回は付属のワールドマップと「ちょうせんじょう」と名付けられたオリジナルのテキストを使い、各テーブルで相談しながら10問ほどの問題にチャレンジするチームプレイでの体験が行われた。子どもたちは「間違ってもいいからやってみることが大事」と促されるとどんどんトライしていく。参加者は未就学児から小学3年生までを対象とし、保護者も参加。4~5歳の子はチャレンジがクリアできるととても楽しいようで、チームみんなで大喜びしていたし、7歳ぐらいの子のグループはどんどんクリアして、終わったあとも自分でゴールを設定してチャレンジするなど、同じキュベットを年齢に応じていろいろな使い方ができているのが印象的だった。1時間半ほどの体験は、未就学児も飽きることなくあっという間に終了。「もっと遊びたい」と続ける子も多く、学びと意識せずに遊びながらコーディングを楽しく学べる様子を実感した。
ワークショップは「初心者で大丈夫。プログラミング授業の始め方」と題して教育関係者や一般向けにも実施され、大人もグループでチャレンジ問題に取り組んだ。インストラクターは子どものときと同様に使い方の説明をしながらも、キュベットを授業に導入後、生徒にどう説明すると分かりやすいか、どんな能力を育てるのに役立つかという視点で解説された。キュベットだとゲーム性が高いため問題を解いたときの達成感があることや、順次進行やかけ算などの力のほか、ディスカッションしてチームで進めていくことでコミュニケーション能力の開発にも役立つという。「さまざまな角度から21世紀型スキルを育てていけることがキュベットの魅力」と説明。小学校高学年になり、タブレットやパソコンの画面上でプログラムを始める前にキュベットのようなツールで空間認識をしておくことで、スムーズにプログラムに取り組めるという効果もあるという。
参加者たちは「ちょうせんじょう」へのチャレンジが始まると各グループで体験。大人なら簡単すぎてすぐ終わってしまうとも限らず、各グループとも真剣に話し合いながら問題にトライしていた。ワークショップ終了時には参加者から「プログラミングは既存の教科とどう連携できるか」という質問に対して、インストラクターからは、キュベットの1マスが15×15cmとちょうど折り紙のサイズだと紹介。図工の時間にマップ作りと共に組み込んだり、算数の時間にブロックを使ったりできると説明。参加者からは「キュベットにペンをつけて図形を書かせることができたら面白い」などアイディアも出されていた。
キュベット自体はプログラミングに親しむことを目的とした類似の製品と比べてかなり完成度が高く、基盤も見えないし電池だけで動く。優しい木の手触りとパステルカラーのかわいいデザインで、百貨店やおもちゃ売り場に並んでいてもまったく違和感がないほどだ。コントロールパネルとキュベットはBluetoothでのペアリングで使えるので、Wi-Fiも必要ない。実際に現在は個人購入される割合の方が先行しているという。
しかし、ワークショップの様子を見ていると、大人でも操作に迷い、エラーに慌てるということにも気がついた。使う子ども側はまったくちゅうちょなく取り組む様子と対象的だ。個人で購入する場合はあらかじめ知識のある親が多いかも知れないが、プログラム未経験の先生が「子どもよりも先に100%理解してから導入しなければいけない」という意識を持つと、それがハードルになるのかもしれないと感じた。
キュベットは日本では1年ほど前から本格的に販売が開始されたところだが、幼稚園や私立の学童での導入が進んでいるとのこと。ある程度小規模で対応でき、人員の異動が少ない場所の方が理解や導入がしやすいという事情もありそうだ。ただし、販売側でも1台を3~4人で使用するグループワーク用のレッスンプランを用意するなど工夫はされており、公立学校でも府中市立府中第三小学校の2年生にケーススタディとして取り入れられるなどトライも進んでいるとのこと。
キュベットに付属するワールドマップにはストーリーブックも用意され、キュベットがお城を目指したり、船に乗って冒険に出掛けたりといろいろな使い方ができる。オプションとして海編、迷子編、宇宙編、沼地編、北極編と5種類のマップが各3,980円(税込4,298円)で販売されている。
また、付属のブロック以外にも、ブロック3種類が各4個(合計12個)入った「ロジック ブロックセット」や、ブロック4種類が各4個(合計16個)入った「ディレクション ブロックセット」各3,600円(税込3,888円)も販売されており、難易度を上げることもできる。
3・4歳からと低年齢から使えて、プログラムの考え方を手で覚えられるツールとして非常に分かりやすいキュベット。その便利さを理解できる家庭での導入は自然に進んでいくだろうが、今後の教育機関でもより導入が進むことを願いたい。
サイエンスからアート、キャリアまで様々な学びが会場中に展開
ワークショップ大会「LFLワークショップの森」では、子どもも大人も楽しめる26種類ものワークショップを実施。「プログラミング」「サイエンス」「アート・クラフト」「グローバル・コミュニケーション」「キャリア・企業」「環境・自然」「演劇・ダンス」「音楽」など多岐にわたったワークショップが実施された。
たとえば「プログラミング」では前述したキュベットの体験のほか、G7プログラミングラーニングサミット・早稲田大学鷲崎研究室主催で「Aliceで3Dアニメなどを作りながらプログラミングを学ぼう」を実施。ビジュアルプログラミング環境「Alice」での3Dアニメやゲーム作成の体験が実施された。
また、教員のあり方などを問うワークショップ「ティーチャーズ・イニシアティブ」や、Google認定教育者によるワークショップ「グーグルであそぶ、つくる、まなぶ」(主催:GEG鎌倉)のほか、アクティブラーナーの育成に関わる教員向けのサイトFind!アクティブラーナーが主催する、人気教師による模擬授業大会「未来の授業大会」など、学生や一般だけでなく教職員も対象にしたさまざまなワークショップが実施された。
どのワークショップも様々な年齢層が参加。講義の形は少なく、積極的にコミュニケーションを取りながら展開していく形式が多かった。サイエンスなど実験を行うもの以外にも、体を使ったアートやダンスなどなかなか体験できないワークショップも多く、2日間ずっと参加していてもめいっぱいいろいろな学びを楽しめるよう工夫されている。こうしたグループで実施するワークショップの場合、「子どもについてくる保護者」という立場ではなく、親も子もそれぞれの立場でワークショップに参加できるも点も新鮮に感じた。
学びのログを集める「Learner's Passport」を配布、「つながる」を意識した取り組みが多数
ワークショップのほか、会場全体で「つながる」を意識した取り組みも多数実施。入場時には受け付けでパスポート型の冊子「Learner's Passport」が配布され、参加したイベントのスタンプを集めて「学びのログ」が取れるようになっていた。ワークショップの会場ではスタンプステーションに自由に使える名札や名刺も用意され、交流も促進。また、2日間を通じて1階のカフェテリアが「交流ラウンジ」として解放され、学生を中心に情報共有の場として活用されていた。当初、留学や教育関連の団体・企業が会場の1室で行われていたが、途中からこの交流ラウンジに展示を移動。積極的にアピールも実施されていた。
また、Learn for Lifeのメインテーマ「ひとりひとりが幸せな社会のために、学び革命」についての未来志向の対話と新たなつながりの創造をすることを目的とした対話セッション「LFLフューチャーセッション」も2日間実施。今回のイベントでワークショップなどプログラムに参加した方など、様々な人々が集まり、「学ぶひとが幸せになるためにできること」をテーマにディスカッションを実施。ファシリテーターはスリーエムジャパンの太田光洋氏や上智大学の坂田麗子氏が務めた。
このLFLフューチャーセッションの最後の回には主催者であるLearn for Life代表理事の小林秀行氏もあいさつに立ち、「このフューチャーセッションは、私の思いが強く詰まっています。ここから生まれるものが日本の学びを変えるきっかけになれば良いと思う」とコメント。参加者は対話のグランドルールを説明されたあと車座になり、おのおの自己紹介したあと、自由に今回のイベントの感想などを話し合った。その後「対話用シート」のポストイットに黒のマーカーで気付きなどを記載して、最後にグループで大きなボードを作り上げた。
基調講演からワークショップまで、「Learn for Life 2018」は未来志向で非常に充実した内容だったのだが、春休み中とはいえ平日の昼間に実施されたため、参加者は学校が休みの幼稚園児や学生たち、そしてそれに付いてこられる親に限られる部分があった。内容の充実度に比べると、もっと参加者がいて混雑していてもおかしくないクオリティだったので、その点だけが残念に感じた。主催者は第2回の開催に向けてすでに動き始めているとのことなので、次回の開催を期待して待ちたい。