こどもとIT
ChromebookかWindowsか、限られた予算と期間で今から整備する教育用コンピューターと周辺機器
第9回 教育ITソリューション EXPO(EDIX)レポート
2018年5月30日 06:00
2018年5月16日から18日の3日間、年に一度の教育専門展「第9回 教育ITソリューションEXPO」(以下、EDIX)が東京ビッグサイトで開催された。第9回目となる今年は、教育関連企業700社が出展。来場者は3日間で32,000人を突破した。
今年のEDIXの特徴は、2020年度から実施される新学習指導要領に後押しされ、これまでICT環境整備に着手していなかった自治体や教育機関が、製品選択を目的に“本気モード”で来場していることだろう。情報活用能力の育成が総則に明記された新学習指導要領を実施するためには、どのようなICT環境を整備すべきか。教育機関のICT担当や関係者らは、いよいよラストスパートの段階に来た。
本稿では、そうした来場者が多いことを受けて、教育現場のICT活用に必要不可欠な「教育用コンピューター」や「電子黒板」などベーシックな製品に特化してレポートする。限られた予算と残された準備期間で何を揃えるべきか。EDIXの出展から見ていこう。
文教向けのChromebookが登場。教育用コンピューターの有力候補になるか
教育用コンピューターといえば、これまでWindows端末か、iPadなどのApple製品を選ぶ教育機関が多かった。アメリカで50%以上のシェアを持つChromebookを導入する教育機関は日本では一部であり、同端末が選ばれない理由としては、“Wi-Fi環境が整備されていない”、 Googleが提供する教育機関向けプラットフォーム「G Suite for Education」に対して“教師が慣れていない”といった声がよく聞かれた。
そのChromebookであるが、昨年あたりから広がりを見せている。私立の教育機関に加えて、埼玉県戸田市、東京都町田市、東京都小金井市などChromebookを選ぶ自治体が現れ始めた。また教員向けに「G-Suite for Education」の研修会が広く実施されるようになり、知名度が上がったことも影響しているようだ(EDIX関係者談)。
レノボ・ジャパンは3月に発表した教育市場向けChromebook「Lenovo 500e」と「Lenovo 300e」を展示した。同製品はいずれも11.6インチのコンバーチブル型2in1モデルで、堅牢性を重視した設計であることが特徴だ。重さは両方とも1.35kgとやや重厚感を感じるが、75cmの机から落下しても壊れない衝撃耐性を備えている。
「Lenovo 300e」と「Lenovo 500e」の違いは、アウトカメラと電子ペンを装備しているかどうか。「Lenovo 500e」はそのどちらも装備しているのに対して、「Lenovo 300e」はインカメラのみで、電子ペンは装備されていない。また両モデルの想定販売価格は、「Lenovo 500e」が58,000円、「Lenovo 300e」が48,000円程度になる見通しで、その差は1万円ほど。教育現場ではカメラの利用が多いことを考えると、アウトカメラが装備された「Lenovo 500e」の方が、長期的なコストパフォーマンスは高いといえる。
ブース担当者の話によると、来場者のChromebookに対する関心は高く、なかでも教材会社の反応が良いという。またアメリカの教育市場におけるChromebookの動向も追い風にあり、自治体関係者の来場も多いと話す。
一方、Wi-Fi環境の整備が進んでいないため、Chromebookは端末選びの選択肢から外れるという関係者らもいるだろう。しかし、その状況も今年から変わる。日本エイサーは3月、文教市場向けにLTEモデルの11.6型Acer Chromebook 11「C732L-H14M」を発表した(6月発売予定)。同製品はNTTドコモが提供するLTE接続サービスで、高速かつセキュアな通信環境を実現。Wi-Fi環境の初期コストが軽減できることから、人口減少や学校統廃合などの課題を抱える地方自治体にとって有力な機種になることが予測できる。実際にNTTドコモのブースには同製品が展示され、多くの来場者の関心を集めた。
Chromebookを導入した後、授業でどのように活用できるか。Googleが提供する「G Suite for Education」を利用するというのも手段の一つであるが、レノボ・ジャパンやNTTドコモでは教育クラウドプラットフォーム「まなびポケット」(NTTコミュニケーションズ)を勧めていた。同製品は、デジタル教材や授業支援ツール、オンライン英会話、学習ドリルなど、多様なソリューションをクラウド環境で利用できるサービスだ。基本機能は無料で、シングルサインオンでログインできるのが特徴。2018年4月末時点で、200校10万IDの申込が寄せられているという。
日本マイクロソフトが初出展。Windows端末の存在感も健在
教育市場で圧倒的なシェアを誇るのはWindows端末だ。既に複数メーカーから文教モデルの端末が発売されており、教育現場での利用実績も豊富だ。各メーカーとも、2020年を前に教育用コンピューターの駆け込み需要を狙っているのか、攻勢の構えを感じた。
日本マイクロソフトは今年のEDIXに初出展し、Surfaceを始めとするWindows端末や、教育機関向けクラウドサービス「Office 365 Education」を展示した。具体的には、ブース講演の中でOffice 365 Educationの「OneNote」や「Teams」「PowerPoint」などを活用した協働学習や、ものづくりゲーム「Minecraft:Education Edition」と「micro:bit」を用いたプログラミング教育の事例を紹介。ほかにも、Office 365 Enterprise E5に含まれる生産性分析ツール「MyAnalytics」 を活用した教職員の働き方改革などを提案した。子どもの学び、教職員の働き方改革のどちらにおいてもICT活用は必須であり、同社ではクラウドの利用がいかに教育現場に変化をもたらすかを来場者に広めた。
教育分野におけるWindows端末は、各メーカーが文教モデル、もしくはそれに相当する製品をラインナップに揃えている。一口にコンピューターといっても、学習用途とビジネス用途、子どもと大人とでは使い方が違うため、求められる機能や性能が異なるからだ。
ちなみに、各メーカーの文教モデルの特徴を大まかに捉えると、学校の机サイズで使いやすいこと、落下の衝撃に強いこと、低学年を考慮して手書き入力ができること、カメラがついていること、タブレットとして使用できること、USBポートやHDMIポートなど拡張性に優れていることなどが挙げられるだろう。もちろん、充電時間や重さなども選定するうえで重要であるが、教育関係者は“壊れにくい”ことを重要視する傾向がある。各メーカーの文教モデルも以上のような点を考慮して設計されているのが特徴だ。
ここからは、各メーカーのWindows端末を紹介しよう。
トータルで1万円台。Raspberry Piを使った教育用コンピューターの整備
これから教育用コンピューターを導入する自治体や教育機関のなかには、ChromebookやWindows端末を揃えたくとも、予算化が難しい場合がある。そんな悩みを抱える関係者にとって選択肢の一つになり得るのは、安価な小型コンピューター「Raspberry Pi」を教育用コンピューターとして整備する方法だ。
アイ・オー・データ機器は、上記の悩みを抱える教育機関に対して、販売価格16,200円という、かなり安価な価格でRaspberry Piを活用したBASICプログラミングキット「UD-RP3PKI」を発売している。同キットには、Raspberry Pi本体とケース、ACアダプター、USB接続有線キーボードが含まれるほか、IchigoJamをRaspberry Piで動作できるソフトウェア「IchigoJam BASIC RPi+」をプリインストールしたmicroSDカードなどが付いている。
同キットを導入すると、学校側で用意するものはディスプレイとHDMIケーブルのみとなり、BASICを用いたプログラミング教育を実施できる。また、Raspberry Piをパソコン教室に40台導入して、抜き差し可能なmicroSDカードを児童生徒の数だけ揃えれば一人1台環境として利用することも可能だ。子どもたちはパソコン教室でRaspberry Piを使用する時に、自分のmicroSDカードを本体に差し込むだけなので低学年でも扱いやすいだろう。ちなみに、アイ・オー・データ機器ではRaspberry Pi の初期設定(Raspbianのインストールと日本語環境のセットアップ)を済ませた端末を提供している。こちらの端末を利用すればScratchを用いたプログラミング教育にも対応できる。教育現場の負担が軽減されるのもメリットだ。
教育用コンピューターとセットで導入したい電子黒板
言うまでもないが、学校現場では教育用コンピューターだけを導入すれば良いというわけではない。電子黒板や液晶ディスプレイ、プロジェクターなども教室に整備し、教師用PCからデジタル教材やコンテンツを提示したり、授業支援ツールを活用して児童生徒の画面を映写できる環境を築くことで、ICT活用はさらに広がる。
とはいえ、電子黒板の整備は費用がかさむ。そんな課題を抱える教育機関にとって、普通のテレビをタッチパネルとして活用できるソリューションはどうだろうか。前出のアイ・オー・データ機器が提供する「てれたっち」は、普通のテレビがタッチパネルディスプレイなる外付け型タッチユニットで、46型から80型までの大画面テレビや液晶ディスプレイに対応している。現在、多くの学校にはテレビが整備されていることを考慮すると、「てれたっち」なら既存の環境を活かして電子黒板の環境を安価で整備することができる。
もちろん、高機能な電子黒板についても来場者の関心は高かったようだ。これからICT整備に着手する教育機関の中には、教育用コンピューターよりも先に電子黒板の導入を優先するケースも多い。資料や教材の提示、拡大表示、デジタル教科書の利用など“見せる”ことを目的にしたICT活用は、これまでの授業スタイルを変える必要がなく、“ICT活用の地ならし”として取り掛かりやすいというメリットがあるからだ。
Wi-Fi環境は一切不要のMiracastで、児童生徒の画面を提示
教育用コンピューターや電子黒板などICT機器のメリットを最大限に引き出すためには、通信が安定したWi-Fi環境の整備が望まれる。しかし、それには膨大な予算が伴うため、多くの教育機関が頭を抱えているのが現状だ。特に地方自治体においては、人口減少や学校統廃合が課題であり、将来的に児童生徒数が減少してしまう学校にWi-Fi環境を整備するかどうかの判断は難しい。
そんな悩みに対しては、Wi-Fi環境の整備がなくても教育用コンピューターの画面を電子黒板やディスプレイへ無線で表示できるMiracast(ミラキャスト)アダプターを使う手がある。Actiontec Electronicsが展示した「ScreenBeam」では、教育現場で利用が増えた動画コンテンツの転送も、安定した接続性で遅延時間66ミリ秒という業界最速の通信性能を実現した。
Miracastアダプターを使うと、電子黒板や教育用コンピューターがすべて無線でつながり、教室を自由に動き回れるのがメリットだ。Miracast自体がWindows 10の標準機能であるため、現場の教師たちは使い勝手が良いだろう。同社の担当者によると、前橋市教育委員会、鹿児島市教育委員会など自治体レベルの導入が増えており、Wi-Fi整備に変わるソリューションとして注目を集めているようだ。
以上のように、今年のEDIXは2020年度の新学習指導要領に後押しされて、ハード関連のブースに来場者が多く集まり、賑わっていた印象が強い。現場では2020年度に向けて、製品選びに関心が集まると思うが、もはやICT機器は教師にとっても、子どもにとっても、当たり前に使える環境であることが求められる。それを実現するためにも予算確保こそ重要な課題であり、今こそ、教育ICTの必要性を訴えるコミュニケーションを活性化させてほしい。