こどもとIT

kintoneを利用した理科の「生き物の観察」授業──サイボウズと立川市立上砂川小学校の取り組み

2017年12月に、教育と探求社とサイボウズのコラボによって、埼玉県の坂戸市立南小学校で行われた特別授業「トレンドハンター」は、サイボウズ社のkintone(以下、キントーン)を利用した内容が見学に訪れた教育関係者からも好評だったようだ。当日の模様は記事「kintoneを利用してプログラミング教育――サイボウズと坂戸市立南小学校の取り組み」を参考にして頂きたい。

本年度、サイボウズは新たにNPO法人「みんなのコード」の協力を得て、キントーンを使った別のカリキュラムの実証授業を開始した。今回は特別授業ではなく、通年の科目の中での取り組みとなる。東京都立川市立上砂川小学校で、はじまったばかりの授業の様子を中心にレポートする。

小学4年生の賑やかなクラスにお邪魔

今回お世話になるのは、立川市立上砂川小学校の4年生の学級だ。こちらの学校は、みんなのコード主催の「プログラミング指導教員養成塾」の参加メンバーでもあり、それがご縁で、今回の実証授業に手をあげてくださったのだそうだ。

立川市立上砂川小学校の校舎

当日は、サイボウズの中村龍太氏と、みんなのコードの竹谷氏が授業のサポートに訪れた。中村氏は既に一度訪問済みで、児童たちから「りゅうたくーん」と呼ばれて顔をほころばせていた。

この年頃の児童たちは、ある程度の落ち着きと子どもらしさの混ざった状態で接していても楽しいものである。ある児童は、筆者のあご髭(さほど伸ばしているわけでもない)がよほど気になったのか「仙人にでもなるつもりですか」と真顔で聞いてきて、教室に来ていた校長先生が恐縮されるという一コマもあった。

キントーンを活用した理科の授業とは

昨年末に行われた「トレンドハンター」は、3単元を使った特別な内容だった。しかし、新しい実証授業は、通常の時間割の科目の中でキントーンを利用していくという。対象になる科目は「理科」だ。

小学4年生の理科では、1年を通して季節ごとに「生き物たちの観察」という内容がある。ねらいとしては、季節ごとに生き物にどのような変化があるか発見し、身近な自然に親しむといったことがあげられる。この授業にキントーンをどう活用するのだろうか、

授業の冒頭で、児童たちは2人1組で1台のタブレットPCを開き、キントーンにログインしていく。今回のカリキュラムでは、児童一人ひとりにキントーンのアカウントが用意されている。

取材時の授業は、児童たちはキントーンに触るのは2回目だ。前回初めてログインするときは、キーボードからIDやパスワードを入力するだけで授業のかなりの時間を使ってしまうなど、児童たちには一苦労だったらしい。しかし、頭の柔らかい小学生である。さすがに憶えは早く、今回は比較的スムーズに進んだようだ。

2人1組で1台のタブレットPCを利用する児童たち

児童たちは、前回の授業で桜の木の観察をしており、その内容を紙の「かんさつカード」に記入していた。このカードは、スキャンして共有フォルダにすでに登録された状態である。

ログインできたところで、あらかじめ用意されているキントーンの「生き物の観察」アプリに自分が観察した内容を登録していく。まだキーボードの操作に慣れていない児童たちは、ここでは、当日の温度、天気などの入力しやすい最低限の情報のみを入力して、自分の「かんさつカード」のスキャンデータをキントーンの添付ファイルの機能を使ってアプリに登録していった。

キントーンのアプリに観察した内容を登録したところ

これだけの人数が操作をしていると、小さなトラブルや遅れはつきものである。サイボウズの中村氏もサポートに回り、無事に登録が終了した。

自ら児童たちをサポートするサイボウズの中村氏(右)

友達のいいとこ発見カードで他の子の気づきから「気づき」を得る児童たち

登録作業が終わったところで、授業は次のステップに進む。キントーンのアプリを見ると、児童たちが登録した内容が一覧形式で表示されており、それぞれが登録した「かんさつカード」をスライドショーのように見ることができる。他の児童の観察記録を見ることで、気がついた点を「友達のいいとこ発見カード」に記入していくという流れだ。

登録されたかんさつカードをスライドショーのように見比べる

児童たちは、観察記録を眺めながらあれこれ考えている様子。こういう気づきは、なかなか最初の1つが出にくいものだが、先生の声がけや隣同士のやりとりなどから徐々に集中してカードに書き込みを進めていった。

いいとこ発見カードに集中する児童たち
中には、たくさんの友達の“いいとこ”を発見する児童も

科目の授業で期待されるキントーンの役割とは

今回の授業は、平日の通常の時間割の中で行われたこともあり、45分という比較的短い時間の中で終了した。次の授業までの休み時間の間を利用して、担任の山崎先生に簡単にお話を伺うことができた。

山崎先生は新任3年目のフレッシュな先生である。昨年度まで低学年の担当だったため、今年初めて「理科」の授業を行うことになるそうだ。現在、小学校低学年では「理科」ではなく「生活科」という科目になっているため、こういうことが起きるのだとか。

山崎先生は、初めての「理科」の授業で、キントーンを利用する新しい授業ができるということで大変モチベーションもあがっている様子だった。校長先生も「新しいことに先生自ら取り組む姿勢」をしっかりバックアップされている様子だった。

小学校の授業では、まだまだ多くの「紙」が利用されており、児童たちが取り組んだ内容もその記録を手元に残すことが難しかったという。児童たちの成果物は、家庭に持ち帰ってしまうことが多く、「調べて書いてそれで終わり」になっていることが珍しくないらしい。

今回のキントーンの授業では、観察記録がキントーンの中に蓄積されていくことで、「児童1人ずつの学び」「児童同士の振り返り」、さらに「学校の先生と教室全体で学び合いに利用すること」が考えられ、これこそがキントーンを通年の科目で使う大きな意味と言える。キントーンを活用して学びのやり方を変えるのだ。

この実証授業では、今回行った理科に加えて「国語」の授業でもキントーンを利用していく予定だという。これまでは大人があらかじめ用意したキントーンのアプリを使っていたが、子どもたちが自分で使うアプリの開発もするそうだ。キントーンを利用するプログラミング教育が、学校の中で1年を通してどのような形となり児童たちの学びにつながっていくのか、継続的にレポートしていきたいと思っている。

担任の山崎先生とひょっこり顔をのぞかせる児童たち

新妻正夫

ライター/ITコンサルタント、サイボウズ公認kintoneエバンジェリスト。2012年よりCoderDojoひばりヶ丘を主催。自らが運営する首都圏ベッドタウンの一軒家型コワーキングスペースを拠点として、幅広い分野で活動中。 他にコワーキング協同組合理事、ペライチ公式埼玉県代表サポーターも勤める。