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主体的な学びを育むポートフォリオとは何か?──「ICT教育研究会 with Classi in Meisei」レポート

年度末も慌ただしい3月28日、明星中学校・高等学校とClassiの共同主催により、教育プラットフォームサービス「Classi(クラッシー)」の活用事例やノウハウを共有する「ICT教育研究会 with Classi in Meisei」が開催された。

Classiを利用する主に高等学校(中校一貫校も含む)の現職の先生方約300名が集まり、活用事例や指導ノウハウの共有が活発に行われた。この研究会の大きなテーマの1つは、「ポートフォリオ」の活用だ。高校における「ポートフォリオ」とは何なのか、半日に及んだ基調講演と分科会の様子をお伝えする。

教育プラットフォームサービス「Classi」とは

会場となったのは、明星学苑の府中キャンパス。ここには幼稚園、小学校、そして研究会を共同主催された明星中学校・高等学校がある。明星学苑は、1923年に設立された歴史のある学校であると同時に、iPadを利用したICT教育にもいち早く取り組んでいる。今回の研究会は、Classiを利用する学校同士で知見を共有できたらよいのではないかという同校の思いから企画されたそうだ。

会場となった児玉九十記念講堂
冒頭で挨拶する明星中学校/高等学校の畠山武校長

ここで、Classiについて、簡単に説明しておこう。Classi社は、2014年にベネッセホールディングスとソフトバンクが共同で設立した、比較的新しい会社だ。提供する教育プラットフォームサービスClassiは、2017年12月現在で2100校の高等学校及び中高一貫校で利用されている。

この2018年4月より、Classiに新しい機能「Classiポートフォリオ」が追加された。この機能は、全国の中学・高等学校における生徒約1,500人、先生約350人を対象に、2016年から行われた「ポートフォリオ」の実証研究の成果に基づいて開発されたものだという。

研究会の基調講演に登壇されたのは、東京学芸大学の森本康彦教授だ。先の実証研究にも参加され、さらに「Classiポートフォリオ」の監修も行っている、この領域における第一人者である。

ここまで登場してきた「ポートフォリオ」という言葉自体は耳にしたことがある人も多いだろう、しかし高校における「ポートフォリオ」とはなにを差しているのか? 教授による基調講演のタイトルは、ずばり「なぜ、今高等学校でeポートフォリオが求められるのか─求められる本当のポートフォリオとは─」である。講演を振り返りながら見ていくことにしよう。

大きなパラダイムシフトを迎える教育観

森本康彦教授

森本教授は、まず教育観のパラダイムシフトという大きな流れについて語った。

背景には、21世紀に求められる新しい人材像、そして学習指導要領改訂でもキーワードとなっている「主体的で対話的な深い学び」をどう実現していくかという大きな課題がある。

教授は、例として「ポケモン」に親しむ子供達を紹介する。子供達は誰に習うこともなく、図鑑にすれば膨大なポケモンに関する情報を勝手に習得していく。子供達の「わかった!」という気づきこそがすなわち「学び」なのだ。

子供達の「わかった!」という気づきこそが学び。教育観は大きなパラダイムシフトを迎えると熱弁を振るう森本教授

eポートフォリオが果たす学びのサポートとは

この「気づき」を促す有効な手段として、「振り返り(リフレクション)」という学習活動がある。生徒達自身が、自分の学んだこと、部活動や校外活動を記録し反芻することが、気づきにつながっていくという。この記録を収集した物が「ポートフォリオ」である。ポートフォリオは、ノートなどの紙ベースでも有効だが、そのままでは利活用に限界がある。そこで、ネットワークで場所や時間に関係なく利用できる電子化された「eポートフォリオ」という考え方が登場してくる。

このeポートフォリオを使うことで、生徒個人だけでなく、生徒同士、さらに先生を加えた学びのコミュニティをつくり、学びの循環を生み出すことができると森本教授は語る。これが、eポートフォリオを活用した学習者が主体的に学ぶ、アクティブラーニングの考え方である。

アクティブラーニングを支援するeポートフォリオ

90分を越える熱のこもった基調講演に続いて、新機能である「Classiポートフォリオ」が紹介された。「eポートフォリオ」のシステムをどう具体化し、どう活用すればアクティブラーニングにつながる学びの循環を生み出すのか、実証研究の結果の一端についても語られた。例えば、学びの記録を促すにはどのような先生側からのアプローチが有効なのかといった具体的な活用ノウハウだ。

学び合いというキーワードが目立った実証校からの発表

続いて、会場を生徒達が普段使っている校舎に移して分科会が行われた。まず、実証実験に参加した、北は秋田県から南は長崎県にいたる現場の先生方による事例紹介だ。学校の現場からの話はどれも大変興味深いものであったが、同じ時間帯に教室ごとに分かれての発表となったため、ここでは、特に筆者が印象に残った事例を紹介させて頂く。

佼成学園中学校・高等学校の北野先生、横木先生からは、英語の授業におけるeポートフォリオの活用事例が紹介された。

横木先生は、この実証実験への参加に伴い、授業のやり方を今までとは大きく変えることで実際に効果があがったと語る。具体的には従来の一斉授業から、グループによる学び合い/教えあい中心に変えたのだという。

「英語を教えることをやめました」という横木先生の話は、参加していた現職の先生方にとってはかなり衝撃的だったようだ。学習者主体の学びに大きく舵を切ることで、先生自身が注力すべき教材開発や生徒1人1人のフォローに時間を割けるようになったのだという。そして、これが肝心なところなのだが、定期テストの結果がはっきり見える形で向上し、他の教科の先生達も関心を寄せたそうだ。

「英語を教えることをやめました」という衝撃の言葉を発する佼成学園の横木先生

他の事例紹介でも、この「振り返り」「気づき」「学び合い」という言葉は端々で聞かれ、eポートフォリオを活用することで生徒達(学習者)の学びのサポートにつながったという貴重な体験を伺うことができた。

日本の各地から集まった現職の先生達のお話はどれも熱のこもった内容だった
長崎南山中学校・高等学校 徳田先生による振り返りの効果についてのお話
佼成学園中学校・高等学校 北野先生による学び合いの実際についてのお話
咲くやこの花中学校・高等学校 井上先生による探求学習についてのお話

Classiと連携する様々なICTサービスも紹介、会場となった明星学苑生徒によるプレゼンも

分科会はさらに続き、Classiと連携可能なパートナー各社の教育向けサービスの紹介が行われた。こちらも、同じく教室に分かれての同時進行となったため、いくつかピックアップしてご紹介させて頂く。

例えば、アクティブラーニングの教材として実績のある教育と探求社の「クエストエデュケーション」、スマホアプリの開発ツールとして一般企業でも利用されている株式会社アシアルが提供する「Monaca(モナカ)」もClassiと連携している。このような連携サービスは、Classi上のIDでそのまま利用することが可能になっている。ClassiがICTサービスのプラットフォームとして機能しているのだ。提供されている連携サービスについては、関連リンクを参考にして頂きたい。

ユニークな連携サービスがそろっているのもClassiの特徴。Monacaを提供するアシアルのお二人からはプログラミングに関する楽しいトークが
CNNを使った英語教材「CNN ENGLISH」の紹介
動画を使った英語教材「ENGLISH CENTRAL」の紹介
エスコラピオス学園 海星中学校、海星高等学校 木村先生からクエストエデュケーションによる探求学習について

最後に1つご紹介しておきたいのが、会場となった明星中学校・高等学校の生徒によるプレゼンだ。はじめて目にする各地の先生達の前で、堂々と自分たちが体験しているICT教育の実際を紹介してくれた。

明星中学校・高等学校では、中学3年生から全員にiPadが支給され、学校からの連絡などコミュニケーションツールとして普段から利用されているそうだ。授業の中でも小テストに利用され、先生による正解率の分析などに生かされているという。「支給されたばかりで慣れないうちは、iPadをうっかり忘れて授業に支障が出てしまった」「面と向かっての雑談が減ってしまった」などの生徒ならではの生々しい話も出て、会場を沸かせていた。

生徒の立場からのICT教育についてプレゼンする明星中学校・高等学校の生徒さん
大役を果たした後、笑顔を見せてくれた

変革を迎える大学入試制度とeポートフォリオ

分科会の終了後、会場を再び講堂に移して、Classiの加藤理啓氏によるクロージングが行われ、「ポートフォリオ」とは何なのかについて改めて振り返りの時間が設けられた。

クロージングに立つClassiの加藤理啓氏

ここ数年、2020年からの小学校の「プログラミング教育の必修化」という言葉が話題になっているが、同じ年度から、大学入試も現在のセンター試験から「大学入学共通テスト」へと変わり、国語/数学の記述式問題の追加、英語における「読む」「聞く」「話す」「書く」の4技能評価、そして高校3年間の活動をまとめた「調査票」がこれまでのAOや推薦入試だけでなく一般の入試でも大きな比重になると見られている。調査票の元になる高校生活の記録を残す方法として「eポートフォリオ」が注目されてきたのだという。

こうした中で、本当に重要なのは森本先生の基調講演にあった、生徒が主役の学びの循環・スパイラルへの転換だ。eポートフォリオは、それを支援するツールであり、決して大学への出願のためのものではない。今回の研究会で発表された報告でも、授業のやり方を変えることで大きな成果があがっていることがわかった。主役は学習者である生徒達なのだ。

新妻正夫

ライター/ITコンサルタント、サイボウズ公認kintoneエバンジェリスト。2012年よりCoderDojoひばりヶ丘を主催。自らが運営する首都圏ベッドタウンの一軒家型コワーキングスペースを拠点として、幅広い分野で活動中。 他にコワーキング協同組合理事、ペライチ公式埼玉県代表サポーターも勤める。