こどもとIT
Scratch作品やロボットプログラミングのコンテスト、パネルディスカッションなど盛りだくさんの「かしわ教育フォーラム」レポート
2018年4月10日 06:00
2018年2月25日、千葉県柏市のモラージュ柏において「かしわ教育フォーラム」が開催された。かしわ教育フォーラムは、子ども達の未来に向けた学びの姿を考えるために、柏市教育委員会が主催して行われたもので、今回が初の開催となる。柏市は、プログラミング教育において全国でも先進的な取り組みをしており、2017年には柏市内の市立全小学校においてプログラミング実習を行っている。
かしわ教育フォーラムでは、「スクラッチ作品コンテスト」の最終審査、「ロボット作品コンテスト」の決勝戦、有識者4名によるパネルディスカッションが行われた。それぞれの様子をレポートする。
子ども達がScratch(スクラッチ)で作成した作品をプレゼン
最初に、スクラッチ作品コンテストの最終審査が行われた。このコンテストは、プログラミング言語のScratch(スクラッチ)を使った作品ならばテーマは自由。「小学4年生以外の部」と「小学4年生の部」に分かれて募集と審査が行われた。
スクラッチ作品コンテストのテーマは自由で、アイデア、技能、プレゼンテーションのアピール能力などを総合的に審査する。すでに1次審査と2次審査は終了しており、小学4年生以外の部と小学4年生の部で、それぞれ3作品が選ばれている。その最終審査が、この会場でのプレゼンテーションとなった。ファイナリストたちは、ステージ上で、作品の特徴やプログラミングで工夫したポイントなどのプレゼンテーションを行った。
小学4年生以外の部
まずは小学4年生以外の部の発表が行われた。
最初にプレゼンテーションを行ったのは、“田中スクラッチラボ”のメンバーである。田中スクラッチラボの作品は、自分が通う田中小学校に植えられている樹木を紹介する「柏市立田中小学校たんけんツアー」である。
以前に作成した樹木マップをベースに、ゲーム的な要素を加えたものだという。たんけんツアーを起動すると、学校の地図が表示され、地図の赤い丸印がついた“たんけんスポット”をクリックすると、その場所にちなんだクイズが出題される。正解なら○が表示され、間違えると解説が表示される。背景はペイントやPowerPointを使って描いたそうだ。また、Raspberry Piでもこの作品は動くという。
次に、水澤秀瑛さんがプレゼンテーションを行った。水澤さんの作品は、本格的な縦スクロールシューティングの「弾幕シューティングゲーム」である。
弾幕という名に恥じない、多数の弾をばらまく敵や耐久力の高いボスも登場する。ボスの耐久力は棒グラフで表示されているが、これはスプライト(画像)を100枚用意して、攻撃を受ける度に次のスプライトに変わるようにして実現したそうだ。
小学4年生以外の部のもう一名のファイナリストである西尾妃叶さんは、残念ながら当日は欠席だった。
小学4年生の部
続いて、小学4年生の部の発表が行われた。
まずは、佐藤空音さんがプレゼンテーションを行った。佐藤さんの作品は、鉛筆削りを題材にしたゲーム「pencil shapener」だ。左から鉛筆やつくし、こけしが飛んでくるので、素早くボタンを押して正しい対応を行うものだ。鉛筆削りは身近なものだが、鉛筆を削ることにしか使われていないので、鉛筆以外のものが出てくるようにして反射神経を競うようにしたという。今後はもっと他のアイテムや便利アイテムを登場させ、もっと楽しく遊んで貰えるようにしたいと語っていた。
続いて、仲川漣さんは、アニメーション作品「さるかに合戦」のプレゼンテーションを行った。この作品は、夏休みの学校の自由研究で作ったものだ。アニメーションの画像は全部で12枚、約50秒間の作品である。主人公はかにで、雨が降るのを待っている。雨が降ると“漣ポイント”が貯まり、一定値になると、柿の芽が出て、木が大きくなっていき、最後に虹が出るという内容だ。最後にはオチもちゃんと付けられており、観客から笑いがこぼれた。
最後にプレゼンテーションを行った村松拓磨さんの作品は、「鬼ごっこ」というゲームだ。村松さんは、身の周りの遊びをスクラッチでも作ってみたいと思い、鬼ごっこを題材にしたという。
ルールは簡単で、自分のキャラクターを動かして鬼から逃げ回ればよい。逃げ回った時間がそのままスコアとなる。レベルが2レベルあり、難易度とキャラクターが変わる。レベル1では、自分が青い丸、鬼が赤い丸になり、レベル2では、自分がネズミ、鬼が猫になる。プログラムで工夫したのは、ステージが変わると鬼の速さが変わるようにしたことだという。
ファイナリストによるプレゼンテーションは、みなしっかりしており、素晴らしかった。
ロボット作品コンテストの決勝戦が行われる
会場では続いて、ロボット作品コンテストの決勝戦が行われた。
このコンテストは、プログラミングロボット「mBot」をスクラッチでプログラミングし、制限時間3分間で、コース上に設定された4つのゴールを何回、通過または停止できるかを競うものだ。ゴールによって点数が設定されており、2点、10点、15点、60点の4種類となっている。2点と10点のゴールは、円内に停止する必要があるが、15点と60点のゴールは円内を通過すればOKだ。また、同じゴールを連続で狙うことは禁止されている。
コンテストの予選には、全部で19チームが参加し、柏第六小学校の「チームMMM」と、大津ケ丘第一小学校の「スカイブルー」の2チームが決勝に残った。2回ずつトライアルを行い、その合計点数を競った。
チームMMMは、60点のゴールをライントレースで狙うのではなく、決めうちで曲がって通過する作戦をとった。コースは前もって公開されているので、ゴールを通過できるように調整を繰り返したとのことだ。チームMMMは、60点のゴールと10点のゴールを交互に狙う戦略を取っていたが、1回目のトライアルでは、円内に停止しないと得点にならない10点のゴール内にうまく停止できず苦戦していた。その後プログラムを修正し、2回目のトライアルでは10点のゴールも獲得できていた。
スカイブルーは、60点のゴールを狙う際に、途中までは決めうちで移動し、途中からセンサーを使ったライントレースで移動するという戦略をとっていた。最初からライントレースをやると、時間がかかるためだ。
コンテストの表彰式
最後にプログラミング作品コンテストとロボット作品コンテストの表彰式が行われた。
ロボット作品コンテストの優勝者は柏第六小学校の「チームMMM」、準優勝は大津ケ丘第一小学校の「スカイブルー」となった。
柏市教育委員会教育専門アドバイザーの西田光昭氏は、「子どもたちは、速く移動するにはどうするか、確実にゴールに行くにはどうするか、私たちが想像した以上の色々な工夫をしていた。その成果が今日に表れています」とコメントした。
スクラッチ作品コンテスト「小学4年生以外の部」の最優秀賞は田中スクラッチラボ、優秀賞は水澤秀映さん、特別賞は西尾妃叶さんとなった。また、「小学4年生の部」の最優秀賞は佐藤空音さん、優秀賞は村松拓磨さん、特別賞は仲川漣さんとなった。
聖徳大学教授の南部昌敏氏は、「どの作品も甲乙付けがたい素晴らしい作品で、選ぶのに大変困りました。1学期に、柏市内の小学校4年生約3600人全員を対象にスクラッチの指導を行い、課題を全員がクリアして、素晴らしい作品ができました。今日ここにいる3チームは、学んだことをそのままにせずさらに発展させて、素晴らしい作品に仕上げましたね」とコメントした。
「これからの社会と子どもの学び」がテーマのネルディスカッション
また、会場では、「これからの社会と子どもの学び」と題したパネルディスカッションも行われた。パネラーとして参加したのは、若宮正子氏、新津勝二氏、後藤義雄氏、宮島衣瑛氏の4人である。
若宮正子氏は、60歳でパソコンと出会い、80歳でプログラミングを始め、iPhone用ゲームアプリ「hinadan」を作成したことで有名になった。アップルの開発者向けカンファレンス「WWDC」にも招待されるなど、多方面で活躍している。
新津勝二氏は、2017年3月まで文部科学省で約30年の間、教育行政に携わり、情報教育振興室長として小学校のプログラミング必修化に取り組んだ。現在は九州大学で総務部長を務めている。
後藤義雄氏は、ベネッセコーポレーションのプログラミング教育PJリーダーを務めており、シリコンバレーでのプログラミング教育に取り組んだ経験がある。
宮島衣瑛氏は、一般社団法人CoderDojo Japanの理事で、子どものためのプログラミング道場「CoderDojo」を運営している。柏市と「CoderDojo Kashiwa」は互いに協力関係にあり、分担して子どもへのプログラミング教育を行っているという。2017年5月14日には「ScratchDay in Kashiwa」が開催され、主催はScratchDay in Kashiwa実行委員会だが、共催として柏市教育委員会とCoderDojo Kashiwaも名を連ねている
これからの時代を生き抜くには考える力と実行する力が重要
まずは司会から、「2030年頃の社会はどうなっているのか、そのためにどのような学びが必要なのか」という問いかけがなされた。
宮島氏は、「これからの時代を生き抜くための学びは、学校とか家とかの枠組みにとらわれないほうがいい。場所にこだわらず、いろんなところを横断して、未来に生きる力を考えなくちゃいけない。未来を創る力は2つあると思っている。1つめが考える力、考えなくても幸せに生きていける時代だからこそ、社会や物事を捉え直して考えることが大事だ。2つ目は実行すること。机上の空論という言葉があるように、考えただけではどうにもならない。何かを考えてアイデアを出したあとはそれを実行しなければならない。プログラミングのようにものを作るのもいいし、コミュニティを作ってもいい。その力がこれから重要になってくる」と語った。
後藤氏は、「問題を発見する力、それをチームで解決する力が重要だと考えている」とした。一方で「私はアメリカに6年ほど住んでおり、私の子ども4人はアメリカの普通の公立で育ったが、そこではポートフォリオという言葉がよく出てきた。これは、学校の勉強はもちろん、それ以外の活動でも何をやってきたのかを他人のコメントを交えてまとめたものだ。そのポートフォリオが大学入試や就職に直結する。社会のシステムがそういう風になっているのは面白いと思う」と語った。
続いて新津氏は、「10年後、20年後は、日本においても労働人口の約半分が人工知能やロボットで代替可能になり、今の職業の多くはなくなっていくと言われている。しかしそれに代わって新しい職業が誕生してくるでしょう。最も大事なことは、人工知能やロボットにはない人間の強み、思いやりの心とか協調性を生かした職業は必ず未来に残るということを前提にして、子どもの教育に取り組まないといけない」とした。
一方で新津氏は、子どもたちの読解力が低下していると言われていることに触れ、その原因として長時間のSNSやオンラインゲームがあるのではないかと警鐘を鳴らし、その時間をできればプログラミング体験や、ゲームやアプリなどの“もの”を作る時間に変えてほしいとした。
また、新津氏自身が九州大学で働いている実体験から、大学も真剣に教育改革をしていると述べ、「入試も、暗記中心のマークシート方式のセンター試験から、思考力、判断力、表現力なども判定していく方向へ変わっていく」と語った。
若宮氏は、「昭和のプログラマーは、仕事のためにプログラミングをしている方が多かった。平成になりスマホアプリなどが出てきてから普通の人もアプリを作るようになった。さらにその先は、自分の欲しいアプリを自分で作る“マイアプリ”の時代になると思います。いずれはプログラミングというのは不要になって、コンピューターと普通の日本語で対話しながらアプリを作れる時代も来るんじゃないでしょうか。だから、これからのプログラミングで大事なことは“何を作りたいか”だと思う」と述べた。
大学1年生の8割がタイピングができない
次に、今の子ども達がこれからの変化の激しい社会を生き抜いていくためには、どんな学びや体験をしていったらいいのかという問いかけがなされた。
この問いに対して宮島氏は、「大事なポイントが3つあると思う。1つ目はコンピューターを使いこなしていくこと。プログラミングの前にコンピューターを使いこなして、真のデジタルネイティブを目指そう。2つ目は、学校の外に出ること。学校だけ、家だけではなく、いろんなコミュニティに参加することが大事な時代になる。自分の武器となる得意なものを作ろう。3つ目は、自分がやっていることを発信し続けること。自分が何をやっているのかを他人に話すと、興味を持ってくれる人が出てきて、さらに広がっていく。この3つを心がけると、とても強い人になる」と語った。
後藤氏は、「2020年度から小学校でプログラミングが必修化される。といっても、既存の教科の中で、教科の学びを深めるような形でプログラミングを使っていきましょうという流れなので恐れすぎる必要はない。学校の中での学びは『知識・技能』『思考力・判断力・表現力』『学びに向かう力』の三本柱となっており、プログラミング教育はプログラミング的思考力を育てるということだ」と語った。また、時代が進んでいく中で、テクノロジーも進化していくため、社会人になっても学び続けることが大切だとした。
新津氏は、「10年ぶりに改訂した小学校の学習指導要領に、『すべての学習の基盤となる資質、能力』として、昔から重要と言われてきた言語能力に加え、情報活用能力と問題発見解決能力が明記されたことはとても大きい。必要なICT環境を学校に整えるとともに、コンピューターに意図した処理を行わせるための論理的思考力を身につけるための学習活動を、それぞれの教科の中で取り入れていく」とした。
また、九州大学では2013年から全学生へのPC必携化を実施しているが、パソコンを授業で使う時に、毎年新入生の8割がタイピングができず、パソコン研修に時間を取られてしまうという。「小中高の教育の大きな宿題が残ってしまっているのではないか」と語った。
また新津氏は、2019年4月から九州大学において51年ぶりに設置される新学部「共創学部」にも触れた。同学部では、文理融合の分野横断教育を行い、自ら課題を見つけることができる能力、他者と共同して課題を解決する能力、国際的にコミュニケーションできる能力、他者と協力して知識を統合する能力を修得できるようにしていくという。
最後に、若宮氏が次のように語った。「これからの社会を生き抜くために必要なのは“創造力”と“人間力”だと思っている。人工知能は、1から1億は作れるが、0から1を作るのは苦手だそうだ。創造することこそ、人工知能ではできないもっとも人間的な活動だ。そのため親もクリエイティブな暮らしをする姿勢が大事だと思う。また、人間力はこれからのキーワードになる。自立した1人の大人として力強く生きていくための総合的な力、あるいは世界的な視野で主体的に考える力、すなわち人間力を身につけるには、色んな人間と幅広く付き合うことが大切だ」。