こどもとIT

商店街のPRアニメ制作や、Pepperを使ったお手伝いプログラミング──環境の異なる遠隔地の小学校同士が交流授業を実施

2018年3月5日、神奈川県横浜市立大岡小学校(以下、大岡小)の6年生と、遠く離れた佐賀県武雄市立山内西小学校(以下、山内西小)の4年生が、プログラミングを使って取り組んできた活動を発表しあう交流授業が行われた。

教室全体を映し、子ども達は画面に向かって話しかけるスタイル。Skypeで教室同士をつないだ

両者取り組んだ内容も学年も条件も全く違うが、お互いの活動を知って様々な感想を得たようだ。

クラスでiPad3台!大岡小はアニメーション制作に取り組む

大岡小の6年2組は、「総合的な学習の時間」に、クラスで決めた「お世話になった地域に恩返しをしたい」をテーマに年間を通して活動してきた。地元の弘明寺商店街、横浜市南区役所、横浜国立大学の留学生会館に取材する中で、商店街と留学生の結びつきを深める重要性に気付く。自分たちが両者の「懸け橋」になろうと交流会などを経て、商店街の魅力を留学生に紹介するために、言葉の壁を越えられるアニメーション動画を作ることにした。

相談を受けたディ・エヌ・エー(DeNA)が、制作のツールとしてタブレットやスマートフォン、PCなどで使用できるプログラミング学習アプリ「プログラミングゼミ」を紹介し協力、子ども達はプログラミングを使ったアニメーション作りに取り組んできた。DeNAは操作の説明やサポートで4回授業に関わり、子ども達が主導して制作を進めた。

「プログラミングゼミ」のインターフェース。 ブロックタイプのビジュアルプログラミング。アニメーションを作るだけでなく、アプリ内で動作するゲームなども作ることができる

とはいえ、大岡小は機器が充実しているというわけでは決してない。学校にあるタブレット端末は少なく、クラスで同時に使えるiPadはわずか3台だったという。それでも工夫をこらして、グループごとにアニメーション作りを行ってきた。

台数が少ないということは、子どもが直接端末に触れる機会も減ってしまう。そこで、6年2組では、プログラミングの部分の学びを深めるために、例えば「ハートがどきどきするような動き」「キャラをくるくる回す」「歩いているような動き」など、部分的な表現ごとに、どうやってプログラミングで実現したかを紙に書き出して共有した。それは「技のデパート」と名付けられ壁面いっぱいに張り出され、子ども達が相互に参照しあえるようになっている。

直接端末に触れる機会が少なくとも、様々なアニメーションパターンのロジックを『技のデパート』として共有する工夫がされていた

大岡小のように限られた環境でも、オフラインでの情報共有を強化する工夫でプログラミングの学びを実現できたことは、機器の整備が追いついていない学校にとって参考になるだろう。

作ったアニメーションを発表して意見交換

子ども達は、アニメーションを作るまでの経緯と、プログラミングに取り組む中でどんな工夫をしてどんな力がついたかを発表し、実際に制作したムービーを紹介した。

このアニメーションはYouTubeで公開され、弘明寺商店街のホームページからまとめて見ることができる。3つ制作されたうちのひとつを掲載しよう。

大岡小の子ども達が作った弘明寺商店街PRのためのアニメーションのひとつ

動画を見た山内西小の子ども達からは「キャラクターがかわいくて商店街のPRができていると思いました」「横浜に行ってみたいと思いました」などの感想が出てきた。大岡小サイドでは「『行ってみたい』はうれしい」という声があがる。大岡小からの「アニメーションを見てアドバイスをください」という問いかけには、山内西小から「キャラクターに声を入れるといいと思います」「どこの場所なのか文字が入るとわかりやすいと思います」などの意見を聞くことができた。

大岡小のアニメーション作りは、決して機器ありきとかプログラミングありきで始まったわけではない。「総合的な学習の時間」の学びの流れの中で、たまたまアニメーションを制作することになり、そこにプログラミングがたまたま入り込んだという自然な流れの中で行われた。そのため、作りたいモノの大きな目的ははっきりしていて、かつその内側で自由度高く作るという幅が担保されていたわけで、限られた時間でのモノ作りの前提としてはとても良い条件だったのではないだろうか。

ICT活用先進エリアの山内西小はPepperにプログラミング!

一方の山内西小は、ひとり1台タブレット端末を所有している環境だ。武雄市は教育現場でのICT機器活用にとても積極的で、2014年には市内の全小学校で全学年1人1台体制をスタートしている先駆的なエリアだ。DeNAは、武雄市、東洋大学との共同実証研究で、2014年から山内西小のプログラミング教育に3年間携わった。その活動の中で「プログラミングゼミ」は生まれブラッシュアップされ、2017年10月にはアプリとして一般に無料でリリースされている。

2017年度、山内西小はソフトバンクグループの「Pepper社会貢献プログラム スクールチャレンジ」に参加し、人型ロボット「Pepper」を使ったプログラミング学習に取り組んでいる。

今回は4年生が「お母さんを笑顔にするペッパー」をテーマにPepperのプログラミングに取り組んだ成果を発表した。忙しいお母さんを助けたいというきっかけから、お母さんにアンケートを行い「大変だと思うこと」を調査。「料理、買い物」のふたつを手伝うロボットを作るという想定でプログラミングに取り組んだ経緯を紹介した。

続いて、実際にPepperとのやりとりが実演され、子どもが話しかけるとレシピを教えてくれたり、足りないものがあると買い物に行ったり(一定の距離を進んでまた戻ってくる)する様子が展開された。料理手順の合間で音楽に合わせてダンスのように身体を動かすパフォーマンスも。

山内西小でPepperとのやりとりを実演している様子
画面を通して実演を見る大岡小の子どもたち

山内西小が、プログラミングで工夫したポイントをプログラミングの画面を表示しながら説明すると、大岡小サイドからは、そのインターフェースの違いに大きな反応があった。大岡小の子ども達が取り組んだ「プログラミングゼミ」は、ブロックタイプのビジュアルプログラミングだが、Pepperは命令を線でつなぐタイプのビジュアルプログラミング。どちらもコードを書かなくてでも直感的にプログラムを組めるように考えられたものだが、見た目の違いに、高度なことをやっているイメージを持ったようだ。担任の益山正広先生が「図は違うけれどやっていることはどうかな?」と気づきを促すと、「あまり変わらない!」「同じだ!」と声をあげていた。

Pepperのプログラミングには命令を線でつなぐタイプのビジュアルプログラミング「Choregraphe(コレグラフ)」が採用されている
神奈川県横浜市⽴⼤岡⼩学校 6年2組担任 益山正広先生

大岡小からは「音楽があって料理が楽しくなりそうです」「大人でもないのに難しい作業をしていて尊敬しました」「ロボットと人間がしゃべっているみたいで、初めて見たのですごいと思いました」といった感想があった。出力がロボットであること、動いたり喋ったり音楽を流したりといったインパクトは子ども達にとっては大きいようだ。

まとめとしてプログラミング全体に関する質疑応答をお互いに交わし、環境やツールが違っても得られたことがお互い似ている部分があることを確認しあった。

遠隔交流ならではの面白さ&難しさ

遠隔交流という観点では、プログラミングとは関係ないが、質問や感想を交換するときに、しゃべり方のイントネーションの違いに気づいて興味をもっている子どもがいたのが印象的だった。違うエリアの子ども同士が交流しあう良さは、カルチャーの違いを感じられることにもある。また、Skype越しのやりとりにタイムラグが生じることに気づいた子どももいて、ネットワークの特徴を知るいい機会になったという声がスタッフからはあがった。

せっかく遠く離れた地域の子ども達同士が交流することの意味は、ていねいに準備されたやりとりの表面だけではなく、そうしたちょっとした気づきにもあるだろう。今はビデオ通話をする手段が豊富なので、教室対教室で発表するだけでなく、個人対個人、班対班をつないで、同じテーマについて話し合うようなことが、もっと気軽に積極的にできたら面白そうだ。

難しさという意味では、限られた45分間でスムーズに遠隔交流をするには、一方の学校の先生が中心になって計画通りにどんどん進める必要があり、ゆったりとしたやりとりはなかなか難しい。また、お互いの教室の映像とプレゼン用の画面の切り替えや、通信上の問題への対応は、専任のスタッフがいないと管理しづらいだろう。今回はDeNAのスタッフが両方の学校に入っていたが、学校だけでやろうとする場合はまだ苦労しそうだ。

小さな体験が大きな経験に

終了後、何人かの子ども達に話を聞いてみると、「初めてだったので最初は難しかったけれど、慣れてきたら面白くなってきた」という感想があり、子ども達がツールに順応する早さがわかる。またチーム単位でアニメやプログラミングを作成することで、自然と得意なことを得意な人が担当するようになった様子も伝わってきた。他の授業と比べるとどう感じたか聞いてみると、「自分の思った通りに動くから楽しい」「何度も動きを確かめられるのがいい」という声があがった。

自分たちの発想で自由にモノを作ること、何度も試してみながら完成させる試行錯誤の面白さをを少しでも感じられたなら、それはとても大きな経験になったのではないだろうか。大岡小の子ども達はこの3月で卒業。きっと、それぞれの新たな道でここで得た学びの面白さを深めるだろう。

狩野さやか

株式会社Studio947のデザイナー・ライター。ウェブサイトやアプリのデザイン・制作、技術書籍の執筆に携わる。「ICT toolbox」を運営し、家庭と学校のICTツールの活用アイディアやリアルな教育現場での取り組みについて発信している。