こどもとIT

子ども向けプログラミング体験ができる「Hour of Code JAPAN 2017」フィナーレイベントレポート

2017年12月4日から10日にかけて、特定非営利活動法人みんなのコードは、全国各地の小学校や地域の施設にて、子ども向けプログラミングの体験イベント「Hour of Code Japan 2017 社会みんなで実現する全国プログラミング」イベントを開催した。

イベントの最終日の12月10日には、日本マイクロソフト品川本社のセミナールームで、「Hour of Code Japan 2017」のフィナーレイベントが開催され、100組200名の子どもたちや保護者が参加、子どもたちが参加するプログラミングワークショップや、保護者向けの「インターネットセキュリティ」、「みんなのコードの活動趣旨」などのセミナーが開催された。

「Hour of Code」は、米国の非営利団体「Code.org」が、子ども向けのプログラミング教育の普及を目指した活動をする団体。毎年12月の「コンピュータサイエンス教育週間」には、180か国以上でイベントが開催され、全世界で約4億5000万人の子どもたちが参加している。日本国内では、「Code.org」の日本国内認定パートナーである特定非営利活動法人みんなのコードをメインに、民間企業、学校・教育関係者、社会人や学生ボランティアが活動を支援している。

フィナーレイベントに参加した子どもたち
みんなのコード代表 利根川裕太氏による開会の宣言

イベントの開催に先立ち、みんなのコード代表の利根川裕太氏より挨拶と開会の宣言が行われた。利根川氏は、「みんなでプログラミングを楽しんでもらえたらなと思います」と語り、これから3時間にわたりPCの画面を見るということで、まずは子どもたちと準備体操を行った。準備運動は単なる体操ではなく、利根川代表の「右を向く」、「一歩進む」などの指示に合わせて子どもたちがそれにあわせて動くもの。子ども向けプログラミングの基本、タートルグラフィックを彷彿とさせるものだ。準備運動を通じて子どもたちにプログラミングへの手がかりや発想への興味を与えるのはさすがだと思った。

フィナーレイベントと同時に全国7都市で開催されたプログラミングワークショップの様子も紹介された

オープニング終了後は、3つの会場でそれぞれ「Hour of Code 低学年コース」、「Hour of Code 高学年コース」の子ども向けプログラミングワークショップと、シマンテック提供の「シマンテックで安心!ネットセキュリティのお話」などが開催された。

Hour of Codeのコンテンツによるワークショップ

Hour of Codeのワークショップでは、Code.orgで提供されているブラウザベースのプログラミングコンテンツが利用された。課題は、アングリーバードに迷路を解かせるというもの。講師の指示のもと、プログラミングの基本を学ぶワークショップだ。このワークショップは、小学生低学年コース(69名)、小学生高学年コース(50名)にワープショップ会場を分け、それぞれ子どもたちのスキルレベルにあったワークショップが実施された。なお、ワークショップで使われた教材は、Hour of Codeで提供されていて、ブラウザで動作させることができるので、興味があったら是非とも試してほしい。

ここでは、アングリーバードがブタを捕まえるプログラミング方法を解説。プログラミングはScratchベースのブロックプログラミング言語を利用している。チュートリアルを進めるごとに、徐々に難しくなっていき、チュートリアルを終了すると、プログラミングの基本を学ぶことができるようになっている
ワープショップには、みんなのコードの多数のボランティアが参加。プログラミングに行き詰った子どもに積極的に声をかけてアドバイスする姿や、上手くできている子どもに対しては「すごいねー」、「がんばってやったねー」と褒める姿がいたるところで見受けられた
利根川代表とプログラミングの解法について積極的に意見を交換する子どもたち。ここでも子どもたちが主役。とかくプログラミングについては、自分自身の思考のみで考えることが多いが、子どもたちが積極的に意見を交換し、試行錯誤して答えを導くことも大切だ

ネットセキュリティとみんなのコードの活動趣旨

子どもたちがHour of Codeのワークショップを行っている間に、保護者向けにはネットセキュリティとみんなのコードの活動趣旨についてのセミナーが行われた。まずは、シマンテックの協力で、「シマンテックで安心!ネットセキュリティのお話」として、フリーWi-Fiの危険性についての説明が行われた。

Wi-Fiを利用することで、スマートフォンの通信料を節約することができるが、暗号化されていないフリーのWi-Fiや古い暗号化を利用しているWi-Fiは悪意を持つ第三者が通信を傍受することができる。たとえば、メールなどの通信内容、パスワードの傍受、どのようなWebページを見ているのかといった情報までわかってしまう。偽のWi-Fiスポットについても言及し、悪意のある第三者がWi-Fiスポットを立ち上げることで、そのWi-Fiに接続したスマートフォンやパソコンから、さらに多くの情報を入手できるようになる。

一般的にフリーWi-Fiは誰もが接続できるWi-Fiのこと。フリーWi-Fiには通信の暗号化といったセキュリティが適用されていないことや、セキュリティが脆弱であることなどの問題があると指摘
通信内容が傍受されるなど、フリーWi-Fiにはどんな危険があるのかをわかりやすく説明した

その後、実際にシマンテックの技術者によるデモンストレーションが行われた。スマートフォンやパソコンから送受信されるメールの内容、アカウントやパスワード、住所などの個人情報、リアルタイムにどんなサイトを見ているか、などの情報が簡単に抜きとられる様子が動画で紹介され、保護者からはどよめきが起こっていた。こうした事態を避けるためには、「フリーのWi-Fiはなるべく使わないようにする」、「どうしても使う必要があるならば、パスワードや個人情報を送信しない」、「適切なセキュリティソフトをインストールする」などの対処が必要であると説明された。

みんなのコード活動の紹介

ネットセキュリティの話に続き、利根川氏によるみんなのコードの活動趣旨の紹介が行われた。みんなのコードは、「すべての子どもがプログラミングを楽しむ国」にすることを目指して、企業や行政などとの協力のもと、学校の先生にプログラングの教え方を教える活動を主に行っていることが説明され、実際の活動の様子もビデオで紹介された。

プログラミング教育については、「早めにやっておくと将来役に立つだろうから」と子どもに接するのではなく、楽しそうだからやってみようといった立ち位置になることが大切。楽しいことをやっていると頭を使うので賢くなるのではないかと説明した。

さらに、会場に参加している保護者に対しては、「これからやってほしいこと」と題して、「自身の子どものためには、Hour of CodeのコンテンツやCoderDojoなどのプログラミングコミュニティ、プログラミングの学習塾などを通じて、子どもにプログラミングのチャンスを提供してあげてほしい」、「2020年度から始まる小学校のプログラミング教育必修化に向けて、地域の子どもたちのために、地元の学校が助けてほしいときは助けてあげてほしい」、「学校がプログラミング教育に積極的ではないならば、面談などを通じて声をあげてほしい」などと述べた。最後にみんなのコードのサポーター会員についての説明を行い、支援を呼びかけ締めくくった。

利根川氏による「みんなのコード」活動の紹介
「みんなのコード」サポーター会員についての説明

Hour of Codeでのワークショップを終えた子どもたちは、休憩のあと「プログラミングでMinecraftの世界を冒険しよう(協力:日本マイクロソフト)」、「作ってみよう!動かしてみよう!(協力:富士電機ITソリューション)」、「AdobeのモバイルアプリとScratchを使って自作キャラクターをプログラミング!(協力:アドビシステムズ)」のいずれかのワークショップに参加できるようになっていた。なかでも最も人気があったのがMinecraftのワークショップ。Minecraftを実際にプレイしたことがある子どもだけではなく、まったく未経験の子どもたちが多数参加していたのが印象的だった。

プログラミングでMinecraftの世界を冒険しよう

Minecraftのワークショップは、Minecraftの教育用エディション「Minecraft: Education Edition」と、Minecraftでプログラミングを行うための環境「Code Connection for Minecraft」を使って、簡単なプログラムを作る。このワークショップは、会場内で最も大きなセミナールームを使い、70人超の子どもたちが参加した。

ワークショップでは「Minecraft: Education Edition」や「Code Connection for Minecraft」の開発にたずさわった鵜飼佑氏が登壇。YouTubeでMinecraftの実況動画を公開しているHaru氏がゲストとして呼ばれた。

「Minecraft Education Edition」、「Code Connection for Minecraft」の開発に携わった鵜飼佑氏が登壇。Minecraftを使ったプログラミングの楽しさなどを語った
YouTubeでMinecraftの動画を多数アップロードしているHaru氏もゲストとして登壇。

鵜飼氏が「マイクラってどんなゲーム?」と子どもたちに尋ねると「街づくりゲーム!」と元気な声が聞こえた。Minecraftは、オープンワールドのサンドボックスゲームで非常に自由度が高いのが特徴。さまざまなブロックを自由に配置して街や世界を作ったり、自動生成される世界を探検したりするものだ。特に決められたゴールや目標はなく、自由に好きなことができるので、子どもを中心に流行している。

Code Connection for MinecraftはMinecraftの世界でプログラミングができるようにするためのアドオンツール。これを利用すると、ScratchやMakeCode(Microsoftが開発したブロックプログラミング言語)で自由にプログラムを作り、作ったプログラムはMinecraftの世界で実行することができる。

一番の特徴は、プレイヤーとは別にエージェントと呼ばれるロボットが新たにゲームの世界に登場すること。基本的には、エージェントをプログラミングすることになる。プログラミングをするとピラミッドのような大規模な建築物をエージェントに作らせるといったことが可能だ。

参加している子どもたちの中にはMinecraftをプレイした経験がない子どもも多かったため、Minecraft内のキャラクターの移動やインベントリから物を置くといった基本操作の解説を行い、プログラミングを行うと、アレックスやスティーブ(Minecraft内のデフォルトキャラクターの名前)ではできないことができるようになると説明した。

さっそくMinecraftで遊び始める子どもたち。すでにプレイしたことがある子どもたちは、さっそくブロックで色々なものを作り始めていた
Code connection for Minecraftを使うと、さまざまなプログラミング言語を使ってMinecraftの世界でプログラミングをすることができるようになる。画面に表示されているMakeCodeはMicrosoftが開発したScratchライクなブロックプログラミング言語。ループや条件分岐などのブロックを配置してプログラミングを行う

ワークショップでは、子どもたちと一緒に、エージェントを使った簡単なプログラムや、たくさんのニワトリを上空から出現させるプログラムなどを作成。さらに、ニワトリを倒したらニワトリが増えるといった、やや高度なプログラミングにも挑戦した。鵜飼氏の「なにか面白いことをやった子はいる?」という問いに対しては、「ニワトリを倒したらクリーパーが出るようにした!」、「もっとニワトリをたくさん出せるようにした!」など、一歩進んだプログラミングに挑戦した子どもたちや、「ニワトリは無限に出せるんですか?」と疑問点を鵜飼氏に質問している子どももいた。

なお、今回のワークショップではMinecraft: Education Editionを利用したプログラミング体験だったが、Code Connection for Minecraftは、Minecraft Windows 10 Editionでも無料で利用することができる。すでにMinecraft Windows 10 Editionを持っていれば、すぐにでもMinecraftでプログラミングを始めることができるので、ぜひ試してみてほしい。

AdobeのモバイルアプリとScratchを使って自作キャラクターをプログラミング!

アドビシステムズの「AdobeのモバイルアプリとScratchを使って自作キャラクターをプログラミング!」のワークショップは、自分で考えた「海の生き物」をAdobe Drowで描き、Scratchでプログラミングをして水槽の中をいきいきと泳がせるというもの。

ワークショップでは、まずAdobe Drawの操作について簡単な説明がなされたあとで、子どもたちが自由に自分のキャラクターを作った。作成したキャラクターは、回転やリサイズなどAdobe Drawの機能を使って加工したあとで、Scratchに取り込んでプログラミングを行った。このワークショップでも、ボランティアのみなさんが積極的に子どもたちに声をかけ、サポートしていた。ボランティアの方にお話を聞いたところ、「わからないと手をあげた子どもには、答えを教えるのではなくヒントを与えて、自分で答えを探させる」ことが重要だと答えてくれた。

Adobeのワークショップでは自分で描いた絵をScratchで動かすプログラムを作成した。Adobe Drawで一生懸命絵を描く子どもたち
タブレットを使って絵を描いたら、描いた絵をScratchで動かす。真剣に作業をする子どもたち

プログラムを作成し、実際のロボットを動かす「作ってみよう!動かしてみよう!」

富士電機ITソリューションの「作ってみよう!動かしてみよう!」では、3Dプリンタ教育支援CADソフト「作ってみよう!」で作成された3D作品の展示と、プログラミング学習支援ソフトウェア「動かしてみよう!」のワークショップが行われた。

「動かしてみよう!」は、PCやタブレットで動作するScratchベースのプログラミング環境で、プログラムでロボットを操作してさまざまな問題を解決するものだ。また、このプログラミング環境の大きな特徴として、PCで作成したプログラムをハードウェアのロボットに転送して、PCではない現実の環境でロボットを動かすことができるというものがある。そのため、周囲の環境に左右されないデジタルやロジックでのプログラミングと、ロボットの駆動系の摩擦、ロボットが置かれている床の材質、周囲の環境によって動作が変化するロボティクスプログラミングの違いを学習することができるようになっている。そのため、PC上では正しくロボットが動作しても、現実のロボットは必ずしもPC上と同じように動作するとは限らないという特徴がある。

3Dプリンタに興味津々な子どもたち。何もないところから徐々に造形されるものに、子どもも大人も関係なくつい見入ってしまう
ブロックプログラミング言語でロボットのプログラムを行う。作成したプログラムは、タブレットで動作させるだけではなく、実際のロボットで動かすことができる

子どもたちは、まず初めにロボットを前進させるプログラムを作成し、実際にロボットに転送することからはじめていた。自分で作ったプログラムの通りにロボットが動いたときは、嬉しそうな顔をする子どもがほとんど。ワークショップのステージの前方には課題となるロボットの動作エリアが設けられていて、比較的複雑なプログラムを作らなければクリアできないようになっていた。何度もプログラムを作り、ロボットにプログラムを転送するというトライ・アンド・エラーを繰り返し、思い通りの動作をしたときのものすごく嬉しそうな子どもの顔がとくに印象的だった。

タブレットで作ったプログラムをロボットに送る。思い通りに動くかな?
試行錯誤しながらロボットを動かしてみる。思い通りに動いたときは、思わず「やった!」

たくさんの子どもたちが「楽しかった!」

すべてのワークショップが終わると、利根川氏より閉会の挨拶があった。利根川氏が「楽しかったなーと思った人?」、「頭を使ったなーと思った人?」と会場の子どもたちに問いかけると、たくさんの子どもたちが手をあげていた。また、「もっとプログラミングをしたいなーと思う人?」という問いかけに対しても、「はい!」と多くの子どもたちの声が上がった。利根川氏は、「今回のワークショップの前半部分(Hour of Codeのコンテンツを利用した部分)は、家でも楽しめることができるので、今後もプログラミングを続けていってほしい」と締めくくった。

参加した子どもに感想を聞く利根川氏、「今日はどうでしたか?」と質問をされた子どもは、「いろいろ考えられてとても楽しかった」と答え、「もっとプログラミングをやってみたい?」と聞かれると「うん!」と元気よくうなずいていた
利根川氏の呼びかけに対して、元気良く手をあげる子どもたち

広野忠敏

プログラマ、テクニカルライター。デジタルガジェット、プログラミング、IT全般のテクノロジーに詳しい。主な著書は「できるVisual Studio 2015 Windows/Android/iOS アプリ対応」、「できるWindows 10 パーフェクトブック 困った! &便利ワザ大全」、「できるAccess 2016 Windows 10/8.1/7対応」(インプレス刊)など多数。