こどもとIT
167作品から選ばれたグランプリは?――「第2回 全国小中学生プログラミング大会」表彰式レポート
2017年12月25日 06:00
2017年11月26日、東京都飯田橋の神楽座で「第2回 全国小中学生プログラミング大会」の表彰式が行われた。表彰式当日は、コンテストに応募された167作品の中からあらかじめ入賞作品10作品の最終審査、実行委員による座談会、表彰式が行われた。当日の様子をレポートしよう。
2回目の開催となる全国小中学生プログラミング大会
全国小中学生プログラミング大会は、2020年から実施されるプログラミング教育の必須化を見据え、小中学生の子どもを対象にしたプログラミング作品を競う大会。「全国プログラミング大会実行委員会」(角川アスキー総合研究所、UEI、NPO法人CANVASで組織)が主催となり、文部科学省、総務省、経済産業省の協賛で開催される。今年が2回目の開催となった。
大会は募集テーマにもとに子どもたちがアイデアや自分の考えをプログラミングを通して表現することを特徴にしている。単純にプログラミングの技術を競うわけではなく、プログラミングを「表現する力」を身に着けるために学ぶものとして位置づけ、発想力、技術力、表現力の3つの審査基準から作品を評価する。
今年の大会テーマは「こんなのあったらいいな」。昨年のプログラミング大会を上回る167作品の応募があり、一次審査、最終審査を行い最終的に10作品の入賞作品が選ばれ、表彰式当日に最終審査が行われた。入賞作品はどれも個性的なものばかりで、ソフトウェアのみを使った作品ばかりではなく、プログラムでモーターなどの外部機器を制御する作品や、センサーからのデータをハードウェアを通じてプログラムで利用する作品など、ソフトウェアとハードウェアの両方を利用し、ロボティクスやIoTに応用可能な作品が多かったのが印象的だった。
子どもたちによる作品のプレゼンテーションの前に、大会実行委員長の稲見昌彦氏(東京大学 先端科学技術研究センター教授)が登壇。稲見氏は今大会のテーマ「こんなのあったらいいな」は自身の研究者としてのモチベーションであるとコメント。プログラミングを始めたのは中学1年生のときに遊んだパソコンのゲームであり、遊んでいたゲームのプログラムを改造したのがきっかけだと話した(当時のゲームは停止させると、プログラムの内容が見えるものもあった)。さまざまなモノや色々なことは、使ってみるだけではわからない。しかし、作ってみれば理解できる。世の中のさまざまなサービスを理解するうえでもプログラミングは大切と語り、色々な可能性のある未来を、こうした大会を通じて子どもたちに作っていってほしいと締めくくった。
入賞作品のプレゼンテーション
稲見氏による開会宣言のあとは、入賞作品のプレゼンテーションが、作品を作成した子どもたち自身で行われた。まずは、それぞれの作品を写真をまじえて紹介しよう。
お父さんを腕で叩いて起こす「とうちゃんおこしロボ」
小学1年生の崎山盛一(さきやま・せいいち)さんの作品は、「とうちゃんおこしロボ」。なかなか起きない“父ちゃん”を起こすために、アーテックロボ(Studino)で作ったとプレゼンテーション。ロボットの腕で叩くことでお父さんを起こすのだが、長い腕をモーターで動かすプログラミングに苦労したとのことだった。
あなたのバーチャルアシスタントロボット“NOYBO”
小学3年生の森谷頼安(もりや・らいあん)さんの作品は、「あなたのバーチャルアシスタントロボット“NOYBO”」。コンピュータを使っているときに、忘れてしまいそうな重要なことを教えてくれるバーチャルロボットだと説明した。
自分自身がダンス教室に行く時間を教えてくれるほか、ミニゲームや電卓機能などがあり、画面上のキャラクター“NOYBO”が発声して教えてくれる。「じゃ」、「じゅ」、「じょ」などの文字は、そのままプログラムでしゃべらせると「じや」、「じゆ」、「じよ」になってしまうため、文字を先読みしてしゃべらせるように工夫したとのことだった。
ToDoリスト「毎日チェックアプリ」
小学4年生の大竹悠太(おおたけ・ゆうた)さんの作品は、「毎日チェックアプリ」。毎日やることをリストにし、終わったらチェックを入れることができるToDoアプリだ。HTML、CSS、JavaScriptで作成したWebアプリで、ブラウザー環境さえあればどんなデバイスでも動作させることができる。「宿題した? 明日の準備した?」と両親に注意されることが多いため作ったそうだ。
苦労した部分を聞かれると「たくさんのデータをブラウザーのローカルストレージに保存して制御するのが難しかった」と話した。また、並べ替えやカテゴリ分け、達成率を表示する機能などを実装したいと話してくれた。さらに、「将来は社長になりたいの?」と聞かれると「社長ではなく、3~4人くらいの規模の個人プログラマーになりたい」と話して場内を沸かせていた。
迷路を最短距離で解く「僕のドラえもん」
小学5年生の蓼沼諒也(たてぬま・りょうや)さんの作品は、「僕のドラえもん」。人間の脳内神経ネットワークを模した迷路を最短距離で解くプログラムだ。ドラえもんが大好きで、自分でドラえもんを作りたいと思ったのが作品を作るきっかけだったという。人工知能というと複雑そうに思えるが、簡単な仕組みで人工知能を作れるのではないかと考えたそうだ。児童書を読んで、単細胞生物の粘菌が最短経路で迷路を探索できるということを知り、それを人工知能に活かせるのではないかというところから着想を得た。
百人一首が題材のゲーム「回一首(まわりっしゅ)」
小学5年生の菅野晄(すがの・ひかり)さんの作品は、「回一首(まわりっしゅ)」。百人一首を題材としたゲームアプリだ。百人一首の文字が1文字ずつ下から上と回転するように上ってくる。スワイプで操作し、画面に表示されたボールが上部へ到達しないようプレイする。作品を作ったきっかけは、自身が百人一首を覚えたかったからだそう。海外の人も楽しめるようにと英語版も作ったとのことだった。
勉強を応援してくれる「応援ロボ Maria」
小学6年生のkohacraft.comさんの作品は、「応援ロボ Maria」。お兄さんと双子の妹さんの、全員で3人のチームとなる。接近センサーを使い、センサーに反応してチアガールが応援をしてくれるロボットだ。「勉強が大変なので宿題を応援してくれるロボットを作りたかった」と動機を話していた。チアガールはサーボモーターで動作するようになっており、ハードウェアとプログラミングはお兄さんが担当、応援をするチアガールの人形や衣装は妹さんと分担して2人で作ったとのことだった。ソフトウェアだけではなく、チアガールを動かすためのハードウェアの部分も手作りしている印象的な作品だ。
リズムゲーム「キラキラミュージックBOX」
小学6年生の平野正太郎(ひらの・しょうたろう)さんの作品は、「キラキラミュージックBOX」。ハードウェアのリズムゲームだ。光に合わせてタイミング良くボタンを押すと、正しい音が鳴るようになっており、タイミングよくボタンを押すことで曲が完成できる。光に合わせてリズムを刻むというよりも、どちらかというと楽器に近いゲームだ。曲や速さが選べるようになっていて、光もランダムに発光するという非常に完成度が高い作品だ。ゲームを作った動機を聞かれると「光と音で遊べるゲームが欲しい。なかったら作ればいい」と答えていたのが印象的だった。
怒ったり褒めてくれたりする「ツンデレ貯金箱」
三重っ張りチルドレンさんの作品は、「ツンデレ貯金箱」。小学5年生と中学1年生のペアによる共同作品だ。プログラミング教室で知り合い、チームを組んだとのことだった。
「ツンデレ貯金箱」は楽に貯金をするための仕掛けを備えた貯金箱だ。「確実に貯金をさせるには、貯金箱が怒ればいい。貯金ができたら褒めるようにする」という着想で作られた。貯金箱の中央にはディスプレイが配置され、表示される表情やセリフが変わるようになっている。光センサーを使ってお金が投入されたのを検出し、硬貨の大きさを判断して金額を計算するといった非常に高機能な貯金箱だ。
水槽の温度、濁り、水質などをチェックする「金魚まもる君」
中学2年生の野口航(のぐち・わたる)さんの作品は、「金魚まもる君」。温度センサーで温度を、照度センサーとLEDで水の濁り具合を、pHセンサーで水質をそれぞれ検出して、それらの数値をWebブラウザーに表示させるという、IoT(Internet of Things)的発想の作品だ。
小学5年生のときに金魚すくいですくった金魚を飼っていて、お母さんが世話をしていたという。お母さんの負担を少しでも減らそうと思ったのが制作の動機だ。水槽の見た目で掃除や水の入れ替えをするよりも、センサーを使って数値化したほうが効率が良くなると考えたとのことだった。今後のことを尋ねられると、3D作品を作りたいと話していた。
面白いストーリーを考える「narratica(ナラティカ)」
中学2年生の菅野楓(すがの・かえで)さんの作品は、「narratica(ナラティカ)」。菅野楓さんは、回一首の作者である菅野晄さんの姉にあたり、姉妹そろって最終選考に残った。narraticaは、自然言語処理でシナリオのテキストデータを解析、登場人物の感情の推移をグラフ化して面白いストーリーとはどういうものなのかを調べるプログラムだ。
菅野さんは、面白いストーリーには決まった法則があるのではないかと考え、誰にでも面白いストーリーが書ければいいなという思いでnarraticaを開発したとのことだ。自然言語処理のプログラムを書くのは初めてだったため、自然言語処理のための形態素解析エンジンを開発している大学に話を聞きにいき、ノウハウなどを教えてもらったという。将来は「みんなの役に立つようなサービスを作りたい」と締めくくった。
座談会「AI時代の教育と地域への広がり」
作品のプレゼンテーションが終わったあとには、審査員の方々が作品の審査をしている時間を利用し、大会実行委員の遠藤諭氏(角川アスキー総合研究所 取締役)、清水亮氏(UEI代表取締役社長兼CEO)、石戸奈々子氏(NPO法人CANVAS理事長)による座談会「AI時代の教育と地域への広がり」が行われた。
遠藤氏の「AI時代の教育やプログラミングについて感じていることは?」という質問に対して、清水氏は「今までのプログラミング教育というと、プログラミングでロジックを学ぶというイメージが強かった。しかし、Googleが開発したAlphaGOが、直観力でコンピュータに勝るといわれていたプロ棋士に勝ったことで、AIやディープラーニングが注目を集めるようになった。ディープラーニングの観点からみると、賢さや知性、知能の基準を考え直す必要があるのではないか。直感的な部分で、すでに人間がコンピュータに負けているのを理解していく上で、AIと付き合うツールとしてのプログラミングが重要ではないか」と答えた。
さらに、「今後はAIが人間を上回る時代が来るかもしれない、いまはまさにそういう時代の始まりだといえる。いまの子どもたちすごくラッキーなのは、この時代に子どもをやっていることですね」とコメントした。
プログラミング教室も運営している清水氏は「従来のプログラミング手法でプログラミングを子どもに教えたときよりも、ディープラーニングやAIを実際に子どもたちに体験させたときの食いつきがすごい」と自身の体験を述べた。
石戸氏は「今日のような場でAIを語ると未来を予測させる楽しいものという感じだが、教育の現場で語られるのはだいたいが恐怖である」と述べ、その理由として、「よくわからない得体のしれないものへの漠然とした不安感からくるものである。それゆえに、AIとはいったいどういったものなのかをきちんと伝えることが大切である」とコメントした。
また、「いつの時代も新しいものが出てくると大抵は規制される方向で動くことが多い」と述べ、「本やゲーム、携帯電話などが登場したときも同じようなことが起きていた」と説明。「たとえば、思春期に携帯電話を使っていた人が保護者になるとそうした動きが緩和される。保護者の世代が変わることで感覚的に理解ができるようになっているためだろう」と述べた。
プログラミング教育への地域への広がりについての話題にうつると、石戸氏からは「2020年のプログラミング教育の必修化が決まり、たくさんのプログラミング教室ができてはいるが、まだまだ首都圏が中心。地方などプログラミング教育が届きにくい地域では積極的にワークショップなどを開催している」と自身の活動を述べた。そして、「今回参加している子どもたちも、かなりの割合の子が独学だと思う」と言い、「プログラミングについても、きっかけを与えられた子どもは自分で学び続けることができる。きっかけとなる初めの情報が大切である」とコメントした。
グランプリ受賞作は「僕のドラえもん」
座談会の後は最終結果の表彰式が行われた。「発想力」、「表現力」、「技術力」といった審査基準で各賞が決められた。
グランプリ・総務大臣賞を獲得したのは、蓼沼諒也さん(小学5年生)の「僕のドラえもん」だった。粘菌の増殖による最短経路の解法という自然界のアルゴリズム(ネイチャー・テクノロジー)をプログラミングに利用していることが、今後のプログラミング教育における指針になること。非常に目のつけどころがいいところなどが評価された。
準グランプリに選ばれたのは2つの作品。1つ目の作品は菅野楓さん(中学2年生)の「narratica(ナラティカ)」。多くの作品が問題を解決する手段としてプログラミングを行っているのに対して、菅野さんの作品はプログラミングで問題を提起している点などが評価された。
準グランプリ、2つ目の作品は平野正太郎さん(小学6年生)の「キラキラミュージックBOX」。こういうのがあったらいいな、こういうゲームを作りたいと思っただけではなく、実際に形にし、その完成度が非常に高いこと、電子工作の技術的な部分でもよく作りこまれている点が評価された。
なお、その他の賞については次のとおりだった。
優秀賞・中学校部門
ツンデレ貯金箱:三重っ張りチルドレンさん(中学1年生)
優秀賞・小学校高学年部門
回一首(まわりっしゅ):菅野晄さん(小学5年生)
優秀賞・小学校低学年部門
あなたのバーチャルアシスタント・ロボット“NOYBO”:森谷頼安さん(小学3年生)
イシダ賞
応援ロボ Maria:kohacraft.comさん(小学6年生)
入選
金魚まもる君:野口航さん(中学2年生)
毎日チェックアプリ:大竹悠太さん(小学4年生)
とうちゃんおこしロボ:崎山盛一さん(小学1年生)
グランプリ受賞者には賞状と盾、その他の受賞者には賞状が贈られるとともに、副賞や記念品が贈られた。
表彰式のあと、審査委員長の河口洋一郎氏(CGアーティスト、東京大学大学院情報学環 教授)による総評が述べられた。「非常に充実した内容であり、多様性に富んだ受賞作品がそろった。ただプログラミングしたというだけではなく、それ以上のプラスアルファを持ったものばかりだった。日本が再び世界に向けて色々な才能が生まれてくるような、そんな期待感を持ちたい」と語った。
表彰式に参加してみて、最終審査に残った作品の完成度の高さ、発想の豊かさ、技術力の高さに驚かされるイベントだったのがとても印象的だった。「大人も顔負けの作品ばかり」と上から目線で言うのは簡単だが、そうではなく「自分自身の技術力をフルに使って子供と同じ目線で正面から勝負したい」と思える、そんな内容だった。清水氏の言葉にもあったように「いまの時代に子どもをやっているのはすごくラッキーなこと」だと思う。できることなら、自分が子どもになって参加したいほどだ。来年の第3回大会ももっと優れた作品が集まることだろう。今からすごく楽しみだ。