こどもとIT
新しい教育の選択肢や教育イノベーターを生み出すための「Edvation × Summit 2017」セッションレポート(1日目)
~Edtechの推進者が世界中から集まる~
2017年12月22日 06:00
2017年11月5日と6日、海運クラブ国際会議場と麹町中学校で、一般社団法人教育イノベーション協議会/Edvation x Summit 2017実行委員会主催の「Edvation × Summit 2017」が開催された。
このイベントは、新しい教育の選択肢を知ってもらうことと、既成概念にとらわれない教育イノベーターを生み出すことを目的に開催されたもので、世界中から著名なEdtechの推進者が集まり、講演やパネルディスカッション、ワークショップなどが行われた。そこで、1日目の講演の中から特に興味深かった講演を紹介したい。
SXSW EDUディレクター「Edtechは世界を救える」
最初のキーノートスピーチとして、米国の教育カンファレンス「SXSW EDU」ディレクターのRon Reed氏が、「Edtechは世界を変えられるのか?」というタイトルで講演を行った。その要旨は以下の通りだ。
Ron Reed氏は、「30年間SXSWを開催してきた中で、多様性とコミュニティが重要だと考えている。私は教育テクノロジーに長年関わってきた。Edtechは世界を救えるかという問いについては、私は救えると思っている」と語った。20年前にReed氏が働いていた「Optical Data Corporation」は、初めてのマルチメディア教材「Windows on Science」を制作し、テキサス州の学校の65%で使われるなど、大きな話題となったという。
SXSW EDUは年々規模が大きくなっており、今年開催された「SXSW EDU 2017」は、参加者数16,547名、セッション数は500にもなった。SXSW EDUの目的の一つとして、スタートアップのプレゼンテーションイベントがあり、そこで出資を得たスタートアップが大きく成長しているという。「教育にまつわるさまざまな問題を解決していくことが重要だが、そのためには熱意と忍耐が不可欠である」とReed氏は語った。
80歳でプログラミングを始めた若宮正子さんが語る「プログラミング教育」
11月5日に行われた講演の中でも、特に感銘を受けたのが、82歳のiPhoneアプリ開発者、若宮正子氏による講演である。若宮氏は、60歳でパソコンと出会い、80歳でプログラミングを始め、iPhone用ゲームアプリ「hinadan」を作成、世界最高齢のiPhoneアプリ開発者として話題となった。
若宮氏は、「未来を変えましょう ~多様性を重んじる世の中にしたい」というタイトルで講演を行った。82歳とは思えない張りのある声で、素晴らしい講演であった。
若宮氏は、定年後に母の介護を始めたという。その頃からパソコンを始め、インターネットに出会い、世界が広がった。同年代にもパソコンを広め、パソコンサロン「メロウ倶楽部」で交流を楽しんだ。そこで、シニアに適したパソコン教材がないことに気づき、Excelを使ってアートを描く“Excelアート”を考案。また、3D CADと3Dプリンターを使って、世界でひとつだけのペンダントを作るなど精力的に活動した。
そんな若宮氏が作ったのが、iPhoneアプリ「hinadan」だ。若宮氏は、「シニア向けのゲームアプリがなかったから作った。おひな様をモチーフにしたゲームだ。おひな様にした理由は、我々年寄りは次の世代に伝統的な文化を引き継ぐ使命があるし、シニアに有利なルールだから。プログラミングは料理のレシピのようなもので、何に重点を置くかが大切だ。プログラミングを習得するために、まず、本を買って自習をはじめ、オンラインで教えてくれる先生も見つけた」と語った。若宮氏は、hinadanが話題になったことで、AppleのWWDC 2017に招待され、AppleのCEOであるクック氏と話をする機会も得た。また、若宮氏は人生100年時代構想会議の有識者議員にも選ばれた。
今後は、プログラミングをより深く勉強し、身体の不自由な方も高齢者も楽しめ、日本の伝統を後世に伝えられるようなゲームアプリを作りたいと言う。
「創造することこそ、人工知能にはできない、最も人間的な活動である。だから、私は常に創造的でありたい。また、未来を変えるためには、教育が重要であるが、今の教育は多様性を認めず、画一的な人間を育てる仕組みになっている。大企業が採用していた人は、刺身でいえば短冊にあたる部分だけで、それ以外は捨てられていたが、それは間違いだと思う。今後は、子供達の多様性を活かし、様々な学びの道筋を作っていくことが重要だと考えている」(若宮氏)
Microsoftは古くから教育分野に投資をし続けてきた
Microsoft エデュケーションパートナー ワールドワイドマネージングディレクターのLarry Nelson氏は、「グローバルな視点から見たMicrosoftの教育」というタイトルで講演を行った。その要旨は以下の通りだ。
Nelson氏は前職を含めて28年以上教育テクノロジーにかかわってきた。またMicrosoftは、2003年と2008年に教育分野に大きな投資をし、さまざまな支援を行ってきた。Microsoftのエデュケーションにおけるミッションは、「明日の世界を作ること」である。
教育における4つの柱は、「優れた学習成果を得るための適切な環境の実現」、「手頃な価格で利用できるプラットフォーム」、「教室でのコラボレーションのための最新ツール」、「創造性を刺激するような経験」だ。また、クラウドの実用性や柔軟性を高めることで、自分のデバイスを学校に持ち込むBYODを活かすことができる。データの重要性はさらに高まっている。
Microsoftは、MR(拡張現実)デバイス「Hololens」を、教育やトレーニングなどに活用する研究「VISIONLAB」を行っており、さまざまな企業と共同で実証実験を進めている。その中のひとつが、JALと共同開発している飛行機に関する教育プログラムで、飛行機のエンジンの構造や機内設備などをHololensによるMRで分かりやすく説明するというものだ。「こうしたVR/MRの活用はまだ発展途上であり、今後も進化していくだろう」とNelson氏は締めくくった。