こどもとIT

ロボットで大気中の水を集めて水不足を解消し世界を救う

WRO 2017コスタリカ国際大会オープンカテゴリー出場チームインタビュー

世界の小中高生によるロボット競技会「WRO(World Robot Olympiad)」、2017年の国際大会はコスタリカで11月10日から開催される。これに出場する日本代表を決める「WRO Japan 2017」決勝大会が、2017年9月に行われ、国際大会に挑む13チームが選出された。今回はWRO国際大会に出場するオープンカテゴリーの3チームの中から、「福岡県立香椎工業高等学校 作品製作部」の作品をWRO Japan実行委員長の渡辺登氏にレポートいただいた。

2017年9月17日、東京都江東区のBumB東京スポーツ文化館で「WRO Japan 2017」の決勝大会が開催された。前回のレポートでは、オープンカテゴリーの様子を中心に写真や動画を交えレポートした。WRO 2017国際大会は、2017年11月10日から12日に、中南米のコスタリカにて開催される。世界約55ケ国の代表チームがコスタリカに集結し、世界一を決めるコンテストが行われる。

オープンカテゴリーで国際大会に出場するチームは3チーム。今回レポートするのは、昨年世界第3位となったチームで、メンバーが入れ替わったが今年も国際大会出場を決めた高校生チームである。

チーム名は「福岡県立香椎工業高等学校 作品製作部」、WROの国際大会では漢字表記が使えないので「Kashii WPC」となる。メンバーは、福岡県立香椎工業高等学校の高崎竜生君(3年)、庄司遼平君(2年)、飯川昂平君(1年)の3名である。

「福岡県立香椎工業高等学校 作品製作部」のメンバー

メンバーは福岡県立香椎工業高等学校の部活動である作品製作部の部員で構成している。作品製作部では、このチームのオープンカテゴリーだけでなく、ロボットのスピードと正確さを競うレギュラーカテゴリーにも参加している。参加するカテゴリーは、今までの実績と活動状況から話し合いで決められている。さらに作品製作部は工業高校の部活なので、情報技術科、電子機械科・機械科・電気科・工業化学科の生徒の特技を使ったバックアップを受けることができる強みを持つ。

今年のチームは、昨年世界第3位になったチームメンバーであった高崎竜生君がチームを引っ張っていた。福岡県立香椎工業高等学校のWROチャレンジは華やかしい結果を残している。

WRO 2010フィリピン国際大会出場 ★ベストテクニカル賞受賞
WRO 2011アブダビ国際大会出場
WRO 2012マレーシア国際大会出場
WRO 2013ジャカルタ国際大会出場 ★7位入賞
WRO 2014ソチ国際大会出場
WRO 2015(全国大会出場 敗退)
WRO 2016インド国際大会 ★3位
WRO 2016インド大会で第3位となったチーム

今年のチームが開発した作品は「大気集水ロボット」(国際大会「Air to Water Robot」)である。WRO 2017のテーマである「Sustainabots: Robots for sustainability」に対して、チームは水不足を対象にロボットを開発した。

WRO 2017決勝大会での大気集水ロボット

国連が提唱する「17 Sustainable Development Goals (SDGs)」において、水不足はゴールの一つとして定義されている。

「Goal 6: Ensure access to water and sanitation for all」では、水不足や悪い水質の水によって世界では、食料問題、生計や教育の問題が発生しているという。チームは、この問題を解決するロボットを開発してきた。大気からキレイな水を作ることができる、本当に機能するロボットである。

地球に存在している水のうち、淡水はわずか2.5%しかなく、その約70%は南極や北極地域の雪氷や氷河で、残りの大半は地下水だという。どこにでもある大気から水を作り出すことができるロボットがあれば、多くの人を助けることができると考えた。さらに、水を作るときに必要な電力も再生可能なエネルギーから作り出すようなロボットを企画し開発した。

ロボットは3つの機能から構成される。①発電機構、②水製造機構、③水蓄積・運搬機構である。

まず発電機構は、その名の通り水製造機構などを動作させる電力を、太陽光パネルによって発電する機構である。発電量を最大化するために、光源である太陽を自動追尾する機能を備えている。その発電した電気を利用して、水製造機構ではペルチェ素子を使い、結露を発生させ、大気中の水分を水滴として集めている。空気は暖めた方が空気内の水分が増加するので、電気で加熱し、ペルチェ素子で冷却したアルミパイプに温まった空気を接触させ、結露させて水を作る。市販の温度センサーの信号をRaspberry Piで処理し、LEDを発光させLEGO MINDSTORMS EV3のセンサーで読み、バルブをコントロールしている。

水製造機構の開発時には、ペルチェで加熱・冷却する際、容器の外に水滴ができるなど、想定の場所に想定の量の水が発生しないなどで苦労したという。日本決勝大会でも思うように水ができなく、コスタリカでの国際大会では確実にできるよう準備をしている。

WRO 2017日本決勝大会でのプレゼンの様子

国際大会では、昨年以上のパフォーマンスを行い、国際大会に参加する他国の人と多く交流をしたいという。日本の高校生の技術力を世界に魅せ、さらには技術を伝えるコミュニケーション能力の高さも発揮してもらいたい。

次回は、WRO 2017決勝大会のオープンカテゴリーで最優秀賞を獲得した、追手門学院大手前中学校のチーム「Otemon Quest」を紹介する。

渡辺 登

電機メーカーにて通信機器開発に従事し、2004-2009年は(独)情報処理推進機構の研究員を務める。現在はWRO Japan実行委員長を務めつつ、仲間と(株)for Our Kidsを立ち上げ、STEM学習に関する取り組みを推進している。