こどもとIT
ペッパーをマイクロビットのサイコロで動かし、巨大すごろくに挑む子どもたち
――ソフトバンク「IoTチャレンジ」レポート
2019年7月4日 07:30
気がつくと、新しい元号に変わってはや2ヶ月。平成最後の春休みだった今年の3月は、2020年4月からの小学校新指導要領の完全実施を控えたこともあり、プログラミングやSTEAM関連のワークショップも都内各地で多数開催されていた。今回お届けするのは、その中でもひときわ盛大に、春分の日3月21日に開催されたソフトバンク株式会社(以下ソフトバンク)によるIoTプログラミング体験イベント『春休みPepperすごろくトライアル』である。
ソフトバンクといえば、グループ会社のSB C&Sがmicro:bit(マイクロビット)を家庭でも簡単に体験できるように工夫された冊子と周辺機器のセット(詳細は『プログラミングで音楽が鳴り距離が測れる、「micro:bit(マイクロビット)アドバンスセット」にトライ!』を参照)を販売するなど、この領域でも存在感を高めている。もともと同社のロボットとしてお馴染み「Pepper(ペッパー)」を各地の学校でプログラミング教育の題材として活用してもらう「地域貢献プログラム」も提供しており、実は地道なCSR活動を続けているのだ。今回の春休みイベントは、このmicro:bitとPepperの両方を使った巨大すごろくだという。約半日にわたった子どもたちの挑戦をレポートする。
イベントの会場となったのは、神宮球場にほど近いTEPIA先端技術館。会場は大きく2つの部屋にわけられており、一方がプログラミングを体験するスクール形式の部屋、もう一方はPepperすごろくの会場となる。イベントの流れも、まずmicro:bitとPepperのプログラミングを集中して体験し、続いてチームに分かれて、Pepperすごろくにチャレンジするという進行になっている。当日は、午前の回と午後の回で2回行われたが、いずれもすぐに応募が埋まってしまう大人気の催しとなった。
micro:bitでサイコロを作ろう
まずはじまったのは、プログラミング教室のパート。会場には1人1台のSurfaceとmicro:bitが既に用意されている。子どもたちは手ぶらで参加できる恵まれた環境のイベントなのだ。こういうところは、さすがソフトバンクが主催しているだけのことはある。部屋のところどころにPepper君達が立ち並び、最新技術にふれあう雰囲気をそれとなく演出していた。
集まった子どもたちのプログラミング経験は未経験に近い子から経験者までさまざまだったが、パソコンには普段から親しんでいる子が多いようだった。利用するのは、micro:bitの標準開発環境である「MakeCode」である。ブロックエディターで、まず簡単なプログラムを作って試してみる子どもたち。MakeCodeには、micro:bitのエミュレーターが搭載されており、作ったプログラムを画面上で動作確認することができるのだ。
まずは、micro:bitのLEDに好きなマークを表示するプログラムをつくってみる。あらかじめ用意されているパターンの中から選んだものが表示されると、緊張気味だった子どもたちもだいぶほぐれてきたようである。
できあがったプログラムはmicro:bitに転送し、実機を使って動作確認をする。このとき、プログラムのファイルをUSBで接続されているmicro:bitに転送する手順が必要になる。要するにWindowsのエクスプローラーを使って、ファイルを1つコピーするだけなのだが、今の子どもたちはこの操作は慣れていない様子。とはいえ、最初はとまどっていたが、何回も試しているうちにできるようになっていくのは子どもならではだ。
続いて行うのは、micro:bitを使ったサイコロのプログラミングだ。micro:bitには、各種センサーが用意されており「ゆさぶられたとき」に何かをするといった処理が可能、サイコロならば、ゆさぶられたときに1から6までの数字のどれかをLEDに表示するプログラムを作ればよい。
「1から6までのどれか」が、いつも同じ数字ではサイコロにならない、こういうときに使うのが「乱数」のブロックだ。参加している子どもたちのうち小学生には、当然馴染みがない言葉ではあるが、これを使うことで、本物のサイコロのように数字が変わることを、子どもたちはプログラミングすることで体験し、すぐにのみ込んでしまったようだ。
Pepperの実機を使ったプログラミング体験に子どもたちのテンションもアップ
micro:bitに続いて、子どもたちはいよいよPepperのプログラミングに挑戦する。ここで使用するのはPepper用の「Robo Blocks」という最新ツールだ。こちらも、MakeCodeと同じようにブロック型のプログラミング環境で、しかも画面上でPepperの動きが確認できる「バーチャルロボット」が用意され、プログラムの動作確認を簡単に行えるようになっている。また、作ったプログラムをPepperに転送する仕組みも用意されており、今回のプログラミング体験では、目の前にいる本物のPepperで実際に動かすこともできるのだ。
例えば、Pepperの頭に触れるとPepper前面に装備されたタブレット画面にカレーライスの画像を表示したり、「こんにちは」と喋らせるといったプログラムを簡単に作ることができる。この体験中、ひときわ子どもたちが盛り上がっていたのは、Pepperに言葉を喋らせるブロックである。大人としては、「そこかよ」という気がしなくもないが、子どもたちはこういうのが大好きなのだ。あちこちで入力したいろいろなテキストを喋らせる実験にひとしきり興じていた。
ブロックでPepper用のプログラムを組み立てることになれてきた子どもたちに、これから行うチャレンジ双六に向けて少し難しめのテーマが提示された。「ランダムな処理」である。
例えば、おみくじ(大吉/吉/凶)やじゃんけんのように、ランダムに何かをPepperに表示するといった処理をどうすれば実現できるのか。先ほどのmicro:bitでは、数字をそのまま表示すればよかったのだが、ここではもう一歩進んだ内容になる。「乱数」のブロックと変数を使い「もし○○なら」という条件分岐のブロックを使った例が説明され子どもたちは、熱心にそのプログラムを手元で試していた。
作ったプログラムを、それでは実際のPepperで試してみようということになり、子どもたちは順番に近くのPepperに転送。実機の環境で、なぜかつながらないといったトラブルもあったが、そこはスタッフの方の頑張りもあり、やってみたい子はひととおりPepperと戯れることが無事できたようである。
ちなみに、プログラミング教室パートの最後に、すごろくトライアルのMCを担当する芸人コンビ「ヴェートーベン」が登場、短いネタをちょいちょいはさみながら会場を盛り上げてくれた。筆者はというと、彼らのネタが割とツボって素で爆笑していたのだが、後で「うけていただいてありがとうございます、北斗の拳に出てくる山のフドウに似てますね」としっかりネタにされてしまった。芸人さんの現場対応力はすごいものである。
広い会場を埋める巨大すごろくのコマは本物のPepper
さて、すごろくトライアルの会場に移ると、大きく4面の巨大すごろくが所狭しとばかりに設置されていた。
すごろくの各マスには、それぞれチャレンジしてもらう課題が書かれており、「両親に感謝の言葉を伝えよう」といったノープログラミングな課題をおりまぜつつ、難易度が異なるプログラミングをその場で作る課題が並んでいる。その難易度に応じた点数が加点されていき、さらにゴールするまでの時間によって総合得点が決まり、優勝を決めるというルールである。
そして、この巨大すごろくのコマは、なんとPepperそのものなのである。サイコロは、先ほどまで子どもたちが使っていたmicro:bitを振る(実際には、転がすのは危なかったらしく手で持って振っていたが)、出た目の数がコマのPepperに転送され、本当にPepperが巨大なすごろくの盤面を移動していく様子はなかなか壮観だった。
マスのお題に従ったプログラミングのチャレンジは、各チームの手元にある別のPepperで実行し、大人のスタッフがそれを見て結果を判定していく。さらっと書いているが、これを実際に限られた時間内で運営するのはなかなか大変だったと思う。専門家が各チームに配置されてPepperの面倒を見ており、ちょっとしたトラブルはあったものの、全体の進行に大きな支障はなかったのは、さすがソフトバンク主催のイベントである。この壮大なすごろくが、各回4チーム対抗で都合全3回行われていった。
このトライアルで、興味深かったのは、チーム別の競い合いではあったものの、自分の番ではない子どもたちが自由に助言してよかった点である。つまり、この場自体が壮大なプログラミングとすごろく遊びを通した学び合いの場となっていたのだ。マスのお題によってはプログラミングの課題が難しく、なかなかうまくいかないこともあり、周りの助言で無事にゴールにたどりついたチームもあったようだ。
このトライアルの最終回には、子どもたちに人気のYouTuber「マスオ」氏も飛び入り参加。大人でも、Pepperプログラミングには苦戦していた様子。周りの子どもたちに助けられている姿はなかなかほほえましかったし、子どもたちにとってよい経験になったのではなかろうか。
こうして最高得点を獲得して優勝したチームに加えて、得点はおよばなかったものの諦めずに課題に取りくみ続けたチームに対して特別賞が贈られ、会場からの暖かい拍手が湧いた。今回のイベント責任者であるソフトバンク 人事総務統括 CSR統括部統括部長の池田昌人氏も、このチームの頑張りに、今回のイベントの意味を再確認できたとコメントを述べていた。子どもたちは、すごいのである。
子どもたちが使ったmicro:bitは、参加賞として「micro:bitはじめてキット」とともに大切に持ち帰られていった。家庭でも引き続き、いじくり倒して遊んで欲しいものだ。
ソフトバンクは、micro:bitとPepperを使った教育プログラムを「IoTチャレンジ」として、従来から行っていた社会貢献プログラムの対象校に提供するという。社会貢献プログラムは、現在第二弾を募集しており、このIoTチャレンジとあわせて検討してみてはどうだろうか。