Edvation x Summit 2018レポート
AIの最先端にかかわる3名が語る「『AI時代』に求められる人材と、これからの教育・社会」
――EdTechの未来と取り組みの今を知る「Edvation×Summit 2018 Day2」レポート
2019年4月1日 21:15
東京大学松尾研究室で人工知能を研究する中山浩太郎氏、シリコンバレーでAIを活用した教育システムの開発を行うatama plus株式会社の代表取締役CEO 稲田大輔氏、AIを使った採用活動や適正検査サービスを提供するIGS(Institution for a Global Society)のCEO 福原正大氏の3名で、AI時代に求められる教育についてパネルディスカッションを実施した。
これからのAI時代に変革を起こす「イノベーター」にはどんなスキルが必要なのか? そのような問いから始まったディスカッションは、AIを作る側だけでなく、「AI技術をうまく使いこなす」人も必要という指摘がなされた。日本の企業は、課題設定力はあるが柔軟性が極端に低い傾向があり、「いまできていることが急に0になっても、切り替えられるスキル」が重要だと説明。イノベーターには既存の概念を捨てて発想できる柔軟性が必要だと語られた。
では、その「イノベーター」を生み出すための教育・社会とは、一体どのようなものなのだろうか?
これまで重要だった基礎学力は、これからも必要とされるという意見は多かったが、学力を「知識」と「知識を応用する力」(コンピテンシー)に分けると、これまで日本では「知識」に偏っていたと指摘。知識は身に付けつつ、アクティブラーニングで「知識を応用する力」をもっと身に付ける必要があるとした。
また、二極化する社会の中で、“仕事がなくなる”と脅すばかりでなく、楽しみながら学べるよう工夫が必要で、そこには政府も含めて社会がどうあるべきか考えていく必要がある。
一例としてフランスの大学「Ecole 42」など“教師のいない学校”について触れる。日々進歩するこの分野で教師が体系化して教えるのは限界があるため、コミュニティを作ってプロジェクトを回しながら実践的な人材育成をすることが大切だ、という意見が上がった。現状、学校では受験勉強に時間が使われているが、AIの進化によって一人ひとりに合わせて勉強をカスタマイズできるようになり、「学びの生産性」が変わる。基礎学力に加えて柔軟性も身につけることを求められる学生たちに、学ぶ時間を作り出していけると語られた。
今は受験の効率性を求めるあまりに音楽・美術・体育を「無駄」と捉える傾向があるが、後々に発想を生み出すにはその「無駄」が使われる。知識だけでなく教養教育にもバランス良く取り組まなければならない。すでに、AIを取り入れた塾では、基礎学力のティーチングはAIが効率良く行い、教師は人間にしかできないコーチングに注力する方式が進んでいる。余った時間で将来に関するディスカッションを行うなど有効な取り組みもされているという。
教育や社会はAIによってどう変わっていくのか? という問いには、産業界と教育界のつながりが強くなり、AI人材の育成と技術の応用がより進んで行くという。ただし、収入の格差が教育の差につながりやすく、収入の格差がより広がる可能性があるという意見が出た。価値観をお金だけに求めず、自分らしく生きることを肯定する教育が必要だと語られた。
ディスカッションの締めくくりとして、松尾氏は「シンギュラリティを心配する前に、AI技術をもっと推進し、AI人材を育成して産業界に出していく必要がある。皆さんもAIの技術の“土地勘”をしっかり握って、それぞれの分野で活用し、社会全体で競争力を高めていきたい」と訴えかけ、福原氏は「AIが普及するほど、AIの答えを疑う力が必要になってくる。新しい時代に必要なリテラシーを身に付けたうえで、それを統合するような哲学も身に付け、一人ひとりが市民力を付けていってほしい。」と警鐘を鳴らす。最後に稲田氏は「この1~2年間で教育は大きく変わると思っている。atama plusはローンチから1年で塾のトップ100のうち2割に導入され、急速にAIの導入が進んでいることを実感している。ぜひイノベーターの皆さんと一緒に、大きくゲームのルールが変わるであろう日本の教育を作って行きたい。」とコメントした。