Edvation x Summit 2018レポート

エグゼクティブ向けデジタル学習の“7つの秘密”を紹介した講演「デジタルラーニング:成功のカギ」

――EdTechの未来と取り組みの今を知る「Edvation×Summit 2018 Day1」レポート

「Edvation×Summit 2018」は、デジタルテクノロジーによる教育のイノベーションに取り組む事例を持ち寄り、展示会やワークショップ、講演やパネルディスカッションを実施する教育イノベーターの大型イベントだ。一般社団法人教育イノベーション協議会が主催し、「新しい教育の選択肢を提示し、既成概念にとらわれない教育イノベーターを生み出すこと」を目的として、紀尾井カンファレンス・千代田区立麹町中学校の2会場で2018年11月4日~5日の2日間にわたって実施された。2018年度の教育イノベーションのまとめと振り返りの意味を込めて、本イベントの講演とパネルディスカッションから特に興味深かったものをピックアップしてレポートする。

企業のリーダー育成を請け負うスイスの企業「IMD」のPaul Hunter氏が講演した「デジタルラーニング:成功のカギ」では、受講者に影響力のある学習体験を構築するノウハウを「成功の7つのカギ」として紹介した。

IMDでデジタルラーニングディレクターを務めるPaul Hunter氏

学習には「1.知識」「2.対話」「3.応用」「4.改善」のサイクルで学んだ知識を適用して価値を持たせることが大切だと説明。知識については、ビデオ学習も有効で、欧米ではインターネット上の大規模公開オンライン講座「MOOC(ムーク)」が活用されているという。

学習には「1.知識」「2.対話」「3.応用」「4.改善」のサイクルが必要と解説

また、IMDの顧客は日々の仕事が忙しい企業のマネージャーたちであるため、時間を使う価値があると納得してもらうためにまず質の高い学習のビデオを見せるという。ヨーロッパでは対象となるマネージャーたちは、オフィスで大抵大きなディスプレイとノートパソコンの2画面を使っているため、ビデオ学習の際、再生しつつ片方の画面でメールなどを書きながら見るだけにならないよう、見る人が集中したくなるようなインパクトのある動画の製作に努めていると説明。IMDの提供する13のオンラインプログラムから「CHANGING EMPLOYEE BEHAVIOR」と「DIGITAL DISRUPTION」の分野から2本を紹介した。人の集中力は3分ほどと言われているため、2~3分の短いものを多数用意し、アニメも使用しているという。実際に映像を見たあと、会場に意見を聞いたり近くの席の人とお互いにディスカッションする時間も設けられ、動画の学習効果を会場全体で体験した。

IMDの提供するオンラインプログラムは目的別に13種類用意され、それぞれに2~3分の短い動画が多数登録されている
説明にはアニメなども多用し、視覚的に訴える工夫がされている
質問を組み込んで考えさせたり、統計の数値を引用するなど工夫が多数

最後に「インパクトのあるデジタル学習を作るための7つの秘密」を紹介した。

IMDによる「インパクトのあるデジタル学習を作るための7つの秘密」を紹介

1.最後から始める
……学びの目的は何か、何を達成しようとしているのか、測定方法はどうするかを考えてから動画を作る。

2.エグゼクティブをエグゼクティブらしく扱う
……「データ分析の仕方」を理解してもらう。答え自体ではなく答えを模索するためのツールを提供する。

3.チャンネルを変える
……スタジアムの中継が全体だけでなく選手のアップや応援するファンなど様々な場面で構成されているのと同じように、視聴者を視覚的に参加させる。教室の授業をただ録画しているだけでは作れない。

4.バーチャルラーニングの「三位一体」尊重する
……プログラムデザイナー、ビデオ製作者、視聴者とコミュニケーションする担当者の3者が教材にかかわり、意図を明確にしたりフィードバックする。

5.内容が新鮮なもので理解しやすいものであること
……新しい事例を使い、集中しやすい2~3分の長さで製作する。

6.個人に与えたインパクトを継続的に確認する
……毎週の効果を、ダイエットと同じように確認する。効果が分からないと学習は続かない。

7.コーチは質の高いフィードバックを与える必要がある
……コーチと視聴者は相互交流を行い、質の高いフィードバックすることで良い効果につながる。

映像で流れた質問を実際に会場にも回答を求めた
会場全体にもリアクションを求め、学習効果を体験

質の高いデジタルラーニングとは何かについて紹介したPaul Hunter氏の講演は、非常に明解で、学生だけでなく時間のない大人の学習にも、当然ながらビデオ学習は効果的なのだと実感できるものだった。学生時代に経験してこなかった学習方法でも、先入観なく迷わず取り入れるべきというインパクトを与える講演だった。

注目度が高く会場は満員。立ち見も多かった

赤池淳子

1973年東京都生まれ。IT系出版社を経て編集者兼フリーライターに。雑誌やWeb媒体での執筆・編集を行なっている。Watchシリーズでは以前、西村敦子のペンネームで執筆。デジタルカメラ、旅行関連、家電、コミュニティや地域作り、子どものプログラミング教育などを追いかけている。