Edvation x Summit 2018レポート

世界的なイベント「SXSW EDU」の事例の講演「EdTech国際潮流」

――EdTechの未来と取り組みの今を知る「Edvation×Summit 2018 Day1」レポート

「Edvation×Summit 2018」は、デジタルテクノロジーによる教育のイノベーションに取り組む事例を持ち寄り、展示会やワークショップ、講演やパネルディスカッションを実施する教育イノベーターの大型イベントだ。一般社団法人教育イノベーション協議会が主催し、「新しい教育の選択肢を提示し、既成概念にとらわれない教育イノベーターを生み出すこと」を目的として、紀尾井カンファレンス・千代田区立麹町中学校の2会場で2018年11月4日~5日の2日間にわたって実施された。2018年度の教育イノベーションのまとめと振り返りの意味を込めて、本イベントの講演とパネルディスカッションから特に興味深かったものをピックアップしてレポートする。

Edvation×Summit開催のきっかけとなったSXSW EDU

オープニングとしてメインルームで実施された「EdTech国際潮流」では、冒頭に一般社団法人教育イノベーション協議会 代表理事の佐藤昌宏氏が登場。Edvation×Summit開催のきっかけについて説明した。

佐藤氏は、テクノロジーを活用して教育を変革するためのヒントを求めて2012年にテキサス州オースティンで実施されていたSXSW(サウス・バイ・サウスウエスト)EDUに参加。日本のEdTech先駆者たちをSXSW EDUに連れて行くようになり、2017年から日本でもEdvation×Summitを実施するまでになったという。このEdvation×Summitの目的を「テクノロジーを背景とした新しい教育の選択肢を紹介すること」「教育イノベーターの交流を促すこと」だと説明した。

一般社団法人教育イノベーション協議会 代表理事 佐藤昌宏氏

続いて千代田区立麹町中学校の工藤勇一校長からあいさつを行い、同校が2日間Edvation×Summitの会場として使用され、生徒たちは授業の一環として運営やワークショップに参加することを紹介した。

麹町中学校は、中間・期末テストの廃止や宿題の廃止、固定担任制を取りやめたことなどで話題になっている公立中学校だが、工藤校長は校長に就任して5年間で教科以外のカリキュラムをすべて廃止。企業と共に目的のあるカリキュラムに変更したという。また、「日本の教育が目的を失って疲弊している」と指摘し、「本当に世の中に必要なことは何なのか見つめ直す時代がやってきている。時代が激しく変化する今だからこそ、教育の本質を見つめ直すべき」と説明。「(Edvation×Summitのような)機会を通じて、テクノロジーを使って教育を変えようという方々と同じ目的を持って進んでいければ、近い将来教育改革の風が吹くと思っている」と語った。

千代田区立麹町中学校 工藤勇一校長

SXSW EDUのGreg Rosenbaum氏が解説する「グローバルEdTechのトレンド」

SXSW EDU General ManagerのGreg Rosenbaum氏が登壇。まずSXSWについて紹介した。アメリカ・テキサス州オースティンで行われるSXSWは、元々音楽フェスティバルとして1987年にスタートしたもので、現在は映画や音楽、インタラクティブ・テクノロジーのフェスティバルとして開催。7万人の登録者と40万人の参加者がいるという。

SXSW EDU General ManagerのGreg Rosenbaum氏
1,000人以上のスピーカーが400以上のセッションを開催。音楽はもちろんゲーム大会や映画のコンペなども開催される
「SXSW PITCH」ではインタラクティブ分野のスタートアップがビジネスアイデアを競い合う

特にSXSW PITCH(アクセラレーターピッチ)はインタラクティブ分野のスタートアップがビジネスアイデアを競い合う名物イベントであり、世界的にも注目度が高い。また、SXSW EDUのアプローチは「Community+Convening」だと紹介。「教育がすべての人に影響を与える」「集合することの力」「人と人とのコネクション」「知識とスキルの開発」「意図と信ぴょう性」とであるとし、その場に集うことで生まれるコミュニティのパワーについて語った。

SXSW EDUの取り組み趣旨は「Community+Convening」(地域+招集して開催する)こと

また、SXSW EDUの2018年のプログラムの傾向は「人工知能」「教室における教育者の役割」「すべての人に教育機会を与えるには」「物理的なデザインが教育の公立に影響を与えるか」「メディアリテラシー」「マインドフルネスと情緒・知性」「データのプライバシー」「ネットワークの力」「自己学習」「将来の仕事」などであったと紹介。中でもマインドフルネス、社会・情緒の学び、個人の学習などが注目されていたという。

「人工知能」「データのプライバシー」「マインドフルネス」など2018年のプログラムのトレンドを紹介

将来の仕事については、ほとんどの人がコーディングスキルの重要性を過小評価する傾向があるほか、パネルピッカーによる上位10項目を「雇用力と人材育成」「専門性の開発」が占めていると紹介。今後、コミュニティスペースと図書館はこれから重要な学習の場になると解説したほか、EdTechを成功させる優先度を「雇用」「報告」「セキュリティ」「自信を与えること」「ストーリーテリング」だと説明した。

未来の仕事について、専門家らはより専門性の開発が重要と指摘

Greg Rosenbaum氏は最後に「Embrace Serendipity」(予期せぬ幸運を受け入れよう)「Create Impact」(インパクトを作りだそう)というメッセージを会場に伝えた。

EdTechを成功させるにはストーリーテリングが重要と語った

赤池淳子

1973年東京都生まれ。IT系出版社を経て編集者兼フリーライターに。雑誌やWeb媒体での執筆・編集を行なっている。Watchシリーズでは以前、西村敦子のペンネームで執筆。デジタルカメラ、旅行関連、家電、コミュニティや地域作り、子どものプログラミング教育などを追いかけている。